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万華鏡-江戸に咲く-38

 夜の店から帰宅した美月は、抱月の家の前で、夜との事をもう一度自分の気持ちを抱月に伝えようと決意した。
 ふぅ、と息を吐いてガラガラと戸を開けて挨拶をする。
「ただいま・・」
 美月の視界に飛び込んで来たのは、かよを胸に抱く抱月の姿だった。
 美月に気付いた二人はハッと顔を上げ、かよは恥ずかしそうに顔を赤らめた。
 美月は慌てて「ごゆっくり!」と戸を閉めて小走りに遠ざかる。

 美月は自分はやはり夜を本気で好きになったからと、抱月に謝るつもりでいた。出来ればかよと復縁して欲しいと頼むつもりでもいたのだが・・取り越し苦労だったようだ。
 僅かに感じる胸の痛みに我ながら夜の事を責められない勝手さに苦笑いが出る。あの腕の中は自分の特別の位置だと思い込んでいた。今更だ。なんて勝手で愚かなのだと嫌気まで差してくる。
 小走りを止め、ジャリジャリと剥き出しの地面を見つめながら歩く。
 皆心の中に大切な誰かを持っている。自分はここへ一体誰に逢って何をしに来たのだろう。
 とにかく暫く時間を潰そうとウロついていると川辺が見えたので降りてみた。

(ここがあの、東京だなんて嘘みたいだ・・)

 野原になっている土手に寝転がるとポカポカと気持ちの良い光が身体を温めてくる。
少し離れた場所から活気のある人々の掛け声や話声、荷台の音など聞こえてきて落ち着く。視界には青く広がる空を遮るものは何もなく、急に切なくなって空を通り過ぎる雲を掴もうと手を伸ばしてみた。

 その手をパシと急に掴まれて驚いて見上げると、そこには元気のいいキリリとした爽やかな笑顔の少年が立っていた。
「美月さんっ」
「喜助くん!」
 雪之丞の弟、喜助は人懐こい、それでいて一緒に居ても気兼ねのしない子で、何回か雪之丞の家で会って話すうちにすっかり打ち解けてしまった。喜助もすっかり美月を気に入ってしまっているようだった。
「喜助くん、何してるのこんな所で?びっくりしたよ」
「美月さんこそ何してたのさ?そこ歩いてたら見かけてさっ。へへっ」
 喜助は照れたように嬉しそうに笑う。
「今ちょっと時間潰しててね。」
「ふーん。じゃあ俺も付き合うよ!」
 雪之丞が可憐で清楚なスズランなら、喜助はマーガレットのように健康的な美しさがある。雪之丞よりも男の子っぽく将来が楽しみだ。喜助はとても兄想いで、自分も兄に負担を掛けないように働きたいといつか言っていた。

* * *

 喜助はドキドキしていた。
 美月に対して密かな想いを持っていた喜助は、いつも美月が来るのを楽しみにしていたのだ。先程偶々この川辺を歩いていて美月の姿を見かけた時には嬉しさで飛び跳ねながら駆け寄っていた。
 そっと美月の横顔を覗く。瞳からは太陽を反射する煌きが喜助を釘付けにする。
 初めて家で見かけた時から惹かれてしまったのだ。弟からみても美しい兄に見慣れていた喜助はちょっとやそっと綺麗なだけでは心は動かされない筈だったのだが、美月を見た瞬間に小さなハートに矢が刺さってしまったのだ。

「ねぇ、美月さん。美月さんは好きな人とか・・さ、いるの?」
「え?う・・うん。いるよ。」
 喜助はドキッとした。そりゃあ自分よりもずっと大人でこんな綺麗な人に恋人が居ない方が奇跡としか言いようがないと、すぐに落胆した。
「あのさ・・どんな人か聞いてもいい?」
 恐る恐る聞いて見る。美月の真剣な顔が喜助に向けられる。
「ん・・・今目の前にいる子だよ」
 喜助は心臓が止まった。―ように感じた。
「なんちゃって。ふふ」
 そう言って企むような艶かしい笑顔を向けられて小さな喜助のハートはパリンと割れた。
「酷いや美月さん・・今本当かと思って心臓止まったのに・・」
 グスンと鼻をすする。

「えーそんな事言って。俺の事本当に好きみたいに聞こえるじゃんっ。それはそれで嬉しいけどっ」
 喜助の天真爛漫さに雲掛かっていた心が晴れていくようだった。
「本当?!俺、俺ッ本当に美月さんの事好きなんだよ!?本当だよ!?」
 必死に言ってくる喜助がとても可愛らしい。
「ありがとう喜助くん。もう少し早く出会っていれば良かったかもね。俺、夜の事が好きになっちゃったみたいでさ。ごめんね。」

 喜助は思わぬ強敵にショックを受けた。
「よ・・夜兄が相手・・て・・手強い・・。でも、夜兄はてっきり兄さんの事が好きなんだと思ってたんだけど・・」
 スッと美月の心が陰る。
「うん・・・好きなんだって。でも、俺の好きな気持ちは止まらなかったし、あいつも俺の事好きだって言ってくれたから・・。」
「はぁ!?何言ってるの、美月さん!それでいいの?!辛くないの?!」
 喜助は声を荒げて迫ってくる。
「辛くないって言ったら嘘になるけど、それでも諦める方がずっと辛いから。いいんだ。どうしようも無く好きになっちゃってさ・・はは」
 喜助が急に顔を真上に覆い被せてきた。え?と思った次の瞬間、ギュッと目を瞑り、荒々しく唇を押し付けてくる喜助にびっくりして身動きが取れなかった。
唇を離した喜助は顔を真っ赤にして、それでもキリッと美月を見据えていた。
「喜助・・くん?」
「夜兄には負けないッ!」
 そう叫んで走って行ってしまった。その後姿と、意外な人物からの愛の接吻の感触がほわりと心をくすぐった。
「ありがと。喜助くん。」
 そう呟いて唇を指でなぞった。



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喜助の意外な秘め事と大胆な行動に(  ̄ー ̄)ノ◇ ザブトン1マイ

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04:01 | 万華鏡-江戸に咲く- | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑
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