05/30/2010(Sun)
万華鏡-江戸に咲く-61
そんな感じの暮らしが暫く続いた。
夜と上手く行ったと知った抱月も、寂しそうではあるがそれでも嬉しそうにいつも見守ってくれていた。
その抱月は、やはり許嫁だったかよとはヨリを戻す気配は無かった。
美月も現代との時間調節を上手くやり繰りして、何とか現代の夏休みに入る事が出来た。
季節は両方とも真夏。どちらに行っても茹だる様な湿気の強い時期。
だが、医者という職業に興味が沸いた美月には大学のレポートに負われながらも独学で医学を学んでいる為、時間は幾らあっても足りない状態だった。
(少し疲れたな・・現代に帰っても忙しくてあまり眠れないしな・・)
そして夜と付き合い始めてから初めての雪之丞の所へ訪問した。
「こんにちは、雪之丞さん」
お店の番をしていた雪之丞がその白い顔を上げた。相変わらずハッとするような儚い美しさだ。
「あ、美月いらっしゃい。今上がるから待ってね。裏へ回ってて!」
一通りいつものように往診を終えて薬を渡すが、何か少し気まずい雰囲気が流れる。
「美月、夜七と恋仲になったんでしょ?」
美月はドキリとした。
「え、まぁ。」
「そう。どう?ちゃんと優しくしてる?」
少し寂しげな表情が美月の胸を苦しくさせる。自分が夜をこの人から取ってしまったような気分だ。
「うん・・優しいよ。あの、何かごめん。」
思わず謝ってしまった。
「え、何で謝るの。別にいつもと変わらないし、夜七も相変わらず毎日のように来てくれるし気にしないで」
(え・・あ、そうなんだ・・)
別にいちいち報告する義務もない訳だが、あれからも毎日通っていると雪之丞の口から聞かされて、多少なりともショックを受けてしまった自分に傲慢さを感じた。
自分は夜の特別な人になれた。それだけでどうして満足出来ないのだろうか。
「何か嫌な事されたらすぐ言ってね。僕からキツく言っておくから!」
そう言われて無償に腹が立った。
「大丈夫です。雪之丞さんこそ、何かあれば俺に言って下さい。俺から夜にキツく言ってきかせますから」
美月の挑戦的な態度に少し驚いた雪之丞はふと笑顔になった。
「そうだね。ごめん、偉そうな事言って・・。もう夜七は僕らだけの特別な人って訳じゃなくて、美月にとっても特別な人なんだよね。ごめん。ちょっと妬いてたかも。」
(妬いてた?)
ドキドキと美月の鼓動が速くなる。
「今まで夜七が僕の事を好きだったなんて、知らなかった。この間初めて口付けされて、押し倒されて最初は怖かったけど、最後にした口付は怖くなくて・・」
美月の鼓動は限界までスピードを上げる。
「あれから、夜七が少し違って見えるようになったんだ。もう、遅いって分かってるんだけど・・美月にも悪いって思ってるんだけど・・好きになっちゃったみたいなんだ」
美月は拳をグッと握り締めた。今更夜を諦められないし、雪之丞に取られたくなかった。
「悪いんだけど、俺今更引く気はないよ。」
「あ、分かってるよ。僕だって別に美月から夜七を取ろうとか、そういうつもりは無いんだ。だけど僕のこの気持ちだけ知って欲しくて。ただ、好きでいさせて欲しくて・・」
そんな事言われてダメとは言えない。好きでいる気持ちは自由だ。
「俺も、嫌味ばっか言ってごめん。でもアイツがどれだけ雪之丞さんを好きだったか知ってるから不安で、つい。」
帰り道、頭痛がした。この後に及んで、雪之丞が夜を好きだと言ってきてそれを夜が知ったらどうなるのか。やっぱり雪之丞の所へ戻ってしまうのではないか。その不安と疲れが一気に襲ってきて足元がふらつく。
今までの美月ならそんな男はこちらから切り捨てている。だが、夜だけはどうしても手放す事は考えられない。
(あー・・頭痛い・・ボーっとする・・)
夏の日差しが余計に美月の体力を奪うように照り付けてきて汗が滴る。
水を飲みたくても自動販売機がある訳でもない。
「美月!」
その声に顔を上げると珍しく抱月と夜が二人で前方から歩いてきていた。
「二人でどうしたの?」
「いや、そこでバッタリ会ってしまってね」
抱月が少し嫌そうな顔で笑う。
「仕方ねぇから尋問してた所だ。お前に手を出してねぇかどうか。」
夜が露骨に嫌な顔をして抱月を睨む。
「ははは・・」
美月は引き攣った笑いの裏で何だか脂汗が出てきた。
(日射病かな・・)
ふらつく美月の前では夜と抱月が自分の事で言い合いを繰り広げているが、その声もだんだんと遠くなってくる。
クラッと倒れそうになり、まずいと思った瞬間にサッと携帯を出していた。
「ごめ・・二人とも。後でまた・・くる・・」
「美月!」
既に目の前には地面が近づいていた。誰かが叫んで乾いた地面を蹴る音が聞こえた気もした。
そして、地面に激突する瞬間に現代へと飛んでいた。
(どこだ・・ここ・・何だ・・ここ・・)
咄嗟に倒れる美月を受け止めたと思った。だが、次の瞬間に狭く不思議な部屋へ来ていた。
夜は腕に抱えた重みで美月の状態がまずい事を悟り、取り敢えずは安静にさせようと考えた。
(ここがもしや美月の言っていた、現代という所か・・?)
見上げるとそこにはベッドがあった。
(この台は何だ・・布団があるから寝床か?)
取り敢えず確認をする為に美月をベッドに乗せようとすると、ベッドのスプリングが夜の膝をギシッと沈ませた。
「うおッ!」
(な、なんだ!?妙に沈みやがった!コイツ、いつもこんなものに乗っかって寝ているのか!?これじゃあ身体を悪くするに決まってやがらぁ)
比較的柔らかい絨毯の敷いてある床に美月を寝かせ、ベッドの上にあった布団を掛けてやる。
(この小さな座布団みてぇなのは何だ?でも妙に厚みがあるな・・触らないでおこう)
美月の顔色も少しずつ良くなってきて夜は安心した。
相当疲労が溜まっていたようで、気持ち良さそうにスースーと寝息を立てている。
あまりに可愛い寝顔に、つい夜も隣で寝転がり美月を抱き寄せて美月の寝顔に魅入ってしまっていた。
そのうちに夜の瞼も重く下がっていった。
<<前へ 次へ>>
え~、夜、現代へトリップしましたw
そして夜の言っていた「座布団みてぇなの」とは
枕の事ですね、はい。ww
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その抱月は、やはり許嫁だったかよとはヨリを戻す気配は無かった。
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(少し疲れたな・・現代に帰っても忙しくてあまり眠れないしな・・)
そして夜と付き合い始めてから初めての雪之丞の所へ訪問した。
「こんにちは、雪之丞さん」
お店の番をしていた雪之丞がその白い顔を上げた。相変わらずハッとするような儚い美しさだ。
「あ、美月いらっしゃい。今上がるから待ってね。裏へ回ってて!」
一通りいつものように往診を終えて薬を渡すが、何か少し気まずい雰囲気が流れる。
「美月、夜七と恋仲になったんでしょ?」
美月はドキリとした。
「え、まぁ。」
「そう。どう?ちゃんと優しくしてる?」
少し寂しげな表情が美月の胸を苦しくさせる。自分が夜をこの人から取ってしまったような気分だ。
「うん・・優しいよ。あの、何かごめん。」
思わず謝ってしまった。
「え、何で謝るの。別にいつもと変わらないし、夜七も相変わらず毎日のように来てくれるし気にしないで」
(え・・あ、そうなんだ・・)
別にいちいち報告する義務もない訳だが、あれからも毎日通っていると雪之丞の口から聞かされて、多少なりともショックを受けてしまった自分に傲慢さを感じた。
自分は夜の特別な人になれた。それだけでどうして満足出来ないのだろうか。
「何か嫌な事されたらすぐ言ってね。僕からキツく言っておくから!」
そう言われて無償に腹が立った。
「大丈夫です。雪之丞さんこそ、何かあれば俺に言って下さい。俺から夜にキツく言ってきかせますから」
美月の挑戦的な態度に少し驚いた雪之丞はふと笑顔になった。
「そうだね。ごめん、偉そうな事言って・・。もう夜七は僕らだけの特別な人って訳じゃなくて、美月にとっても特別な人なんだよね。ごめん。ちょっと妬いてたかも。」
(妬いてた?)
ドキドキと美月の鼓動が速くなる。
「今まで夜七が僕の事を好きだったなんて、知らなかった。この間初めて口付けされて、押し倒されて最初は怖かったけど、最後にした口付は怖くなくて・・」
美月の鼓動は限界までスピードを上げる。
「あれから、夜七が少し違って見えるようになったんだ。もう、遅いって分かってるんだけど・・美月にも悪いって思ってるんだけど・・好きになっちゃったみたいなんだ」
美月は拳をグッと握り締めた。今更夜を諦められないし、雪之丞に取られたくなかった。
「悪いんだけど、俺今更引く気はないよ。」
「あ、分かってるよ。僕だって別に美月から夜七を取ろうとか、そういうつもりは無いんだ。だけど僕のこの気持ちだけ知って欲しくて。ただ、好きでいさせて欲しくて・・」
そんな事言われてダメとは言えない。好きでいる気持ちは自由だ。
「俺も、嫌味ばっか言ってごめん。でもアイツがどれだけ雪之丞さんを好きだったか知ってるから不安で、つい。」
帰り道、頭痛がした。この後に及んで、雪之丞が夜を好きだと言ってきてそれを夜が知ったらどうなるのか。やっぱり雪之丞の所へ戻ってしまうのではないか。その不安と疲れが一気に襲ってきて足元がふらつく。
今までの美月ならそんな男はこちらから切り捨てている。だが、夜だけはどうしても手放す事は考えられない。
(あー・・頭痛い・・ボーっとする・・)
夏の日差しが余計に美月の体力を奪うように照り付けてきて汗が滴る。
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「二人でどうしたの?」
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夜が露骨に嫌な顔をして抱月を睨む。
「ははは・・」
美月は引き攣った笑いの裏で何だか脂汗が出てきた。
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ふらつく美月の前では夜と抱月が自分の事で言い合いを繰り広げているが、その声もだんだんと遠くなってくる。
クラッと倒れそうになり、まずいと思った瞬間にサッと携帯を出していた。
「ごめ・・二人とも。後でまた・・くる・・」
「美月!」
既に目の前には地面が近づいていた。誰かが叫んで乾いた地面を蹴る音が聞こえた気もした。
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(どこだ・・ここ・・何だ・・ここ・・)
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夜は腕に抱えた重みで美月の状態がまずい事を悟り、取り敢えずは安静にさせようと考えた。
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見上げるとそこにはベッドがあった。
(この台は何だ・・布団があるから寝床か?)
取り敢えず確認をする為に美月をベッドに乗せようとすると、ベッドのスプリングが夜の膝をギシッと沈ませた。
「うおッ!」
(な、なんだ!?妙に沈みやがった!コイツ、いつもこんなものに乗っかって寝ているのか!?これじゃあ身体を悪くするに決まってやがらぁ)
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(この小さな座布団みてぇなのは何だ?でも妙に厚みがあるな・・触らないでおこう)
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相当疲労が溜まっていたようで、気持ち良さそうにスースーと寝息を立てている。
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コメント
> 雪之丞さんたら、人が悪い(笑)
そうなんですよ~何今更言ってんの?って感じです。
夜がチューなんかするからだよ!!と、イラついてますww
> 夜七さんの気持ちはグラつくのか?
> このまま現代に来ちゃえば、ラブラブ生活ですけどね~
ふはは!ですね~!少しの間現代編です^^
万華鏡-江戸に咲く-ではなくて、江戸の凶器-現代に咲く-ですな!
コメントどうもありがとうございました
夜七さんの気持ちはグラつくのか?
このまま現代に来ちゃえば、ラブラブ生活ですけどね~
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