05/21/2010(Fri)
それから15話
あれから何日経ってもやはり弘夢から連絡が来ない。もう4日も経っている。
イライラする気持ちは不安へと変わっていった。
(おかしい。仕事が忙しいといっても、連絡をする時間くらい取れるだろう。)
自分は何か気に障った事でもしたのだろうか。抱き方が激しくて辛い思いをさせてしまっただろうか。色々な不安要素が脳裏に浮かぶ。
だが、自分に抱かれていた時の弘夢は、むしろ更に激しくとねだるようだった。
考えても辿り着かない不安の原因は、ただ考えを一人で悶々と巡らせるには耐えがたかった。
その不安は弘夢と気持ちも身体も繋がった分、より強く心を締め付けた。
次の日に、再び早めの営業を終えるとその足で弘夢の勤め先へ出向いた。
ロビーでしばらく待っていると2,3人のサラリーマンと一緒に弘夢も出てきた。
引き攣るような笑顔で同僚に接する弘夢の顔色はあまり良くなかった。
具合でも悪かったというのだろうか。なら、尚更何故自分に連絡をして来なかったのだ。自分が家庭を持っている事に気兼ねをしているのだろうか。
立ち上がって弘夢の方へ一歩足を進めた瞬間、弘夢は淳平の姿を見つけて顔を一層青ざめさせた。その奇妙で思いがけない反応に、淳平は暗黒の不安の渦に飲み込まれそうになった。
焦って駆け寄ろうとすると、弘夢が一足先に裏手へ走って行く。
何故逃げる?・・何故?・・・・・何故だ!
突然走り出した弘夢に驚く周りの会社員は、その後を追う淳平の姿に徒ならぬ気配と疑念を持ってざわついた。
カツカツとやけに響く靴の音だけが大きく二人の鼓膜に響いた。
(来ないで淳平!来たら、俺は―!)
未だ運動能力は衰えない淳平に弘夢の腕はすぐさま掴まれた。
「あっ・・!」
「おい!弘夢!何で逃げるんだよ!何でだ?!」
息を乱さず畳み掛ける淳平に対して、ハァハァと苦しそうに喘ぐ弘夢は、走っただけの苦しさではない顔の歪みを作っていた。
(俺だって、会いたかったよ、淳平・・)
「なぁ、具合が悪くて連絡出来なかったのか?」
(そんな優しい顔で覗き込むな・・)
「言ってくれればいつだってお前の所に行ったんだぞ?」
(淳平・・)
涙が溢れそうになるのをグッと爪を掌に食い込ませて堪える。
「なぁ、弘夢。俺、ホテルで何か痛いことでもしちまったか?怒ってるのか?そしたら謝るし、もう二度とそんな事しない。だから・・」
「違うよ、淳平。あの時はついあんな事しちゃったけど、何かやっぱり思っていた感じと違ったんだ。」
淳平は、弘夢の言っている意味が分からなかった。いや、そもそも今この言葉を発している人が本当に弘夢なのかが分からなかった。
「え・・え、何言ってるんだよ。だってお前だってあんなに俺を求めて・・」
「あの時は懐かしくて盛り上げる為にせがんだんだよ。確かに淳平の事は好きだったけど、一度ヤっちゃうと満足しちゃってね。ごめん。」
奇声を発しそうになる弘夢の脳裏に木戸の笑みが浮かぶ。
「弘夢・・俺、お前の事がずっと好きだったんだ。この間お前を抱いて、もっともっとお前を好きになった。もっとお前を満足させられるように努力もする。だから、今からでもチャンスをくれないか?」
(淳平・・そんなの・・俺だってそうだ。前よりももっと好きになったよ、俺だって・・)
これだけ酷い事を告げても、更にチャンスをくれとまで言ってくる淳平の気持ちが、木戸に傷付けられた心も身体も癒してくれるようだった。
優しくて、暖かくて愛おしくて仕方のない唯一の人。自分はわざとその人を傷付け、遠ざける事でしか守れない悔しさと苦しさに、何もかも放り出してしまいたくなる。
だが、裏社会で名を馳せている木戸に目を付けられたら最後、骨まで残らないか、その存在は突然消えるか、死ぬまでの地獄を見る事になり兼ねない。
―命と一生の人生に替えても淳平、お前だけは守り抜きたい。
その為ならば、お前に塞いでもらった心の傷口に再び思い切り杭を打ってやる。―
「ごめん、淳平。諦めて。俺、実はずっとある人に飼われててさ、やっぱりその人の身体が一番いいんだ。それに、お前との事がバレてお仕置きされちゃってさ。だからもう、お前とは会いたくないんだよ。」
―愛してるよ、淳平
<<前へ 次へ>>
★「それから」は「すれ違った後に(全10話)」の続編です。
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イライラする気持ちは不安へと変わっていった。
(おかしい。仕事が忙しいといっても、連絡をする時間くらい取れるだろう。)
自分は何か気に障った事でもしたのだろうか。抱き方が激しくて辛い思いをさせてしまっただろうか。色々な不安要素が脳裏に浮かぶ。
だが、自分に抱かれていた時の弘夢は、むしろ更に激しくとねだるようだった。
考えても辿り着かない不安の原因は、ただ考えを一人で悶々と巡らせるには耐えがたかった。
その不安は弘夢と気持ちも身体も繋がった分、より強く心を締め付けた。
次の日に、再び早めの営業を終えるとその足で弘夢の勤め先へ出向いた。
ロビーでしばらく待っていると2,3人のサラリーマンと一緒に弘夢も出てきた。
引き攣るような笑顔で同僚に接する弘夢の顔色はあまり良くなかった。
具合でも悪かったというのだろうか。なら、尚更何故自分に連絡をして来なかったのだ。自分が家庭を持っている事に気兼ねをしているのだろうか。
立ち上がって弘夢の方へ一歩足を進めた瞬間、弘夢は淳平の姿を見つけて顔を一層青ざめさせた。その奇妙で思いがけない反応に、淳平は暗黒の不安の渦に飲み込まれそうになった。
焦って駆け寄ろうとすると、弘夢が一足先に裏手へ走って行く。
何故逃げる?・・何故?・・・・・何故だ!
突然走り出した弘夢に驚く周りの会社員は、その後を追う淳平の姿に徒ならぬ気配と疑念を持ってざわついた。
カツカツとやけに響く靴の音だけが大きく二人の鼓膜に響いた。
(来ないで淳平!来たら、俺は―!)
未だ運動能力は衰えない淳平に弘夢の腕はすぐさま掴まれた。
「あっ・・!」
「おい!弘夢!何で逃げるんだよ!何でだ?!」
息を乱さず畳み掛ける淳平に対して、ハァハァと苦しそうに喘ぐ弘夢は、走っただけの苦しさではない顔の歪みを作っていた。
(俺だって、会いたかったよ、淳平・・)
「なぁ、具合が悪くて連絡出来なかったのか?」
(そんな優しい顔で覗き込むな・・)
「言ってくれればいつだってお前の所に行ったんだぞ?」
(淳平・・)
涙が溢れそうになるのをグッと爪を掌に食い込ませて堪える。
「なぁ、弘夢。俺、ホテルで何か痛いことでもしちまったか?怒ってるのか?そしたら謝るし、もう二度とそんな事しない。だから・・」
「違うよ、淳平。あの時はついあんな事しちゃったけど、何かやっぱり思っていた感じと違ったんだ。」
淳平は、弘夢の言っている意味が分からなかった。いや、そもそも今この言葉を発している人が本当に弘夢なのかが分からなかった。
「え・・え、何言ってるんだよ。だってお前だってあんなに俺を求めて・・」
「あの時は懐かしくて盛り上げる為にせがんだんだよ。確かに淳平の事は好きだったけど、一度ヤっちゃうと満足しちゃってね。ごめん。」
奇声を発しそうになる弘夢の脳裏に木戸の笑みが浮かぶ。
「弘夢・・俺、お前の事がずっと好きだったんだ。この間お前を抱いて、もっともっとお前を好きになった。もっとお前を満足させられるように努力もする。だから、今からでもチャンスをくれないか?」
(淳平・・そんなの・・俺だってそうだ。前よりももっと好きになったよ、俺だって・・)
これだけ酷い事を告げても、更にチャンスをくれとまで言ってくる淳平の気持ちが、木戸に傷付けられた心も身体も癒してくれるようだった。
優しくて、暖かくて愛おしくて仕方のない唯一の人。自分はわざとその人を傷付け、遠ざける事でしか守れない悔しさと苦しさに、何もかも放り出してしまいたくなる。
だが、裏社会で名を馳せている木戸に目を付けられたら最後、骨まで残らないか、その存在は突然消えるか、死ぬまでの地獄を見る事になり兼ねない。
―命と一生の人生に替えても淳平、お前だけは守り抜きたい。
その為ならば、お前に塞いでもらった心の傷口に再び思い切り杭を打ってやる。―
「ごめん、淳平。諦めて。俺、実はずっとある人に飼われててさ、やっぱりその人の身体が一番いいんだ。それに、お前との事がバレてお仕置きされちゃってさ。だからもう、お前とは会いたくないんだよ。」
―愛してるよ、淳平
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★「それから」は「すれ違った後に(全10話)」の続編です。
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コメント
> 誰かに飼われてる・・・
> 普通の人間には理解できない言葉だよね。
はい。その意味も想像も出来ないと思います。全ての所有権を握られている訳ですしね><
> 気持ちがあるものを、縛る力・・・
> この先は、淳平さんの力量なんだけど・・・
> がんばれ~
淳平も、真実を知れば頑張れると思うんですが><!
なかなか上手く行かないのがまた難ですね^^;
しかしシリアス書くと本当、普段の精神力の3倍は使いますね!
書く前は必ず甘いものたらふく食べて挑みます!www
コメントどうもありがとうございました
普通の人間には理解できない言葉だよね。
気持ちがあるものを、縛る力・・・
この先は、淳平さんの力量なんだけど・・・
がんばれ~
コメント