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万華鏡-江戸に咲く-35

 近頃は本当にすっかり美月も見習い医師として上達した。暇を見つけては江戸に持参して来た医学書を読み漁り、面白い程知識が吸収できた。自分の出来る事を行うだけでこんなにも人に喜ばれる事が嬉しいと感じる事は美月にとって人生の起点とも言える事だった。

「夜!」
「ん・・おぉ美月。今帰りか・・?」
「店番しないで寝てたらお客さんに本取られるぞ?」
「大丈夫だよ、・・ふぁ」
 眠たそうにする夜の側に腰をかけると、途端に横になっている夜に腕を引かれ胸元へ引き寄せられた。
「あっ・・ちょっと夜!店の前で・・!」
 ちらほら人通りのある昼に店のカウンターがあるとはいえ、目を向けられればバッチリと見えてしまう。
「んんっ・・やっ・・てば!んんっ・・」
 容赦なく塞がれた唇からはお互いの唾液で口端が艶かしい光が零れる。ふいに夜の胸元に手を置いた美月はその引き締まった暖かい滑々する感触にドキッとする。少し肌蹴た着物から出ている生肌を触っていた。そういえば、こんなに明るい所でまじまじと夜の肌を触れるのは初めてだった。
 思わず形良く浮き出ている鎖骨に唇を付ける。
「ん・・おい。誘ってるって解釈してもいいのか?」
「え・・ちがっ・・夜の身体が何かいやらしくて・・つい・・」
「やっぱり・・誘ってんじゃねーか」
「わっ!!」
 急にくるりと押し倒されてしまい、着物をぐいと片方肩までずらされるとグッと肩を噛まれる。
「あっ・・ん」
 痛みよりもゾワリとした快感がきた。
 道端を行き交う人の足音が少し遠くでする。ちらりと顔を横に向けると少しびっくりするような、お盛んで、とでも言うような顔をして通り過ぎる人の顔も見えた。全くもって随分と性に寛大としか言いようがない。だが、美月は恥ずかしさで目がぐるぐるしてきた。
「夜っ夜ってば!皆見てるから・・恥ずかしいって・・んっ」
「いいじゃねーか。」
 夜の舌先が尖り、ツツーッと鎖骨から脇付近へ、そして胸の蕾へ移動する。
「ああっ・・そこは・・だめ!声出ちゃ・・あんっ」
「どうせ、皆いつもヤってる家に聞き耳立てて楽しんでんだ。今更だよ・・」

(そうなの!?ってこんな薄っぺらい続きの長屋なら確かに筒抜け・・)

 それでもこんな真昼間から店先で堂々とエロい行為を繰り広げている事に美月の頭は容量オーバーになる。
 ジャリジャリと人が店先に近づく音がしてきた。美月は恥ずかしさにそっちを見るのも怖くなる。
「熊か?今見ての通り忙しいんだ。見物してぇなら・・」
「夜七」
 その透き通る声に夜の顔が強張り、ピタリと動きが止まった。そのあまりに強張った表情に美月はびっくりした。ガバリと起き上がった夜は美月を自分の身体で隠すように慌てた。
「ゆ・・雪之丞!!お前こんな所で何してんだよ!」

(雪之丞?ってまさか!!)

「雪之丞さん!」
「やっぱり美月だったんだね。全く、夜の奴が襲ってるからびっくりしたよ。大丈夫?」
「違うって!俺らはただふざけてただけで!」
 言い訳がましく夜が言う。

(ふざけてた?)

「よぉ、珍しいじゃねぇかお雪ちゃんがうちの店まで来るなんて。」
「熊!久しぶり!」
 後から帰ってきた熊が雪之丞に挨拶をした。

(何?皆知り合いなの?)

「どうしたんだぃ?上がってきなよ。あ・・美月ちゃんも居たの?」
 美月に気付いた熊が嬉しそうに笑った。それに向かって軽く会釈する。
「今、夜が美月を襲ってたんで嗜めていたんだよ」
「ありゃ。こらぁ、まずいところをお雪ちゃんに見られたなぁ夜!」
 夜はバツの悪そうな表情で顔を少し赤らめている。
「でもお雪ちゃん、大丈夫だって!夜の本命はお雪ちゃんだからさっ」

(・・・え?)

「熊ッ!!」
 夜が響く声で熊を黙らせた。熊はビクッとして何か悪い事でもしたのかと不安そうに瞳を泳がせた。まさか、自分が決定的な失態を犯したとは思っていない鈍感な奴だった。
「あ・・あの、俺ちと用事思い出したんでまたなっ。じゃな、美月ちゃんにお雪ちゃん」
 そそくさと逃げてしまった熊の後のこの気まずい雰囲気に夜は変な汗が背中をツーっと流れるのを感じた。
 何の事もない、いつものようだと軽く話し始めたのは雪之丞だった。
「全く。夜七!いい加減にしろよ?僕は丁度用事先から帰る所で少し寄っただけだったから。美月も勘弁してやってね?また何かコイツが悪さしたらいつでも言ってね?」
 そう言って爽やかに帰っていく雪之丞に会釈をした、気がした。

 ゆっくりと気まずそうな顔して少し振り返ったその顔を見て更に心が痛くなった。

(本命・・って何?・・何?)

 ときめく時の胸の痛みとは違う、痛みが襲ってきた。一度に味わう痛みが尾を引いて重苦しいく内臓を圧迫する。

(俺の事は・・遊び?)

「美月・・」
 夜の声が更にみぞおち辺りを抉るようにさせる。そして美月はイライラとこれから言われる言葉に恐怖した。知りたいけど知りたくない。つい先日、自分の気持ちに気付いたばかりで抱月にも貴之にも告げたばかりだ。あのホタルと見た時にした行為は何だったのか。気持ちが通ったと、あんな風に触れ合えた事が感動にも近い気持ちだったのは自分だけだったというのか。
 身体が緊迫する心臓の振動で小刻みに揺れる。

「・・とう・・なの?」
 声が掠れる。
「え?」
「本当なの?・・本命って・・」
 聞きたくないが、はっきりさせないと後戻りの出来ない気持ちの大きさになってしまっていた。
 夜の顔が怖くて見られなかったが、夜は少し俯いてコクンと小さく頷いたのが見えた。

 目の前に暗くて思いカーテンを何重にも閉められていくようだった。さっきまで春風の吹く野に立っていたように幸せな陽光に照らされていたというのに、今はどんどんと光が奪われていく。

 夜は美月に本当の事を言うしかないと決意した。美月を失いたくないと思った。
 美月の瞳を捕らえた夜に見えたものは、衝撃的なものを見た際にハッと動きが止まってしまうものだった。美月の瞳の中には鮮血のようなそれでいて黒々とした禍々しい光が立ち込めていた。まるで美月の心の傷の色がそのまま瞳の中に現れているようだった。

 美月は軽い気持ちで身体を許せる人ではない。自分に心を許してくれた美月はきっと今裏切られた、遊ばれたと傷ついているに違いなかった。顔面は蒼白になり、深紅の光を帯びたその瞳で美月は吸血鬼を彷彿させるようだった。夜は必死に想いを伝えようと、美月の肩を掴み顔を向けさせた。
「違うんだ、聞いてくれ美月。」
「俺に触るな」
「俺は、お前の事を遊びで触れた訳じゃねえ!それだけは信じてくれ!」
「・・触るな」
 ゆっくりと睨むように目を合わせた美月の瞳から涙が一筋零れ落ちた。それを見た夜の胸が締め付けられた。思わず抱きしめたくて抱き寄せようとすると、美月は再び今度は苦しそうに同じセリフを言った。
「俺に・・さわ・・るな」
 手を離し、夜はゆっくりと話し始めた。



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夜めッ

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