05/09/2010(Sun)
万華鏡-江戸に咲く-42
夜の渋々の承諾で、美月は先生を誘ってみた。だが、どうしても外せない用事があると断られてしまった。
(残念だな・・でも仕方ないか)
いつの間にかセミがちらほらと鳴き出し、少し動くだけでも浴衣にしっとりと汗が染み込む程に暑くなっていた。
「こんばんは~」
祭り当日、夜の店での集合で行くとそこには既に全員が揃っていた。
「あ!美月さん!」
キラキラっと目を輝かせ、ほんのりと頬を染めた喜助が嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。
「こんばんは、喜助くん。今日は誘ってくれてありがとうね」
美月がにっこり笑うと喜助の顔が首まで赤く染まった。
「い、いやぁ。俺、美月さんとお祭り行きたかったし。それより・・その、今日の美月さん凄く綺麗です。」
「へ?」
「あ、その浴衣、とてもよく似合ってます!」
「ああ、これ。ありがとう。実は抱月先生が買ってくれたんだ。いい、って言ったのにお前にはこの色がきっと似合うとか言って。」
少し困ったように嬉しそうに笑った美月の笑顔に、喜助の小さな胸はキュッと締め付けられた。
美月が着ていた浴衣は今までの薄い淡い色のものとは大きく異なり、臙脂(エンジ)色の生地に大きく牡丹の花が神秘的に描かれていた。
これを身に纏う美月は有名な花魁が高下駄を履いて、町をその独特の外から円を描くようにしてゆっくりと歩を進める歩き方で注目されるのと同様な程、異様な注目を浴びていた。
「美月!」
店先から雪之丞とその後から夜が来た。
(あ、雪之丞さん、綺麗・・)
真っ白な生地の浴衣に清楚に散りばめられた薄紫色の桔梗の花。雪のように白い肌が更にその浴衣で雪之丞自身が淡く光を放つようだった。
「わぁ。美月すっごく綺麗だね!とても良く似合ってる!ね、その浴衣ってもしかして千李堂のじゃない?!」
呉服屋で有名処の千李堂の着物や浴衣は今江戸の流行の発信地で、市民や裕福層までの憧れのものだった。
「そうだけど、雪之丞さん良く分かるね?」
「うん、だって僕も憧れててさ!これもそうなんだぁ」
嬉しそうに自分の浴衣をパタパタと袖をヒラつかせる。
「それ、すっごく綺麗で雪之丞さんにぴったりだよね!」
思っている事を素直に言ってみた。
「うん!夜七が買ってくれたんだ!お前にはコレが似合うだろうってっ」
うふふ、と嬉しそうに笑う雪之丞の少し後で会話が耳に入った夜の顔は気まずそうに目を逸らしていた。
ズキン・・・・
美月の胸にまた一つ針が打ち込まれた。
「優しいもんねぇ。夜兄は。でも美月さんのこの着物も抱月先生が似合うだろうって買ってくれたものだんだよ!ね?」
喜助が突然対抗するように大きな声で言い出した。
(喜助くん・・・)
夜は少し唇を噛み締めていた。
「お~い皆!置いていくなよ~」
店の中から熊が出てきた。
「熊さん?!」
「あら~美月ちゃん、また妖艶な・・」
裸の美女でも見つけたような顔で見られて何だか少し気恥ずかしさに身を横にすると、バコッと夜が熊の頭を叩いた。
「イテッ・・んだよ、夜!あ、俺も一緒に行く事になったからよろしくね~」
祭りに行く、当初は二人きりだと思って有頂天になったものが今では5人という大所帯になってしまった。だが、熊が入って来てくれてむしろ少し楽になった気もした。
(熊さんに感謝だな)
「お!やってるやってる」
隣町に入るや否や、町中人でごった返していて普段夜はとても暗いのに今は行灯が所狭しと置かれてとても明るい。
ピーヒョロ、ピーヒョロと笛の音と太鼓のリズムが祭りの雰囲気を盛り上げている。
町中へ進むと、道の真ん中に大きな移動式舞台が来ていて、中で女形の役者が色っぽく踊っていて、周りには目の保養とばかりに男たちが群がって見ていた。
(へぇ。この時代も結構盛り上がってっていうかある意味現代より活気あるかも!)
火事と喧嘩は江戸の華という程で、騒ぎ事が好きな人たちらしい。あちらこちらで喧嘩も目立つ。だが、喧嘩している本人達の口からは歌舞伎かかった台詞なども出てきて、平凡な日常にまるで自分が役者になりきって気分を味わって楽しんでいるようにも見えた。
(面白いなぁ・・)
「どうだ、江戸の祭りは?」
夜が後に下がって隣で話しかけてきた。
「うん、面白いと思うよ。現代のお祭りと少し似てるところもあるけど、盛り上がり方は江戸の方が遥かに上だと思う。」
何だか夜とまともに顔を見て話せない。
「そうか・・。浴衣、似合ってる。」
夜もまっすぐ向いたまま視線は合わせて来ない。
「ああ。ありがと。抱月先生が、買ってくれたんだ。今日は一緒に来られないからせめてって。雪之丞さんの浴衣も綺麗なのを買ってやったんだな。さすが、よく似合ってるよ」
嫌味を遠まわしに言いながらズキズキと自分の言葉で傷ついてくる。
(俺には、そういう事してくれないんだな・・)
「お前だってさすが抱月の趣味だけあって色気のある浴衣がよく映えてるぜ?良かったなぁ」
夜は口角だけ上げて意地の悪い目つきで見てくる。
(何だよ、コイツ。やっぱり嫌な奴だ!)
思い切り夜を睨みつけて、タッと前の方に歩いていた熊の隣に行った。
雪之丞と美月に挟まれてデレデレといやらしく鼻の下を伸ばす熊の顔を見て、夜は「チッ」と舌打ちをした。
<<前へ 次へ>>
むしろそんな夜を見て
「チッ」と言いたい方は是非^^
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(残念だな・・でも仕方ないか)
いつの間にかセミがちらほらと鳴き出し、少し動くだけでも浴衣にしっとりと汗が染み込む程に暑くなっていた。
「こんばんは~」
祭り当日、夜の店での集合で行くとそこには既に全員が揃っていた。
「あ!美月さん!」
キラキラっと目を輝かせ、ほんのりと頬を染めた喜助が嬉しそうな顔で駆け寄ってきた。
「こんばんは、喜助くん。今日は誘ってくれてありがとうね」
美月がにっこり笑うと喜助の顔が首まで赤く染まった。
「い、いやぁ。俺、美月さんとお祭り行きたかったし。それより・・その、今日の美月さん凄く綺麗です。」
「へ?」
「あ、その浴衣、とてもよく似合ってます!」
「ああ、これ。ありがとう。実は抱月先生が買ってくれたんだ。いい、って言ったのにお前にはこの色がきっと似合うとか言って。」
少し困ったように嬉しそうに笑った美月の笑顔に、喜助の小さな胸はキュッと締め付けられた。
美月が着ていた浴衣は今までの薄い淡い色のものとは大きく異なり、臙脂(エンジ)色の生地に大きく牡丹の花が神秘的に描かれていた。
これを身に纏う美月は有名な花魁が高下駄を履いて、町をその独特の外から円を描くようにしてゆっくりと歩を進める歩き方で注目されるのと同様な程、異様な注目を浴びていた。
「美月!」
店先から雪之丞とその後から夜が来た。
(あ、雪之丞さん、綺麗・・)
真っ白な生地の浴衣に清楚に散りばめられた薄紫色の桔梗の花。雪のように白い肌が更にその浴衣で雪之丞自身が淡く光を放つようだった。
「わぁ。美月すっごく綺麗だね!とても良く似合ってる!ね、その浴衣ってもしかして千李堂のじゃない?!」
呉服屋で有名処の千李堂の着物や浴衣は今江戸の流行の発信地で、市民や裕福層までの憧れのものだった。
「そうだけど、雪之丞さん良く分かるね?」
「うん、だって僕も憧れててさ!これもそうなんだぁ」
嬉しそうに自分の浴衣をパタパタと袖をヒラつかせる。
「それ、すっごく綺麗で雪之丞さんにぴったりだよね!」
思っている事を素直に言ってみた。
「うん!夜七が買ってくれたんだ!お前にはコレが似合うだろうってっ」
うふふ、と嬉しそうに笑う雪之丞の少し後で会話が耳に入った夜の顔は気まずそうに目を逸らしていた。
ズキン・・・・
美月の胸にまた一つ針が打ち込まれた。
「優しいもんねぇ。夜兄は。でも美月さんのこの着物も抱月先生が似合うだろうって買ってくれたものだんだよ!ね?」
喜助が突然対抗するように大きな声で言い出した。
(喜助くん・・・)
夜は少し唇を噛み締めていた。
「お~い皆!置いていくなよ~」
店の中から熊が出てきた。
「熊さん?!」
「あら~美月ちゃん、また妖艶な・・」
裸の美女でも見つけたような顔で見られて何だか少し気恥ずかしさに身を横にすると、バコッと夜が熊の頭を叩いた。
「イテッ・・んだよ、夜!あ、俺も一緒に行く事になったからよろしくね~」
祭りに行く、当初は二人きりだと思って有頂天になったものが今では5人という大所帯になってしまった。だが、熊が入って来てくれてむしろ少し楽になった気もした。
(熊さんに感謝だな)
「お!やってるやってる」
隣町に入るや否や、町中人でごった返していて普段夜はとても暗いのに今は行灯が所狭しと置かれてとても明るい。
ピーヒョロ、ピーヒョロと笛の音と太鼓のリズムが祭りの雰囲気を盛り上げている。
町中へ進むと、道の真ん中に大きな移動式舞台が来ていて、中で女形の役者が色っぽく踊っていて、周りには目の保養とばかりに男たちが群がって見ていた。
(へぇ。この時代も結構盛り上がってっていうかある意味現代より活気あるかも!)
火事と喧嘩は江戸の華という程で、騒ぎ事が好きな人たちらしい。あちらこちらで喧嘩も目立つ。だが、喧嘩している本人達の口からは歌舞伎かかった台詞なども出てきて、平凡な日常にまるで自分が役者になりきって気分を味わって楽しんでいるようにも見えた。
(面白いなぁ・・)
「どうだ、江戸の祭りは?」
夜が後に下がって隣で話しかけてきた。
「うん、面白いと思うよ。現代のお祭りと少し似てるところもあるけど、盛り上がり方は江戸の方が遥かに上だと思う。」
何だか夜とまともに顔を見て話せない。
「そうか・・。浴衣、似合ってる。」
夜もまっすぐ向いたまま視線は合わせて来ない。
「ああ。ありがと。抱月先生が、買ってくれたんだ。今日は一緒に来られないからせめてって。雪之丞さんの浴衣も綺麗なのを買ってやったんだな。さすが、よく似合ってるよ」
嫌味を遠まわしに言いながらズキズキと自分の言葉で傷ついてくる。
(俺には、そういう事してくれないんだな・・)
「お前だってさすが抱月の趣味だけあって色気のある浴衣がよく映えてるぜ?良かったなぁ」
夜は口角だけ上げて意地の悪い目つきで見てくる。
(何だよ、コイツ。やっぱり嫌な奴だ!)
思い切り夜を睨みつけて、タッと前の方に歩いていた熊の隣に行った。
雪之丞と美月に挟まれてデレデレといやらしく鼻の下を伸ばす熊の顔を見て、夜は「チッ」と舌打ちをした。
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むしろそんな夜を見て
「チッ」と言いたい方は是非^^
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