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悪魔と野犬ノ仔 31話

「どこ? 要の部屋? あ、やっぱり!」
 勢いよくドアが相手尚哉が飛び込んできた。
「うわあぁ可愛いッ」
 水無月を見てテンションが上がった尚哉は水無月に近づき手を取った。
「本当に可愛いッ! そりゃあ要の無表情も笑顔になるわッ! あ、俺尚哉ね! 宜しく! 水無月くんでしょ?!」
 圧倒されていた水無月だが、スッと立ち上がると「初めまして、水無月です宜しくお願いします」と頭を下げた。
「ああっ、そんな畏まらないでよぅ! 水無月ちゃん身長俺と一緒くらいかな? 168センチくらい? 年は幾つ? 要の奴あんま教えてくれなくてさっ」
「あ、はいっ、身長はそのくらいだと思います。年は要兄さんより一つ下です」
「え? そうなの? それにしては……随分幼い雰囲気というか……天使みたい」
 尚哉はニヤけた顔で水無月の頭を撫でた。
 水無月は無意識にその手の匂いを嗅ごうとして鼻先をスッと伸ばした。
「えっ……何?」
「あ、コイツの癖。気にすんな。嗅覚半端ないから。匂い、嗅がせてやって」
 要は水無月の荷物を片づけながら兄のような口調で説明した。
「あ、 ゴメンなさい、僕、つい……」
「いいよ全然! でもアレだね……二人全然似てないねぇ、まるで対極だね」
「うん、僕と要兄さんは……」
「おい、飯。まだだろミナ。尚哉も余計な事言ってねぇで行くぞ」
 要としては余計な話しは他人に聞かせるつもりはなく、話しを遮った要は二人を近くの簡単に食べられる店に連れだした。
 夜になり、テレビを付けながら尚哉は水無月によく話かけていた。水無月の方はまだ緊張しているようだったが、疲れが出て来たのか少し寝むそうに瞼をゆっくりと動かしていた。
「ミナちゃん、もう寝る? 俺と一緒に寝る?」
「ううん……要兄さんと……」
「え? ミナちゃんいくらミナちゃんが可愛いからってその年になってお兄さんと同じ布団で寝るとかはちょっと……要なら手でも出しかねないし」
「おい、いいんだ。別に布団は下に敷くから。コイツの寝相と歯ぎしりと寝言は普通の人間には耐えられないぞ」
「えッ、意外……そうなのミナちゃん?」
「ぼく…そんなこと……」
「行くぞミナ、来い」
 寝落ち寸前の水無月は無意識に四つん這いで要について行こうとして、振り返った要にヒョイと担がれると部屋へ消えて行った。
「いいな……ミナちゃん」
 そんな様子を少し羨ましくも寂しい気持ちで見つめながら、尚哉は缶ビールを開けた。
「まぁ……ブラコンぐらいね。所詮兄弟だし」

 部屋に入ると要は水無月をベッドに放り投げ、そして無造作にベッドの下に布団を敷いた。
「お兄ちゃん……一緒に寝ようよぅ」
「ダメだ」
「どうして……今日だけ……」
 要は出来れば水無月の温もりを感じて眠りに就きたかった。だがまたあの悪夢を見た時に、側に水無月が居たら無意識に何かをしてしまいそうで怖かった。

 折角要に会えた上に同じ部屋に二人きりという空間で、水無月の身体は興奮で体温がどんどん上昇してきた。
 電気を消され、暗い中でも要の姿がはっきりと見える。
 水無月はそっとベッドを降りると、横向きに寝る要に近づき、そして首の匂いを嗅いだ。鋭い美しさは健在で、しかし昔のような剥き出しの鋭さは無く刃物が何かに包まれているような感覚だった。身体が大きく成長したせいか、前のような中性的な美しさは男らしさに溶け込んでまた別の色気が増していた。
 要の纏う妖艶な香を嗅いだ水無月は途端に下半身が痛い程腫れ上がった。
 以前の様に要に組み敷かれ、脈打つ熱い肉棒で本能のままに突かれたいと今日の日までずっと思って過ごしてきた。
 何かに取り憑かれたように瞳をトロンとさせた水無月は、そっとふっくらした肉厚の唇を要に近づけ、耳たぶを口に含んだ。
「おい」
 半ば呆れたような声の要を無視して、水無月は小さな柔らかい要の耳たぶを口の中でペロペロと弄ぶ。
「ミナ!」
 要は叱るような声で水無月の名前を呼ぶと、顔を引き離した。
「や!」
 水無月はオモチャを取られた子供のように駄々を捏ねて要にしがみついた。
 我慢が限界にきていた水無月は要の手を取ると、それを自分の下半身に擦りつけ始めた。
「にい……ちゃんっ……ハァっ」




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悪魔と野犬ノ仔 30話

「弟?」
「ああ」
「そう……別にいいけど……」
「ちょっと変わってる奴だが、あまり気にしないでくれ」
「あ、うん……でもどんな子か楽しみだな」
「俺も……暫くぶりだから……」
 要はそう言って優しく顔を綻ばせた。
「へぇ……要ってそんな顔するんだね」
「何が」
「優しい顔……ちょっと惚れそうになる」
 要はいつもの素っ気ない表情に戻ると、そのまま自室へと戻って行った。

 週末の朝、要は近くの駅に水無月が到着するのを待っていた。
「要兄ちゃんっ」
 電車が乗客を大勢降ろすと、その中から一際目立つ水無月が走って来た。水無月だけが浮き出て来ているような不思議な空気とその愛らしい容姿に周辺の人の視線が水無月に集中した。
 要はそれを避ける様に水無月の腰に手を回すと、そのまま足早にアパートへと向かった。
「ったく……だから嫌だったんだ」
「えっ……何がっ……僕、何かしちゃったの?」
「違う。いいから、着いたらゆっくり話すぞ」
「う、うん」
 要は水無月の担ぐ大きな荷物を無言で取り上げると、それを軽々と方手で背負いサッサと先を歩いた。
「お兄ちゃん、また背伸びたね! 大きいね! 180センチくらい? 僕はもうあまり伸びないみたいだけど、でも僕、髪とか伸びてねっ……でもお兄ちゃん髪切ったねっ」
 興奮するようによく喋る水無月は高揚して頬が赤らんでいた。脈絡のない話し方が可愛い。
 さすがに放ったらかしにしていた要の髪は長髪になってしまったので、それでは弟と会うのに驚くだろうからと尚哉に連れられて髪を久々に切って貰った。
 アパートに着くと、気を効かせた尚哉は出掛けていた。
「ここ……?」
「ああ」
 水無月は中に入ると、尚哉の部屋以外一通り匂いを嗅いで回った。
「お前、動物看護士になるって?」
 落ち着かない様子の水無月に要は飲み物を用意しながら聞いた。
「うん、なる」
「なるにはいいが、別に東京のスクールじゃなくてもいいだろ」
 要は飲み物を机に置くと、水無月の座るベッドの横に自分も腰を掛けた。
 水無月は見事、根性と努力で高等学校卒業程度認定試験に合格する事が出来た。
「僕、兄ちゃんと一緒にいたい」
 要は漸くきちんと正面から水無月を見返した。
 前と違って髪は伸び、表情が豊かになったお陰か、柔らかくなった目元とふっくらとした頬が愛らしさを一層引き立てていた。
「山で怪我した鳥とかいたんだけど、僕何も出来なくて……お母さんが僕とか怪我した時舐めてくれたから同じようにしようとしたら、今のお母さんに怒られたの。ちゃんとした治し方があるから、勉強しなさいって」
「そうか」
 意思を持った水無月の目は力強く今までにはない輝きを放っているように見えた。要にはそれが眩しくて目を逸らしたくなった。
「兄ちゃん……兄ちゃん……」
 水無月は急に甘えたように要に縋りつき全身で会いたかったとでも言う様にしがみ付いた。
 要は水無月の顔を両手で包み込むと、瞼や頬に唇を落とした。
 水無月は甘くて良い香りがした。愛でるつもりで落とした要の唇からは、無意識に赤い舌先が水無月の白い首筋を這っていた。
「あ……ん」
 要は水無月の着る薄いTシャツから突起している乳首を摘まみ上げた。
「あっ、あんっ」
 思わず息が上がった水無月は桜色の薄い舌先を要に差し出した。要はそれをゆっく吸い取ると、軽く遊ぶように甘噛みをしてやった。
 水無月は気持ちよさそうにギュッと目を瞑って要のシャツを掴んだ。
「ただいま~……あ、弟くん来たんだ?!」
 玄関の戸が開くと、尚哉の声が響いて要たちはさっと唇を離した。




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悪魔と野犬ノ仔 29話

 尚哉の身体をよく見ると、同じような蚯蚓腫れは手首にもあった。
「おい、見せてみろ」
 無理矢理服を剥がそうとする要に、尚哉は酷く抵抗した。
「嫌だよッ! 止めろって! 何で要に見せないといけないんだッ」
「いいから見せろッ」
 要の身体は嫌がる尚哉の手首を捉え、強引にベッドに仰向けに押し倒された。
「止めてッ……見ない……で……」
 尚哉の服を取り去ると、全身縛られた縄の跡が生々しく浮かび上がっていた。その他にも太股の付け根には火傷の跡や内出血して腫れた臀部も痛々しく白い肌に鮮明に残っていた。
 尚哉は顔を赤くしてギュッと自分の身体を隠す様に抱き締めて横を向いた。
「お前、これ誰にやられたんだ……彼氏か?」
「は?! 彼氏なんていないよッ」
「じゃあ誰だよ」
「誰って……知らないよ」
「は? 知らない奴に犯されたのか?」
「まあね」
「レイプか?」
 尚哉は要を睨みつけると服を投げつけた。
「レイプみたいだけどレイプじゃないよッ。それでお金貰ってんだからいいの!」
 尚哉は布団を引っ張ると自分の身体を隠すように覆った。
「バイトって……お前AVやってんのか」
 尚哉は要の目を見れなかった。まさか気にするなんて思ってなかったからだ。気にされた途端、とっくに消滅していたと思っていた恥ずかしさと気まずさが襲っていた。
「何だよ……今更……。別にそんなの、気にしないのが要だろ……」
 要は少し溜息をついて髪をかき上げた。
「そうだな……。別に気にしなかった……けど、お前、きつそうな顔してたから」
「別に……疲れただけだもん」
「お前さ、そういうの本当はあんまり好きじゃないだろ。本当に好きな奴は傷を見て更に喜ぶもんだ」
 尚哉は顔を布団に押し付けて「うるさい」とくぐもった声を出した。
「傷、薬塗ってやるから見せろ」
 要は洗面所に行くと薬を取って来た。
 布団に潜り込もうとする尚哉を捕まえると、無理矢理薬を塗ろうとするが尚哉は異常にそれを嫌がった。
「止めてよッ……離せッ……その気も無いくせにッ……優しくすんなッ」
「あ? その気ってなんだ……いいから黙って大人しくしてろッ」
「じゃあッ……大人しくさせてみろよ! 言っておくがな……さっきまで知らない男三人に突っ込まれまくって、精液で全身ベタベタだったんだからなッ」
 要は殺気だった目を鋭く尚哉に向けると、尚哉はその一瞬で殺されるのではないかと思える恐怖で身体が固まった。
 そして要の顔が近づくと、ゆっくりと唇が塞がれた。
「んっ」
 嫌がって首を左右に振ろうとしても、驚く程優しく絡まってくる舌先は甘くて涙が出そうになった。
「いい子だ」
 唇を離した要は大人しくなった尚哉の傷に手早く薬を塗ると、服を着せた。
「おい。ここだけ大人しくなってないな」
 要は硬く反り立った尚哉の下半身を意地悪な笑みを浮かべながら指で弾いた。
「うるさいっ……要がっ……あんなキス、するから……」
「ただの同情だ。勘違いすんなよ」
「知ってるよ……だって要は……」
 尚哉の話しを遮るように、要の携帯電話が机の上で鳴った。
「はい……あ? ちょ……待てって! それは無理だ! は? 何言ってんだそんなのもっと駄目に決まってんだろ!」
 激しい言い合いをする要の会話を尚哉は少し不安気に見つめていた。感情的になる要は初めてだった。そんな物珍しそうな尚哉の視線が気になったのか、要は自室に入って電話を続けた。
 暫くして要は電話が終わると、再び尚哉の所へ戻り頭を抱える様にして深い溜息をついて椅子に座った。
「どうしたの」
「悪い……もう一人、この部屋に住まわせてやってもいいか?」
「え……? 誰?」
「俺の、弟なんだ」





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悪魔と野犬ノ仔 28話

 東京に戻ってからあの生々しい現象は現れなかったが、それは時折夢に出てくるようになった。
 それはノイズ掛っており、丁度昔の映らないテレビチャンネルの白黒画像のような映像が淡々と流れていた。その中に、あの時見えていた映像が不気味なノイズに混じって見え隠れする。早く目覚めたいのに、まるでテレビの中から出られなくなってしまったかのように身動きが取れない。金縛りにあっている状態に近いのか、自分が寝ている状態もちゃんと把握出来ているが動けない。尚哉が部屋を動く気配も分かるし、話声も聞こえてくる。だが瞑ったままの瞼の裏に映し出される映像をどうしたって視界から隠す事が出来ないでいた。疲れ果てて起きると、身体中に冷たい汗がじっとりと纏わりついている。
 映像は日によって見た事のない背景を映し出す事あった。
 知らない部屋の隅、知らない犬。知らない椅子の足――。

「要……大丈夫? 最近、寝苦しそうだよ?」
 睡眠不足で顔が白くなっている要の顔を心配そうに覗き込んできたのは尚哉だった。
「あ、ああ……いや……うん……正直ちょっと参ってる」
 要が弱音を吐くのは初めてだった。それには尚哉も驚いたが、それよりもこの尋常ではない要の状態に本気で心配をした。
「ねぇ、何かあったの? 病院行く?」
「病院……」
 何の考えもせずにただ尚哉から聞こえてきた単語を口先で繰り返した様な返事をした。
「要さ、こんな時にアレなんだけど、大学とかさ、どうするの?」
「……別に……どこでもいい」
 要に将来の夢はなかった。何をしたいのか、何の為に生きているのか、ずっと分からないまま生きてきた。そういう気力を自分の中の何かがずっと吸いとっているような感覚に苛まれてきた気がする。
「そう……。俺、大学に行かないで働こうと思ってるんだけどさ……良かったら俺と一緒に住まない?」
 尚哉はそっと要の長くなった髪に指を入れた。サラサラと黒い絹糸のような髪からシャンプーと混じった媚薬のような香りがして、尚哉は思わずそこに鼻先を埋めた。
「要は俺が好きだって言ってもきっと信じないよね」
 要は動かずにじっとしていた。
「要に固執した好きっていうのはないけど……結構気に入ってるんだ。何か放っておけないし。別に何でもいいならさ、一緒に住もう。ね? 俺、要の顔好きだし」
「……何でもいいよ」
「本当?……嬉しいっ」
 尚哉はギュッと要の背中を抱きしめ、そして黒い髪をかき分けて首筋にキスをした。
 尚哉の唇は段々と移動し、要の前に移動すると足の間に入り込んだ。
「ねぇ……舐めていい?」
「……」
 要は何も考えていないような眼で、ただ尚哉のする事を見ていた。尚哉はそんな空虚な要に興奮し、その空っぽな要の目を見つめながらジーンズのチャックを下ろした。
「要のコレ……好き」
 尚哉は要の肉棒を頬張ると、クチュクチュと卑猥な音を立てながらそれを硬く大きく育てた。
「はぁっ……大きくて熱い……」
 尚哉は自分の肉棒も取り出し、要の味に興奮しながら自分でも扱いた。そのうち我慢出来ずに勝手に放ってしまった尚哉は、射精しない要の肉棒を暫く頬張って遊んでいた。
「腹減った」
「え?」
 要は突然ガタリと立ち上がると、そのまま服を脱ぎシャワーを浴びるとサッサと食道へ行ってしまった。
 そんな自分を眼中にも入れない要に、尚哉の心臓は少し早いテンポで音を立てていた。

 親を安心させる為と、今の社会で一応有利な立場に立っておくのに越した事は無いと判断した要は取り敢えず大学へと進んだ。
 成績の良かった要は受験も淡々とこなし、有名な大学の理工系へと進んだ。というのも、取り敢えずは人関わる仕事には向いていない事を考慮して、IT系のSEなら自分でも出来る仕事なんじゃないかと考えたからだ。
 大学へ通いながら、帰る家は都内の割と大きなアパートだ。羽振りのいいバイトをやっているらしい尚哉と、情報系の技術を使った要のバイトの金額で余裕のある暮らしは出来ていた。
 あれからたまに悪夢は見るものの、これといった奇怪な現象は起きず普通の暮らしに支障は出ていなかった。
 水無月は未だ、東京に出て要の側に行きたいが為に頑張ると言って勉強を続けているようだった。
 最後にあった日からまた随分と会っていない。
 何度か電話で話す度に、水無月の東京に出てくる意志を変えようとはするが、頑なに頑張ろうとする思いに戸惑いと困惑は募っていた。
「ただいま……」
 深夜に帰って来た尚哉は精魂尽きた様な顔でフラフラとベッドへ辿り着き、そのまま横たわった。いつもならそのまま無視している要だったが、ふと見た尚哉の首が赤く腫れあがっているのが見えた。
「お前、それどうしたんだ」
 その言葉に驚いた尚哉が「え?」と首だけ要の方を向いた。




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悪魔と野犬ノ仔 27話

「いッ……てぇ……」
 要は思わず両手で自分の頭を抱えた。
「お、お兄ちゃん……どうしたの? 痛いの?」
「わか……ねぇ……痛ぇ……」
 規則正しい心臓の脈とは反対の、気持ちの悪い不規則なリズムだ。
 要は頭を抱えていた両手をゆっくりと離し、何となく掌を見た。
 そして全身の血液が一瞬で凍りつき、無意識に手先から震えが始まった。
 要はべっとりとヘドロのような黒いものが自分の掌から腕にかけて覆っているのが見えた。それは生温く、ズルズルと粘着質で悪臭を放っていた。
 耐えがたい気持ち悪さはその見た目だけでなく、要の精神に直接嫌悪感を抱かせるものだった。まるで自分の悍しいもの全てが形になって外に沁み出てきたかのような戦慄に思わず叫び声を上げた。
「うわァァアッ」
 必死で両手をについている黒いものを掴んで取り払おうと爪を立てた。

――何だコレ?

――汚い。

――気持ち悪い。

――汚い。

――汚い!!

「お兄ちゃんッ!!」
 水無月の声と床に頭をぶつけた衝撃で、要は一瞬何が起こったのかが理解出来なかった。
 震える両手をおそるおそる上げて見てみると、黒いものなど一つもなく、自分の爪で傷つけた引っ掻き傷が赤く血の筋を何本も作っているだけだった。

(何だ……今の……)

 現実的な悪夢を見た時のような気持ちの悪さに、気のせいだった安心感と、そのリアルな感触に未だ要の手は震えていた。
「お兄ちゃん……大丈夫なの……」
 泣きそうな顔で水無月がそっと丸めた右手を要の膝の上に乗せた。その軽い重みに安堵し、要は額に流れる冷たい汗を手の甲で拭った。
 落ちついた後は何事も無かったかのように要に異変は見られず、疲れが溜まっていたのかと一先ずは気にせず東京へ戻った。
 相変わらず煙たい匂いの充満する街に最初は辟易するが、そのうちに鼻が麻痺して何も思わなくなるのが不思議だ。
 狭い自室のドアを開けると、夕方だというのにだらしのない格好で要のベッドの上で漫画を読む尚哉の姿があった。
「あっ! 要帰って来た!! お帰りィィッ」
 要は飛びついてきた尚哉を抱きとめたが、頭痛は全くなかった。
「ねぇお土産は?」
「ねぇよ」
「えーっ。じゃあただいまのチュウは?」
「ねぇって。どけよ、重い」
 要はチラリとゴミ箱に目線をやると、その中にはしっかりと使用済のコンドームが捨てられていた。
「お前、俺のベッドでしてねぇだろうな?」
 要が嫌悪感たっぷりの目で睨みつけると、纏わりついていた尚哉が少し気まずそうな顔をして離れた。
「してないもん、要のベッドでは……。だってしょうがないじゃん。寂しかったんだもん」
 要はそこまでの話しに興味を示さずさっさと荷物を整理しだした。
 尚哉は自分のベッドで横になりながら要の行動をジッと見ていた。
「ねぇ、要」
「……」
「何かあった?」
 要は一瞬手を止めた。朝見た真っ黒い自分の手を思い出してギュッと拳を握る。
「あ?」
「何か……雰囲気違う。恋人にでも会ったとか? ていうか、要、恋人いたっけ?」
 今度は脳裏に自分の下で可愛く喘ぐ水無月の姿を思い出した。
「……」
「全く……いつも殆ど僕の質問には答えてくれないんだ、要は。まぁいいけどっ」
 気紛れの猫はつまらなくなったのか、足音をあまり立てずに部屋を出て行った。大方別の男に抱かれに行ったのだろうと要は予想し、これで暫く静かになったと溜息をついた。




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悪魔と野犬ノ仔 26話

 次の日は水無月の体調を見て休ませる事にした。
 水無月は必死に大丈夫だから要と一緒に外へ行くと匍匐前進をしながら騒いでいたが、要に命令されしぶしぶ療養する事に納得した。
 外に出ようと玄関を開けると、丁度井戸端会議をしていた母親と近所に住むおばさんに出くわした。
「どうも。ご無沙汰してます」
「あんらァ。要ちゃん?! モデルさんでも来なすったのかと思ったわァ。大きくなってェ」
 東京で学んだ“人の好意の交わし方”ですり抜けようとするが、ここの田舎のおばさんには通用しなかった。「まぁまぁまぁ」と嬉しそうに両手で手首を掴まれては捕捉されたも同然だった。
「前はねェ。何だか反抗期みたいな感じだったけんども、まー見てごらんなさいなっ。こーんなに立派な美男子になって、礼儀も正しくなってェっ」
 母親は嬉しそうに「いいえぇ、そんなぁ」と謙遜しながらも笑っていた。そこから何だかんだと十五分程経った時だった。
「あ、そうだ。奥さん持って来た回覧板にも書いてあるんだけどねェ? ここいらで数頭の野良犬がウロついているらしいのよォ。キャンプ場も出来たし気を付けないとねェ。怖いわねェ」
「キャンプ場?」
 要はおばさんの頭上から声を出した。
「そうなのよ、そう言えばあなたに言ってなかったけど、あの原っぱにキャンプ場が出来たのよ」
 母親は少し申し訳なさそうに要に言った。
 要は少し強めにおばさんの手を掴むと、「失礼します」とどけて原っぱへ急いだ。
 先程おばさんの言っていた「野良犬」というのも気になった。
 野良犬たちは人間の住む街にはあまり近寄って来ない。新しく兄弟たちが別グループを作って街に下りて来たのかと心配になった。
 原っぱはいつも要が水無月を散歩に連れてくる場所だった。母犬やその兄弟たちと再会を果たした思い出深い場所だ。そしてその後も待ち合わせでもするようにその場所に向かった大切な場所だ。
 辿り着いた野原には沢山のコテージが立ち並び、バーベキューの用意をする若者がちらほらいた。
 風が吹けば海を漂う海藻のように美しく揺れていた草は短く刈られ、殆どが土と砂利で整備されていた。
 そしてあちこちに散らばるのは白いものは花ではなく、ゴミだった。

「何だこれ……」

 要はしばし唖然とその様変わりを眺め、そしてその足で家へと戻った。時間は優に一時間を超していた。
 さすがに玄関先にはもうおばさんの姿は見えなかった。
 部屋に戻ると、要のベッドの中で参考書を読んでいた水無月がヒョコっと顔を上げた。
「お兄ちゃんっ」
 要はソワソワと布団の中で喜ぶ水無月の頭を撫でながらベッドの上に座った。
「ミナ……お前、あのキャンプ場に行ってるのか」
 水無月は困ったような、ガッカリしたような表情で視線を床の方へ落した。
「前、見に行ったけど最近は勉強してて行ってない。お母さんたちとも、最近全然会ってない……行っても会えないし……人、いっぱいいるし」
 水無月の言うお母さんとは母犬の事を指している。
「もうあそこで散歩は出来ないな」
「うん……さびしい……。でもたまに山には行くよ。そのうち登山用に整備するって言ってたけど、まだあのまま残ってるから」
「そうか……」
「お母さんたち、大丈夫かな?」
「……。身体良くなったら会いに行ってみるか」
「うん」
 水無月は頷きながら要の腰にキュッと抱きついた。

 数日後、キャンプ場に着いた要たちは案の定いくら犬たちを探しても早々に見つからなかった。その後も休みの間に何度か訪れたが、まだ出来あがっていない整備途中のキャンプ場は若者と工事で騒音が酷かった。この騒音の中では犬たちはなかなか出て来ないだろうと要は諦め始めた。

「ミナ。俺はまた東京に戻るけど、また戻ってくるから」
 要は東京に帰る当日に部屋で荷物を詰めながら水無月に言った。
 途端に水無月の大きな瞳に涙が浮かび、キュウキュウと鳴き声を部屋に響かせた。
 水無月は「寂しい」とか「嫌だ」とかは一切言わず、ただ只管に鳴き声を出しながら要の背中を抱きしめた。
 要はいっそ水無月を連れていきたい衝動に駆られて、振り向きざまにその桜色の唇を塞いだ。
「んんっ」
 切なげな甘い声が水無月の鼻から漏れ出ると、要の体温が上がった。
 だが、途端にまた釘を刺された様な痛みが要の頭の中に響いた。




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悪魔と野犬ノ仔 25話

「ふぅっ……ふぅっ……」
 汗ばむ白い水無月の背中は息をする度に艶めかしく光る。

(ああ……もうダメだ)

 要は後ろから手で水無月の口を塞ぐと、力一杯鎖を後ろに引き、同時に残りの肉棒を奥へ突っ込んだ。
「んんんーッ、んんんーッ」
「しー……。下に聞こえる」
 水無月は耳元で囁かれながらもう一度熱い棒を引き抜かれ、そして再度奥へと突き刺された。
「やあぁ……っ」
 何度もゆっくりと抜き挿しされていると、水無月の身体の奥から疼くような気持ち良さの波が襲ってきた。鎖をグッと引かれ、首が締まる度にその波は大きくなってくる。
「ハッ……いっ…イィっん」
 少し小さくなっていた水無月の肉棒もいつの間にか硬く反り立ってきていた。
 ぐるっと器用に仰向けにされた水無月は下から要の顔を見た。要は少し汗ばんで恍惚とした顔をしていた。
「お兄ちゃん……気持ちぃの?」
「いいよ……すごくいい」

(ずっと……こうしたかった)

 要は水無月の足を持ち上げると壁に押し付ける様にして腰を高く上げた。
「うぁ……っ」
「ほら。自分が犯されてる所よく見ろ」
 上から肉棒が水無月の蕾に入っていくのが感覚と視覚で認識出来る。
「あぁっ…は……っん……太いィっ」
「ミナ」
 要が自分の舌を出して水無月の舌を要求してきた。
 水無月は素直に自分のピンクの舌を差し出すと、それを愛撫するように要の舌が絡まってきた。そして要は水無月の尻を両手で思い切り掴みながら激しく腰を動かした。
 柔らかい舌の愛撫と、叩きつけられる腰のギャップによる快感に水無月の肉棒から精子が飛び出した。
「おにいちゃあっ……でるぅぅっ……でるぅぅ」
「もう出てるだろうが」
「ちがっ……もっと、イクうぅんッ」
 要の腰が激しさを増すと、首輪から下がる鎖がジャラ、ジャラと妖しい音を立てベッドの軋みと共鳴した。
 要は下から手を滑り込ませ水無月の尻を掴む事でお互いの身体を固定させ、激しくピストンを繰り返した。要の硬い尻の筋肉が引き締まり、腰が波打つようにいやらしく動くのを見て、水無月はまた少し白い液体を飛ばした。
 水無月の前立腺辺りは要のカリ部分で擦られ、膨張するようにその快感を高めていった。体内から吹き出すような気持ち良さで目の前がチカチカし出し、内股が勝手に震えだした。
「お兄ちゃああん……! イ……っイクっ、イクッ、アァァァーッ」
 水無月の中の大きくうねるような動きに、要も我慢が出来なくなった。狂った様に上下左右の段々になっている襞に肉棒を擦りつけ、水無月がオルガズムを引き起こしている中に自分も射精をした。

「お前、うちの親が一度寝たら起きない体質だったからいいものの……思い切り叫びやがって」
「ごめ……な……さぃ」
 水無月は幸せそうに謝ると、そのまま深い眠りについた。




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悪魔と野犬ノ仔 24話

「あっ……ん……悪くない……よっ」
「じゃあどんなビデオを見せられたんだ。言ってみろ」
「ふ、普通の女の人としてるやつ……とか」
 要は頭にしがみついてくる水無月の両手首を纏めると腰の後ろに固定し、次に艶やかに光る肩に歯を立てた。
「男同士のも見たのか」
「んんっ……見た……よ」
「じゃあそのお友達も男同士が好きな奴なんじゃないか」
 要は尖ったピンク色の乳首を前歯で挟むとゆっくり引っ張り上げた。
「あっ…あっ…アッ」
「何かされたのか」
 要はもう片方の乳首を爪で挟み、同じようにゆっくり引っ張り上げる。
「アアッ……されて、ないよぉ……ちゅう、してみようかって、言われたけど、ぼく、お兄ちゃんとしたいけどどうしたらいいか相談したら、そういうの、言ってこなくなった」
 水無月の言葉を聞いて要は思わず吹き出した。
「あっはっは、そりゃあ……そうだろうな。今でも仲が良いのか?」
「ん……トモダチだよ。がんばれって男の子同士のビデオを貸してくれるようになったの」
「そうか……クク……良い友達だな」
 愉快そうに笑う要に焦れた水無月は懇願するような表情で口を開いた。
「ねぇっ、ぼくのお尻にも、入れてよお兄ちゃんっ」
 その言葉に、要は悪魔のような妖艶な笑みを浮かべて水無月を力づくでひっくり返した。
 水無月はベッドにうつ伏せ状態で押さえつけられると、再び全身がゾクゾクと興奮で粟立った。
「もう、そのつもりだよ」
 突然吐息混じりの要の言葉を後ろから耳の中へ入れ込まれ、既に手を離されていた肉棒の先からほんの少し射精してしまった。
「あ……あ……少しイっちゃったよぅ」
 ベッド脇に放り投げた鞄からローションを取り出した要はそれをたっぷりと手に垂らした。
「声を掛けるだけでイクなんて、思ってたよりエロい身体だ」
 要はローション水無月の蕾に丹念に塗りつけ、慣れた指つきで括約筋を柔らかく解し始めた。
 最初は何度も強く閉じようとしていた動きも、だんだんと意思が弱まってきたかのように柔らかく要の指を飲みこむ様な動きを見せ始めた。もう指だけでは収まらない程の興奮した水無月は腰を上下に揺らす。
 だがそんな焦れる水無月を余所に、要は思い立ったように再びベッドの下に手を伸ばして何かを探り当てると、意地の悪い笑みを浮かべてそれを見せた。
 水無月の目の前にジャラリと音を立てて垂れ下がったのは鎖の付いた首輪だった。それはかつて散歩の時に水無月に付けられていたものだった。
 それを黙って首に付けられると、水無月の興奮は最高に高まった。
「お前は、俺のものだ」
 グッと鎖を後ろに引かれ、首がクンと上がって喉が軽く締め付けられた。
「はぃ」
 水無月の亀頭からはタラタラと大量の液体が溢れて布団を濡らす。
 要はローションを自分の肉棒にも塗りつけると、水無月の腰を上に持ち上げた。
「あっ……お兄ちゃんっ……入れるの?……入れるの?」
「そうだよ」
 布団を掴んでいた水無月の両手首を要に掴まれると、そのまま手首を後ろに引っ張られた。それと同時に熱い弾力のある太い肉棒の先がグッと水無月の蕾に押し付けられた。
「あ……うそ……太……っ」
「思ってたより太くて驚いてるのか?」
 身体で感じるその太さは予想以上だった水無月は逃げるように腰を左右に振るが、掴まれた両手は容赦なく後ろに引っ張られ、それと比例して肉棒が奥へ刺さろうと前進してきた。
「いやあっ、こわいっ」
 水無月の言葉に要の何かが反応したのか、脳ミソの中でパチンッと電気が弾けた様な激痛が走った。
「っつ……!」
 要が頭を押さえると、水無月がその異変に気付き心配するように後ろを振り返った。
「どうしたの……? 大丈夫? いたいの?」
「いや……何でもない。……お前、怖いか?」
「……う……ん。怖いけど……でもすごくしたい」
「そうか」
 水無月と話しているうちに頭痛は治まり、要は求めるように後ろから覆い被さるようにして水無月の唇を吸った。
「本当だ……お前のケツん中、喜んでる」
「や……やん」
 水無月の意識は閉じようとしてるのに、身体が勝手にその熱い肉棒を中へ引き込む動きをしている。括約筋はリズムを作る様に一旦緩く閉じ、そして再び開くと奥の襞が要の亀頭に絡みついて引きずり込む。
 ただただ大きく太いものが体内に埋め込まれる感覚で恐怖心があった水無月だが、要がゆっくりと時間をかけたお陰で半分まで入る頃には少しその苦しさにも慣れた。




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悪魔と野犬ノ仔 23話

「お兄ちゃんの……出してもいいですかっ……」
「敬語、使えるようになって偉いな。いいよ」
 今まで要は水無月に対して色々してはきたが、自分に対してさせた事はなかった。だがここまで求められたのは初めてで理性を保つつもりは今、消えた。
 水無月は要の興奮して大きくなったモノをこんなに間近に見たのは初めてだった。
 友達が出来てからそういった類の知識を膨大に得るのにそう時間はかからなかった。そこは人間としての本能からなのか、柔軟に吸収し、理解していった。最初はショッキングだった真実の数々は、日を追う毎に甘く刺激的な欲求へと変換されていった。
 今まで要と一緒に歩いた草むらや、過ごしてきたこの部屋で、卑猥な妄想は膨らむばかりになった。そして今までされてきた気持ちのいいだけの行為は、それまでなかった胸の熱くなるような感情ともに何度もフラッシュバックされた。
 目の前に現れた自分よりも一回り大きな男性器は猛々しく赤黒い牙を向くようにそこにあった。
 水無月はそれを指先で掴むと、熱くて火傷をしそうになった。
「あつッ」
 ずしりと重たい要の肉棒は水無月の方を向いて涎を垂らす様に透明の液体をダラダラと垂らしていた。綺麗で冷酷な顔に似合わないこの本能の化身のような肉棒に、水無月は異常なほど興奮した。
 要が後ろから水無月の白い太股を撫でる。
「はんっ」
 水無月の肉棒がビクンッと跳ねて自分の腹に当たる。
 そしてその赤黒く熱い肉棒に舌を伸ばして一舐めした。塩っぽい味に少し驚いて舌先を離すと、銀色に光る愛液の糸が伸びた。
 要は優しく水無月の腰を撫でる。それがまるで「頑張ってごらん」とでも言っているように感じられ、水無月は大きな口を開けるとゆっくり頬張った。
「んんっ」
 口を思い切り開けてやっと入る大きさのそれは、頑張っても三分の一しか入れられなかった。それでも入れてからどうしていいか分からずいると、要が口を開いた。
「俺の真似をしてごらん」
 そう言うと要は水無月の腰を上げ、先端を赤くさせた肉棒を吸い込んだ。
「ふっぅう……あっああぁんッ……気持ちぃぃぃっ」
 初めて感じる全身の溶けそうな程の快感は水無月の力を奪った。
「ほら。寝てないで同じようにやれよ」
 震える全身をやっと起こし、自分がされている事を要にも行った。歯を立てず、口内から出したり入れたりと吸引力を駆使して頑張った。要の気持ちいい所は念入りに舌で攻め、玉の方にも性感帯が沢山あると知った。
 水無月はとっくにイきかけていたが、要に強く根元を掴まれていてイけないでいた。
「ひぃん…やあ…お兄ちゃ……て、はなしてぇっ」
 そう言う度に要は意地悪く水無月の蕾に舌先を伸ばし、内側へ入り込んで来ようとする。
「いやっ、いやっ、イクぅぅんっ」
 要は手を伸ばし立ち上がっている水無月の乳首を左右に嬲った。その度に水無月は要の腰に爪を立て、肉棒の側面に吸いつきながら尻をビクつかせた。
 射精すら要にコントロールされる快楽で、水無月は幸福感で満たされていた。
「お兄ちゃぁ……お兄ちゃぁんっ……ああんっ」
 水無月は顔を要の顔の方へ向き直ると息を荒げてしがみ付いた。
 少し落ち着くまで要に抱き締めて貰っていると、少し興奮のピークが治まってきた。
 そして水無月は思いついたように要のTシャツの中にモゾモゾと潜り込んだ。
「おい、何してんだお前」
 要の声がすると、水無月は子猫のようにTシャツの首を伸ばして顔ひょっこり出した。
「Tシャツが伸びる」
 水無月は要の文句を無視して、今度は両手を袖口に出してしまった。これで完璧に一つのTシャツを二人で向かい合わせで着ている状態になった。
「兄ちゃんとピッタリくっつけたの。うふふ、気持ちいい」
 嬉しそうに笑ってペロペロと要の唇を舐める水無月に、要は軽く呆れた様な溜息をついてTシャツを脱いだ。
「あっ! やだぁっ」
 先程の状態が余程気に入っていたのか、水無月はTシャツを脱ぐのを嫌がった。
 要は言う事を聞かない水無月の腰を引き寄せるとそのままベッドに組み敷いた。そして水無月は身体に纏う布を全て剥ぎ取られ、上から舐め回す様に視姦された。
 水無月は段々と恥ずかしくなって、何となく手を胸元へ持っていった。
「見てるだけなのに乳首、立ってきたぞ」
「だって……兄ちゃんの目、いいんだもん」
「お前随分と気の効いた事が言える様になったな……どうせ悪い友達が沢山出来たんだろう」
 要は水無月の細い首筋に歯を立てた。




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悪魔と野犬ノ仔 22話

 要を目の前に、初めて感情を露わにした水無月は動揺していた。こんなにも涙が勝手に出てくるのを止められないのは初めてだった。
 要がいなくなった当初は悲しかったが、どうしていいか分からず暴れるしかなかった。
 だがこの二年半余りで随分と感情の出し方が上手くなった。人間のように感情を出すと、少し楽になる事に気が付いたのだ。
 ずっと寂しかった事、置いて行かれて悲しかった事、人間として考え、出来る限りの事を実行して要と同じ場所へ行こうと決心した事。それらが如何に大変だったか知りもしないで自分を遠ざけようとする要に怒りと悲しみが噴き出た。
 自分が要にとって不必要であった場合、生きる希望は無いに等しいと感じていた。要に自分をどのように思っているのか聞きたかったが、聞くのも怖かった。
 ジッと下から水無月を見つめる目は、何を考えているのか分からない大理石の造形のようだった。
 兎に角とても寂しかった事と会う為に頑張ってきた事をポツリポツリと伝えた。
 暫くして涙は止まったもののどうしていいか分からず、とうとう四つん這いで這う様にして恐る恐る要の横たわっているベッドへ上がった。要を前にすると、どうしたって繕っている人間としての仮面は剥がされてしまう。
 伺う様に頭を低くして近づくと、要の大きな手が水無月の頭をクシャクシャと撫でた。水無月はそれが嬉しくてその手に頭を擦り付けた。そして要の機嫌や健康状態を把握しようと無意識に要の身体の匂いを嗅ぎ出した。
 要は方手を上げて枕の下に入れ込みゆっくりと仰向けになった。そして髪を縛った邪魔なゴムを雑に取ると美しい黒髪が枕に飛散した。
 水無月は久し振りに要の匂いを嗅いだせいか、下半身の芯からズンと熱い衝動を感じた。毒を持つ美しい花ならではの妖しい香りに似ていた。
 水無月は要の逞しく引き締まってきた腹部の筋肉に柔らかい頬を寄せた。そこはとても暖かく硬かった。思わず凸凹としたそこにピンクの舌を出してなぞってみる。
 水無月は要の黒いTシャツを咥えると、それをグイグイと捲り上げた。昔よりも健康的な色になった要の肌は全身の筋肉を綺麗に浮かび上がらせていた。
「はぁっ……」
 水無月の息は自然と荒くなり、要の身体の上に乗ると自分の下半身を要の下半身に擦り付けるように上下に動いた。頭の中は完全に痺れ、要に触れたくてどうにかしてしまいそうだった。
「ミナ。俺に欲情してんの?」
「よく……じょう?」
 要が水無月のパンツをスルリと下ろすと、爆発しそうな程硬く膨張した水無月の綺麗な肌色の肉棒が勢いよく跳ね上がって出て来た。亀頭部分が真っ赤に充血し、先端から溢れ出る液体で肉棒全体がヌメついて光っている。
「お前、そうなった時ここでいつもどうやってんの」
「ここで……前、お兄ちゃんがやってくれたやつ、やってるよ」
 本能しか作動していない水無月は要の言葉に素直に答える。
「ちゃんと出来てるか見てやる。やってみな」
 水無月は濡れた瞳を要に向けたままコクッと頷き、自分の丸い尻を両手でギュッと掴んだ。
 恍惚の表情でぐにゃぐにゃと自分の尻を揉みしだく水無月に、要は体温を上昇させた。
「ミナ、反対向いて。そう、お尻をこっちに向けて……。そう、いいよ。よく見える」
 要は自分の上半身を起こすと、丁度ベッドの頭の所にある壁に寄り掛かる体制を取った。そして水無月の身体を反対にさせ、肉付きの良い尻を要の胸辺りに置かせた。
「続けて」
 水無月は先程と同じ様に自分の尻を揉み始めた。目の前で薄く色づいた蕾が開いたり閉じたりと、要を誘うように蠢く。
 水無月はヌルついた自分の肉棒をグチャグチャと扱き、そのヌメりを自分の蕾に塗り付けた。
「はぁ……兄ちゃん……っ」
 そして簡単に自分の細い中指をその小さな蕾の中へ捻じ込んで掻き回し始めた。
「雑だな……俺はそんな風にしてたか?」
「だってっ……届かなぃんだもん」
 水無月の腰が落ちた時、肉棒の先がヌルっと要のTシャツに擦れた。
「あっ……ふっぅ」
 怒られると思いながらも一度擦れて快感を知った腰は動きが止められずグリグリと要に擦り付ける。
「お、お兄ちゃんゴメンナサイっ、ごめんナサイっ……あっ気持ちいっ……あんっ」
 水無月は要の雄の匂いの強い下半身に舌を伸ばした。ブラックジーンズの奥で硬くなっているものを味わいたくて腰が揺れる。




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