05/23/2010(Sun)
それから17話
ベロベロに酔った淳平の大きな身体を汗が出るほど頑張って沢村の自宅アパートへ担ぎ込んだ。
「もうっ・・先輩、重すぎです・・」
玄関に入ると気が抜けたのか、力まで一緒に抜けて淳平をズルズルと下まで落としてしまった。
「わあっ、ちょっと先輩っ!玄関で寝ないで下さいよ!」
「んん・・」
ズルズルと引きずるようにして居間まで来ると、ポタリと汗の雫が垂れた。
取り敢えず淳平をベッドに寝かせ、沢村は思わぬ重労働でべた付いた身体をサッパリさせようとシャワーを浴びた。
「明日が休日で本当助かったぁ」
偶々平日の中に一つだけあった休日が冗談抜きで有難かった。
いつものパジャマに着替え、寝室のベッドを覗くと、そこには会社の先輩である淳平の大きな身体が死んだように眠っていて、きちんと呼吸をしているのかすら分からない程静かな寝息を立てていた。
(先輩がうちで寝ている・・何か妙だ。)
そんな事を考えながらも取り敢えず苦しそうなネクタイを淳平の首元から抜いてやる。上着も何とか脱がせ、シワにならないようにきちんとハンガーに掛けた。
さすがにズボンまで勝手に脱がす訳にはいかないと思い、そのまま布団を掛けて寝かせた。
(きっと色々辛いんだろうな・・)
沢村はそっと音を立てずにドアを閉めて部屋を出た。
カチャカチャと食器のぶつかり合う音と、慣れない部屋の匂いに淳平の意識がだんだんと目覚めてくる。
起きると喉が異常にカラカラで声もろくに出せない状態だった。
自分のいる見知らぬ部屋にいる疑問よりも、先ずは水を飲まないと死んでしまいそうで、本能が台所まで淳平を真っ直ぐ動かした。
「あ、先輩起きたんですか?はい、お水。喉渇いてるでしょ。夕べ全然起きなかったみたいだし。」
砂漠のど真ん中に何日も放って置かれてカラカラに干からびて死ぬ間際に天から天使が舞い降りて水を差し出してきたように感じた。
当にそんな感じだった。一気にコップの水を空にすると、それも分かっていたように直ぐに別のコップに並々と注いである水を手渡されて、至れり尽くせりだった。
淳平の欲求が手に取るように分かっているかのように、次々と世話を焼く後輩に感動すら覚えた。
「先輩、新しい使ってない下着と大きいTシャツ、それに歯ブラシも用意してあるのでシャワーでも浴びて来て下さい。その間に朝ごはん用意しておきますから。」
「あ、ああ。悪い。そうさせてもらうよ。」
熱いシャワーを浴びると、沈殿していたドロドロとしたものが中からも綺麗に流されていくような感じだった。
(気持ちいい・・)
熱いお湯にこんな癒しの効果があったとは、初体験だった。そして、淳平は昨日よりも大分気分が楽になっていた。
風呂を出ると、リラックスした身体は自然に空腹を感じた。
「先輩、ご飯できてます。食べましょう!」
美味しそうな洋食が綺麗にテーブルに並べてあった。食欲のそそるスクランブルエッグの香りとシナモンの香りが香しいフレンチトーストを見てお腹がグーグー鳴る。その他、焼き野菜に挽きソーセージ、その横にクレープが薄く切って入ったコンソメスープ、そしてイチゴにヨーグルトが掛かっていてその上に黄金色のハチミツがとろりと掛かっているデザート付きだ。
「美味い!これ、本当にお前が全部作ったのか?」
「もちろんですよ。俺、和食は苦手ですけど、洋食は得意なんです!」
久しぶりにちゃんとしたものを食べた気がした。お世辞ではなく、本当に美味しくてぺロリと全てを平らげてしまった。
「ごちそうさま。本当に美味かった。」
「そう言って頂けて作った甲斐がありましたよ」
嬉しそうに笑った沢村の顔は、その時初めてきちんと沢村という人物の顔を見たかのように感じた。
改めて見る沢村という後輩の顔は、意外にも可愛らしくて驚いた。近くにこんなにいい奴が自分の後輩として居たという事に改めて感謝の気持ちと嬉しさが込みあがった。
「沢村、昨日は色々とありがとな。」
「いえ。先輩には入社した時からいつもお世話になっていましたし、俺で良ければ力になります。」
弘夢とはまた違った魅力のある男だった。弘夢よりも幼い感じで、純粋そうな眼差しが芯に強さを持っているようにも感じられる。
―弘夢は・・自分でメシを作るのだろうか。その飼い主とやらと、こうして毎日食卓に一緒に居たのだろうか。
淳平は今更ながら弘夢の事を知っているようで、離れていた間の事は何も知らない事に空虚感を覚えた。自分の知らない間、それを共有してきた相手がいる。その相手の方がいいと、はっきり言われた。
淳平の心が再び暗く光の届かない深海へ沈んで行った。
<<前へ 次へ>>
★「それから」は「すれ違った後に(全10話)」の続編です。
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「もうっ・・先輩、重すぎです・・」
玄関に入ると気が抜けたのか、力まで一緒に抜けて淳平をズルズルと下まで落としてしまった。
「わあっ、ちょっと先輩っ!玄関で寝ないで下さいよ!」
「んん・・」
ズルズルと引きずるようにして居間まで来ると、ポタリと汗の雫が垂れた。
取り敢えず淳平をベッドに寝かせ、沢村は思わぬ重労働でべた付いた身体をサッパリさせようとシャワーを浴びた。
「明日が休日で本当助かったぁ」
偶々平日の中に一つだけあった休日が冗談抜きで有難かった。
いつものパジャマに着替え、寝室のベッドを覗くと、そこには会社の先輩である淳平の大きな身体が死んだように眠っていて、きちんと呼吸をしているのかすら分からない程静かな寝息を立てていた。
(先輩がうちで寝ている・・何か妙だ。)
そんな事を考えながらも取り敢えず苦しそうなネクタイを淳平の首元から抜いてやる。上着も何とか脱がせ、シワにならないようにきちんとハンガーに掛けた。
さすがにズボンまで勝手に脱がす訳にはいかないと思い、そのまま布団を掛けて寝かせた。
(きっと色々辛いんだろうな・・)
沢村はそっと音を立てずにドアを閉めて部屋を出た。
カチャカチャと食器のぶつかり合う音と、慣れない部屋の匂いに淳平の意識がだんだんと目覚めてくる。
起きると喉が異常にカラカラで声もろくに出せない状態だった。
自分のいる見知らぬ部屋にいる疑問よりも、先ずは水を飲まないと死んでしまいそうで、本能が台所まで淳平を真っ直ぐ動かした。
「あ、先輩起きたんですか?はい、お水。喉渇いてるでしょ。夕べ全然起きなかったみたいだし。」
砂漠のど真ん中に何日も放って置かれてカラカラに干からびて死ぬ間際に天から天使が舞い降りて水を差し出してきたように感じた。
当にそんな感じだった。一気にコップの水を空にすると、それも分かっていたように直ぐに別のコップに並々と注いである水を手渡されて、至れり尽くせりだった。
淳平の欲求が手に取るように分かっているかのように、次々と世話を焼く後輩に感動すら覚えた。
「先輩、新しい使ってない下着と大きいTシャツ、それに歯ブラシも用意してあるのでシャワーでも浴びて来て下さい。その間に朝ごはん用意しておきますから。」
「あ、ああ。悪い。そうさせてもらうよ。」
熱いシャワーを浴びると、沈殿していたドロドロとしたものが中からも綺麗に流されていくような感じだった。
(気持ちいい・・)
熱いお湯にこんな癒しの効果があったとは、初体験だった。そして、淳平は昨日よりも大分気分が楽になっていた。
風呂を出ると、リラックスした身体は自然に空腹を感じた。
「先輩、ご飯できてます。食べましょう!」
美味しそうな洋食が綺麗にテーブルに並べてあった。食欲のそそるスクランブルエッグの香りとシナモンの香りが香しいフレンチトーストを見てお腹がグーグー鳴る。その他、焼き野菜に挽きソーセージ、その横にクレープが薄く切って入ったコンソメスープ、そしてイチゴにヨーグルトが掛かっていてその上に黄金色のハチミツがとろりと掛かっているデザート付きだ。
「美味い!これ、本当にお前が全部作ったのか?」
「もちろんですよ。俺、和食は苦手ですけど、洋食は得意なんです!」
久しぶりにちゃんとしたものを食べた気がした。お世辞ではなく、本当に美味しくてぺロリと全てを平らげてしまった。
「ごちそうさま。本当に美味かった。」
「そう言って頂けて作った甲斐がありましたよ」
嬉しそうに笑った沢村の顔は、その時初めてきちんと沢村という人物の顔を見たかのように感じた。
改めて見る沢村という後輩の顔は、意外にも可愛らしくて驚いた。近くにこんなにいい奴が自分の後輩として居たという事に改めて感謝の気持ちと嬉しさが込みあがった。
「沢村、昨日は色々とありがとな。」
「いえ。先輩には入社した時からいつもお世話になっていましたし、俺で良ければ力になります。」
弘夢とはまた違った魅力のある男だった。弘夢よりも幼い感じで、純粋そうな眼差しが芯に強さを持っているようにも感じられる。
―弘夢は・・自分でメシを作るのだろうか。その飼い主とやらと、こうして毎日食卓に一緒に居たのだろうか。
淳平は今更ながら弘夢の事を知っているようで、離れていた間の事は何も知らない事に空虚感を覚えた。自分の知らない間、それを共有してきた相手がいる。その相手の方がいいと、はっきり言われた。
淳平の心が再び暗く光の届かない深海へ沈んで行った。
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★「それから」は「すれ違った後に(全10話)」の続編です。
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コメント
> 好みです♪
おおっ!沢村がお好みで!?
いつでも派遣します♪
> いいなぁーこーゆー人!!世話好きでまめまめしい‥‥
なかなか現実に居そうでいないです・・私の周りには・・(ノд-。)クスン
> でも実はドSとかだったらどうしよう(笑)
ヾ(≧▽≦)ノギャハハ☆ そういう感じも好きです!
> 朝ご飯がおいしそうですね!
前頑張って作ったアタシのメニューをパクりました~www
> 淳平くんはまた落ち込んじゃいましたね頑張れ―!!
癒し系に少しは救われた部分もありましたが、やっぱり思い出すと沈む淳平です・・。
応援ありがとうございます^^
コメントどうもありがとうございました
いいなぁーこーゆー人!!世話好きでまめまめしい‥‥
でも実はドSとかだったらどうしよう(笑)
朝ご飯がおいしそうですね!
淳平くんはまた落ち込んじゃいましたね頑張れ―!!
コメント