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貴方の狂気が、欲しい 34話

「弘夢ッ」
 木戸は無意識に声を出していた。
 その声に弘夢はビクリと身体を震わせ、強張った顔をゆっくりと向けた。
「え……うそ……」
 弘夢の表情がどんどん白く血の気が引いていくのが分かった。
 木戸の胸がチクチクと痛む。
 そして人一人分の距離を開けて、木戸は懐かしく愛おしい人の前に再び立った。
「イヤ……」
 だが震える唇から聞こえてきたは、恐怖からでる自分を拒否する言葉だった。
「弘夢……違う。別にまた連れて帰ろうって訳じゃない」
「じゃあ……何でっ」
 弘夢の目が泳ぎ、右左と激しく動いた。
「あいつが……これから来るのか?」
 図星だったのか、弘夢はハッとした表情を見せて両手を不安気に胸の前に持って来た。
 弘夢はそのまま何も言わず俯いている。
「直ぐに……直ぐに帰るから。少しだけ時間をくれないか」
 弘夢の肩が震えた。逃げても無駄なのは十分過ぎる程分かっているからこそ、震える事しかできずにいるようだった。
 木戸は、そんな弘夢を見て忘れようとしていた想いが沸々と内側から湧きおこるのを感じた。
「ちょっと、こっちに来てくれ」
「やっ……やめっ……離してっ」
 小さな声で抵抗する弘夢の腕を引っ張り、マンション横にある駐車場へと続く階段付近に移動した。ここなら少しは暗い。
 青ざめた弘夢がふと木戸の顔を盗み見ると、ふと今までにない違和感を感じた弘夢はゆっくりと、そして真っ直ぐに木戸を見上げた。
「あの……何か、あったんですか……」
 突然の弘夢からの質問に驚いた木戸は思わず「いや……別に」とだけしか言えなかった。
 久々に弘夢を正面から見る。
「お前、今幸せか?」
「え……はい。とても」
「そうか。……ならいい」
 木戸は弘夢の柔らかな手を取った。
 久し振りに触れた弘夢の手を感じて、時枝の手の甲の方が少し薄くて小さな傷もある事を思い出す。
「少しだけ、抱き締めてもいいか」
 弘夢は何も言わず、少し困惑した表情を見せた。
 木戸は、時枝よりも少し小さい弘夢の身体を強く抱き寄せた。


  * * *


「慶介さん……出て……」
 電話口から響く呼び出し音を何度も聞いて、助けを求める様に涙で濡れた頬をベッドのシーツに押しつけた。
 今直ぐに木戸に触れて消え入りそうな自分の存在を留めたかった。
 時枝は緊急の時にしか出せない携帯機能を使い、特別な暗証番号を入れると木戸の携帯の位置が表示された。
 その位置を見た瞬間、時枝の心臓は鼓動するのを忘れた。

「なんで……?」
 時枝は携帯の電源を落とし、そして再び木戸の居場所を確認した。
 依然として指し示す場所は同じ、木戸のいる筈のない場所だった。
 何度も電源を落としては確認する事を繰り返し、そして時枝は携帯を壁に投げつけた。
「アアアアアアッ」
 携帯は激しい音を立ててバラけ落ちた。
 心臓は限界まで鼓動を速め、いくら息を吸っても酸素が取りこめている気がしなかった。

――ここからはそんなに遠くない。

 時枝は部屋と飛び出し、その場所へと向かった。

 
  * * *


「あいつ、これから来るのか?」
 元より淳平と一緒にいたら会うつもりはなかった。
「はい……仕事が終わったらなので…夜中になると思いますが……」
「じゃあまだ……もう少し大丈夫だな」
 木戸はギュッと弘夢を抱き締めた。
 二人はそのままでぽつりぽつりと会話をした。
 木戸にとって、これが初めてした弘夢との会話のような気すらした。
「お前の事は……本当に好きだったんだ。多分今でも」
「……。……はい」
 木戸の愛は歪に歪んではいたが、その想いが本気だった事は弘夢も分かっていた。
「こうしてると……何だか癒される」
 木戸は大きな手で優しく弘夢の後頭部を包むようにして撫でた。
「好きな人、できたんですか」

(好きな人?)

「僕には、木戸さんが他の人を想って苦しんでいるように見えます。だから、僕なんかの所に来てるのかなって」

(好き……なのか? 俺はアイツを)

「もしかして……時枝さん……とか?」
「なッ」
 ふいに弘夢の口から時枝の名前が出て来て弘夢の身体を少し離し、顔を見た。
「えっ……本当に? 僕、そうだったら…いいなって思って……でもまさか本当に……」
 急に顔を明るくした弘夢にたじろぎながらも「何故そう思うんだ」と木戸は質問をした。
「え……だって時枝さんはずっと木戸さんを好きだったから。だから気持ちが伝わるといいなって思ったんです」
「ずっと? 何故そんな事をお前が知っているんだ?」
「分かりますよ。そして今きっと木戸さんも時枝さんに夢中なんだと思います。自覚がないだけで。だから苦しんでこうして片想いだった相手の所に来るんじゃないでしょうか」
「片想いって……そうハッキリ言うなよ」
「すみません」
 弘夢に言われて、単純だが初めて納得出来た気がした。自分についてこんな事を言ってくれる人など今まで時枝しかいなかった。
 その時枝との問題だから一切自分の事が分からなくなっていた。

(そうか……。そうかもな。俺はいつの間にかアイツを……)

 一秒程、急に強い光が二人を包み、再び暗闇に覆われた。
 マンションの駐車場前の道路を一台の車が通り過ぎたのが分かった。
 木戸は柔らかな表情で弘夢にほんの少し微笑んだ。そして再び優しく弘夢を抱き締めた。
 それは感謝の意味を込めての抱擁だった。
 
「時枝さんの事、好きですか?」
「……」
 弘夢に対してはあんなにも素直に言えていた言葉が時枝を想うと妙に恥ずかしさと緊張が口を重くする。
「一度、口に出して見るといいと思います」
 少し逡巡した後、恥ずかしさで少しでも声を隠そうとして木戸は弘夢の頭に唇を当てた。
 昔とは違うシャンプーの香がふわりとする。
 不思議と腹はもう立たない。昔の好きと今の好きが違っているという事なのか。
 木戸はいつも自分の横にいる綺麗で無表情な時枝を想い浮かべた。
「好きだ」
 今これを時枝に言ったら、どんな顔をするだろうか。喜んで微笑んでくれるだろうか、それとも涙を流してくれるだろうか。想像すると心がポッと暖かくなった。
 少しの間そのままで、そして弘夢が顔を上げて微笑んだ。
 初めて自分に向けてくれた微笑みは素直に嬉しかった。想像した通りに可愛くて、いつまでも抱き締めていたい笑顔だ。
 だが今欲しいのは、何度でも心を奪われる時枝の微笑だった。
 一瞬だけ鮮やかに色づき、そして儚く透明になっていくような、そんな危うい微笑みを自分だけのものにしたいと思った。
「弘夢。ありがとう」
 木戸は、帰ったら時枝に想いを伝えようと決めた。


  * * * 


 抱き合う二人は互いに夢中なのか、ここにいる“ジブン”に気付かない。
 車のヘッドライトで照らし出された二人の姿に目を疑った。
 別人の筈だと薄く笑って抱き合う二人に近づいて、それが木戸だと分かった。

(慶介さん)
 声が出ない。
(気付いて)
 視界が歪んでくる。
(その子から離れて。こっちを見て)
 口元に手を当てる。



――助けて。


「好きだ」

 聞こえてきた木戸の言葉と、嬉しそうに微笑んだ弘夢の顔を見て、時枝はそのままその場を離れた。





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貴方の狂気が、欲しい 33話

 木戸は苛立っていた。
 いつも自分の掌の中にいると思っていたものが実は知らぬ間に指の間をすり抜け、目の届かない所で動いていた事にも、今更ながら気に食わない。
 否、知っていたが知る気も無かった。
 時枝の初めてを奪った時、何とも言えない心の震えを感じた。それからも何度か抱く度に感じる胸の奥の恍惚とした痺れが何なのかは知らないが、それは弘夢を抱いた時には無かったものだ。
 ただ、“それ”を感じる瞬間は決まって時枝が「好きです」と、あの透明な声で言う時だ。
 木戸はその時を思い浮かべながら、他にも時枝が下からギュッと抱きつく時や、潤んだ瞳で見つめてくる時にも感じる事を思い出した。
 それなのにだ。
 暁明シャオミンになら触れられるのは嫌ではないと自分から進んで行為を受け入れようとした態度が理解出来なかった。
 木戸は、怒りに任せて時枝をわざと傷つける方法を選んだ。

「他の奴とヤりたくなったから出てくるだけだ」

 木戸はそう言って部屋を出た。
――自分と同じ位に、それ以上に苦しめばいい。
 自分を好きだと言うなら、俺が弘夢を愛した気持ち位に愛していなければ納得できない。
 木戸は、自分の利己的で幼稚なまでに歪んだ想いが、時枝を思うよりも深く傷付けている事に気付かなかった。
 帰宅して部屋に入ると、直ぐに時枝が起きている事に気付いた。僅かだが身体の震えがシーツを伝っていたからだ。
 だが素知らぬ顔で同じベッドに入り、後ろで涙を流す時枝に喜びを感じながらそのまま目を閉じた。
 明日は可愛がってやろうと、そんな悠長な事を思っていた。
 だから時枝が何も言わず由朗の元へ行った時、木戸の怒りと悲しみは想像以上に大きかった。
 GPSで捉えた時枝の姿は屋敷へと自分の意思で入って行った。

「何でだ……」

 木戸は、時枝の気持ちが信じられなかった。
 今まで知らなかった近すぎた存在の時枝を知れば知る程に惹かれていたのは事実だった。
 もしかしたら弘夢を忘れられるかもしれないと期待もした。
「結局色んな男にフラフラする奴って事か」
 色づき始めた木戸の胸の中が、再び白黒に戻っていく。
 そして、木戸の足はそのまま車を走らせ、ある場所へと吸い寄せられていった。

 暫く車を走らせ、閑静な住宅街の一角で車のエンジンを止めた。
「ハァ……」
 溜息と共に見たそこにはマンションがあった。
 道の端に車を停め、外にでてタバコを加える。
 別に会えると思って来た訳ではない。ただ、弘夢がいる場所の近くに来たかっただけだ。
 今は何となく、気分的にそうしたかった。
 タバコを何本か吸ったら帰ろう、そう思っていた時だった。
 マンションの扉が開き、中から出てきた人の姿を見た木戸はドクンと大きく心臓が跳ねた。
「弘夢……っ」
 どこかに出掛けるのか、その辺に買物にでも行くのか、ラフな格好だったがスラリとしたその姿はやはり綺麗だった。
 そして木戸は無意識に走っていた。
 夢中で走っている最中、ポケットの中で震えている携帯電話に気付かず、木戸は弘夢に向かって走っていた。




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(T△T=T△T)oジタバタ

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貴方の狂気が、欲しい 32話

「今、我々の島で何が起こっているか分かるか?」
「え……いえ」
 その時ふと時枝の脳裏にここの所起きている島荒らしが浮かんだ。
「子探しだよ」
「子探し?」
「そう。<ruby>暁明<rt>シャオミン</ruby>の母親は身籠っていたんだよ」
「まさか……」
 時枝は目を見開いた。
「そうだ。ガキに犯された母親は悪戯にガキを孕ませられた」
 時枝は顔を歪ませた。
「何て事……」
 大きな組織に守られ、何不自由なく過ごして幸せな家庭を持った女性の絶望と、家族に与えられた衝撃は想像するのも痛ましかった。
「勿論、そんなグループとは絶縁状態だ。戦争にならなかったのが奇跡としか言えない……いや、あの親父の力量だ。さすが俺の親友だよ」
「親友?」
「そうだ。あいつの母親は中国で生まれ育った日本人で元は俺の友人だ。俺達は大学の時からいつも一緒だった。勿論最初日本人など嫁に貰うのは反対だと言われていたが、あの親父は純粋に<ruby>愛理<rt>アイリ</ruby>を愛していた」
 時枝は由朗の昔の話しなど初めて聞いた。
 懐かしそうに目を細めて話す由朗の顔は、初めて見る顔だった。優しげで悲しげで、思わず抱きしめたくなるような哀愁すら漂っている。
「香……お前だよ」
「……?」
 訳の分からない由朗の言葉にただ耳を傾けるが、スッと時枝を見た由朗の目が鬼のように恐ろしく見えた。
「お前が、その孕んだ子だって言ってるんだ」
 
     * * *

 頭を巨大なカナヅチで殴られたかのような衝撃だった。
 今の今までどういう風に自分が呼吸をしていたかが分からない。息を吐き過ぎて苦しいのか、吸い過ぎて苦しいのか。
 「嘘だ」と大声を出せる程自分の出生を知らなければ疑うような生い立ちもない。それが真実味をただ色濃くしていった。
 自分なら有り得る、と。
「愛理は、本当は逃げ出したんだよ。デカイ腹抱えて、真っ先に俺の所へ助けを求めてきた。生みたいって、悔しそうに泣きながらな。細くって骸骨みたいな身体に腹が異様に膨れて見えた。ずっと縛られ続けていた手首やら首には色素沈着する程の痣があった」
 時枝は吐き気がして口元を抑えて床に倒れ込んだ。
 それでも、やけに響く由朗のゆっくりとした話しは鼓膜に届いて来る。
「もう、精神ギリギリの状態だって分かったから、俺は生まれるまで匿ったよ。ニューヨークの、チャイナタウンに場所を移させてな」
 街の名前を聞いた途端、自分を「香」と呼んだ女の人の影が一瞬脳裏に過った。ハッキリと思い出せない顔だったが、小さく頭に響くあの声は母親だったのかと思った瞬間、嗚咽に襲われた。
 何千メートルも底がある夜の海に放り出された気がした。広く黒い海で足も着かず、ただ精神力が捥がれ、泣き叫んでも誰もいない。そんな感覚だった。

「うっ……ッぁ……」

――何だ、私は? この罪深さは何だ?!
 
 今まで何も知らずに生きてきた事事態が更に罪を重く感じさせた。
 手足に何十キロもある枷を付けられたかのように身体が重く動かない。

「身体が落ち着いた愛理を、家の近くに落として、暫くしてからお前を迎えに行った……どこでどう疑われる事になったのか分からないが、お前を探しに李が動いている」
 瞬きもしない時枝の目からは止まる事なく涙が頬を伝っていた。床に黒い染みが幾つも作られる。だが泣く行為すら罪に加算される気がした。
 由朗の話を聞きながら、時枝は一つの言葉だけを繰り返していた。

――ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

「由朗……さまも……」
 
(今まで私を憎んでいましたか?)

「……さぁな」

 か細く掠れた声で、憎んでいたに決まっている答えに、何を質問をしているのかと途中で言葉を止めたが、その質問に由朗は曖昧に答えた。
「もし、由朗さまが私を育てていたと知れたら……」
「まぁ……エライ事にはなるだろうな」
 由朗が落ち着いたトーンで葉巻を吸いながら言う。



 そこからどういう会話をして、どう屋敷を出たか覚えていない。
 とにかく木戸の声を聞きたかった。




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貴方の狂気が、欲しい 31話

 時枝は木戸との事をきちんと話しをしなければと思い、久し振りに屋敷の方へと行く事にした。
 木戸に言えばきっと反対されるので、心配させないように仕事のフリをして屋敷へと向かった。

「お帰り、香」
 待っていた由朗の部屋は霞が掛ったかのような煙が充満していた。
 一呼吸めにいやに甘い香りが鼻腔をつき、二呼吸めにジンと頭が痺れるような感覚になった。
「由朗さま、またこんなものを」
 時枝は口元にハンカチを当てた。
 言ってみれば軽いドラッグのようなものだが、これは独自に後進国で作らせたものでまだあまり出回ってはいない。
 中毒性は殆どなく、必要な時だけ気分をハイに出来る代物だった。だが怖いのは、脳神経を鈍らせる作用がある為、記憶が混乱する事だった。
 実験では、この煙の中で刷り込まれる記憶は一種強い思い込みの究極のような作用で記憶の改ざんすら出来る事が分かっている。
 それを避ける為に、その作用を抑える植物を同時に研究していた。由朗はその葉から出来るお茶を飲んでいた。その葉に含まれる成分に一番効力があるからだ。
「お茶、飲まなくていいの?」
 時枝は由朗に差し出された小さな器に近寄った。
 時枝が受け取ろうとした時、由朗はスッと器を引いた。
「飲ませてあげよう」
 時枝は静かに由朗の前で膝まづき、顔を上げ口を少し開いた。
 由朗はニヤつきながら時枝の細い顎を無理矢理開きお茶を強く流し込むと、時枝は気管に水分が入って息が詰まった。
 どくだみのような風味が鼻を抜ける。
「んっ……っ」
「お前は約束を破ったね、香。私は怒っているんだよ?」
 時枝は咳き込みながら濡れた口元を袖で拭った。
「ゲホッ……も…うしわけ…ございません」
「全く……私の楽しみが減ってしまった」
 由朗は高級そうな葉巻きを加えて火を点けた。
「由朗さま。私は本気で慶介さまを愛しています。だから、これからは慶介さまの言いつけだけを守っていきたいのです。勝手な事を言って申し訳ありませんが、どうかお許し頂きたい」
「慶介が本当に香を好きになると思う?」
 由朗は子供に意地悪をするような目つきで言い放つと、同時にモワリと紫煙が口から出てきた。
「……忘れさせて欲しいと、言って下さいました」
 由朗は葉巻の煙を深く吸い込み、それを時枝の顔に吹きかけた。
 時枝の黒くサラサラとした髪が揺れる。
「へぇ。慶介、香にそんな事言う程忘れられない子なんだね。弘夢くんって」
 時枝の腹部に鋭い痛みが走った。
「香。暁明シャオミンたちのグループは少し他の組織と変わっているのを知っているか?」
「……?」
 由朗の突然の会話の流れに時枝は理解出来なかった。
「彼らは宗教や習わしのせいもあって家族は大切にするようにと育てられている。裏切ってはいけないとね。だから絆は深い。恐らく世間一般でいう家族の絆も深いのだろうが、それよりも少し病的にだ。そんな環境の中、暁明シャオミンの母親が一度誘拐された事があった」
 そんな話しは一度も聞いた事がなく、また何故そんな話しを急にしだしたのか分からない時枝は、ただジッと聞く事しか出来ないでいた。
「グループ総出で母親を探し続けていたが全く居場所が分からずに一年半程経ったらしい。そんな中、急に母親は見つかって戻って来たらしいが、その時には既に精神を病んでいたんだそうだ」
 時枝には家族間でのそういう独特の悲しみは理解出来なかったが、きっと辛かったのではないかと想像した。
「結局、犯人はビジネスで付き合いのあったグループの息子だった。その息子、当時まだ中学に上がる前だったんだと。今もだが、元々イカれている奴だったんだよ。交流もあって顔見知りだったそいつに油断して、買物の途中拉致されて監禁されてたって訳だ」
「そのグループ内で拉致監禁している事実は分からなかったのですか?」
 時枝が静かに聞く。
「あぁ。小さい頃からの奇行で既に向こうの親も見放していたようだ。放任し過ぎてそいつの天下だった事もあって何人かの使用人もたかがガキ一人に脅されて共犯していたらしい」
 暁明シャオミンにそんな過去があったとは思いも寄らなかった。
 それだけ家族を大切に思ってきた彼らだとしたら、その時の怒りや悲しみは尋常ではない筈だ。

(暁明シャオミンさま……)




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暁明の過去が… (*゜Д゜)

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貴方の狂気が、欲しい 30話

 時枝のほんのり桜色に染まった白い顔を見た暁明シャオミンは目を丸くした。
「どうしたの……恥ずかしがるなんて。今までそんな顔一度だってしなかった君が」
「時枝」
 木戸の厳しい声に少し焦りながら謝った。
「木戸さんの前で恐縮なんだけど……すごいそそられて困るなァ」
 暁明シャオミンが豹のように獲物を狙う目をし、ペロリと舌舐めずりをする。
「悪いが時枝はもうそういう行為はしない。どうしてもというならそれ相応の情報をやろう」
「き、木戸さまっ……暁明シャオミンさまにもですか?」
 時枝はてっきり木戸が自分の嫌がる相手に対してそういう処置をとってくれているのだと都合良く解釈していた。だから自分が大丈夫な取引相手にはある程度ビジネス出来ると思っていたし、損を最小限に抑えられるとも考えていた。
「は? 当たり前だろ……何だ? この男には特別いいと言うのか? お前が嫌じゃないから?」
「え……あの……確かに私は暁明シャオミンさまなら別に大丈夫ですし、少しでも上手く交渉が」
「てめェの都合なんて聞いてねェんだよ、俺が気に食わないんだよ」
「あ……」
 様子を窺っていた暁明シャオミンは事情を把握して楽しそうにお茶を啜った。

 暁明シャオミンからは何も要求されなかった。
「面白いものが見られたからいいです」と送り出してくれた二人は無言のまま木戸のマンションへ帰った。

(気まずい……私のせいでまた木戸さまを怒らせてしまった)
 
 時枝は溜息をついた。

(どうして私は木戸さまの気持ちが考えられないんだろう)

 木戸は荷物を置くと、再び玄関へ戸向かった。
「き、木戸さまっ……どちらへ……」
「どこでもいいだろ」
「で、でも……この後は別に仕事はない筈では……」
「仕事じゃねぇよ。他の奴とヤりたくなったから出てくるだけだ」
 時枝は冷水を頭から浴びたように感じた。
「申し訳ありませんでしたッ……あの、私暁明シャオミンさまとしたいとか、そういうのではなくてッ」
「いや、もういい。行って来る。お前は部屋から出るな」
「木戸さまッ」

(行かないで!!)

 バタンとドアの締まる音を目の前で見て、時枝はそのまま床に座り込んだ。
 自分のせいというのもあった。強く行かないで欲しいと叫べなかった。
 
 カチ、カチ、カチ、と時計の針の音がいつもより大きく広い部屋に響いていた。
 時枝は明かりを点けたままベッドに潜っていた。
 一人で寝るシーツはいつまでたっても冷たいままで、時枝の身体を冷やし続けていた。
 窓の外が青く光って来たのを見て、漸く電気を消す。

(今頃他の人を抱いているのだろうか)

 ズキッと胸が痛む。
 今頃木戸の体温を自分ではない人間が共有していると想像した。途端に身体はどんどん冷えていき、反比例して体内にマグマのような熱の塊が大きく膨らんできた。
 ガチャッと玄関の音がして、暫くすると部屋のドアが開いたのが分かった。
 静かな足音で、それが木戸だと確信した。
 直ぐに飛び起きて顔を見たいのに、ジッと息を潜める様にして寝たふりを続けた。
 木戸は服を脱ぐと、そのままベッドに入って来た。寝る時の木戸は大抵ボクサーパンツ一枚だ。
 時枝は妙に緊張したが、木戸は時枝に触れる事もなく反対向きに横になった。
 そっと目を開けて木戸の姿を確認する。
 背中に幾つか真新しい引っ掻き傷と、首にキスマークにも見える赤みが付いていた。

(木戸さま……その傷を付けたのは誰ですか……その子を殺しても、いいですか……)

 傷に触れる寸前まで手を伸ばし、そのまま触れずに手を引いた。そして時枝は声を殺して涙を枕に染み込ませた。

 次の日、いつものように接してくる木戸に、最初はぎこちなかった時枝だったが「お前がイイ子にしていれば俺は他に用はない」と宥められ、そのうちにいつも通りに戻った。
 全ては自分のせいだから受け入れるのが筋だと、そう思う事にした。
 そうこうしているうちに、由朗からの呼び出しがあった。



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木戸の奴めェーっ
木戸の奴めェーっ(o>Д<)o

そして皆さま!
ハッピーバレンタイン。゚+.ヽ(´∀`*)ノ ゚+.゚

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貴方の狂気が、欲しい 29話

 時枝と木戸は派遣していた男と待ち合わせて近くの事務所へと赴いた。
 少し遅れて入って来た男は走って来たのか、少し汗ばんで見えた。
 一度や二度では覚えられないような、一般的な顔をした中年の男だ。
 男は上手い事声を掛けてきた奴からその周りへと人脈を素早く広げ、下っ端を仕切る男の持つ資料を写真に収める事が出来たと言ってパソコンにデータを送った。
 男はしきりに鼻を啜りながら素早く小型カメラに収めた資料内容を拡大した。
「これは、リスト?」
 見覚えのある名前や店など何千件もリスト状になっていた。まさしく木戸の関わる人物や建物、グループなど全てだった。
「うちのグループそのままひっくり返して代わりになろうってのか」
 木戸は静かな苛立ちを見せた。
「でもですね、時枝さん。アタシが接触したリーダーの男、事情は知らないみたいでしたが、陳グループの一人でしたよ」
 その言葉に時枝と木戸の表情が硬くなった。
「陳だと……」
「はい、間違いありません」

(暁明シャオミン……)

 陳グループは日本に入って来ている中国マフィアの一つだ。規模は小さいが、暁明シャオミンのいる巨大中国組織、李グループの傘下にいる。
 木戸たちは昔から無視の出来ない中国の巨大組織と上手くビジネス関係を結ぶ為に李グループと手を結んできた。
 これまで友好な関係を築き上げられてきたと思っていたのはこちらだけだったのだろうか。
 時枝と木戸は瞬時に最悪の場合を想像して険しい顔になる。
「そう言えばここ最近お前に同行して取引先に行ったがどうも実のない話ばかりだったな……あれはお前を渡さなかったからかと思っていたが」
 木戸が時枝の横顔を見た。普段ならちょっと気まずそうにする時枝だが、真剣に考え込んでいる為表情は何も変わらなかった。
暁明シャオミンの所へ行く」
 木戸が電話を掛けながら席を立つと、すかさず時枝も車の用意をする為慌ただしく動いた。

 夜にアポイントの取れた木戸たちは日本らしからぬ、敷地内へと入って行った。
「いらっしゃい。木戸さんは久し振りですね」
 出迎えてくれた暁明シャオミンは長い黒髪を一つに束ね、濃紺の絹生地に小さな白い花の散りばめられた中国服に身を包んでいた。
 木戸は久し振りにこの男を見たが、気高い美しさは相変わらずだと思った。
 物腰が柔らかく気品があって、それでいて頭が切れる。
「どうぞ」
 広すぎない客間は中国の皇帝が使うんじゃないかと思いそうな、上品で上等な家具で纏められた部屋だった。
 使用人が香りの高いジャスミン茶を静かに用意してくれる。
「最近の俺たちのグループを狙ってる奴の動きは知ってるな?」
 気の短い木戸はお茶を楽しむ事もせずに話を切りだした。
「君に誤魔化しは出来ないからね。イエスと答えておくよ」
 椅子に肘を掛け、指で顎を支える姿は木戸とそう変わらない体格のにも関わらず妙に妖艶さを醸し出させている。
 木戸はこの男に妙な親近感を感じていた。それは今に始まった事ではなく、恐らく初めて会った時からずっとだ。
 だからと言って近づくには危な過ぎる相手であり仕事上難しい。
 時枝がこの男に妙に心を許している節があるのも最近では気に食わなかった。

(食えない男だ)

「情報も渡す。それに殺したい奴を何人でもリストを挙げて貰えれば殺る。だから知ってる事は全部言って貰いたい」
 暁明シャオミンはスッと真剣な眼差しになった。
「正直俺もそんなに核心を知っている訳じゃないんだが……どうも嫌な予感がするんだ。何がって、内部から動いてるからね」
「内部?」
「そう……俺達の組織図を良く知り、確実にポイントを突いて潰しに掛ってきている事からも内通者がいるか、もしくは内部の人間の仕業か」
「まさか……でもその方が納得がいくな」
 木戸が険しい目をする。
「元々潜り込んでいたスパイが今動いたって線もありますね」
 時枝の発言に二人も頷く。
「俺の探っている範囲ではまだこちらにはそれらしき人物は出て来ない」
「え……もう調べて貰っているんですか?」
 驚いた時枝に暁明シャオミンが優しく微笑みかけた。
「木戸さんたちとはこれからも上手くやっていきたいし、その為に信用度を下げたくないからね。……それに俺は時枝が大好きだから力になりたいんだ」
 時枝はふわっと頬が熱くなった。




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続き遅くなりました~ッ(>_<)
すみません!
ちょっと仕事でトラブルもありましてゴタゴタしてました;
新しい子も入り、社内引っ越しもあり、やっと今日時間がでけたー!
という感じで(´Д`A;)
いつもスローですみません;;

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貴方の狂気が、欲しい 28話

「好きっ……貴方が好きっ……」
「もっと言えよ」
「愛してます」
「そんなにいやらしく腰を振って……中でイかせて欲しいのか?」
 時枝は顔を横に振った。
「慶介さんの……僕の中に欲しいから……んっ、んっ」
 そう言ってまた懸命に木戸の身体にしがみ付き腰を振る時枝に、木戸の体温がグンと上昇した。

「ああっ、おっきくなっ……ああんっ」

――可愛い。

「今『僕』って言っただろう」

――可愛い。

「やあっ」
「もう一度言えよ」
「あっ、あっ……ぼくの中にっ……出してくださ……っあっ……や…イっちゃうッ」

――可愛い。

 木戸は一旦ペニスを時枝の中から抜くと、ベリッと付けていたゴムを外した。
「あ……っ…なま」
「俺の精子が中に欲しいんだろ? だったらこんな物付けていたら出してやれないだろ?」
 時枝はコクっと素直に頷いた。

――あぁ。何だかな……この間抱いた時より可愛いのは何でだ。

 仰向けの時枝の腰を持ち上げる様にして足を広げた。
「穴、広がったまんまだ。中が見えるぜ?」
 木戸の言葉に反応したのか、入り口がヒクリと動いた。その中にゆっくりと再び入っていく。
「どうだ? 生は?」
「あっ……さっきより硬いのがっ……分かる……っ」
 肉棒の神経一本一本を舌で吸われるような気持ち良さが下半身を包む。
 溶けてしまいそうな気持ち良さに木戸の腰が震えた。
 前後に動かすとその快感は倍増し、キツく締め上げられる度に息をするのも忘れる程気持ちいい。
 木戸の一番感じる亀頭の段差の部分を、時枝の一番感じるコリコリとした部分――恐らくは前立腺の辺り――で擦ってやると、互いの理性は完全に切れた。
「ハァっ、ハァっ、ハァっ、すっ……げぇ」
 木戸は真下にある時枝の立ち上がった乳首に吸いつき、前歯で挟むと引っ張り上げた。
「やああああっ、イクぅぅううんんッ」
「あああああーッ」
 少年のような声質に艶をたっぷりと含んだ時枝の声に混じって、木戸の荒々しい叫び声が混じった。
 時枝の中で何度も肉棒がビクついて液体を飛ばす。その震動は大きく時枝に伝わり、時枝の身体もそれに合わせてビクついた。その度にベッドがキシッ、キシッと小さく音を立てた。
 
「なぁ……忘れさせてくれるか……弘夢を」
 耳元でそう言われた時枝の瞳に涙が浮かんだ。
 自分の上に被さる大きな身体をギュッと抱き締めて、「忘れてください」と答えた。

 時枝はその日から木戸のマンションに帰るようになった。

(私たちは付き合って……いるのだろうか)

 「忘れさせて欲しいと」言った木戸だったが、『付き合ってくれ』とは言われなかった。
 それでも帰る場所はここにしろ、と命令された時は嬉しさにどうにかなってしまいそうだった。

(少しずつでいい。何年かかっても、私だけを見てくれる日がくるなら)

 そして時枝はこの事を由朗に話してどうにか説得しようと決めていた。
 時枝の仕事に関しては、木戸が同行し、時枝に身体以上の情報を渡す事で相手を納得させる事にした。
 そんな事をしては自分たちが大損害だと木戸に言ったが、「俺にずっとイラつかせるつもりか」と言われ従う事にした。

(考えてみれば私のとった行動は随分と自分善がりだったのかもしれないな)

 自分が弘夢に来て欲しくないが為に、木戸が嫌だと言っていた行為を行った。木戸の気持ちを考えるべきではなかったかと反省もした。
 そんな事を考えているうちに、何だか恋人同士のような錯覚に襲われて気分が一人高揚したりした。
 相変わらず料理はあまり作らせては貰えなかったが、それでも二人で食べるという空間がくすぐったい。
 身体も求められる回数が増えた。
 木戸から甘い痛みを受ける事も多くなり、少しでも離れれば身体が疼いた。
 そんな折、工作員から連絡が入った。




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貴方の狂気が、欲しい 27話

 時枝は、自分が泣きそうな顔をしている事にも気付かず、その出された手の方へ引き寄せられた。
 近づくと、木戸の手が強引に時枝を隣に座らせた。
「何か……知らねぇけど、嫌だったんだよ。お前が他の奴とそういう事するのが」
 時枝は木戸の言葉を一つ一つ聞きながら、ジッと顔を見た。木戸の言葉に乗せられた彼の気持ちを理解しようと必死に。
「どうして……ですか」
 木戸の鋭い目が時枝の視線を捉える。
 木戸の大きな手が時枝の白い頬を撫で、親指が柔らかい唇を撫でた。
「分かんねぇ……けど、気になるんだよ」
 木戸の親指が歯列を割って中に入ってきた。
 時枝はそれを舌で捉え、味わうように絡みつかせた。
「吸えよ」
 親指が根元まで入ってくる。
「んっ」
 驚いてつい歯を立てたが、木戸はジッと見つめるだけだった。
 時枝は目を細めながら舌全体で指を包みながら優しく吸った。無意識に前後にスライドさせながら、それを木戸の肉棒に見立てて吸う。
「そうやってしゃぶってきたんだろ?」
 その通りだ。
「そんな顔してやったのか」
 かぶりを振る。
「ケツん中も、弄らせたのか」
 答えない。答えない事がイエスだと、木戸には分かっている。
「俺とヤった事で、他の奴とやれたとか……痛ッ」
 時枝は木戸の指を噛んだ。そして、睨んだ。切れ長の美しい目は睨むとまた美しさが鋭くなる。
 木戸の指が口からヌルリと抜け出る。
 木戸は時枝を睨み返しながら自分の親指についた歯型に舌先を這わせた。
 時枝はゆっくりと顔を近づけ、同じようにそこに舌を這わせた。
 舌先同士が当たり、絡み合った。時枝の顔が熱く火照る。
 ゆっくりと指を退けられ、木戸の顔が近づいて来た。
「キスは? されたか?」
 目を少し逸らし、コクっと頷いた。
「クソッ」
 木戸の大きな身体が急に圧し掛かり、ソファに押し倒された。そして唇を激しく塞がれ、口内を蹂躙された。
 唇も舌も噛みつかれ、息も出来ない程のキスを繰り返しされて唇が少し腫れた。

――木戸様、怒ってる……。嬉しい。

 そして時枝は再び木戸を受け入れた。

 二度目でもやはり本物を受け入れるのは緊張した。
 そしてここが木戸の寝室だという事も、緊張する理由の一つだった。
「あっ、あんっ……あんっ」
「キツくて……気持ちいいよ」
 車の中と違って木戸が思い切り身体を動かせる分、時枝も気持ちが良かった。
「エロい声だな……もっと張り上げろよ」
 木戸が木製のヘッドボードを掴み、勢いよく腰を打ちつけてきた。
「アンッ……あっアンッ……あっ…すご……あぁっぁッ」
 ギシッ、ギシッと木戸の腰に合わせてベッドが軋む。
 木戸に自分のモノを触るのは禁止と言われ、時枝は何度も中を突かれてはそのまま射精した。
 射精しそうな時は必ず木戸にしがみ付いた。木戸はそんな時枝が可愛くてイク時の顔を強制的に見せた。
「やぁっ……そんなに突いたらまたっ……また出ちゃっ」
「時枝、俺を見ながらイクんだ……ホラッ」
「あっ、あっ、イクっ……慶介さっ……」
 時枝が感極まって名前を呼ぶのが好きだった。
 ドクドクと触りもしない時枝の肉棒から白濁の液体が流れ出る。それでも、そんな射精はゴールではないとでも言う様に、時枝は切な気な表情で木戸にしがみ付きながら下から腰を振った。





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貴方の狂気が、欲しい 26話

 一週間が過ぎた。
 時枝は木戸と電話やパソコンでのやりとりは頻繁に行っていたが、直接会えないでいた。
 それでも、ずっとこのままでいられる筈もなく、今再び木戸のマンションに再び足を踏み入れていた。
 気まずくて顔を上げられず、目もろくに合わせていない。
 久し振りの木戸に、全てのしがらみを別次元へ放って喜んでいる自分もいた。
「何か久し振りだな」
 木戸が缶ビールをテーブルに置いた。グラスもなく、そのまま缶から飲んでいる。
「珍しいですね……木戸様がこういう……庶民的な飲み方をされるのは」
「あ? そうでもねェよ。一人だと結構飲むし、前はひ……」

――弘夢のマンションに居た時にはやっていた……か。

 木戸は「まぁ、俺もこう見えて結構普通なんだよ」と眉間に皺を寄せてビールを飲んだ。
「お前も飲め」
「はい」
 木戸の座るソファの横に一人分のスペースを空けて座る。
「後は送り込んだ奴が声を掛けられるのを待つって感じか」
 時枝が缶をプシュッと思い切り開けると、中から泡がムクムクと溢れて零れた。それをジッと無表情で見た時枝は静かに棚にあるグラスを持って来ると、そっとそれに注いで飲んだ。
「そうですね。結局末端の奴らを買収してる奴らもまた末端の末端。中にはその日だけ雇われたバイトってのも結構居た始末で、何人も目くらましに人を介しているのでなかなか張本人に辿り着かないという巧妙さ。気持ちが悪いものです」
 時枝は軽く溜息をつきながらネクタイを少し緩めた。艶っぽい鎖骨が白いワイシャツから覗く。
「まぁ……直ぐに引き摺り出して叩き潰すだけだ」
 ビールを飲んだ後の、時枝の濡れた唇に木戸の視線が行く。時枝は無意識に長くなった前髪を片方だけ耳に掛けた。細い顎のラインが露わになる。
「お前、俺との約束破ってねェだろうな」
 時枝の心臓がドクンと一つ大きく鳴った。
「あの……やはり……仕事に支障が……ですから……」
「守れなかった訳か」
 時枝は小さく「はい」と答えて謝った。

(だって……由朗様の言う事を聞かなければ私の代わりに彼がまた来る)

 酷く叱られるのを覚悟をしていた時枝だったが、木戸は何も言わずにただビールを飲んだだけだった。
「あの……怒らないのですか……?」
「お前の言う好きってその程度だって言う事が分かっただけだ」
 木戸は冷めた目で飲みほしたビールの缶をグシャっと潰して新しい缶を取りにソファを立った。
 時枝の鼓動が速くなった。心臓が脳に移動したかのように、ドクドクと頭が脈を打つ。
 怒ってくれた方が自分への想いがまだあると思えた。だが、信頼を無くし、好きという気持ちの程度を軽んじられた。

(違う。そうじゃないッ。私は……)

「何だ」
 時枝は木戸の前に立っていた。
 冷たい視線は、この間の木戸の視線と随分温度差の分かるものだった。まるで男娼を見る様な目。
 木戸は時枝の横をスッと通り過ぎてソファに座りタバコに火を点けた。
 木戸を後ろから見る。
 黒髪が少し掛る木戸の首から、雄の色気が沸き出ている。ついこの間、このタバコを吸う度に動く首筋が自分の顔横で激しく動いていたのを思い出す。
 もう二度とあんな風に触れては貰えないのかと思うと、木戸の整った横顔が滲んでぼやけてきた。
「私が働けなかったら……生きている意味がなくなります」
「私を拾って下さったのは、由朗様だから……言う事だって聞かないといけないんです」
 小さな声で、自信なさげにボソボソと言い訳を言う。

(無様な……)

「私は……この間よりもっと穢れてしまいました。木戸様に嫌われるのは……無理ありません……私はあの子のように純白ではない。……多分最初から濁って、灰色だったと思います」
「……分かってたよ。お前がこの約束守るのは不可能だって事くらい」
 木戸が低い声で煙を吐き出しながら答えた。
「まぁ、穢れてないと言えば嘘になるが……お前は……綺麗だと思う」
「え……」
 時枝はドキリとした。
「お前の立場で、俺の約束は……まぁ無理だろう。……でも、それでも今までよりは酷でェ行為を抑えられるんじゃねぇかって……」

(それは……どういう……)

 振り向いた木戸は、「こっち、来い」とソファ越しから手を出した。




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貴方の狂気が、欲しい 25話

「どうして彼の事を……」
「私は自分で言うのもなんだけど親バカだからね。何でも把握したいんだよ」
 時枝の動機が激しく鳴る。
「慶介様は、もう弘夢くんの事は、諦めました」
「君がそう仕向けたんじゃないの? 慶介はまだ彼の事好きだろう?」
 心臓にヘドロを掛けられたように重く苦しいものが胸に埋まっていく。
「もし私がもう一度彼を慶介に渡したら、きっと喜ぶと思うなぁ。ちゃんと教えてビジネスだって出来るようになれば最高じゃないか。慶介も幸せだろうし」
 弘夢には最愛の人がいる、と言ったところで由朗には関係ない事は明白だ。それも承知の上での話だろう。
 弘夢から自然と淳平を奪い、途方に暮れさせたところで巧みに引き寄せる。簡単な事だ。だが時枝はその脆い二人を守りたかった。
 理由は二つ。好きな人と居られる幸せが理解出来た事と、二度と木戸に逢わせたくないからだ。
 時枝は自分がきちんと今まで通り仕事が出来なければ弘夢が来る。だが今までと同じ事をすればする程自分は穢れていくし、木戸の言いつけなど守れない。
「香……慶介に抱かれたね?」
 時枝は冷や汗がブワリと身体中から出た。
 盗聴器か発信機か、何か身体に埋め込まれでもしたのかと思ったが由朗がすかさず答えた。
「お前に何もしてないよ。会話だけで分かる」
「勝手に……申し訳ありませんでした……ですが私は慶介様が」
「はぁ……。悲しいね。私は裏切られた訳だ」
「ちがっ……」
「ここまで引き取って面倒みて……何か、失望したよ。香」

――失望。

 その言葉が思った以上に罪悪感を湧き起こした。
 今まで自分の生きる道を与えてくれた由朗に失望された。時枝の白い額に汗でしっとりと濡れてきた。
(捨てられる……)
 木戸さえ居ればそれでいいと思っていた筈だった。だが由朗に見放されると実感した途端子供の様に追い縋りたい気持ちになった。
(どうして……)
「よ、由朗様……申し訳ありませんでした……言いつけを守りますから……だから」
「まぁ、しちゃったものは仕方がない。来月屋敷に来なさい。いいね?」
「はい」
 少しの会話の後、電話を切った時枝は深呼吸をした。
 時枝が深い溜息をついて振り向くと、山崎が調子に乗って若い店の男の子の頬をべロリと舐めているところだった。男の子は引き攣って、笑っているのに泣きそうな顔だった。
「山崎様。大変お待たせ致しました。では交渉致しましょう。先程の件了解致しました。先に情報を頂けますか」
 山崎が顔をあげ、男の子は解放された。気の毒な男の子はキッチンの入り口でしきりにおしぼりで頬を擦って拭いているのが見えた。
「全く、時枝くん遅いよぉ。さぁ、こっちへ来て!」
「失礼します」
 山崎の分厚い手が時枝の肩を掴み、荒い鼻息が顔に掛かる程近づいた。
「例のグループね、とにかく手当たり次第って訳でもなく木戸さんの息の掛かっている所を中心に末端の奴らだけを虱潰しに買収してっているようだよ」
 山崎はそう言ってやたら柔らかく酒で湿った唇を押しつけてきた。
(うちのグループを狙って?)
 ヌルリとした舌が遠慮なしに侵入してくる。オヤジ臭のようなものが一緒に口内に入ってきて気分が悪くなる。
 こんな時は五感のスイッチが切れればいいのにと思う。
 執拗に舌の裏や歯茎をなぞり、味わうように時枝の唾液を吸い取っていく。
「ハァ……本当、今日は一段といいよ時枝くん。スゴく甘い味がする。何かあった?」
 上から見下ろし、自分の恥部に肉棒を突き刺す木戸の色っぽい顔が浮かんだ。
 下半身がジンと熱くなる。
「ホラ! その表情! そんな色っぽい顔されたらもう我慢出来ないようッ」
 山崎が時枝の手を掴み、自分の堅く上向いた股間を触らせた。
「ねぇ、もう少し教えてあげるからその可愛いお口でしてくれないかなぁ?」
 時枝の中で吐き気にも似た全拒否が渦巻く。だが由朗に言われた言葉が再び染み込んで諦めが広がる。

(これは今までと同じ、仕事だ。仕事を上手く回す事も木戸様のお役に立てるという事)

 そして時枝は以前と同じ冷たい蝋人形のような表情になった。




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27日分の予約投稿がおかしくなっていたかもしれません!
すみませんでした m(_ _;)m

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貴方の狂気が、欲しい 24話

「いやあ、やっぱり君はいいねぇ! こんな綺麗な子と一緒に仕事が出来るなんて本当、木戸くんが羨ましいよ!」
 昔から取引先の常連として付き合いのある山崎だった為、邪険にも出来ないのが辛いところだ。
「ねぇ……時枝くん。君、何かスゴク色っぽくなったんじゃない?」
 時枝は、山崎がその気になる前に話をサッサと切り出した。
「山崎様、申し訳ありませんが本日はこの後も急な仕事が入っている為、早速ですが本題に入らせて頂きます」
「え! そうなの!? 何だよせっかく君を行かせるって木戸くんが言ったって杉田が言ってたから」
 さっきは白々しく木戸の事を聞いてきたタヌキ親父に時枝は溜息すらつかずに淡々と無表情のまま話を進めた。
 「今、他の所もそうですが、歌舞伎町でも大分どこの誰とも知らないグループが末端から人を買収しだしているんですがご存じですよね」
「ん? あぁ。そんな事も起きているようだね」
 山崎はスッと視線を逸らして意味を含んだような言い方をした。そのまま自然と間を空けるように酒に手を伸ばして乾いてもない喉を潤す。
 情報を聞き出すとすれば、山崎の要求を飲むかどうかの交渉になる。
 金で解決出来るビジネスならたやすいが、こちらが不利になる情報を要求されると厄介だ。その他、自分たちの手を汚さずに片付けたい物事を頼まれるのも結構苦労する。
 荒があれば警察にも口をきかないといけなかったりと意外と手間も掛る。
 手持ちの情報は商品みたいなもので相応に手渡せる札は幾つもあるが、山崎のような代々付き合いのあるところだとなかなかそれが通用しない。
 だがうまい事に、父親の代からこのバカ息子へと代わり、要求されるのは身体ばかりだった。
 会社としてはその方がベストだ。
 そういう企みもあって由朗は交渉の担当は見目のいいものばかりを行かせた。
 時枝も例外ではない。
「教えてあげるからさ、ちょっといいだろう? な。時枝くん」
 すり寄ってきた山崎は時枝の手を握った。
「わぁ、なんて柔らかい手だろうね! スベスベだ」
 山崎のザラついた頬に手の甲をスリ付けられて痛い。そして気色悪い。
「この美しい手で何人もこの世から消しているなんてね……ゾクゾクするねぇ」
 時枝は人形のように眉一つ動かさなかった。
「山崎様。そういう事は外では仰らないで下さい」
「ハァっ……そうだね。悪かった。フゥ……ね、キスくらいいいだろう? ね? 今日の君にはすごくキスしたいんだよ」
 時枝は困った。
 今まで身体を繋ぐ事以外、断った事がなかった。断ってはいけない事くらいは承知していた。由朗が良しとしないからだ。
 だが、木戸には他の奴に触らせるなと言われた。
 そしてこれも仕事。

(どうしよう……やはりここは筋を通す為に由朗様に相談してから……)

「あの……山崎様」
「んん? 何?」
 山崎がもう身を乗り出して鼻息を荒くしている。
「私事で申し上げにくいのですが、ちょっと諸事情がありましてこういった行為を行う前に由朗様に一つ電話を掛けたいのですが宜しいでしょうか」
 山崎は不機嫌そうに拗ねた表情を見せて「早くしてよ?」と許し、直ぐにスラリとした感じのボーイを側に呼んだ。
(全く。一時も触っていないと気が済まないのでしょうか、あの方……)
 道端の小石を見る様に、チラリと山崎を視界に捉えてから由朗に電話を掛けた。
「香? 私だ」
「あ、お忙しいところお電話すみません。ちょっと急ぎでご相談したい事がありまして」
「あぁ、何?」
「あの……山崎さまと仕事で今一緒にいるのですが、その、キスをしたいと仰っていて」
「……それで?」
「申し上げにくいのですが、木戸様から他の奴には触らせるなと命令されまして……」
「香」
「はい」
「香は誰に雇われているんだっけ?」
「……由朗様です……」
「誰が慶介の為に働けと命じた?」
「由朗様です」
「うん。だったら慶介の命令など意味はない。キス一つで情報が入るならするのがお前の役目だろう?」
「……はい」
 キス一つ、という言葉で木戸としたあの甘いキスを思い出した。感情の伴ったキスはとても大事に思える事を知った時枝は、由朗の考えに違和感を感じた。
「仕事、出来るね? 香。出来なかったらお前に用はない。あの弘夢くんだっけ? あの子にでも来て貰うかな」
 時枝は頭から冷水を被せられたように血の気が引いた。




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貴方の狂気が、欲しい 23話

 時枝がシャワーから出ると、木戸が丁度電話を切ったところだった。
「何かありましたか」
 タオルを腰に巻いただけの姿の時枝は、上半身に由朗に付けられたキスマークを桜色に浮かせていた。
 木戸は冷たい目で流しただけで、何事も無かったように仕事の話を切りだした。
「今連絡があった。やはり裏でデカイ組織が色んな所を買収してるようだ。それも歌舞伎町以外でも既に手広く寝返らせてるって話だ。いつの間にこんな勝手に遊ばせてる?」
 木戸の静かな物言いが空気を余計にピリピリと凍らせる。
「申し訳ありません、直ぐに大元を割り出して来ます」
 時枝が素早く着替える姿を、木戸はじっとりとした視線を絡みつかせていた。その視線にゾクゾクする。
 そんな木戸の視線を背に、まだ濡れているままの髪を無造作に時枝は持っていたゴムで一つに縛った。
 白く細いうなじが誘うように露わになる。
「行って参ります」と出て行こうとする時枝の細い腕を木戸が掴んだ。
 時枝が驚いて振り向くと、顎をグイと強く掴み上げられた。
「今までみたいに他の奴らに身体触らせるなよ?」
「し、しかしそれではもしかしたら情報も頂けないかもしれ……」
「俺は命令してるんだよ」
「……はい」
 返事を聞いた木戸は漸く手を離してシャワー室へと入って行った。
 もしかすると、これ以上汚れればもう木戸に触れて貰えないかもしれないと焦った。

(由朗様に事情を話せばどうにか許して貰えるだろうか)

 時枝は車に乗り込み六本木へと向かった。
 身体が気だるい。
 これから一つ契約の確認をしに行かなくてはならないというのにも関わらず、信号待ちをする度に木戸に触れられた感触を思い出して身体が熱くなった。
 まだ体内に木戸が入っているような錯覚さえ起こす程生生しく身体がその形と大きさを覚えている。
 さっき部屋を出る時、木戸は以前のようにとても素っ気なかった。仕事の事だから切り替えたという考え方もある。
 だが他の奴には触れさせるなと言う。
(自分の玩具は他人に遊ばれたくない……とかそういう感じでしょうか)
 時枝は今一つしっくりこないこの状況を、取り敢えずは仕事だけに集中しようと頭を切り替えた。

 六本木はサラリーマンやら外国人やらで賑わっていた。
 少し小道の中を行くと表の賑わいはなく、落ち着いた住宅街の雰囲気があった。
 あらかじめ連絡を取り、指定された店の前で車を停めた。
 随分とモダンなレストランにも見えるバーは、直ぐに階段を下りて地下へと店へ入るように出来ていた。
 薄暗い店内は耳触りにならない音量のジャズが心地よく流れていた。
 出迎えた三十半ばぐらいの長身の店員に名前を告げると、奥の方へと案内された。
「おお、時枝くん。あれ? 木戸くんは?」
 若い店の女を横に置いてニヤついた顔の男を見て時枝の足が止まった。
「山崎さん。いらしてたんですか……。杉田さんから連絡を頂いていたのですが」
「あぁ。彼にね、代わって貰ったのよ。僕も時間あったし、久し振りに君の顔を見たかったしねぇ」
 五十代前半の山崎は恰幅のいい金持ちという感じだった。ロマンスグレーを綺麗に整えて、一千万近くする時計を普段から気軽に付け、誰が見ても物がいいと分かる光沢のスーツを着こなしている。
 歌舞伎町の中でもとりわけ大きな島を持っている男だった。
 正確には、代々政界に努める家系の息子だが、長男が表で代議士を務める傍ら弟のこの男は裏稼業を管理して儲けている。
 歌舞伎町の島をビル一つ分でも持っていればそれだけ上がりも多く入るので相当な儲けになる。特にあそこの区域は一つのフロアに所狭しと店が入っている。
 だから隣の店がどこの小さな組かグループの管理している所かは分からずとも、場所代と売上の一部を払う大元が一番強い。
 簡単な話、その一人がこのいやらしい顔をして女の太股を弄っている男という訳だ。
 時枝はまさかこの男が来るとは思っていなかった。以前この男とは何度か身体の付き合いをした事があったが、こちらの監視に金を掴ませて無理に抱こうとした事もあった。
 時枝自身、この男は苦手の部類に入る。
 木戸の温もりが残っている今は特に誰にも穢されたくない。
「時枝くぅん。何、久し振りじゃない? こっちへ来なよ! あぁ、君はもういいから」
 山崎はつまらないゴミでも捨てる様に女を席から追い払う。
 時枝は少し距離を離して斜め横のソファに腰を掛けた。すかさず山崎が間を詰めてきた。




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*この話はフィクションであり、実際の場所や団体とは一切関係ありません。

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貴方の狂気が、欲しい 22話

 服を多少乱れた感じで着ていても、二人とも雑誌から出てきたモデルのように見える。
 車を出て、木戸に腕を取られながら歩く時枝は頬をほんのりと赤く染め、瞳と唇を潤ませながら俯き加減で懸命に歩いた。
 歩く震動で肉棒の中に入っている棒が動いて声を漏らしそうになる。
 更に、後ろには精子が流れ出さないようにとスペードのような形をした栓をされていた。
 時枝から流れ出す異常なまでの色気はホテル内の人間を一瞬で惹きつけた。
 木戸はそれを知りながらエレベーターの中に入り、ドアが閉まる前に時枝の唇を塞いだ。
「も……だめ……歩けな……ハァっ」
 部屋のドアを開けるなり、時枝は床に倒れそうになった。それを木戸が方手で抱きとめ、そのままキングサイズのベッドへと運んだ。
「お前、イったら多分そのまま意識が落ちるからな。ここの方がいいだろう」
 木戸が何かを言っている。言っている単語は聞き取れるが、もう文章を理解出来る状態じゃない。
 服を脱がされているのが分かる。
 そして身体全体が暖かく、滑々とした大きな弾力あるものに包まれた。
 カチャリカチャリと戒めが解かれていく。
 その度に精子が吹き出しそうになる。絶頂前の快感で頭がおかしくなりそうだった。
「時枝」
 木戸の低い声がやけにハッキリ聞こえて目を開けた。
「抱いててやるから。好きなだけ暴れてイけ」
 そう言って木戸が器具を抜き取った。
「ひッ……あッ」
 尿道を通り抜けた棒の摩擦で一度目の射精の快感を味わった。そこから押し出されるように白濁の液体が上下に動く肉棒の先から飛び散った。
 小さな電流を尿道に流されていた為、射精の快感が半端じゃなかった。
「ぃっ…やあああァァァッ……やあッ……んんッ」
 ベッドのスプリングが大きく跳ね、時枝の上半身が仰け反った。激しい快感に身を捩り、再び中でオルガズムまで軽く引き起こした。
「ひッ……ひッ……ッ」
 ビクンッ、ビクンッと痙攣する毎に白い液体が撒き散らされる。激しくビクつく時枝の身体を木戸が優しく抱き締めた。すると段々と痙攣も小さくなっていった。
 なかなか止まらない射精は木戸の身体も汚した。
「きもち……ぃぃぃ」
 薄れる意識の中で、人肌が想像以上に気持ちいいと分かった。それが木戸の素肌なら尚更だ。
 壮絶な快楽の果てで、時枝は安心と至福の気持ちのまま意識を手放した。

       * * *

 目を開けると健康的な肌色が見えた。
 少し顔を上げると、木戸の端正な顔が眠っているのが見えて驚いたが、しっかりと抱き締められている事に気付いて慌てた。
 静かに焦る時枝に気付いたのか、木戸が目を開けた。
「何だもう起きたのか」
「あのっ……私、一体っ?」
「イイ暴れっぷりにもう一度ヤりたくなったよ」
「えっ?!」
 ふと木戸の胸元を見ると幾つも真新しい引っ掻き傷が出来ていた。
「でもこれ以上ヤったらお前壊れそうだったしな。やめといた」
「も、申し訳ありま……痛ッ」
 起き上ろうとすると後ろの入り口にピリッと痛みが走った。恐らく切れてしまっているのだろう。
「悪かったな……何度も車ん中で……でもお前も悪い」
「何故ですか」
「……。お前も悪いんだ」
「?」
「いいから……もう少しここにいろ」
 キョトンとした時枝を強引に木戸は腕の中に入れて抱き締めた。
 時枝はおずおずと木戸の背中に手を回してみた。
 別に拒否をされないのでギュッと抱いてみると、木戸もギュッと抱き締め返してくれた。
「お前の肌は気持ちがいいな」
 もしかしたら木戸もこうして同じ位の力で抱き締め合うのは初めてなのかもしれないと思った。
「もし死ぬ時を選べるなら、私は今がいいです」
「だったら、俺が殺してやるよ」
 木戸がさっきよりも強く抱いてきた。息が少し苦しいのに、泣きたくなる程嬉しかった。
「はい。それは最高の死に方です」

 そのまままた少し眠ってから目を覚ますと、随分と派手に汚れていたのに気付いて恥ずかしさに俯きながらシャワー室へ入った。
 時枝がシャワーを浴びている間に新しいスーツを届けさせていた木戸が、どこからか響く携帯のバイブレーションに気付いた。
 音は、時枝の着ていたスーツのポケットから鳴っていた為木戸が電話に出た。




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貴方の狂気が、欲しい 21話

 本来性行為として使うべき場所ではない所に、木戸のペニスを突き刺され犯される快感にどうしようもなく興奮した。痛みを感じれば感じる程にだ。
 中は幸か不幸か色々と開発はされており快楽を直ぐに引き出す事が出来た。
 だがそれ以上に好きな人と繋がった事実は泣きたくなる程の幸福感を時枝に与えた。好きな人に抱かれる事がこんなにも嬉しいとは思わなかった。
 時枝は涙を浮かべながら小さな声で「嬉しいです」と呟いた。
 木戸は下半身にズンッと重い衝撃を受けた。それが精神的な興奮を受けた身体への影響だと気付いた時には腰を思い切り叩きつけて肉棒を奥まで突き刺していた。
「アアアァァァーッ」
「お前が悪いんだよ、時枝」
 木戸が時枝の足を持ち上げ座席の背もたれに押しつけた。
「あァあんっ」
 殆ど真上から犯す形で木戸の肉棒が激しく出たり入ったりしているのが見えた。
 木戸は腰を激しく下から上へと動かしながら突いた。信号で車が停まる度に車体が大きく上下に揺れて、歩いている人の何人かは振り向いて怪訝そうな顔をしていた。
「ああんっ……アアッ……」
 入り口の痛みはやがて痺れに変わり、出し入れされる度にカリ部分がある場所を摩擦した。性器とは違う身体の奥から快楽が大きく沸き上がってくる。
「そこっ……あっ……あっあっ、あんっ」
 木戸はその声に合わせて突く。
「おっと忘れてた」
 そう言って思い出したように貞操具の最後のベルトをカリ部分に締め付けた。その状態で尿道に入った棒も同時に腰の動きに合わせて出し入れさせた。
「やあああァァんんッ」
「どうだ? 二つ同時に犯されるのは」
 性器を締め付けられた分だけ出し入れされる棒の摩擦が強い。
 もう破裂してしまいそうだ。
「イクぅうううう」
 時枝は身を捩って座席にしがみついた。
 白い腰が激しくビクッ、ビクッ、と動き「ひっ……ひんっ」と可愛い声を漏らしながら足先まで痙攣させた。
 木戸は中でドライオルガズムを引き起こしている時枝に構わず腰を打ちつけた。
 パン、パン、という肌のぶつかる音、激しい布擦れ、甲高い掠れた声、ギシッ、ギシッという車体の音。
 それらを意識すると余計に木戸のピストンが速まった。
 意識が朦朧とし始めている時枝に、木戸は貞操具についていた小さなスイッチを押した。
「うあぁああああ」
「軽い電気と震動が棒に流れてきただろう? もっと気持ち良くなってくる。でも射精はまだだ」
 木戸は力の抜けた時枝を座席にうつ伏せにし、今度は後ろから突いた。
「んっ、んっ、んっ、あんっ、あんっ」
 突くリズムに合わせて高い声を出す時枝の横顔で我慢も限界に達した。
 時枝の汗をかいた肌を初めて見る。白い肌が艶々と光って綺麗な筋肉の動きを一層艶めかしく見せていた。
「中に出すぞ」
「あッ、あッ、あんッ」
 絡みつく時枝の内部は絞り取るようにして吸いついてきた。あまりの気持ち良さに、木戸の腰もビクッ、ビクッと軽い反応を起こしながら体液を何度も奥へ飛ばした。
 木戸の体液の感触を感じているのか、時枝はトロリとした目で空を見つめ、指を自分の唇へ当てる形のまま尻を震わせていた。
「おなか……あつぃのが……ぁん」
 いつもキビキビと話す時枝とは思えない舌のもつれた話し方に、まだ体液の残りを数滴飛ばしている途中だというのに木戸はペニスを硬くさせていった。
「やっ……すご……またっ」
「反則だろ……」
 木戸は再び腰を振り始めた。



 車内の電話が鳴った。
「なんだ」
「木戸様、お取り込み中申し訳ございません。もうすぐ目的地に到着です」
「分かった。ならグリーンヒルホテルまで行ってくれ」
「かしこまりました」
 電話を切ると、再び激しく腰を動かし時枝の中に射精した。これで三度目だ。
「も……イかせて……くださ」
「何言ってるんだ。イきっぱなしだろう」
「ちが……射精を……っ」
 結局ずっと射精をさせて貰えず、ずっと中でイかされ続けた時枝の性器は限界だった。
 時枝の長いまつ毛は涙で濡れてマスカラでも付けたように際立って見えた。
「じゃあもうホテルん中で外してやる」
 時枝は必死の目でコク、コク、と頷いた。




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貴方の狂気が、欲しい 20話

「でもその前に少しお仕置きだな」
 木戸は直ぐさま意地の悪い目つきで妖しい笑みを浮かべながら貞操具のベルトを一つ一つ丁寧に締めていった。
 特注で作らせているそれは赤い皮で出来ていた。結構な長さの皮がぶらりと垂れ下がっていた。
 木戸は時枝の柔らかい玉を綺麗に左右二つに分け、太股の付け根をぐるりと回す様に締めた。赤い皮のベルトが時枝の白い肌によく映えた。
 玉も太股もベルトが食い込んでふっくらと丸く際立っていやらしい。木戸はその膨らんだ部分を撫でながら、時枝のあまり血管の浮き出てないゴツさのない綺麗な肉棒を掴んでベルトを締め始めた。
 触れられる所は気持ちがいいのに根元がとても苦しい。
 カリ部分にも締められる金具が付いていたが、まだ尿道の中はプラチナの棒で満たされてはいなかった為締められなかった。
 車は何事もないように信号で止まる。窓の外を見てみれば結構な渋滞と人の波があって驚いた。
 外から見れば真っ黒な窓も、中から見れば透明な窓ガラスとあまり変わりはない。それが丸見えなんじゃないかという錯覚を起こす。
 外を気にする時枝の不安気な顔を見ながら木戸はゆっくりと後ろに指を、前には棒を同時に入れていった。
「ぅ……あァァァアーッ……ひっ……ぃんっ」
 身体中の神経が前と後ろに集中する。五感の全てが触感に変わってしまったようだった。
 時枝の瞳にじわりと涙が浮かぶ。それをトロンとした目で見ながら木戸は後ろの穴に指をもう二本入れ込み、広げたり閉じたりして解している。
「ハっ……ハっ……ハっん……慶介さ……んっ」
 木戸の前髪が胸に触れた。
 途端にピリっとした突き抜けるような快感が乳首から全身に行き渡って時枝の上半身が仰け反った。
 木戸の前歯が時枝の硬くシコった乳首を強く挟んでギリギリと潰す。
「あああんッ……やあぁっ……出ちゃ……いま……っ!」
「どこから何を出せるんだよ?」
 木戸が挑戦的に笑って更に金具を尿道の奥へと進めた。もう後少しで根元に到達する。
「ヒッ……あ……ア……」
 木戸は続けて容赦なく後ろの一番イイ場所を探り当て、三本の指を交互に使って絶え間ない刺激を与えてきた。
 時枝の腰はガクガクと勝手に反応し、それに抗う事もせずに射精感を募らせた。
 もう後少しで射精するまでに上り詰めていた。精子たちが根元に集まってきたのが分かる。後は興奮に溺れてそれを勢いよく何度も放てば最高の快楽を味わう事が出来る。
「できないよ」
 木戸が心を読んで答えた。
 それでも身体の内側でビクンッ、ビクンッと絶頂に達したのが分かった。根元から先に進めない精子が内側に溜まって苦しい。
「だ……出させてくださ……ぃぃん」
 掠れた透明な声が木戸の耳元で甘える様にねだる。
 木戸は首元がゾワリと粟立った。久し振りに眠っていた狂気が目を覚ましそうになる。
 いっそこの可憐な男にあらゆる痛みを与えて、それを喜びに変え、そして人形のような顔を沢山歪ませてみたいと思った。
「好き……です……早く来て……くださっ…ぃ」
 好きだと言われる度に感じる安堵感と幸福感。それは弘夢と一緒に居ても貰えなかったものだった。
 時枝の事を素直に可愛いと感じた。こんなに可愛かったかと寧ろ新鮮だった。
 弘夢の時は遠慮なしに理性を飛ばせたのが、時枝が相手だと少し勝手が違う。まるで長年の親友をある時から意識するような、妙な緊張があった。
 それでも興奮は上昇し、木戸の指は無意識に四本を入れ込んでいた。

――コイツの中はどんな感じだろうか。
 腕が時枝の中で包まれる感触を想像して甘い唾液が沸いた。
「はやく」
 時枝の声を聞いて弾かれるように指を抜き、時枝を座席に座らせた。だがきちんと座らせるのではなく、だらしなくズリ落ちるような体制にさせ、時枝の長い足を自分の腕に引っ掛けて尻を持ち上げた。
 木戸は自分の肉棒を掴んで柔らかくなった入り口に強く押し当てた。
「よく見えるだろ。今から入れるからよく覚えておけ……入るところと、感触と、お前を犯す俺の顔を」
 太くて熱い木戸の肉棒が無理矢理捻じ込まれると、入り口がピリッとした鋭い痛みを感じて腰が跳ねた。脳天まで突き抜ける痛みに息を止めたが、木戸が入ってくるところを再び見た。
 少し切れた入り口からは血が出ていた。それでもゆっくりと捻じ込まれる赤黒い肉棒を見て、そして上から見下ろす木戸の顔に欲情した。




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