08/31/2010(Tue)
それから62話
今日は仕事が長引くからと弘夢もこの料亭に泊まる事になっていた。木戸からは先程部屋に電話が来て別の仕事があるから寝ていろと言われたが、どうも寝付けなかった弘夢は旅館を散歩していた。時刻も既に真夜中を過ぎていた。
日本庭園風の中庭を歩いていると、外から隙間の開いた部屋があるのに気付き、近づいた。中は電気が煌々と点いていた。そっと近づき暗い庭から覗き見ると、浴衣から上半身を曝け出した時枝がいた。
そのあまりの美しさにドキッとなった心臓は次の瞬間にギュッと掴まれた痛みに変わった。
時枝の身体が酷く傷ついて、自分でそれを治療しているのが見えたのだ。
「時枝さんッ」
思わず縁側から入り込んだ弘夢を見て、時枝はほんの少し瞳を見開いただけで、後はいつもの無表情で淡々と傷の手当てをしていた。
「何をしているのです、貴方は。部屋で寝てろと言われなかったですか?」
「どうしたんです!?その傷・・こんなに赤く腫れて・・」
時枝は何でもないような声で答える。
「ビジネスです。」
「ビジネス・・って・・まさか・・木戸さんに言われて!?」
「君の知った事ではないでしょう」
時枝が鋭く睨む。
(そんな・・好きな人にこんな命令されたら・・どれだけ苦しいか・・)
時枝の気持ちを考えた弘夢は苦しさが流れ込んできた。ここまで想っている時枝の方がよっぽど自分なんかといるよりも木戸にとっても幸せになれるのではないかと思った。
「そこまでして・・木戸さんも俺何かより時枝さんを選べば・・幸せになれるのに・・」
「木戸さまは・・貴方でないとダメなんですよ。」
そう言って時枝は淡々と消毒液を傷に付けた。その言葉と木戸の気持ち、そして時枝の気持ちも痛い程に理解でると、やるせない脱力感が肩にシトシトと降って来た。
「お手伝い・・します。背中の方は届かないでしょうし・・」
そう言って時枝の白い肌の傷にそっと触れると、その瞬間にパシンッと強く手を叩き落とされた。
「触らないで貰えますか」
その表情は気高く、生意気な孤高の豹のような目をしていた。
「ご、ごめんなさい・・」
ジンジンとする手を反対の手を合わせながら廊下へと出て襖を閉めた。今は手の痛みよりも、時枝の気持ちを考える自分の心があまりに痛かった。ペタンと廊下に座リ込み、暫く動けずにいると、中から時枝の話声が聞こえてきた。
(こんな時間に・・電話?仕事・・かな?)
そっと襖に耳を近づけると声が所々聞き取れてきた。
「私です。報告が入ってきてませんが、どうしました。・・あぁ・・そうですか。・・はい?・・何言っているのか自分で分かってるんですか?・・」
どうやら揉めているような口ぶりだった。
「・・・を辞めて、この先・・ともに生活出来るとでも?・・まさか・・・・本・・になるとは。渡、君とは一度ゆっくり会って話さなければ・・ません。・・・取り敢えず・・淳平君の・・・引き続きお願いしますよ」
(え・・何・・?淳平?・・・渡って・・・)
所々くぐもる声を聞き取ろうと弘夢は襖に耳を直接付ける。
「・・・分かりました。では・・・にホテルのラウンジに来て下さい」
まさか、聞くとは思っていなかった淳平という名を聞いた弘夢の心臓は不穏な速度を上げていった。
(渡・・渡・・・)
その名前で淳平に嬉しそうに纏わりついていた小柄な可愛らしい青年が浮かんだ。
(ま・・・さか・・・まさか・・まさか・・・)
全ては木戸に仕組まれた事だったと考えると、血の気が失せた。
自分と淳平を引き離す為に淳平の方にも手を打っていたのだとしたら。
(やめて・・もうこれ以上・・・お願い・・)
震える手で口を押さえる。
―折角これから幸せになるって決めたんだ。もう一度生きる気力を持って幸せに・・
全てが作り物だったと知ったら。そして、二度も愛する者に裏切られたと知ったら。
淳平は、今度こそどうなるか予想がつく気がした弘夢は、歯を噛み締めて立ち上がった。
<<前へ 次へ>>
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日本庭園風の中庭を歩いていると、外から隙間の開いた部屋があるのに気付き、近づいた。中は電気が煌々と点いていた。そっと近づき暗い庭から覗き見ると、浴衣から上半身を曝け出した時枝がいた。
そのあまりの美しさにドキッとなった心臓は次の瞬間にギュッと掴まれた痛みに変わった。
時枝の身体が酷く傷ついて、自分でそれを治療しているのが見えたのだ。
「時枝さんッ」
思わず縁側から入り込んだ弘夢を見て、時枝はほんの少し瞳を見開いただけで、後はいつもの無表情で淡々と傷の手当てをしていた。
「何をしているのです、貴方は。部屋で寝てろと言われなかったですか?」
「どうしたんです!?その傷・・こんなに赤く腫れて・・」
時枝は何でもないような声で答える。
「ビジネスです。」
「ビジネス・・って・・まさか・・木戸さんに言われて!?」
「君の知った事ではないでしょう」
時枝が鋭く睨む。
(そんな・・好きな人にこんな命令されたら・・どれだけ苦しいか・・)
時枝の気持ちを考えた弘夢は苦しさが流れ込んできた。ここまで想っている時枝の方がよっぽど自分なんかといるよりも木戸にとっても幸せになれるのではないかと思った。
「そこまでして・・木戸さんも俺何かより時枝さんを選べば・・幸せになれるのに・・」
「木戸さまは・・貴方でないとダメなんですよ。」
そう言って時枝は淡々と消毒液を傷に付けた。その言葉と木戸の気持ち、そして時枝の気持ちも痛い程に理解でると、やるせない脱力感が肩にシトシトと降って来た。
「お手伝い・・します。背中の方は届かないでしょうし・・」
そう言って時枝の白い肌の傷にそっと触れると、その瞬間にパシンッと強く手を叩き落とされた。
「触らないで貰えますか」
その表情は気高く、生意気な孤高の豹のような目をしていた。
「ご、ごめんなさい・・」
ジンジンとする手を反対の手を合わせながら廊下へと出て襖を閉めた。今は手の痛みよりも、時枝の気持ちを考える自分の心があまりに痛かった。ペタンと廊下に座リ込み、暫く動けずにいると、中から時枝の話声が聞こえてきた。
(こんな時間に・・電話?仕事・・かな?)
そっと襖に耳を近づけると声が所々聞き取れてきた。
「私です。報告が入ってきてませんが、どうしました。・・あぁ・・そうですか。・・はい?・・何言っているのか自分で分かってるんですか?・・」
どうやら揉めているような口ぶりだった。
「・・・を辞めて、この先・・ともに生活出来るとでも?・・まさか・・・・本・・になるとは。渡、君とは一度ゆっくり会って話さなければ・・ません。・・・取り敢えず・・淳平君の・・・引き続きお願いしますよ」
(え・・何・・?淳平?・・・渡って・・・)
所々くぐもる声を聞き取ろうと弘夢は襖に耳を直接付ける。
「・・・分かりました。では・・・にホテルのラウンジに来て下さい」
まさか、聞くとは思っていなかった淳平という名を聞いた弘夢の心臓は不穏な速度を上げていった。
(渡・・渡・・・)
その名前で淳平に嬉しそうに纏わりついていた小柄な可愛らしい青年が浮かんだ。
(ま・・・さか・・・まさか・・まさか・・・)
全ては木戸に仕組まれた事だったと考えると、血の気が失せた。
自分と淳平を引き離す為に淳平の方にも手を打っていたのだとしたら。
(やめて・・もうこれ以上・・・お願い・・)
震える手で口を押さえる。
―折角これから幸せになるって決めたんだ。もう一度生きる気力を持って幸せに・・
全てが作り物だったと知ったら。そして、二度も愛する者に裏切られたと知ったら。
淳平は、今度こそどうなるか予想がつく気がした弘夢は、歯を噛み締めて立ち上がった。
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コメント
色々とご心配頂きありがとうございましたm(_ _)m
そうですね。私もそう願います^^
拍手コメントどうもありがとうございました
Aさまにも色々とお世話になり、ありがとうございました。
もう大丈夫だと思いますのでまたこれからも頑張っていきたいと思います^^
ありがとうございました^^
拍手コメントどうもありがとうございました
> うわ~、ドキドキします!
> これは、この展開は!あっちからとこっちからで×××××~!?(@@)(むががが・・・)
はい!弘夢と淳平の両サイドで動き始めました(>_<)!!
ドキドキして頂けて嬉しいですっ♪
私も違う意味でドキドキです∑(; ̄□ ̄A アセアセ
むががって(笑)((´∀`))ヶラヶラ
> ひとりで消毒する時枝さんが痛々しくて、切ないです~!時枝さ~ん!(;_;) 木戸さんのために負った傷に、弘夢くんには触れて欲しくないですよね!
> 木戸さんに「ありがとう」って優しく撫でられたら、報われるのでしょうか。それも切ない~(ノ_・。)
その通りですね(>_<)!
木戸を思っての行動で負った傷ですから弘夢なんぞに触れられたくはありませんよね!
(。>д<)ノシ サワルナー! Σ(ロ゚ ノ)ノビクッ!
あーん、木戸から「ありがとう」なんて撫でられたらそれも切ないですーッ(*´Дヾ)
でも嬉しいでしょうね・・(泣)
> 家人が留守の時にケガして、一人で手当てする時の侘しさったら~。痛いと訴える相手もいないから痛がっても仕方ないし~。
寂しいですよね・・心配してくれる人もおらず・・(ノω・、) ウゥ・・・
> 弘夢くんは、どう動くのでしょうか?
> 嵐だ~!嵐が来るよ~!!
嵐が来る前へよく実家の雨戸をガムテープで固定しました・・。
あの作業が懐かしいです。ボロ屋ですから被害はエラかったですが。(笑)
不穏な空気のぶつかり合いで嵐は巻き起こるのでしょうか。
そんなに酷くもないと思いますョ(-"-;A ...アセアセ
コメントどうもありがとうございました
うわ~、ドキドキします!
これは、この展開は!あっちからとこっちからで×××××~!?(@@)(むががが・・・)
ひとりで消毒する時枝さんが痛々しくて、切ないです~!時枝さ~ん!(;_;) 木戸さんのために負った傷に、弘夢くんには触れて欲しくないですよね!
木戸さんに「ありがとう」って優しく撫でられたら、報われるのでしょうか。それも切ない~(ノ_・。)
家人が留守の時にケガして、一人で手当てする時の侘しさったら~。痛いと訴える相手もいないから痛がっても仕方ないし~。
弘夢くんは、どう動くのでしょうか?
嵐だ~!嵐が来るよ~!!
> 歩み寄ろうとした弘夢の手をバシン!!
> あうー(T_T)時枝しゃんたらー!
うぅ・・ありがとうございます(ノД`)・゜・
せめてkikyou兄のようにバナーでも作れたらと思いますが何も出来ずすみません m(_ _;)m
歩み寄りの弘夢も完全拒否です。
和解する気もなしで全く時枝のやつ・・(;-_-) =3 フゥ
> そして、盗み聞いてしまった電話の声!!
>
> これは…お話は正規カップルへと戻っていくのか?
> 淳平と弘夢(正規カップル)は幸せになれるのかー?
どうなるかですっ(>_<)
動きが出て参ります!!
> 私事ですが、明日から潜りに入ります。
> コメント欄からいなくなりますが、楽しみに読ませて頂きますね!
はい、寂しいですがご無理なさらずに!
またの復帰を心待ちにしております^^
読んで下さってありがとうございます!!
コメントどうもありがとうございました
歩み寄ろうとした弘夢の手をバシン!!
あうー(T_T)時枝しゃんたらー!
そして、盗み聞いてしまった電話の声!!
これは…お話は正規カップルへと戻っていくのか?
淳平と弘夢(正規カップル)は幸せになれるのかー?
私事ですが、明日から潜りに入ります。
コメント欄からいなくなりますが、楽しみに読ませて頂きますね!
> 痛々しい、痛々しいよぉ(ノДT)アゥゥ
> いつもこんな風にして自分で孤独に消毒してたんだね。
> ビジネスだと木戸さんのためだと自分に言い聞かせて…。
□⊂(・ω・`) ナカナイデ...
痛みを理解してくれて嬉しいよ(ノ△・。)
そうなの。いつも独りでこのように消毒を・・って消毒って何だか本当に
孤独感が今更ながら醸し出されるアイテムかもと思った^^;
こんなビジネス、木戸の為じゃなかったら絶対に引き受けない人だと思う(>_<)
> 弘夢くんが消毒を手伝う事で少なからず二人の間の壁が低くなるのかと思いきや、そうはさせない時枝さん!
> 弘夢くんに同情されるくらいなら死んだ方がマシだとかさえ思ってそう(>_<)
威嚇された弘夢。(笑)
本当、少し許してあげれば二人の距離も縮むような気がするんだけど(´・ω・`)ションボリ
うん。弘夢に労られる位ならってスゴイ思ってると思う(>_<)
憎い相手だものね。
> そしてこっちも聞いちゃったーーー!!
> しかも淳平くんと渡たんの名前をハッキリと!決定打だーアワワワ((((゚ □ ゚ ) ゚ □ ゚))))アワワワ
> どうする弘夢くん!誰と誰のどの関係を守るために動く!?
聞いてしまった!Y(>ω<、)Y ヒェェーーッ!
誰と誰のどの関係を守る為に動く・・読み込んで頂けて嬉しい言葉デス(ノД`)・゜・
弘夢と淳平がそれぞれの動きを見せ始めます(>_<)
コメントどうもありがとうございました
> さぁどうなるのかな~楽しみだな~
> 時枝さんの相手もSだったんですね(笑)
>
> じゃ、きっと木戸さんとも相性バッチリなはず!
> ↑ビジネスだから!
バレてしまいました(>_<)
時枝の相手も男色だったようで酷く攻められてしまったようです(>_<)
これから弘夢も動きを見せる感じになりました。
> クールなMプレイってどんなのか見たいわ~
> ここは端折っちゃダメなところでしょ!
> 巻き戻して再生をお願いします(笑)
無茶ブリですね~^^;
クールなMプレイはまだ極秘でございます^^
そのうちご期待に添えられるように時枝に頼んでおきます♪
コメントどうもありがとうございました
痛々しい、痛々しいよぉ(ノДT)アゥゥ
いつもこんな風にして自分で孤独に消毒してたんだね。
ビジネスだと木戸さんのためだと自分に言い聞かせて…。
弘夢くんが消毒を手伝う事で少なからず二人の間の壁が低くなるのかと思いきや、そうはさせない時枝さん!
弘夢くんに同情されるくらいなら死んだ方がマシだとかさえ思ってそう(>_<)
そしてこっちも聞いちゃったーーー!!
しかも淳平くんと渡たんの名前をハッキリと!決定打だーアワワワ((((゚ □ ゚ ) ゚ □ ゚))))アワワワ
どうする弘夢くん!誰と誰のどの関係を守るために動く!?
さぁどうなるのかな~楽しみだな~
時枝さんの相手もSだったんですね(笑)
じゃ、きっと木戸さんとも相性バッチリなはず!
↑ビジネスだから!
クールなMプレイってどんなのか見たいわ~
ここは端折っちゃダメなところでしょ!
巻き戻して再生をお願いします(笑)
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