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万華鏡-江戸に咲く-53

 ミンミンと夏の風物であるセミの声があちらこちらから聞こえる。まだピークではないが、緑の多いこの時代のセミはとても元気よく鳴き散らしていた。
「夜!」
「美月・・」
 少し汗ばんで頬を赤らめながら、ついそこらで買ってきたのだろう、手には冷団子を二つ持って美月が嬉しそうに夜の店へ顔を出した。
「はい、これ。」
「おお、悪いな。」

 すっかり江戸の暮らしも慣れた美月はここらでも顔見知りも多くなってきた。あちこちで患者さんや、唯の美月のファンの人たちからはよく色々な物を貰っていた。その多くはお裾分けといって夜に、雪之丞に渡してと手渡される事も多くその度に夜の胸がキュッと掴まれた。
 夜は自分でも日に日に美月に惹かれているのが分かる。

 ちらりと横目に美月を見ると、汗で首元に濡れた髪が艶っぽく張り付いていて、唯それだけの事が異常に色っぽくて堪らなく見えてしまう。目を合わせると、夏の日差しを受けた万華鏡の中に惹き込まれてしまいそうだった。
 無意識に美月の唇に自分の唇を重ね付けた。柔らかくしっとりとしていて、暖かくていつまでも味わっていたい感じだ。

 唇を離すと、ぽうっと蕩けた目で見ている美月がいた。
「お前見てると、本当に押し倒したくなる。」
 そう言うと、少し悲しそうに翳った美月は俯くようにして嬉しそうに笑った。
 きっとどこかで熊の言った言葉が引っ掛かっていて、夜が信じきれていないのだろう。
「雪之丞とお前は違う。本気だから手を出さないとか・・そういうのはお前には出来ない。何て言うか、すげぇ好きだと逆に手を出さずにいられないっつーか・・」

 美月は少し目をクリッとさせた。
「じゃあ、ただタイプが違うってだけ?」
「たいぷ?」
「ああ、種類ね。その、好きって気持ちの大きさは似てるけど手を出せないタイプと出したくなるタイプ。」
「そうだな。・・・でも・・」
 夜の瞳に少し万華鏡の光が反射してキラリと光って見えた。
「お前に触れる度、お前の事もっと好きになってる気がする。」

 美月の瞳が大きく見開いた。
「じゃあ・・もっと触っても・・いいよ?」
 顔を赤らめて無理に恥ずかしさを抑えようとする少し強きな表情が堪らなく可愛い。
「お前・・本当に可愛い奴だな。遠慮しないぞ?」
 夜の顔が近づく。
「うん。いいよ。もっともっと好きになって、俺だけを好きになってくれるなら。全部持ってって」
 先程よりも強く唇が押し付けられる。唇を割って夜の舌が侵入して来ると、それに纏わり付かせるようにして自分のも絡めていった。

「あらら~?美月ちゃん?そこにいるの、美月ちゃんじゃない?」
 その声に美月と夜が振り返ると、そこには夜の知らない若い男が立っていた。
(誰だ?)
 夜の顔が不機嫌なものに変わっていく。
「あ!平蔵さん!こんにちは・・」
 美月が慌てて夜から少し身を離すと気まずそうに愛想笑いを浮かべた。
「何なに~?そこにいる色男が例の片思いのカレなの?」
「美月、あいつは誰だ」
 夜は明らかに威嚇する動物のように瞳孔を細めた。それだけで美しく整った顔に荒々しさが灯る。
「あ、患者さんだった方で、平蔵さんて言うんだ。」
 平蔵は兼ねてから美月を狙っている節があり、隙を見てはやたら身体を触ったりプレゼントを渡してきたり、わざと風邪だと嘘を言ってみたりと美月も少し辟易していた。
 だが、裕福な家の息子である平蔵にはいつも多額の報酬や、薬までよく買って貰っているお得意さまだった為、抱月にも迷惑を掛けないように上手くかわしてきたつもりだ。

「ねぇ、美月ちゃん。そんな遊び人もうよしなって。どうせそいつだって君と真剣に付き合うつもりないんだろう?」
 美月はそう言われて言葉が出なかった。真剣に付き合う事は、果たしてあるのか無いのか。今は当に瀬戸際だったからだ。
「俺は美月に本気で惚れている。だから片思いでも何でもねぇよ。」
 美月が驚いて夜を見るが、夜は腸が煮えくり返りそうだった。夜は悔しかった。美月は自分のものだから手を出すなと、どうどうと言えなかった事、付き合っていると言えなかった事、こんな阿呆のような奴に付きまとわれていると知らなかった事、何もかもが悔しかった。

 夜の剣幕と言葉にたじろいだ平蔵は去って行ったが、夜は意を決したように美月の横で言葉を発した。
「美月。俺、雪之丞の所に行って自分を確かめてくる。気持ちの整理も付けて来る。」
 その瞬間から美月の心臓は、半分天使によって包まれ、半分悪魔によってヤリを突きつけられて最後の審判が下るのを待つ事となった。



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