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万華鏡-江戸に咲く-37

「そんな事はない!俺は、お前を初めて見た時から綺麗だと思ったし、そう思えたのはアイツと・・お前だけだった。お前はアイツとは違う美しさがある。そして、俺はお前にも惹かれているのも事実なんだ。」
 薄くて半透明なのに丈夫なベールに包まれている美月の心にはその言葉は届きにくかった。
「ありがとう。でも、もういい。そういう事言うな。言わなくていい。」
 言われると余計に胸が痛い。
「違う。聞け。俺はこれを言う為にわざわざ誰にも話したこと無いあいつの過去をお前に話したんだ。って言っても抱月は知ってるけどな。」
 抱月という名を聞いて顔を夜に向ける。
「え・・先生が?先生も知ってたの?」
「ああ・・雪之丞の身体を見てもらうのに必要で。」

(先生、知ってたのに黙っててくれたんだ・・。普通なら、自分に振り向かせようとして言っちゃいそうなのに。雪之丞さんの事もちゃんと想ってくれて・・本当、優しい人だな。)

 この瞬間にも抱月の優しさに触れた気がしてふわりと優しい笑顔が作れた。

「お前、今先生の事思い出しただろ・・」
「え・・うん。何で?」
「あいつの事好きなのか?」

(好きか、って言われたら・・)

「好きだよ。」
 夜はムッとした顔で美月を睨んだ。
「何だよ、自分だって雪之丞さんの事好きなくせに。それに、言っとくけどな、先生の事は好きだけどお前に向ける気持ちとは少し違うんだ!俺が本当に好きなのはお前だけなん・・ッッ」
 自分で言っていて告白している事にふと気が付いた美月は途端にしまった、という表情をして顔が真っ赤になった。

(今無理だって気付いて、諦めようと思ってたのに何いきなり告ってんだよ俺!!)

 夜はそれを見てふっと優しく口元に笑みを作る。
「俺も・・お前が好きだ。どうしようも無かった。気が付いたら、多分最初にお前を見た時からもう気になって、この間お前に触れて確信したよ。あんなに心で抱き合えたような事は無かった。」

 夜もあの時同じ気持ちでいてくれていた、それが分かった美月は気持ちが膨張して止められなくなった。沈んで行った筈の小さな恋心は泡となって深海から浮上してくる。


(ああ。だめだ・・やっぱり・・俺、夜が好きだ!!)

 海面まで上がった恋の泡は弾け、大粒の涙となってポロポロと零れてきた。
 「好き・・だよ、夜・・。諦めるなんて、できそうもないや。雪之丞さんの次でもいい。好きでいさせて」
 夜の手が美月の頬に触れる。
「ごめんな。でも俺のお前を好きな気持ちは本当だから。信じて。」
 そっと唇が重ねられる。一度少し唇を離し、目を合わせると美月の瞳には薄い桜色の光が舞っていた。
「でも・・勝手な事なんだが・・その、お前にあんな優しい顔をさせる先生がちょっと羨ましいというか、悔しいというか・・腹立たしい。」
 拗ねるような表情が可愛い。
「本当、夜勝手な事言ってる。」
「実際、お前は俺よりも先生との絆の方が強いと感じるしな。俺に責める資格は無いんだが、俺は大分身勝手な野郎みてぇだ。誰にも触らせたくねぇ」
 腕をグイと引いて夜の胸に抱きすくめられる。夜の体温を頬に感じると、それだけで心の中に春風が吹く。
 美月はクスクスと小さく笑った。先生にヤキモチを焼く夜に少し嬉しかったのだ。

(一応・・は両思いになれたのかな?半分かな・・。でもいいや。)

 少し切なくて、でも諦めなくてもいいと思った瞬間に愛おしくて幸せな気持ちになれてしまった。




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