2ntブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

--:-- | スポンサー広告 | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 49話

「……え」
 ハッキリとした話し声は聞いた事のある透明感のあるものだった。

「健太……くん?」

「え……あ…あ、はい」
 健太は急に名前を呼ばれてどもった。

「初めまして……じゃないけど、一応初めまして」

 健太は自分が誰と喋っているのかいまいち実感出来ずにいた。

(あれ……何で時枝さん、普通に話せてるんだ……? 病気が治った?!)

「あのっ……俺の事分かるんですか!? え、ちょっと待ってッ……今までの事って覚えてるんですかッ!? いや、ちょっ……待っ……そもそも病気だったのが治ったって事ですかッ!?」
 漸くパニックになり出した健太を見て時枝は薄く笑った。
「ひっ……!」
 初めて見た時枝の笑みに健太は息が止まりそうになった。
「そう……ですね……。覚えていますよ。さっきまで靄が掛ったみたいでしたが、今は霧が晴れたように分かります。色々とよくして頂いてありがとう。そして恋人にはなれないのは、すみません」
 時枝は少し困ったような表情で口角を上げた。
「あ……はぃ……それも聞こえてたんですね……」
 健太は一気に冷静になった。
 時枝によると、いつもは言葉は音としてしか認識が出来ず、寧ろ行動の方が何となく分かるようだった。
 分かると言っても繰り返す事で真似出来る程度か、言葉の種類によって自分が起こす行動を決められる犬の躾のようなものだ。思考はあまり働かず欲求を求める本能だけ研ぎ澄まされていると言う。
「あの……何で急に話せるようになったんですか?」
「よく……分かりません。でもここ最近忘れていた事をたまに思い出す事があります。でもはっきりとではなくて……昔運転していた事……とか……そういう風景とか、あと誰かといつも一緒にいて……」
「それって木戸さんじゃないの?」
「キドさん――」
 途端に時枝は浴衣の袷を掻き毟るようにして表情を苦痛そうに歪めた。
「ぅぅ……っ」
「え!? どうしたの!? 大丈夫!?」
 慌てて健太が側に寄りただ焦る。
「胸が……苦しくて……頭も……痛い」
「と、とにかく横になった方がいいよッ。木戸さんに連絡……あぁ! 連絡先聞いてねェ! じゃあ、取り敢えず木戸さんが帰って来るまで安静にしてよう!」
 急いで居間に布団を敷く健太に、頭を押さえながら時枝が聞いた。
「キド……さんというのは……いつもここにいる人……?」
「え、そうだよ? 木戸さんの事、覚えてないの?」
「全部を思い出したわけじゃ……胸が……苦しい」
「あぁっ、とにかく横になって!」
 健太に支えられるようにして時枝は布団の上にうつ伏せになった。
 健太は急いで冷たい水を用意して時枝に勧める。
 時枝の白い肌が艶々と光っている。冷や汗をかいているようだった。
 暫くそうしていると大分落ち着いて来たようで、時枝は瞼を重たそうに開けた。
「健太……」
「な、何?」
 健太は弱々しい時枝の声を一つも聞き洩らさない様に耳を近づけた。
「キドさん……には……言わないで……」
「え、もしかして話せた事とかを?!」
 時枝が小さく頷く。
「どうして!? だって木戸さん、すげぇ時枝さんの面倒とか見てッ、こ、恋人だって言ってたしッ!」
「分からないけど……こわい……んだ……」
 時枝は重力に耐えきれないように瞼を閉じて静かな寝息を立て始めた。
 目覚めた時、先程のように意思疎通が再び出来るとは限らない。
 健太は訳が分からず納得が出来ないまま唇を噛み締め、時枝の額に浮かぶ汗を拭った。




<<前へ      次へ>>




(T△T=T△T)oジタバタ

そして本日私めの誕生日!!+゜*。..+゜ ウ ェ ━ヽ(*´Д`*)ノ━ イ ゜+..。*゜+
318でサイヤ人の日と申しております。
この日に頑張れば(なにを)スーパーサイヤ人になれるのだと信じて止みません。
((((((ノ゚⊿゚)ノヌオォォォ ←
いくつになったの?という質問に|||||( _ _)|||||←このような感じになる年になりました(笑)
ここまで沢山のお話を書き続けられているのも皆さまの暖かい応援があったからです!
本当にありがとうございます(ノД`)・゜・
これからも楽しんで頂けるものを書いていきたいと思います(*´∀`*)
私事でスミマセンでした(;´Д`A ```

さて時枝くん……頑張って思い出して!
木戸と話せるようになってくれるますように(>ω<)!

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
17:48 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (8) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 48話

 昼間はいつもと変わらぬ時枝で、夜になると泣きだす。
 木戸は不安にはなったが、それでも時枝が腕から抜け出す度に、起きては迎えに行った。
 根気よく、何度も何度も行った。
 腕から抜ける瞬間が分かっても、無理に引き留めるのは返ってよくない気がして泣きたいだけ泣かせる事にした。
 そんな中、どうしても一度東京へ戻らなくてはいけない用事が出来た。
 木戸は時枝を連れては行きたくなかった。かと言って、使える使用人も敢えて呼びたくなかった。
 まだ街の香りのするものを時枝に近づけさせたくなかったからだ。
 そして、時枝に言葉を話させようとゆっくり単語を並べている健太が目に入った。

「こんにちは!」
「…………」
「こ・ん・に・ち・は」
「コンニチハ」
「名前はなんですか?」
「……。ケンタデス」
「あぁっ、違うよ時枝さん! それは僕の名前だから、時枝です、だよ!」
 なかなか良い講師ぶりの健太は、こうして最近真剣に時枝に言葉を教えている。
 健太は時枝が元々先天的な疾患がある人かと思い込んでいる。木戸にとっては都合が良かった。
「おい、健太」
 木戸の低い声に健太が振り返る。健太は全くとは言えないが、少し前まであった木戸に対する怯えはない。
「何?」
「ちょっと留守番を頼みたいんだが」
「留守? いいけど……俺学校あるよ?」
「週末でいい。一日こいつの面倒を見ててくれないか?」
 健太の目がみるみる丸くなった。
 分かりやすく頬が赤く染まり、嬉しそうに少し焦っているのが可愛い。
 だが木戸が釘を刺す。
「俺の恋人を信用して預けられるのはお前くらいなんだ……いいか?」
 途端に健太の表情が明らかにガッカリした。恋人とハッキリ言ったのは初めてだ。
「あ、うん……いいよ」
「変な事するなよ」
「しっ……しないよっ」
 そして週末、木戸は時枝を健太に預けて都内へ戻った。


 健太は胸をときめかせていた。
 恋をする相手としては、あまりにも次元の違う人だと分かっていたにも関わらず惹かれてしまった。
 まともに言葉も交わせず、無表情で銀の長い髪の男――。
「何でだろうなぁ俺。ハァ……」
 そして先日、恋人だと宣言されて完全に純情な恋心は砕け散った。
 きっと初めて時枝を見つけた時には既に一目惚れをしていたのだろう。

「時枝さんはさ、木戸さんの事好きなの?」
「……」
 案の定、時枝は何も答えない。
「時枝さんが分からなければさ……別に恋人だって言えないんじゃないの?」
 健太は腕を組み、虚ろな目をした時枝を見ながら考えを口に出す。
「だ、だったら俺だって時枝さんのコイビトっ!」
 健太は自分で言ってみてから恥ずかしさでみるみる体温が上がり思わず顔を押さえた。
 時枝の表情は変わらない。
 健太の好奇心とダメだと言われているのにしたくなる誘惑がどんどん大きくなってきた。

(キスとか……しても多分時枝さん分からないよね……そしたら木戸さんだって分からないじゃんね……)

 健太の心臓はバクバクと大きな音を立て、目線はもう時枝のふっくらとした艶っぽい唇しか捉えていなかった。

(どうしよう……いいかな……いいよね……一瞬とかなら)

 健太がそっと覗きこむようにして時枝の顔に自分の顔を近づけた。
 あと数センチで触れる。
 そして健太はギュッと目を瞑って唇を目標に付けた。

(あぁっ……ファーストキス!! ……何か……思ったより硬い……?)

 健太が唇に感じる違和感に瞼を上げると、自分の唇が時枝の指先にキスをしているのが見えた。
 時枝が指先で健太の唇を押さえていた。



「いけませんね」





<<前へ      次へ>>



(  Д ) ゚ ゚

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (10) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 47話

 時枝は、本当に少しずつだったが言葉数を増やしていった。
 不安定だった精神年齢も、徐々に元の年齢に安定するようになっているように見えた。
 あと少し、と思うのだがなかなか思うようにいかないのが歯痒い。
「おい、買物行って来い」
「えぇぇ」
「暇だろう? ……ほら、小遣いやるから行って来い」
「分かった」
 一度逃げ出した筈の高校生はあれから懲りずに何度か近くで見かける様になった。
 余程時枝に興味を持ったのか、男同士の世界に怖い物見たさで興味を持ったのか、暫く放っておいた木戸だったが時枝に少しでも刺激になるかと声を掛けてやった。
 少年は健太と言った。
 名前の通り健康そうな日焼けした肌と野球でもやっているような筋肉のついた身体をしていた。
 青年というにはまだ幼さの残る顔立ちは少し田舎くささがあるが、それが素朴で爽やかだ。
 キリッとした眉と意思の強そうな目鼻立ちは、洗練すれば芸能界にいるあの軍団の一員に立候補でも出来るのではないかと思える。
 木戸はそんな純朴な少年を捕まえては、からかったり買物を押し付けたりしていた。
「時枝。風呂に入るぞ」
 木戸は庭に生えている雑草で延々と三つ編みを作っていた。
 木戸が呼ぶと、餌を貰う動物のように意味が分かっているのか分かっていないのか不明な表情で、ただその声の元へ寄って行く。
 最初の頃の怯えは無くなり、こうして木戸の言う事を聞くようになったのは進展だった。

(一生このままだとしたら……)

 木戸はそう考えて急に寂しくなった。
 軋む廊下で立ち止まると、後ろについて来ていた時枝も止まった。
 ただじっと木戸の動きを待つ時枝を、強く抱き締めた。
「いいよ。別にこのままでも。今までお前に愛して貰ったから、いい。この先は俺がお前を愛してやるから」
 いつもされるがままにぶらりと下がっていた時枝の腕がゆっくりと上がる。
 そして初めてほんの少しだけ木戸の袖口を握った。
「分かるか? 俺の気持ちが……時枝」
 時枝はそれ以上別段変わらなかったが、それでもきっとまだ眠っている時枝に想いが少し流れ込んだような気がして木戸は嬉しかった。

「じゃあ健太が帰って来る前に洗っちまうか。あいつ、お前に惚れてるみたいだからな。くっくっく」
 手際良く時枝を風呂で洗って髪を乾かしてやっていると、健太が夕飯の買い物を済ませてきた。買物をする場所はここから遠目なので結構助かっているのも事実だ。
「食ってくか?」
「う、うん」
 健太は時折こうして一緒に夕飯を食べる事もあった。
 少し前の木戸なら考えられない事だった。
(俺も余程暇なのか)
 そんな事を想いながらも悪くない生活だと感じていた。

 別段変った事ない日だった。いつものように日中はネコと畳の上で日向ぼっこをする時枝を傍らに仕事をし、家事を何となく済ませて酒を嗜んで床についた。
 いつものように時枝を抱き抱えて眠っていた筈だった。
 無意識に時枝の温もりと感触を確認しながら睡眠を取る癖がついていた為、腕の中に何もない事に気が付くと木戸は飛び起きた。
「時枝?! 時枝ッ!?」
 心臓が一気に鼓動を速めて冷や汗が毛穴からじわじわと出て木戸の身体を冷やす。
 家の中を一通り探し回り、時枝の姿が確認出来ないと木戸の胸が苦しくなってきた。

(もう、これ以上時枝を俺から離さないでくれよ)

 木戸が玄関から出ようと手を掛けた時、鍵が閉まったままなのが引っ掛かった。

(あれ……)

 そして何かに気付いたように勢いよく庭へと向かった。
「時枝ッ」
 広い庭の片隅に、浴衣姿の時枝は立っていた。
「お前っ……何してんだッ! 心配した……だろう……」
 時枝は泣いていた。
「おい……どうした? 何、泣いてんだよ」
 星なのか月なのか、それとも薄く広がった雲なのか、じっと遠くの空の方を見て泣いていた。
 どの位そこでそうして泣いていたのだろうか。目尻を赤くさせて、胸元には大きな涙の染みが出来ていた。
 木戸はそっと時枝を抱き締めた。
 胸の中で啜り泣く声がした。
 ゆっくりと時枝の頭を撫でてやる。
「怖い夢を見たのか?」
 もしかしたら現実にあった事を寝ている間に思い出して悲しくて起きてしまったのかもしれない、木戸はそう思った。
 きっとハッキリと思い出すというよりかは悲しいという感情だけを思い出したという事に近いかもしれない。
 木戸にもそういう経験はあった。
「ほら。部屋に戻るぞ……今度から悲しかったら俺の所で泣けよ?」
 時枝は暫く静かに啜り泣いていた。
 そして、その状態は毎晩の時もあれば二、三日経ってからの時もあった。
 そしてそのどれも、時枝は木戸の腕から抜けていった。




<<前へ      次へ>>



木戸の愛は深くなっていっているというのに(>ω<)
どうしたの時枝くん…(>ω<。)

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (8) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 46話

「時枝、中に入れ。……お前ら人の家に勝手に入って、何の用だ」
 奥から出てきた大柄な木戸を見て、男子二人は緊張を走らせた。
 木戸は少しは優しく言ったつもりだったが、その禍々しい空気は健在で、二人を容易に凍りつかせた。
「……すっ、すみませんでしたァーッ! ぅああぁぁ」
「おい、ちょっ……待っ……」
 一人は一目散に逃げたが、もう一人は腰を抜かしたまま動けなかった。
 と言うよりかは、時枝から目が離せずにいた。
 木戸は何事も無かったかのように、その高校生を無視したまま夕飯を食卓へ用意した。
 高校生がゆっくり立ち上がると、時枝はじりじりと下がって部屋の隅に縮こまった。そこから睨みつける様にその見知らぬ高校生の様子を窺っていた。
「あの……その人……」
 木戸に話かけるが、目も合わせて貰えない。
「外人さん……なんですか?」
「時枝、飯だ。こっちへ来い」
 木戸の低い声がそう言うと、時枝は猫科の肉食獣のように四つん這いで木戸の横へ移動した。
 その高校生は、そんな野生のイメージを持ったまま時枝が食べ物を口へ運ぶ様子を窺っていると、実に綺麗に、そして上品に食物を口へ運ぶのに一層驚いた。
「綺麗、ですね。その人」
 思わず本心から呟いたこの高校生の言葉に木戸が振り向いた。
「いいだろう? こいつは俺のものだ。お前には一生手が届かない」
 木戸はそう言って艶っぽい笑みを浮かべながら時枝の腰に手を回して引き寄せた。
 何やらいやらしい大人の雰囲気にあてられて、高校生は顔をみるみる赤くした。
「で、お前は何しにここに来たんだ」
 木戸が質問をする。
「前に一人でこの辺まで来て遊んでたんだ……そしたら、その髪の白い人を見かけて、最初は何かの神様か妖怪かと思ったんだ」
 その突拍子もないガキくさい表現に木戸は思わず声を上げて笑った。
 そのイメージが理解できなくもないから余計に可笑しかった。
 笑われて少し不機嫌そうな顔をしながら高校生は続けた。
「で、もし神様なら願い事とか叶えてくれるかなって思って後をついて行ったんだ」
「何を願うつもりだったんだ?」
「え……頭が良くなるようにとか、学校が一週間くらい休みになるとか……彼女が出来るとか……そういうの」
「へぇ。お前、バカで童貞なのか。災難だな。くっくっく」
 木戸の意地の悪い笑い声を聞いて、静かに食べていた時枝が木戸を見上げた。
「?」
 木戸は自分を見上げた時枝の頭を愛おしそうに撫でた。
「うるさいなッ。お前は一体なんなんだよッ!? そ、そんなおかしな奴と二人でこんな所で何やってんだ!」
 素直に怒りだした高校生が可愛かった。木戸はつい意地悪をしたくなった。
「俺たちか? 俺たちはまぁ……バカンスってところか。誰にも邪魔されない所でガキには刺激の強い事をやっているが?」
 木戸は大きな手を時枝の銀色の頭に当て、自分の胸元へ寄りかからせた。
 時枝は木戸の熱い体温を感じ、ふっと色っぽい目に変わった。
 その表情に、高校生は今までにない程の昂りを感じて慌てて前を手で隠した。
「そっ、その人、男だろ!? 男同士でなんて……変だっ! え、えっちだって出来ないしっ」
「お子様には分からない世界もあるんだよ。さぁ、もう帰れ。男同士のエッチ何て見たらお前きっと彼女出来なくなるぜ?」
 怖い物見たさからなのか、足の動かない素朴な高校生に向けて、木戸は時枝の唇を塞いだ。
 少し遠目からでも見える様に、舌を出して時枝にそれを吸わせる。
 クチャクチャといやらしい音が高校生の下半身を痛いほど硬くさせた。
「お、おっぱいもないのにっ……」
「平らな胸に尖らせる乳首はな、男のくせにやたら感度がいいと逆に女よりいやらしい」
 木戸は登ってきた時枝の丸い尻を両手で掴むと、時枝の身体がピクっと歓喜に震えた。
「だ……だって……入れる所だって……ないのにっ……」
「あんだろ? 男も女もある穴」
 木戸は目を細めて笑った。
 その場所が分かった途端、高校生は「うそだ……」と呟いたまま後ずさった。
「何なら見てくか?」
 木戸が服の上から時枝の後ろの穴にグッと指を当てた。
「んっ」
 時枝の甘い声を聞いた高校生は途端にその場を走り去っていった。
 誰もいなくなった空間に、外から入り込む生ぬるい空気と時枝の荒い吐息が混じる。
「お前は見せたかったんじゃないか、時枝? ……その方が興奮したんじゃないか?」
 木戸は時枝を畳に寝かせ、ヌルついている時枝の肉棒を取り出した。
「んんっ」
「見せる訳ねェだろ……誰にも」
 造形物のような綺麗な形と、あまり筋立っていない肌色が艶々とネバつく液体に濡れている。
 意外と大きな時枝の肉棒は木戸をとても興奮させた。
 少し歯を当てながら上下に舐めてやると、綺麗な肌色の肉棒は亀頭だけを赤く染めていった。
 時枝は腰を浮かし、木戸の髪を掴んで高い声を微かに上げると、木戸の口内に熱い液体が何度も放たれた。




<<前へ      次へ>>




ピュアな田舎の高校生つかまえて何を(笑)

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (6) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 45話

 二人で暮らす事は木戸にとって思っていた以上に大変だった。
 先ず選択や掃除の仕方が分からなかった。
 なるべく生活の中に他人を介入させたくなかった木戸は今までのように使用人は一切つけていない。
 取り敢えずパソコンなどの電気機器類は必要だったので、持参したそれら文明のもので調べながら実行した。
「おい、時枝! 虫を中に入れるんじゃない!」
「時枝! 大人しくしてると思ったら何ネコを家に上げているんだ!」
 比較的静かな時枝だが、静かに色々とするのが厄介だった。
 だがそれはそれで楽しかった。
 木戸の足下を茶色い猫が走り抜ける。
 時枝が招き入れたバッタを追いかけているようだ。時枝はその様子を黒目だけ動かして見ていた。
 木戸は軽い溜息をつきながらバッタを庭へ放り出し、逃げ回る猫の首を摘まんで外へ同じように放り出そうとした。
 その様子をジッと見る時枝の膝上に猫を置いてやると、意外と上手く猫を喜ばせていた。
 木戸はこういう下らない事で汗をかくのも初めてだったし、時枝と何気ない日常を共にしている事が木戸自身にも心の安らぎを感じていた。
 全ての面倒を見るのは大変だったが、それすらも愛おしく感じ、今までになかった庇護欲すら出てきた。
 そんな暮らしに段々と慣れ始めてきた時だった。
 木戸は居間で酒を飲んでいた。
 リビングにテレビはあるが、あまり点けない。
 時枝は満月を見上げ、虫の鳴く声に耳を傾けていた。
 時枝の黒い瞳の中に金色の月が入り込んでいた。本当に物語の世界からふらりと出て来てしまった者のように神秘的で美しいと木戸は思った。
 不謹慎だが、言葉と自我を忘れた事が一層そう見させている部分も大きいとも感じる。
 木戸は時枝の横顔を見つめ、時枝の静かな呼吸を聞いていた。

「キレイ……です」
 
 誰の声だか一瞬分からなかった。
 だが木戸は今しがた時枝の唇が動いたのをハッキリと見た。
「時枝……?」
 木戸は時枝に駆け寄った。グラスが木戸の手から離れて床に転がる。
 時枝の横顔は感情の読み取りにくい無表情に近いものだったが、それでも機嫌がいいという事は木戸にはもう分かっていた。
「時枝? 俺が分かるか?」
 木戸の声が震え、時枝の肩を掴んだ指に力が入る。
 だが時枝は返事をせずに月を見たまま再び「きれい」と呟いた。
 思い出した訳ではなかったようだが、それでも言葉を放った事が息が止まる程嬉しかった。
 木戸はギュッと時枝の身体がしなる程抱き締めた。
「また……お前の声が聞けて良かった」

 時枝はぽつり、ぽつり、と言葉や声を発するようになってきた。
 木戸は時枝の記憶が戻ったかと勘違いをする程、時枝はたまに驚く程ハッキリと言葉を喋った。
 それから木戸は段々と時枝を少し遠くまで連れ出すようになった。
 もう少し刺激のある生活をしてもいいかもしれない、そんな想いでたまに電車に乗せたり車に乗せたりして極力散歩をした。
 ただ、被せていた帽子を時枝が暑がって勝手に取ると、やはり周りは驚いたような目で時枝を見た。
 そんな日々の中で、思わぬ侵入者があった。

「ここだ……多分ここだよ! 俺、入っていくとこ見たもん!」
「本当かよ!?」
 夕飯の支度をしていた木戸には分からなかったが、庭先でヒソヒソと話す声に反応した時枝が障子をスッと静かにに開けた。
「わッ!!」
「……!?」
 すると驚きのあまりその場で腰を抜かした男子高校生二人が目を丸くした。




<<前へ      次へ>>



(ノ*´Д`)ノオォオォ
少しずつ改善の兆しがっ!
そして好奇心の多そうな男子高校生…。

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (4) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 44話

 木戸は生唾を飲み込んだ。
 時枝は木戸の葛藤など無視して本能のままにその美しい筋肉に頬擦りした。
「触って欲しいか?」
 吐息のような色を含んだ問いかけをする。
 時枝は木戸の問いに答えず、ゆったりとした自分のシャツの中に手を潜り込ませた。
「ふっ……ぅ」
 時枝はシャツの中で自分の硬くなっているであろう乳首を弄りだした。
 木戸は押し入れの中から真新しい布団を乱暴に畳の上に放り出し、その上に寝転んだ。

「一人で楽しんでんじゃねぇよ……来い」

 木戸は上半身が裸体のまま、誘うように色っぽい笑みを浮かべて手を差し出した。
 時枝は猫のように柔らかな動きで手の方へ這って来た。
 そして差し出された木戸の掌に自分から頬を当て、そして木戸の上に乗った。
 時枝は木戸の上で硬くなった自分の下半身を木戸の身体に擦りつけ出した。

「はぁっ……はぁっ……」
「気持ちいいか、俺の身体は」
 恍惚とした表情で木戸の下半身に自分のものを懸命に擦りつける時枝を見て、恥じらいのない本能だけの時枝にやけに興奮した。
「可愛いよ……もっと好きにやれよ。見ててやるから」
 言葉を理解していないと思っていた。
 だが、時枝がその言葉に明らかに興奮したのが分かった。
「はぁっ…あんっ…ハァっ、ハァっ」
 理解する事を無意識にやめていたのかもしれない。だが、この状況ではそんな余裕も無く快楽を最高に高める事を最優先にしているようにも思えた。
 今なら素直に言葉が届くかもしれない。木戸は時枝の唇に触れた。

「好きだ」

 時枝の顔が切なげに歪む。

「ぁあぁっ……ハァっ、ハァっ」

「好きだよ……香」

「ああぁぁぁぁっ……ぅぅぅ」

 時枝は一際高い声を出してそのまま果てた。

「時枝……時枝……」
 木戸の問いかけにいつもと変わらぬ反応だった。
 息を荒くしたまま木戸の上で眠りそうになる時枝に、別に記憶が戻った訳ではないと気付いた。
 少し落胆したが、触れ合う事が悪い事ではないと分かった。

「お前、服着たまま勝手にイきやがって……思い出したら覚えてろよ?」

 木戸はそう文句言いながら時枝にキスをした。




<<前へ      次へ>>




ちょっと短めすみません!
区切りの関係で(-"-;A ...アセアセ


★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (4) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 43話

 都会に少ない茶色だけだった木々にはいつの間にか新緑が芽吹いて街中に色を足していた。
 人々の顔も心なしか明るくなったように見える。
「本当に大丈夫なのか?」
「ああ」
 木戸は軽い手荷物を持って暁明シャオミンの家を出ようとしていた。
 もう片方の手には細い時枝の手首をしっかりと掴んでいる。
 無理矢理時枝に触れたあの日から、ほんの僅かだが時枝の木戸に対しての怯えが軽くなった。
 時枝は相変わらず話しをする事もなくじっとしている事が多かったが、それでも最初の時のような酷い怯えは無くなった。
 木戸はもしかしたら二人でいる時の方が早く慣れるかもしれないと思い、喧騒から離れた郊外に二人で暮らす事に決めた。
「必要なものは先に送っておいた。何かあれば遠慮せずにすぐ連絡してくれ」
「色々とすまない。きっと時枝を元に戻して会わせてやる」
 暁明シャオミンは寂しそうに頷いた。そしてゆっくりと後ろで俯いている時枝に近づいた。
 時枝はビクリとして後ろへ下がろうとしたが、木戸がグッと前へ引き寄せた。
 暁明シャオミンは優しく微笑んでそっと時枝の頬にキスをした。
 時枝は大人しく撫でられている猫のように、静かに違う所を見ていた。
「じゃあ。……行くぞ、時枝」
「杉下の事は私がきちんと見ているから、安心して。元気で」
 暁明シャオミンは木戸たちの乗った車が見えなくなるまで見送った。
 そして木戸と時枝の新しい二人暮らしが始まった。

 東京から驚く程遠くも無いが、周りには驚く程何もなかった。
 緑の山々が回りを囲み、平野には黄色い菜の花畑が広大に広がっていた。
 原色の絵具を零したように彼方此方が鮮やかな黄色だ。
 真っ青な空と大地の黄色さが簡単に木戸を感動させ、時枝の目を奪っていた。
 時枝が透明な窓ガラスに触れた。
「こういう所に二人で来るのは初めてだな」
 木戸はその窓ガラスを少し開けてやると、車内におひさまの香りが流れ込んできた。
 何だかホッとする香りだ。
 時枝の銀色の髪がキラキラと光りに反射して眩しい。
「危ないから手を出すんじゃない」
 時枝が暖かい風を掴もうと窓の外に白い手を出したのを見て、木戸が子供に注意するようにそっと車内へ戻してやる。
 遠くに昔ながらの車両数の少ない電車が走っているのが見えた。車両の下半分が赤色なのがレトロで可愛い。
 車で移動しないと軽い買物も大変な環境に木戸は最初不安を覚えたが、時枝には逆にいいかと思った。
 人目を引く外見なのであまり都会はよくないと考えたからだ。
 奇異な目で見られるのも心配だったが、それと同じ位にこの現実離れした美しさを多くの目から守りたいというのもあった。

「さぁ、着いたぞ」
 着いたと言ってはみたものの、普通の民家に住むのは初体験だ。
 オーダーメイドで作らせた二十万程の靴で土を踏む。
 木戸に何となく懐かしい感情だけがふわりと湧き起こる。きっと昔にこういう自然と触れ合った事があるのだろう。
 時枝は意外にも興味深気に小さな花に触ったり、蟻の行列を見つけてはその先頭を探しに追いかけたりしていた。
 今はきっと幼稚園から小学生の低学年くらいの状態なのだろう。
 表情が幼い。
 そういう昔の顔が見られるのは嬉しかった。時枝の過去とも一緒に過ごせる嬉しい面もあると、そう考える事にした。

 木戸は時枝を連れて中へ入った。
 一階建ての平屋のような造りだった。中に入って見ると思ったよりも天井も高く広々としていた。
 歩く度に木造が軋む音がするがそれもそのうちに慣れるだろう。
 少しのんびりと過ごしたい。そんな気分だった。
 広い畳の寝室に入ると、時枝はその青い畳の匂いに反応していた。その顔が可愛くて木戸思わず口元を緩める。
「今着替えるからそこで大人しくしてるんだぞ」
 木戸はもう用のない上等なスーツを脱ぎ白いワイシャツのボタンを外し始めた。
 用意してきたシンプルな黒いTシャツを鞄から出す。

 その様子を時枝は後ろからじっと見ていた。
 木戸がボタンを外し終わり、それも脱いで上半身を曝け出す。
 引き締まった筋肉が艶っぽく動く様子を時枝の視線が追っていた。
 木戸がTシャツに手を伸ばした時だった。
 背中にヒヤリと冷たい物が触って驚いて振り返ると、時枝が自分の真後ろにいて驚いた。
 先程の無邪気な顔とは一変して明らかに欲情の色持った目で木戸の身体に反応していた。
「お前……」
 今の状態の時枝から木戸に触れてくるのは初めてだった。
 木戸は、そう言えばここの所引っ越しの準備で忙しくしていて時枝を楽にしてやれていなかった事を思い出した。
 時枝の指先が舐める様に後ろから木戸の腹筋へと移動すると、木戸は首筋辺りまでゾクッとした。




<<前へ      次へ>>




★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 42話

「ハァっ……」
 寝ている時枝の大人しい舌を舐めていると、無意識にも関わらず時枝は木戸の舌に絡みついてきた。

(こいつ……)

 木戸は布団を剥がした。

(ダメだ……これ以上したら駄目だ)

 時枝のガウンは既に左右に別れ、柔らかそうな乳首が露わになっていた。

(止めろ……もう、止めろ)

 木戸はその無垢な乳首に吸いついた。

「んっ……」
 ピクリと身体が反応し、時枝の瞳が薄らと開いた。

(もうこれ以上したら時枝がまた――)

 理性と本能が完全に分離した木戸は獣だった。
 明らかに怯えた時枝の目を見据えながら、乳首を強く吸った。
「んんっ……あんっ」
 久し振りの時枝の声、身体、匂い、味。全てが痺れる程の媚薬だった。
「クソ……」
 木戸は時枝の身体中を味わうように舐め回した。
「やあぁ……」
 逃げようとする時枝の腕や足を掴み、内腿に歯を立て尻を強く揉んだ。
「はぁんっ」
 「身体は淫乱」杉下の言葉が浮かんで苛立った。

「何て声出してんだよ、えェ? 気持ちいいんだろ? 逃げんなよ」
 荒々しい欲が暴発する。
 木戸はフルフルとかぶりを振る嫌がる時枝を後ろ向きにさせ、尻を高く突き上げさせた。
「一番気持ちいい所舐めてやるから」
 ギュッと閉ざされた小さな穴に舌を当てると、それまで怖がって震えていた時枝の身体が今度は快感に震えだした。
「ふぅっ……ふぅんっ……っ」
 硬く閉じ切っていた秘所は、あっという間に広がってトロトロに柔らかくなった。
 皺など溶けて無くなってしまったかのように舌先はその滑らかな感触を味わう。
 木戸は舌先を硬く尖らせて中に入れ込むと、入り口は簡単に中へと引きずり込もうとしてきた。
 木戸はそこをメチャクチャに舌を動かし吸いついてやった。
「きゃああっ…あぁあっ……あぁんっ! あぁんっ!」
 ガクガクと腰が揺れ、勢いよく時枝の肉棒の先から精液が爆ぜた。
 木戸は自分の肉棒を取り出すとグチャグチャに扱き、時枝の柔らかく解れた穴に少しだけ強く押し込んだ。
「俺の事ちゃんと思い出したら、もっと奥に出してやるからな」
 そう言って木戸は少し押し広げた入り口の中へ射精した。
 久し振りに出したからか、どろどろと濃い液体が大量に時枝の穴に溢れた。
 白い液体に塗れてヒクヒクと物足りなさそうに動く穴を見て木戸の肉棒はまた直ぐに硬くなった。
「なぁ時枝」
「……」
「もう一度好きだって言ってくれよ」
「……」
 木戸は気持ち良さに酔いしれる時枝を後ろから抱き締めた。
 時枝は大人しく木戸の腕の中で目を閉じた。




<<前へ      次へ>>



木戸なりの優しさ、かな(*´д`*)
よく我慢できた。うん。


★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (6) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 41話

 暁明シャオミンの意向で暫く時枝も家の一室を借りる事となった。
「木戸さん……殺さなかったのはやはり香の父親だから、ですか?」
「――」
 恐らくいつもだったら最も酷い方法で息の根を止めていただろう。
 杉下を生かしておいたのは、時枝の気持ちを聞いてなかったからだ。もしかしたらやはり生きていて欲しいというかもしれないし、自分の手でどうにかしたいと言うかもしれない。そう考えてギリギリの状態で生かしておく事にした。
 今は暁明シャオミンの手の内にある。
「後始末まで……色々とすまない」
 木戸は心から感謝をした。
「いい。それより香を……取り敢えず医者に診せよう」
 暁明シャオミンは何人かの医師を家に呼び、時枝の状態を診て貰ったが、どの医師も口を揃えて精神的ショックが一番の理由だと言う。そして投与された薬によって自分自身と周りが認識出来ず、精神年齢もその時々によって変わっているという事が判明した。
 時折子供のような表情や声を発したりする事もあれば、つい最近隣にいた時のような顔にもなる。だが、未だきちんと言葉で意思疎通は出来なかった。
 医師に薬の説明をしても、「懸命に昔の出来事を言い聞かせてもそれは決して過去を思い出す事にはならない」という事だった。
 由朗の所にあった資料によると、記憶が掛け違った後で抑制する効能の薬を飲んで元の記憶が戻った事例はない。
 木戸は絶望感に押し潰されそうになった。

 木戸は時枝のいる部屋へ入った。
 途端にビクリとあからさまに怯えた時枝がベッドの下に降りて縮こまるのが見えた。
 木戸は怯えさせないように静かに近づき、ゆっくりとベッドに座った。
 時枝は木戸のつま先をチラチラ見ながら壁に身体をギュッと押し付けた。
「おいで。怖くないから」
 そっと手を伸ばすと、時枝は「ひっ」と更に身体を壁に埋め込ませた。木戸は苦しい程胸が締め付けられた。
 誤解を解き、気持ちを伝えられる距離を持てた筈なのに、自分の知る時枝がいなくなってしまった事の空虚感で一人になると途方に暮れた。
 木戸はとにかく時枝の症状と薬の資料を持ち、治せる可能性を探す為に毎日世界各国の医師や、今まで裏でコネクションを持っていた医者に連絡を取ってみた。
 毎日ゴールの見えない繰り返しに、木戸の精神状態も擦り切れてくる。
 いつ時枝の部屋に入っても怯えられ、言葉を交わす事もなく、木戸の言葉を理解しているのかも分からない。
 苛立ちと焦燥感で木戸も限界だった。
 それでも唯一頑張れるのは、時枝が眠った後、そっと起こさずに髪を撫で唇にキスが出来たからだ。
 昔と変わらない寝顔を見る度に、今にもスッと目を開けて「お帰りなさいませ、木戸さま」と言ってくれるような気さえする。
 子供向けの童話さながらにキスをする自分に少々笑えるが、木戸はそんな自分は嫌いではなかった。

 その日も真夜中にそっと暁明シャオミンの家に帰り、自室のドアの前まで来た。
 木戸の足はそこから別の部屋へと方向を変えた。
 木戸の足は少し歩いた先の部屋の前で止まり、ポケットから鍵を取り出した。時枝が逃げ出さないように外から鍵を掛けているからだ。
 カチャと音を立てて中へ入ると、うっすらと月明かりだけの暗い部屋に入った。目が暗闇に慣れるのに数秒かかる。
 段々と視界がハッキリしてくると、そっとベッドに近づいた。
 銀色の長い髪を広げ、大人しくベッドで寝ている時枝はまるでおとぎ話の中から出てきた妖精だ。
 やはり寝顔は以前木戸の隣で寝ていた時枝の顔そのものだった。
 ここに眠る男は紛れもなく愛する人だ。
 突然木戸の胸がギュッと痛みだし、身体が熱くなってきた。
 月明かりに仄かに反射した白い肌に長いまつ毛が強調されている。
「ん……」
 時枝が寝返りを打つと、ちゃんと着替えをしなかったのかシルクのガウンがスルリと脱げて艶めかしい肩が布団から剥き出しになった。
 木戸の下半身が大きく脈を打つ。
 艶やかな唇は誘うように少し開き、細く通った鼻筋が触れてはいけない気高さを演出している。
 決して無理に触れてはいけないと頭では分かっていた。
 だが木戸の身体は何かに憑かれたかのように勝手にベッドに上がり、時枝に覆い被さった。
 荒い息を抑えながらそのいやらしい半開きの唇を塞ぎ、ゆっくりと舌を中に侵入させた。
 久々に感じる時枝の柔らかい唇と舌の味に、木戸の下半身に異常な量の血液が集まり今にも破裂しそうな程膨張して硬くなった。




<<前へ      次へ>>



ヾ(・ω・o) ォィォィ

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (8) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 40話

 木戸は時枝に近づき、自分の上着をかけてその力の抜けた上半身を抱き上げた。
「ん……」
 時枝が意識を戻し、木戸の顔を見た。
「時枝……ッ」
 気持ちの溢れ出した木戸は力一杯時枝を抱き締めた。
「ごめんな……ごめん……。帰ろうな。もう離さないから……帰ろう」
「うーん。多分無駄だと思うけど」
 杉下がそう言った時だった。腕の中で急に時枝が暴れ出した。
「う……アアッ……ッ」
「おいっ、時枝、どうしたんだ!?」
 ドンッと身体を押されて木戸がよろけた瞬間、時枝は畳を這いつくばって壁の隅へと逃げて行った。
 時枝は隅で小さくなり、震えながら耳を塞いでいた。
「ほらね? 記憶が無いには無いんだけど、それ以前に精神状態が不安定だったから俺の都合のいいようには記憶も入って無い。だから俺の事だって怖がる。だけど香は淫乱なんだよねぇ。身体が……。へへ。これってきっと母親の血なんじゃね? 薬あげてちょっと触ってあげるとあんなに怯えているのに段々自分から求めてくるんだぜ!? あははは!」
 木戸はスッと銃口を杉下に向けた。
「いやだからさァ、」
 パンッと鋭く乾いた音が鼓膜に響いた。
「え……」
 杉下は自分の太股辺りに視線を落とした。ジワジワと赤い染みが着物に広がっていくのを見ると、漸く激痛が襲ってきた。
「う……ギャアアアア」
「お前、五月蠅い」
 もう一発パンッと撃つ。
 畳の上で悶絶する杉下の腕に、足首に、掌に。
 木戸は上から無表情に蟻でも殺す様な顔をして立て続けに撃った。
 面白い程簡単に穴が開き、そこから真っ赤な液体がドバドバ漏れてくる。
 杉下は味わった事のない恐怖心と激痛で尿を垂れ流し木戸に懇願した。
 「もう止めて」と頼む杉下に、木戸は「分かった」と色々用意してきた道具の中からガムテープを持ってきた。そして穴の空いた個所に無造作に貼り付けた。
 その度に痛みで喉が切れんばかりの叫び声が上がる。
「止血……良かったなぁ。命が長引いたぜ?」
 木戸の口元に歪んだ笑みを見て、杉下はゾッとした。
 杉下は生まれて初めて心底震え上がった。無意識に身体が雪の中に放り出された時のようにガタガタと揺れる。
 自分を撃った一発目は黙らせる為、二発目は恐らく恨み、三発目からの目は楽しんでいる目だった。
 杉下は明らかに木戸という男の中に潜む、自分と似通った狂気を垣間見た。
 杉下は、それまで自分だけの世界での王様だった。それ以外を知らないその過剰な自信と、相手の心理を巧みに操る術を持っていただけに、余裕で楽しもうと考えていた。
 それが全く通用しない大誤算に、少しだけ感動した。
「イヒヒヒっ、イヒっ」
 真っ赤になった杉下の気味の悪い笑い声が部屋に響く。

「時枝……帰ろう」

 今の一連の騒ぎで一層怯えてしまった時枝を抱き上げると、恐怖に引きつった顔で抵抗した。
「うぅっ……っ……ヤ……っ」
 木戸は子供のように暴れる時枝を抱えてそこを出た。



<<前へ      次へ>>




まずは時枝が手に入った!(ノД`)・゜・

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (4) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 39話

「木戸さん、では先ず助ける作戦ですが、敢えて杉下と仕事での関係を持つ事で相手の情報を得てそこから慎重に香の奪還ルートとその後の処置方法を」
「いや、俺は今から行く。だから弾だけくれないか」
 暁明シャオミンは耳を疑った。
「な、何を言っているのです!? 今から急に襲撃でもしに行くつもりですか!? そんな事をしても返り討ちにされてお終いですよ!!」
「だったらッ、援護だけでもしてくれよ! ……あんな状態のあいつを……もうこれ以上一秒だってあそこに置いて置くなんて出来ねェよッ」
 木戸の言っている意味と気持ちが痛い程分かる暁明シャオミンは少し間を置いて「それなら」と直ぐに頭を切り替えた。
 今から出来る限りの装備をし、奇襲をかけて時枝を強引に奪還する。
 必要ならば自分の命を削る事になろうとも他を壊滅させてもいい、木戸は端からそう決めていた。
 
 せっかくの満月が雲で陰る真夜中。
 先にずっと張り込んでいた暁明シャオミンの部下たちが中に時枝と杉下もいる事の確認が取れたと連絡が入った。
 木戸が門にいる警備員に話かけながら鮮やかに鳩尾に拳を入れて気絶をさせた。
 直ぐさま小さなノートパソコンを部下の一人が持って来ると、セキュリティの操作をして門の鍵を開けた。
 木戸は銃を構えながら門を潜る。
 直ぐに異変に気付かれ打ち合いにでもなるかと思いきや、誰一人としていない広々とした敷地内を妙に思いながらも素早く駆け抜けた。
 玄関の引戸は昔の作りのままで、それは呆気なく開く事が出来た。
 余りに余裕ある侵入に明らかな違和感を感じながら全ての部屋を開けていった。
 中には住み込みの女中が寝支度をしていて、突然の侵入者に叫び声を上げていた。

(くそッ……どこだ時枝!?)

 やたらに広い床を軋ませながら、木戸は更に奥の襖を開けて進んだ。
 一番奥と思われる畳の寝室の襖を開けようとした時だった。
 襖の向こうから鼻に掛った高い声が聞こえた。

「あっ……あんっ」
 恐怖心が木戸の手を一瞬止まらせる。
 そして一気に襖を開いた。

「あっあっ……ああぁぁーっ」
「あぁ……もうイっちゃったんだね。全く。三度目だっていうのに好きだねぇ、香は」
 木戸は全身にゆっくりと針を刺し込まれていくような痛みを感じた。
 自分よりも少し年上であろう男は、時枝と年がそう変わらなく見える程若かった。
 写真では真っ白に見えた髪は、実際に見ると寧ろ銀色に近い。
 その美しい銀の髪がサラサラと上下に動き、年寄りかと思っていた肉体はしなやかで美しく、畳で足を投げ出す様にして座っている男の上を跨いで卑猥に背中をうねらせていた。
 その人は木戸に背を向け、懸命に男にしがみ付き汗ばんだ腰をヒクつかせている。
「あぁ、やっと来たの?」
 杉下は軽々しい口調で木戸を見た。
 殺すべき男の筈なのに、一瞬目を奪われ惹き込まれた。
 恐ろしい程の色気と美貌が、その異常性を更に引き立たせているようにも見えた。
 認めたくはなかったが、確かにこの妖艶さは時枝にも受け継がれている。
 この男が時枝の父親――。
 その時だった。
 木戸の気配に気付いた時枝と思われる後ろ向きだった裸の男がゆっくりと首だけ振り向いた。
 木戸の心臓がドクンッと低く大きく跳ねた。
「時枝……」
 虚ろな涙目は木戸を認識せず、そのまま再び杉下の方へ向き直りくたりと凭れかかった。
「迎えに来たところ悪いんだけど、香ね、君の事分からないから」
「どういう……事だ」
 杉下は結合部分が見える様にわざとゆっくり自分のペニスを時枝の中から抜いた。
「どう? 親子のセックス」
 杉下はニタリと品のない笑みを浮かべ、クチャリといやらしい音を立てた。
「おいおい。今撃ったらこいつの薬とか分からなくなるがいいのか?」
 木戸は無意識に銃口を杉下に向けて引き金を引いていた。
「クスリ……」
「それより聞いてよ! 結構前だったんだけど、俺に息子がいるっていうの知ってさァ! それが昔犯した女のだっていうから興味本位で探してみたら凄い俺の好みの顔してんの! だからどうせ殺すってんなら俺にくれって言ったら親父は簡単に承知してくれたんだ。でももうこいつずっと無気力でさァ。俺としてはアンタと居た時の顔の方が好きだったんだけど。まぁ、一応聞いたんだよ、こいつに。殺されるのと、実の父親である俺のオモチャになるのどっちがいい? って」
 木戸は眼球の奥が痛くなってきた。
「そしたら好きにしろって言ったんだ! んで、どうせなら記憶を消してくれって。だからお前ん所の親父が開発してたあの薬。俺も買い取って色々錠剤とか媚薬成分の配合量強くしたり改良してさ。MBってクスリで裏で儲けてるんだけどそれ使ったんだよね。そしたらすっかり俺の可愛いペットちゃんだよ」
 杉下は世間話でもするようにサッサと着流しを着終えた。
 足下に転がる時枝の秘所からは白濁の液体がトロトロと流れ出てきていた。




<<前へ      次へ>>



(T△T=T△T)oジタバタ

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (2) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 38話

「父親って……じゃあ今向こうにいるのか!? いや、というかその名前は何だ?」
 全てが解せない上に元凶とも言える父親の元に時枝が居るというだけで頭に血が上っている木戸は凄い剣幕で暁明シャオミンに問い詰める。
「ちょっと暁明シャオミンさまに何するんだよッ! 今説明してるんだから! 止めてよ!!」
 小柄な愛人アイレンが必死に木戸を暁明シャオミンから引き剥がそうとするが木戸は微動だにしない。
「先ず、香の父親……と言っても香と約一回りしか違わないんだが……あの事件の後、ほぼ勘当された状態だったらしい。ただ、やはり向こうも親だから、一応金と世話係だけは付けて国を追い出し日本で完全に日本人として密に生活をさせていたようだ。親族や周りは誰もが彼はただの異常者だとばかり思っていたようだが、自分で家庭教師を付け色々と勉強していたようで、今では日本に何百店舗も風俗関係の店を展開させているやり手だ。ただ素性を隠している為に彼がオーナーだとはあまり知られていないがな」
 木戸は苦虫を潰したような表情で話しを聞いていた。
「香の方だが、李はやはりずっと香を拉致する機を窺っていたようでね。今までは君がいたし、巨大なグループがバックにいるから徐々に削って誘き出すようにしていたが、何故か身一つになって歩いている彼を都合良く手に入れられたという訳だ」
 時枝の全身から汗が噴き出た。
「俺の……せいなんだ」
 絞り出すような声の木戸を、愛人アイレンが見上げた。
「ところがだ。香を手に入れた李は当然処分しようと思っていた矢先に耳を疑う男から取引が持ち込まれた。それが杉下真也だった。李も杉下という名が息子だと気付いたのは本人から説明を聞くまで分からなかったらしい」
「何で李は手渡したんだ」
 木戸は暁明シャオミンを掴んでいた手を下ろした。
「きっと……処分するに等しいから……だろう」
 暁明シャオミンは唇を噛んだ。
 そして暁明シャオミン愛人アイレンに「あれを」と言い渡すと、愛人アイレンは懐から何かを取り出した。
「これが……部下がやっとの思いで撮れた香の唯一の証拠写真だ……」
 暁明シャオミンに手渡された一枚の写真を見た木戸はそれにジッと目を凝らした。
 二、三秒は目を凝らした。
「おい……どこに時枝がいる」
 少し薄暗いが写真に写っているのは、大きな日本家屋であろう庭に続く廊下が写っていた。
 襖が少し開いており、その中に女中と思われる人が二人と年寄りがいた。
 さしずめ年寄りの世話をしているのだろう。
「…………」
 暁明シャオミンは唇を噛んだまま黙っていた。
「オイふざけるなよ!? 時枝の写った写真を見せろよッ!!」
「……いるんだよッ!! ……そこにッ」
「ハァ!?」
 木戸はもう一度写真を覗き込み、隅から隅まで瞬きもせずに探した。
 人物は三人。女二人と老人が一人。
 白く見える髪は少し長く一つに束ねられていた。
 浴衣のような和服を着て後ろ向きに座っている。
 老人にしては姿勢はいい。
 その時、木戸の呼吸が切れた。

「まさか……これ……」
 顔を上げると瞳に涙を浮かべた暁明シャオミンがいた。
「あぁ……それだよ……その老人みたいな人が、香だ」
 
 世界が一瞬歪んだ。
 宇宙に放り出されたように天地も分からない。平衡感覚を失い、木戸はそのままソファへと崩れた。
 髪がこれほど白く変色しているのはそれ程の精神的なショックを受けた証拠だ。
「はやく……たすけないと……」
 心臓のリズムが狂う。
 木戸の膝が無意識の震えで力が入らず立ち上がれない。
「木戸さん……」
 暁明シャオミンは瞳から涙を幾つも落としながら手を差し出した。
「あの子を愛しているんでしょう? だったら貴方が助けるんです。さぁ、行きましょう」
 震える手を握り拳にし、力一杯爪を喰い込ませて無理矢理平常心を取り戻す。
 そして青く残った爪痕のある手で暁明シャオミンの差し出す手を取り立ち上がった。
 そして木戸は覚悟を決めて暁明シャオミンと共にそこを出た。


 

<<前へ      次へ>>



うああ
早く助けてあげてーッ(*´Дヾ)

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (3) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 37話

 一見して街がどう変わっただとか、報道されている会社の裏でどんな変化があっただとか、そういう事は一般的には分からない。
 ただ、世の中に蔓延る商売は回り続け、人知れず廃れていく人々もいる。
 由朗は屋敷に閉じこもりきりで酒を片手に煙の充満する部屋にいた。
 木戸は残った自身の資産で時枝の行方を追って既に一か月を切ろうとしていた。
 体験した事のない不安と疲労で、家には帰らず、ここ最近はずっと暁明シャオミンの家に入り浸っていた。
 木戸の状態を見兼ねた暁明シャオミンの意向もあって、それに甘えさせてもらっている。
 暁明シャオミンの所なら、時枝が見つかった場合直ぐに連絡が来る上に、今は一人でいるよりもここに居た方が気持ちも楽になった。
 何より、時枝の面影のある暁明シャオミンと一緒に居たかった。
「木戸さん。こんな所で休まれては風邪を引きますよ」
 転寝していた木戸が薄めを開ける。
 自分を上から覗きこむ顔は時枝をもう少し凛々しく精悍な顔立ちにした感じだった。時々浮かぶ口元の笑みが艶っぽく、その雰囲気が何となく時枝に似ている。

(長い……黒髪……時枝……)

 木戸はグイと暁明シャオミンの首を掴み抱き寄せた。
「ちょっ……木戸さんッ……私です!」
「時枝……」
「全くこの人は……ちょっとすみませんね」
 暁明シャオミンは寝ぼけた木戸の手首を掴んで軽く捻った。
「痛ッ」
「起きましたか?」
 木戸は不機嫌そうに上半身を起こした。
「何をする」
「それはこちらの台詞です。私を香と間違えたのでちょっと目を覚まさせて頂いただけです」
「……そうか」
 木戸は普段の表情に戻すとふらついた足取りでシャワー室へと消えていった。

 外の温度が妙に暑いと思った。やけに眩しく光る太陽を鬱陶しそうに見上げて腕まくりをする。
 その時に、「もう夏か」と漸く気が付いた。
 時枝の行方を追っていない時間は無気力な状態になる事が多くなった。
 いつもピシッと身なりには気を使っていた木戸が、無精ひげを生やしネクタイもせずにいた。
 少し草臥れたような風貌で、ワイシャツを開ける様子には妙な哀愁からか艶っぽい雰囲気があった。
 整髪料で清潔に纏めていた髪は額に下ろされ、若干若く見えるが同時に危険な雰囲気を纏った男にも見えた。
 ベタつく汗にイラつき、会いたい気持ちだけが時間に比例して無限に広がっていく。
 そして周りにはいつの間にか彩豊かな木々が増えていた。
 街でブーツを履く女性を見かけてまた四季が変わったのだと認識した。
 そして時枝がいなくなって約十カ月も経とうとした頃だった。
 暁明シャオミンの小姓である愛人アイレンが慌ただしく部屋に入ってきた。
 そして愛人アイレンの耳打ちを聞いた暁明シャオミンが目を見開いて息を飲んだ。
 そして脱兎の如く今はどこぞに残っている小さな事務所で寝泊まりをしている木戸の元へと急いだ。

 木戸は、今はもう誰もいなくなった事務所のソファで眠っていた。
 遠くから鉄でできた階段を駆け上がって来る音を不快に思いながらもそのまま動かずにいると、突然ドアを激しく叩かれて眉間にシワを寄せた。
 ドンドンドン、と尚も激しくドアが叩かれる。
「木戸さんッ! 私だ、開けてくれッ」

(暁明シャオミン?)

暁明シャオミンさま、どいて下さい。僕が鍵を開けます」

(この声は……愛人アイレンか? 何故二人でこんな所へ……俺は……今どこにいるんだっけか……)

 数秒もしないうちにカチャリと音がして、簡易な鍵は愛人アイレンによって開けられた。
「木戸さんッ」
 目を開けると、切羽詰まったような顔の暁明シャオミンが走り寄って来た。
「時枝の居場所が分かった」
 木戸は一瞬頭が真っ白になった。
 望み過ぎた事が手に入った時、それを実感するのにどうしても時間がかかる、そんな感じだ。
 だが、その言葉を理解した瞬間暁明シャオミンに掴みかかった。
「どこだッ!? どこにいるッ」
「落ち着いて下さいッ、香は今杉下という男の所にいる」
「は?」
 その男が一体何者なのか、木戸の脳内のファイルには一切候補が出て来ない。
「杉下真也……元の名を王猩紅ワンシンホン。時枝の父親だ」




<<前へ      次へ>>




(ノ≧⊿≦)ノギャー!!!!

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (6) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 36話

 木戸の脳裏に弘夢の所で見かけた車が思い出された。
 あれはきっと時枝の乗って来たものだったに違いない。あの時まだ中に乗っていたのか、もうどこかへ行ったかは定かではなかったが、直ぐにその車を追跡した。
 GPSで空からの映像で確認すると、まだ同じ場所に車はあるままだった。直ぐにその周辺を調べるが、時枝らしき人物は見当たらない。
「あのバカ……早とちりしやがって……」
 木戸は今自分の持っている力を全て使って時枝を探し出そうと決めていた。
 同時に、これまで均衡を保ってきた勢力図が大きく変わってきていた。巨大な李グループが勢いを増して木戸の取引先を吸収していった。
 この意味を分かっている由朗には小さな罪悪感と、その理由が分かっている為にどうしても動く事が出来なかった。
 事情の分からない部下たちからは反感を買い、条件の良い李の方へ寝返る者も多く出てきた。
 それでも他の事態には目もくれず木戸は時枝を探していた。
 今まで十二分に人やシステムを使っていたが、それも日を追う毎に不自由になってきた為、木戸は自分の足で探した。
 まだ使える部下と手分けして探す事を繰り返し、一週間が過ぎた頃から木戸の焦りと不安は大きく膨らんできた。
 国を出た形跡もない。ならばまだ国内にいる筈だった。だが木戸が探せば大抵は見つかる筈の人間が一向に見つからない。

(まさか殺されたのか……)

 既に灰となってどこかの場所に散布でもされていたら、と考えて身体中が軋んで痛みが木戸の全身を襲った。
 既に、時枝が側にいないという事だけで今までにない異常事態で精神が想像以上に不安定だった。
 そして更に一週間が過ぎた頃、木戸は暁明シャオミンの所へ赴いた。

「どうも、木戸さん……。酷い顔ですね。殆ど眠っていない顔をしている」
 まさか中へ案内されるとは思っていなかった木戸はコートに忍ばせていた銃から意識を離した。
「ドアを開けたら撃ってくるかと思っていたが」
「私はそんな事はしません」
 目の前にいる男が時枝と同じ血を通わせていると思うと、不思議と愛おしく感じた。
 客間に通されるや否や、暁明シャオミンは張りつめた表情で切り出してきた。
「時枝……いや、香を探しているのでしょう?」
 敢えて名前を呼び直した暁明シャオミンに、木戸は悟った。
「事情はもう知っているようだな」
「えぇ……まさか……腹違いの弟だったとは……。でも、どんな生まれ方だったにしろ、私は香が弟だと知って嬉しかった。今までの彼への不思議な執着心というか、可愛いと思う気持ちが妙に納得できましたから」
 木戸は暁明シャオミンの言葉を聞いて胸が熱くなった。
「早く……あいつにその言葉を聞かせてやりたい」
「……木戸さん。少し変わりましたね。以前も鋭くて素敵でしたが、今は情熱的でもっと魅力的です」
「貴方にこんな事を頼んでいいか分からないが、他にもう頼れる人が……。頼む。あいつを一緒に探してくれないか」
 人に頼み事などした事のない木戸は、初めて仕事以外で頭を下げた。
「香に罪はありません。そして木戸さん、貴方にも。今一番苦しいであろう香を直ぐに助けてあげたいのは私も同じ気持ちです。グループが反対をしたとしても、私は探します」
「恩にきる」
 木戸はハッキリとした声で男らしく、そして礼儀正しくお辞儀をした。
「可能性が高いのは、もう捕まっているという線ですね。それか香が一人で身を隠しているか。彼もプロですからそうそう簡単には見つからないでしょう。ただ、もし既に捕まっていたとしたら厄介ですね……。私は内部の方から探ってみます」
「分かった。俺も手当たり次第探してみる。頼みます」
 いつもきちんとしている髪を少し乱しながら、そのまま暁明シャオミンの家を急ぎ足で出て行った。




<<前へ      次へ>>




★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (0) | trackbacks (0) | edit | page top↑

貴方の狂気が、欲しい 35話

 木戸は何故か心が浮き立っていた。
 早く時枝の顔が見たい、そして強く唇を塞ぎ朝まで遠慮しないで抱きたい衝動に駆られていた。

(今まで傷付けた事を侘びよう)

 木戸が車へ戻る途中、近くにもう一台車が停まっているのが視界の端に入った。
「この辺、結構路上駐車が多いんだな」
 そして木戸は何の気なしにそのままマンションへと急いだ。
 
「時枝ッ」
 ドアを開けると同時に大声で時枝を呼んだ木戸だったが、人の気配のしない自分の部屋に戸惑った。
 そして、時枝が由朗の所へ行った事を思い出し急いで由朗に電話を掛けた。
「もしもし? 慶介か?」
「どうも、時枝はまだ一緒ですか」
「……いいや。とっくに帰ったが?」
 質問した後の妙な間が気に掛った。
「父さん。時枝に何かしましたか」
「……いや特に。ただ、話しをしただけだ。……しかしまだ帰ってないのは妙だね」
 由朗の言い方がやけに感に触る。何か意味を含んだような、そんな気がしてならない。
 その時、部屋の隅に壊れた携帯の残骸を見つけた。
「慶介? もしもし?」
 木戸は電話口で聞こえる由朗の声を無視してその破片に駆け寄り、その散らばった破片を幾つか拾った。
 どう見ても時枝の持つ携帯だ。
 その時木戸の頭に一気に原因に繋がる一連の流れが浮かんで冷汗が沸き出た。
 時枝の携帯には自分の居場所を特定出来る特別機能が備わっている。それは木戸が事件に巻き込まれた際など緊急の時にしか使わないよう厳しく言いつけられているものだった。
 だから時枝が安易に私用で使う事は絶対にない。
 が、もし木戸が弘夢の家に居た時に使っていたとしたら。そう考えると合点がいく。
 だが、この携帯の壊れようと見ると俄かに信じ難かった。

(あいつがここまでの事をするか?)

 例え弘夢の場所に行っていたと分かっても、黙って自分に溜め込み涙を堪えるか、木戸に何か言ってくるかしか想像できない。
「父さん……時枝に何を言いましたか」
「何だ、俺が呼びかけても返事もしないと思ったら急に」
「何の話しをしたんだッ!」
 木戸の怒鳴り声に、由朗は溜息を漏らした。息子に罵られるのは初めてだ。
「李の、あの事件の話しをしたんだよ。お前も知ってるだろう?」
「あ? あぁ……あの母親の事件か。それが何だ」
「あの母親が俺の親しい友人で、実はあのガキに孕まされていたって話しをした」
 木戸はイラついた。
「だからッ! あいつにそんな話しをして何がッ」
「そのガキが香だよ、……って教えてやっただけだ」
 木戸は怒鳴っている途中の息を飲みこんだ。
「……は? ……何?」
「あいつがギリギリの精神状態で俺の所に来て生みたいって言うから、俺は生ませてやったんだ。それが香だ。で、今その香の存在がバレて嗅ぎまわられているって話しだ」
 木戸の頭が真っ白になる。

(は? 時枝が李の……? って事は暁明シャオミンと異父兄弟……)

「あ……」

 今まで暁明シャオミンを見て感じていた親近感や妙な感覚が納得出来た。

(時枝に似ていたから……だったのか……)

 途端に恐ろしく冷たいものが背中に走った。
「ちょっと待てよ……今あいつ狙われてるんだろ?」
「そうだな」
「そうだな、じゃねぇだろうがッ! 何一人で帰らせてんだよッ!」
 何かあったのかもしれない、そう思っただけで気がおかしくなりそうだった。
「いや、私は送ると言ったんだが返事もせずにふらふらと出て行ってしまってね」
 木戸の手が震える。
「なァ……何で全部知っててあいつを育てたんだ。何で今頃になって言ったんだ」
 呼吸が荒く震える。
「愛おしくて、憎かった」
 木戸の目が血走る。
「俺は愛理を愛していた。でも李だから、俺は身を引いた。でも愛理は俺を頼って……俺にあいつの分身を預けてくれて……嬉しかったんだよ。だから香を味わっている時、俺は愛理を味わっていた」
 木戸の焦点が妙な動きをし出した。腹の奥底が黒く、青く冷え固まっていく。
 首をコキコキと鳴らし、今直ぐに由朗の動く喉を引き裂こうと準備をしていた。
「でも……俺は理解出来なかったんだよ、慶介。なァ、理解出来るか?! あんな悪魔みたいなガキに犯られて、監禁されてッ……それで生みたいって何だ!? そんなキチガイの分身ってのも事実だろう!?」
「それ、あいつに言ったのか」
 地を揺るがすような低く冷たい木戸の声に、由朗は固唾を飲んだ。
「はっ……言ったとも。どうせもうバレたんだ……俺達だって終わりだ」
 木戸はクローゼットの引き出しから拳銃を取り出し、中の弾を確認した。
「俺が後でお前を終わらせてやるよ。そこで大人しく待ってろ」
 木戸は舌打ちをして部屋を飛び出た。




<<前へ      次へ>>




急げ木戸ぉーっ(o>Д<)o

★拍手コメントのお返事はボタンを押して頂いた拍手ページ内に致します。
  拍手秘コメの場合は普通コメント欄にてお返事致します。

web拍手 by FC2
お礼画像あり☆6種ランダム
00:00 | 貴方の狂気が、欲しい | comments (3) | trackbacks (0) | edit | page top↑