08/24/2010(Tue)
それから55話
淳平は弘夢と別れてから一旦会社の駐車場に車を置き、その足でバーへ行った。今夜は何だか一人でゆっくりと落ち着くまで飲みたい気分だった。
街中のネオンがそら寒い身体を何となく紛らわしてくれるような気がして、無意識に賑やかな方へと足が向いた。その中でも雰囲気の良い落ち着いた地下にあるバーを見付けて中へ入った。
レンガと木造作りのそこは主にランプの明かりのみに頼る薄暗い場所だった。
静かなジャズの音楽が邪魔にならない程度の大きさで流れている。客もちらほらとまばらに座っている。独りの客も居れば、二人もいる。
淳平はカウンターに座りタバコを取り出すと、中にいたウェイターがサッと灰皿を目の前まで移動させてくれた。気遣いの行き届いた店だ。
店員は落ち着いた声で注文を聞く。
「何に致しましょう」
ふと見上げると、なかなか端正な顔立ちをした男が白いワイシャツを腕まくりし、黒いベストに身を包んで微笑んでいた。自分よりも幾分若い印象だ。
「じゃあ、モルトウィスキーをワイスアップで頼む」
「かしこまりました」
今晩は、あのウィスキーの豊潤な香りを楽しみながら飲みたい気分だった。弘夢の幸せを願い、これからの幸せも願い、クリスマスイブのこの一時だけは弘夢だけを思って飲みたかった。
クッキーなんて子供じみたものを渡すなんて、どうかしていると薄く笑っていると、目の前にチューリップ形の薄い飲み口のグラスに入った黄金色の酒が用意された。
薄いグラスの方が口当たりも柔らかく良い上に、モルト本来の風味が損なわれない。ここのウェイターは一番美味しい飲み方をよく知っているようだ。
欲を言えば手の温度が伝わらない脚付きのグラスならもっと良かったのになどと思いながら口に含む。
小1時間程飲んでタクシーで帰宅すると、家の中は既に真っ暗になっていた。
渡はもう寝てしまったのだろうかと静かに玄関の戸を閉めてリビングの扉を開け、電気を付けると渡が用意していた晩御飯が二人分ラップが掛けられ、そのテーブルの上にうつ伏せになっていた。
「渡・・?」
(用意してくれていたのか・・)
淳平の声にピクリと反応して顔を上げた渡の目尻は真っ赤になって頬には涙の痕が付いていた。
「どうした?」
すると渡がガタリと席を立ち、淳平の胸に飛び込んできた。
「先輩っ・・先輩っ・・」
渡はもう淳平が帰って来ないと思っていた。
先日時枝と連絡を取った渡は、弘夢があの店で働きだした事を知ってピンと来た。
あの時、確実に淳平と弘夢は会ったのだと。
弘夢と会ってしまっては、弘夢の元へ行ってしまう事は確実だと思った渡は愕然となった。そして今夜の帰宅が遅い事で、もう自分の元へは戻らないのだと絶望を感じていた。
(戻って来てくれた・・)
「渡・・どうした?寂しかったのか?連絡入れなくて悪かったよ。だから泣くな。」
渡は自分が今でも弘夢を想っていると思っている。だからいつもこんなに不安なのだ。少し帰りが遅いだけで二度と戻らないかもしれないという恐怖を抱えている。
淳平は渡を悲しませないと決めた。
「渡・・もう、お前だけを見ていくから・・だからもう泣くな。」
「先輩・・うそ・・」
渡の大きな瞳が揺れる。淳平は渡の包みこんでゆっくりと話し出した。
「俺、この間あの店で弘夢と会ったんだ」
その言葉に渡の瞳が一段と大きく見開いた。
「今日、弘夢と会って話をしてきた。あいつが今一緒にいる木戸って奴に愛されて、そしてあいつも幸せだって事が確認出来た。そして、俺もお前に愛されてて、幸せなんだって気付いたんだ」
渡の顔は驚きで強張っていたが、同時に嬉しさで涙が溢れてくる。
「好きだよ渡。そして、メリークリスマス」
時計の針は既に0時を過ぎていた。
淳平はそっと渡にキスをした。
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街中のネオンがそら寒い身体を何となく紛らわしてくれるような気がして、無意識に賑やかな方へと足が向いた。その中でも雰囲気の良い落ち着いた地下にあるバーを見付けて中へ入った。
レンガと木造作りのそこは主にランプの明かりのみに頼る薄暗い場所だった。
静かなジャズの音楽が邪魔にならない程度の大きさで流れている。客もちらほらとまばらに座っている。独りの客も居れば、二人もいる。
淳平はカウンターに座りタバコを取り出すと、中にいたウェイターがサッと灰皿を目の前まで移動させてくれた。気遣いの行き届いた店だ。
店員は落ち着いた声で注文を聞く。
「何に致しましょう」
ふと見上げると、なかなか端正な顔立ちをした男が白いワイシャツを腕まくりし、黒いベストに身を包んで微笑んでいた。自分よりも幾分若い印象だ。
「じゃあ、モルトウィスキーをワイスアップで頼む」
「かしこまりました」
今晩は、あのウィスキーの豊潤な香りを楽しみながら飲みたい気分だった。弘夢の幸せを願い、これからの幸せも願い、クリスマスイブのこの一時だけは弘夢だけを思って飲みたかった。
クッキーなんて子供じみたものを渡すなんて、どうかしていると薄く笑っていると、目の前にチューリップ形の薄い飲み口のグラスに入った黄金色の酒が用意された。
薄いグラスの方が口当たりも柔らかく良い上に、モルト本来の風味が損なわれない。ここのウェイターは一番美味しい飲み方をよく知っているようだ。
欲を言えば手の温度が伝わらない脚付きのグラスならもっと良かったのになどと思いながら口に含む。
小1時間程飲んでタクシーで帰宅すると、家の中は既に真っ暗になっていた。
渡はもう寝てしまったのだろうかと静かに玄関の戸を閉めてリビングの扉を開け、電気を付けると渡が用意していた晩御飯が二人分ラップが掛けられ、そのテーブルの上にうつ伏せになっていた。
「渡・・?」
(用意してくれていたのか・・)
淳平の声にピクリと反応して顔を上げた渡の目尻は真っ赤になって頬には涙の痕が付いていた。
「どうした?」
すると渡がガタリと席を立ち、淳平の胸に飛び込んできた。
「先輩っ・・先輩っ・・」
渡はもう淳平が帰って来ないと思っていた。
先日時枝と連絡を取った渡は、弘夢があの店で働きだした事を知ってピンと来た。
あの時、確実に淳平と弘夢は会ったのだと。
弘夢と会ってしまっては、弘夢の元へ行ってしまう事は確実だと思った渡は愕然となった。そして今夜の帰宅が遅い事で、もう自分の元へは戻らないのだと絶望を感じていた。
(戻って来てくれた・・)
「渡・・どうした?寂しかったのか?連絡入れなくて悪かったよ。だから泣くな。」
渡は自分が今でも弘夢を想っていると思っている。だからいつもこんなに不安なのだ。少し帰りが遅いだけで二度と戻らないかもしれないという恐怖を抱えている。
淳平は渡を悲しませないと決めた。
「渡・・もう、お前だけを見ていくから・・だからもう泣くな。」
「先輩・・うそ・・」
渡の大きな瞳が揺れる。淳平は渡の包みこんでゆっくりと話し出した。
「俺、この間あの店で弘夢と会ったんだ」
その言葉に渡の瞳が一段と大きく見開いた。
「今日、弘夢と会って話をしてきた。あいつが今一緒にいる木戸って奴に愛されて、そしてあいつも幸せだって事が確認出来た。そして、俺もお前に愛されてて、幸せなんだって気付いたんだ」
渡の顔は驚きで強張っていたが、同時に嬉しさで涙が溢れてくる。
「好きだよ渡。そして、メリークリスマス」
時計の針は既に0時を過ぎていた。
淳平はそっと渡にキスをした。
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コメント
> 渡くんの、(演技かもしれないけど…)
> かわいい、健気さに、ころりときとますね!
あはは^^;
確かに最初は演技でした!ですが、今は本当に恋する男子ですv
健気さにコロリと、ありがとうございます!
淳平もコロリとしたようで^^;
> それも幸せだとおもうんだけどね....
そうですね・・。そういう幸せもありますね。
想うより想われた方が幸せって言いますしね(>_<)
どうなるかです(>_<)!
コメントどうもありがとうございました
> 後で考えるどころか、考えが及ばないヤツだった
> か~(--;)
も~鈍感というか何と言うかです・・^^;
人の話をうのみにしてはいけません(>_<)!と言ってやりたいです^^;
> 前回の結婚と言い、進歩してるのかしてないのか。
して・・ないような・・_| ̄|○ ガクッ
そうですよ!結婚だってあんな風になった癖にです!
もう、かやさんからも言ってやって下さい(-_-;)
> 渡ちゃんは幸せそうですが、すべては砂上の楼閣なのですよね。
砂上の楼閣・・本当、そんな雰囲気です。
一度波に飲まれたら・・。
> 弘夢くんが心配です。
> やっと思いが通じたのに、またしても淳平のために自分の幸せをあきらめるなんて~。
弘夢、押さえていた気持ちが淳平と会った事で溢れてしまいました(>_<)
これからの生活に支障が出なければ良いのですが・・;;
淳平が幸せならそれが自分にとっても幸せだって考えてるようですが、本当にそれで
弘夢自身が幸せになれるかどうかと思います(>_<)
> 木戸さんも読めないし。
> 時枝さんはイジワルが冴えてステキ(え?
木戸(笑)奴は・・心は弘夢オンリーですね^^;
時枝は何やら武器を仕込んでますしね(笑)
仕事上、拷問とか普通にするので色々持ち歩いているようです。
(黒い仕事・・..・ヾ(。>д<)シ こえぇぇぇ)
コメントどうもありがとうございました
> それを、重いとも思わずに抱きしめて弘夢に会った話をする淳平さん。
もう手遅れだと思ってたようです(>_<)
ですが心を決めた淳平は受け止める事にしました。
全部話して、これから渡と上手くやっていこうとしますが・・
大丈夫かどうか(>_<)
> 丸く収まっているようで、何かありそうな。
アドさんのアンテナが勃っている!!・・いや、立っている!
> 桔梗さん!!
> 気になるじゃないですか~~~~!!
> 最初のイカしたウェイターまでも気になる―!
気になって下さってありがとうございます(≧▽≦)
そしてウェイターまで気にして下さって!!
さすがアドさん(笑)
コメントどうもありがとうございました
かわいい、健気さに、ころりときとますね!
それも幸せだとおもうんだけどね....
後で考えるどころか、考えが及ばないヤツだった
か~(--;)
前回の結婚と言い、進歩してるのかしてないのか。
渡ちゃんは幸せそうですが、すべては砂上の楼閣なのですよね。
弘夢くんが心配です。
やっと思いが通じたのに、またしても淳平のために自分の幸せをあきらめるなんて~。
木戸さんも読めないし。
時枝さんはイジワルが冴えてステキ(え?
それを、重いとも思わずに抱きしめて弘夢に会った話をする淳平さん。
丸く収まっているようで、何かありそうな。
桔梗さん!!
気になるじゃないですか~~~~!!
最初のイカしたウェイターまでも気になる―!
> 渡たんの心境だけに絞って読むとすっごく幸せなスタートなのに、何かが引っ掛かる(-_-;)
キタwwエスパー(笑)
ガクガクブルブル((;゚Д゚))←
> (;゚ロ゚)ハッ 桔梗ちん、まだ隠し玉を持ってるな?
金の玉?(´・ω`・)エッ?←誤魔化しとる
> ほらほら~、さっさと出しておしまいなさい(爆)
(ω・ )ゝ なんだって?←あくまで聞こえないフリ(笑)
> あぁ、でもこの『手の平の上で転がされてる感』も嫌いじゃなかったりwww
> ヽ(*゚ω。)ノアヒャヒャ ←
孫悟空現象が好きなのね!?(違
うーむ・・怖いよ、エスパー。(笑)
あ!やっと使えたね♪その顔文字ww
久々に見られて嬉しいよ!!
コメントどうもありがとうございました
そっちですか(笑)
> ぽぽたん嬉しす☆こっちはこれで落ち着いたのかな?
> 残るは・・・・にゃは♪
何だか話の流れゆくままに淳平は自分の中で整理をつけて
渡を愛して行こうと決めたようです(>_<)
渡も今一番幸せを感じているんじゃないでしょうか・・。
残る人達がどう動いていくかですね・・。
( ̄∀ ̄*)イヒッ
コメントどうもありがとうございました
渡たんの心境だけに絞って読むとすっごく幸せなスタートなのに、何かが引っ掛かる(-_-;)
(;゚ロ゚)ハッ 桔梗ちん、まだ隠し玉を持ってるな?
ほらほら~、さっさと出しておしまいなさい(爆)
あぁ、でもこの『手の平の上で転がされてる感』も嫌いじゃなかったりwww
ヽ(*゚ω。)ノアヒャヒャ ←
ぽぽたん嬉しす☆こっちはこれで落ち着いたのかな?
残るは・・・・にゃは♪
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