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それから58話

☆18禁です。多少痛そうな描写があります。ご注意下さい。

「はっ・・ああんっ木戸さん!いやっイっちゃうっ・・中でイっちゃう!」
「ほら、リングが通ったよ。綺麗だ、弘夢。」
 プラチナのビーズリングが両方の乳首に通され、木戸の指が輪の中に入り込むと外側へと引っ張った。乳首はツンと前へ引っ張られ、同時に激痛が走る。
「きゃああッ」
 そして同時に何とも言えない快楽に、弘夢の腰は激しく前後に揺れて大きくアナルの筋肉が伸縮した。
「イクぅぅぅううーッ」
 中でイった弘夢は小刻みに尻を痙攣させた。木戸は後ろから弘夢の両腕を掴み、固定してその動きを見て楽しんだ。押さえつける腕を緩めると、グッタリと木戸の胸元へ倒れ込む弘夢を木戸はギュッと抱きしめる。乳首は痛みと快楽と刺激に大きく突起し、赤く腫れていた。
「可愛いね。でもプレゼントはまだあるんだ。今度は前を向こうか。」

 肉棒を突き入れたままクルリと抱き合う形になると、木戸は乳首にしたものよりも大きなリングのピアスと、更に太く長いニードルを用意した。
「ここにもするぞ」
 そう言って弘夢の鈴口に人差し指を付けられ、弘夢はイった余韻のある身体を強張らせた。
「ヤダっ・・そんな所に・・怖いっ」
「大丈夫だ。ここにも俺の印を付けたいんだ。どこもかしこも・・印を付けたい・・」
 木戸は乳首から垂れてくる鮮血の雫に舌を這わせてその鉄の味を絡め取る。そしてそのまま弘夢の血液で口紅を塗った様に赤くなった木戸の唇が弘夢にキスマークを付けて行く。
「はっぅうんっ」

 木戸はベッドに置かれた自分の鞄から消毒液を取り出すと、中から白いゴム手袋も取り出し両手に嵌めた。冷やりとする液体をペニスに塗ると、赤茶色の消毒液の色が付いた。
そして穴を開けるポイントにマークを書くと、木戸は手に持った太い注射針のようなニードルに麻酔ジェルを塗る。丁度木戸の人差し指と同じ位の長さの針だ。
「勃起している方が穴を開けやすいから、後で貞操帯は外してあげよう。」
 そう言ってツプリと尿道に刺し込まれた。一気に冷や汗が出るような痛みが全身を駆け巡る。下手に大声も出せない程の衝撃でなるべく深く息をした。
 こんな場所に穴を開けられ金属を嵌められ、これでもう二度と他の人とは交われない身体にされてしまったと感じた。

 痛みは徐々に興奮へと変換される。身体が心を守るための防御策のように自然とそうなるようだった。
 穴は無事に開いたが、その後のピアスを入れ込むのに少し手間取った。だが木戸が一生懸命に作業する姿は何だか愛おしく感じられた。
「出来た」
 木戸が作業を終えて手袋を外すと、その直後に首輪に暗証番行を入れて鍵を抜き取り、貞操帯を取ってくれた。
 貞操帯を丁寧に外されると溜まっていた精子が一気に出そうになる。
「あぁあ・・出るっ・・出るっ・・あっ、あっ、あああーーッ」
 ビュル、ビュル、と粘着度の高い精液が木戸のスーツに飛び散った。
「きも・・ちっ・・きもちいぃぃ、木戸さんぁあん」
 精子が尿道を通る瞬間の摩擦は何でこんなにも気持ちがいいのだろうか。弘夢は放心状態になる。
「お前のイク顔は最高だな。もう誰にも見せるなよ、弘夢」
 木戸が弘夢の頬にキスをする。
「は・・い・・」

 プラチナのビーズリングが弘夢の尿道と亀頭の裏のカリ首部分に貫通して通されて光っている。
 木戸は自分のペニスを入れたまま弘夢を仰向けにし、鞄からワインレッドの乗馬鞭を取り出した。その間にも木戸は容赦なくスーツのズボンから出したペニスを激しく出し入れしている。
 その揺さぶりに弘夢のピアスの付いたペニスは大きく揺れ動く。木戸は弘夢の腰を更に上に上げるようにし、ベッドの壁に片手を突きながら鞭を後ろの弘夢の尻に振りおろした。
パチッと激しい音がすると、弘夢はイク時のような艶めかしく歪んだ顔を作った。
「あぁぁあんっ・・すご・・い・・すごいですっ・・ああんっ」
「もっと叩いて欲しいか?ん?」
「はいっ・・もっとっ・・」

 木戸は腰を揺らしながら激しく鞭を弘夢の胸元や太股、腹や尻などに容赦なく鞭を振るった。無数の赤くミミズ腫れした弘夢の白い肌は木戸のキスマークと一緒に痛々しくも妖しい華を咲かせた。
「ダメダメっ・・そんなにしてはっ・・イっちゃいます!ああんっ」
「俺ももう我慢ができないッ。お前の中に出すぞ、弘夢ッ」
 スパートをかけるように連続的に強く弘夢の尻に鞭を当てながら激しく腰を振ると、弘夢の中がギュゥゥッと締まり、その刺激で木戸は強制的に射精へと誘われた。
「あぁぁッ・・弘夢ッ・・は・・ぁッ」
「イクっ、イクっ・・ああーッああーッ」
 次いで弘夢も鞭の刺激で2度目の射精をした。ビュビュッと激しく精液が自分の顔へと飛び散った。

 木戸は鞭を放り投げて弘夢の上へ覆いかぶさり、強く抱きしめてキスをしてきた。
「愛してる、弘夢」
  弘夢の中で静かに脈打つ木戸の性器を感じながら、その泣きたくなるような木戸の愛を感じて、自分の非道な心に押し潰されそうになって木戸の背中に回した。
 こんな恋人同士のような事を弘夢がするのは初めてだった。
 木戸は少し驚いたような顔をして弘夢を見て、そして弘夢の唇をいつまでも優しく貪った。
 
 部屋のドアの向こうでは、木戸に言われて二人のクリスマスケーキを用意した時枝が中の様子が落ち着くまで待機していた。
 そして氷のような瞳から結晶のように煌めく涙を薄く浮かべる時枝が居る事を、二人は知る由もなかった。



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それから57話

★20禁です。排泄シーンがございますので、苦手な方は閲覧にご注意下さい。

「お前、俺が見てるの知っててやってたのか?」
「んっ・・はいっ・・あっ・・あっ」
 木戸の形の良い目が細く笑んだ。その目を振り向いて見ながら弘夢は再びパチンッ、パチンッと叩いてみせる。その痛みにペニスは小さく反応するが、普段木戸に叩かれる刺激を欲していた。
「こんな可愛いお前が見られるなんてな。良いプレゼントだよ、弘夢。」
 艶を含んだ木戸の声がして、ピシャンッと激しく尻を叩かれた。

「ひっぃやっああんっ!!」
 弘夢のペニスがビクンッと大きく反り返り、腹にピタンッと当たる。例えようのない快感が身体を駆け巡る。こんな事をしないと満足の出来ない身体になった事を羞じる気持ちも既に薄れかけて来ていた。そして今はただ、木戸にめいっぱい彼流に愛されたかった。
「こんなに赤くして・・綺麗だよ。まるで華が咲いた様だ。」
 赤くなった肌にヌルリと木戸が舌を這わせる。その温かみが痛みに沁みてゾクゾクする。
 木戸は自分の大きなペニスをスーツのズボンのチャックを下げてそこから取り出した。

「咥えろ弘夢」
 四つん這いでベッドの上を這って赤みの帯びた艶のある唇を大きく開いて口内へその肉棒を飲み込んだ。
「ご褒美をやろう」
 そう言うと突如として弘夢の口内に熱い液体が流し込まれ、それは直ぐに口いっぱいになると口端から流れ出た。咽そうになるのを木戸は頭を掴み喉奥へと更に液体を流し込む。
「んーッ・・ゴホッ・・んッ」
「全部飲みなさい」

 弘夢は苦しさと驚きで涙を浮かべながらもゴクンゴクンと喉を鳴らして塩辛いその液体を体内へ取り込んだ。木戸は弘夢の髪を掴んで顔を上にあげ、弘夢の表情を楽しんだ。弘夢から見える木戸の笑みはマイナス50度のような美しく残酷な笑みに見えた。
 木戸の尿を飲み虐げられる感覚は、認めたくないが至福にも似た快感を弘夢にもたらした。
弘夢の鈴口からは大量にカウパー液が溢れだしベッドに落ちていく。
 そして木戸は放尿が終わると肉棒を弘夢の口から離し、上から弘夢の頭を撫でた。弘夢はそれが何だか一番愛されてる感じがして少し嬉しかった。

「イきたいっ・・木戸さん、イきたいですっ・・」
「今日は初めての二人きりのクリスマスだからな。いいだろう。」
 腕まくりをしながらローションを足すその姿に少しドキっとする。どうしても淳平と姿を重ねてしまう弘夢は身体の内側から疼きが募る。
 木戸はベッドに座り、弘夢を後ろ向きに抱く様に自分の上に座らせるような形をとった。木戸の眼下からは結合状態が良く見える。そして弘夢の中に大きくて熱い肉棒がズプズプと埋め込まれてきた。
「あああんっ・・待っ・・これっ外して下さっ・・ああッ」
 射精を塞き止められている貞操帯を触ってお願いをするが、木戸は意地の悪い顔で口角を上げる。木戸は意地の悪い顔で笑った顔が一番魅力的に見える。そのエリートサラリーマン紳士のような大柄な男が作る正反対の悪魔の微笑みはある種、究極に美しかった。
 
 スルリと深紅のローブを抜き取ると、艶めかしい弘夢の汗ばんだ裸体が現れた。身体をうねらせる度にその動きにしなやかな筋肉も一緒に動くのが見える。
「ほら、自分で出し入れしてみなさい、弘夢。そう、上下に動いて自分でペニスを突き挿すんだ」
 木戸に言われるままベッドのバネを利用してギシギシと上下に動き、ヌチャヌチャと抜き挿しをする。
「ああんっ・・木戸さ・・気持ちいぃ・・ああんっ」
 木戸は後ろから自由に動くその形の良い尻と腰のうねりを見て楽しむ。そして弘夢の上半身を自分の胸元に引き寄せて抱きしめた。そして耳に冷たい唇を付けられる。

「今からピアスをしてあげるから、じっとして」
 その艶めかしい低い声で耳たぶを痺れさせて麻酔でもかけるのかと思った。
 木戸は麻酔の入ったジェルを弘夢の立ち上がった乳首に塗った。まさか乳首にピアスをするとは思わなかった弘夢はうろたえた。
「あのっ・・そんな所にピアスは・・」
「黙りなさい」
 悪魔の命令は甘く痺れるような恐怖を与える。動かずとも中に突き刺されたままの木戸のペニスの刺激で前立腺はだんだんと勝手に運動してくる。

 だが、目の前に長く尖ったニードルを持って来られた弘夢はさすがに恐怖した。
「いやっ・・針なんて・・怖いです!止めてッ」
「お前は、これすらも良くなるよ・・」
 素早く木戸が針を乳首に突き刺すと、若干麻酔の効いた乳首に鈍痛が走った。
「あッ・・うッ・・い・・たいッ・・ギッ」
「ほら・・よく見て。私が針をお前の乳首に刺すところを・・」
 木戸は弘夢の耳の軟骨をコリッと噛みながら針が貫通するのを見る。
「い・・や・・」
 恐ろしさに目を瞑るとズキン、ズキンと痛みが心臓の音のリズムに乗ってやってくる。だが、その度に恐怖心に反して下半身は熱を持って行った。
 麻酔ジェルを塗ったと言っても木戸は少し痺れる程度の強さしか麻酔を効かせていない。乳首の中を金属が通される感触が生々しく伝い、血液が少しずつ弘夢の白い胸に伝った。
 それを後ろから見た木戸が舌舐めずりをする。そしていつの間にかその胸の痛みを感じる度に自分から腰を揺らしている弘夢を見て、思わず弘夢の細い肩に歯を立てた。



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前回弘夢がクリスマスプレゼント、とコメントでかやさまが言って下さったお言葉、
素敵でしたので急遽引用させて頂きました~♪ありがとうございます☆
クリスマスだからって羽目を外す木戸ちゃま。^^;
20禁すみません~(;´Д`A ```


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それから56話

☆18禁です

 淳平から貰ったクッキーは甘かったが、自分の涙のせいで少ししょっぱい味がした。弘夢は少しでも淳平の残り香を体内に取り込もうとクッキーを食べた。
 自分にこんなに未練が残っていたとは思わなかった。まだこんなに好きな気持ちは鮮やかに色褪せる事がない。そして淳平を想い焦がれる静かな情熱の炎で、不死鳥のように再び恋の気持ちが蘇る。
 だが淳平は幸せだと言っていた。それだけが救いのような気も、絶望のような気もした。今まで散々自分が払いのけていた方だったが、いざ自分から離れて行く淳平に改めて傷つくなんて都合がいいと感じて自嘲した。

 次の日のクリスマスは木戸が早めに仕事を切り上げて弘夢の元へ来る予定だった。
 一人ホテルで深紅に白い椿の柄のある絹のローブを来て窓の外を見る。深い赤色は弘夢の白く滑らかな肌に艶っぽく映える。サラサラの絹は陶器のような肌質の弘夢の肌にツルツルと滑る様に纏わりつく。丈の長いローブは少し引きずる様にして歩くと、その姿はまるで闇の中を泳ぐ金魚の様だ。

街は今幸せな想いの人たちで溢れているのだろうか。もし、普通に淳平と付き合う事が出来ていれば、一体どんな風に過ごしただろうと考えて頬を染める。
 今まで想像すらする事を抑えてきたが、そこの鍵は壊れてしまったように自由に脳内で淳平との時を巡らせる。
 たった一度交わった時の激しい想い出に浸ると、下半身に強い締め付けを感じた。
「ん・・キ・・ツ・・ハァ・・」
 足に掛るローブを肌蹴させると、下着も一切付けてない弘夢の肌が露わになった。弘夢の性器部分は射精の出来ない貞操帯がきつく弘夢の強制的に勃ち上がらせたペニスを締め上げていた。
 鈴口からは、想像をすればする程にタラタラと透明な液体が糸を引いて流れ落ちて行く。
 以前射精させてもらってからまた何日も許して貰っていない。そして淳平と会ってから弘夢の欲望はどんどん膨れ上がっていった。
 立っている事も辛くなった弘夢は大きなベッドに仰向けになると、両足を広げた。足に掛る深紅の布地がサラリとベッドに落ちる。
 弘夢は立ち上がって熱を持った自分のペニスを優しく擦り上げる。

「んあぁぁ・・ああぁ・・あん・・あぁ・・」
 射精出来ないのは分かっていたが、触らずにはいられない。膨張する度にギチギチと締め付ける痛さにも快感を感じておかしくなりそうだった。
「ひ・・ぁぁぁ・・も・・ダメぇ・・あぁんんっ」
 自分の指に唾液を絡ませるとヌチャリとアナルに入れ込んだ。
「あぁぁっ・・も・・や・・ぁぁっ・・早・・っく」
 浮かぶのは噛みつくような淳平の鋭い目だった。今入っている自分の指を淳平の指に変換すると、ビクンビクンとペニスが波打った。その度に透明な液体はタラリ、タラリと弘夢の腹に流れ落ちる。

(早くっ・・誰か・・どうにかして・・木戸さん・・)

「ああっ・・あっ・・ああんっ」
 どこかに設置してあるだろうカメラと盗聴器の先にいる木戸に向けて煽る様に声を出す。今までこんな事をした事がなかった。だが、自棄にも似た感覚の弘夢は唯一満足させてくれるであろう木戸に助けを求めた。どんな形であろうとも、自分を本気で愛してくれている相手にしか満たされない部分があった。利用するようで心が痛んだが、それ以上に痛む心が意識を麻痺させる。

(ごめんなさい・・木戸さん・・でも・・もう・・)

 弘夢は四つん這いになると、ローブをまくって白く肉付きのいい尻を突き出した。

(見てますか・・木戸さん・・)

 再びアナルに自分の指を突っ込みながら、ペニスを摩っていた左手で尻たぶをギュッと掴んだ。
「あ・・・んっ」
 爪が食い込む程に掴むと、痛みが痺れるような快楽になっていく。
 パチンッと自分の尻を叩くと、ペニスがビクンッと大きく跳ねた。
「きゃっ」
 自分で叩くのは初めてだった。まさか自分でも痛みを与えてここまで快楽を得られるとは思わなかった。
 叩いた場所がどんどんとピンク色に染まってくる。ベッド横にあるローションを指に付け足し、ヌチャヌチャと激しくアナルを解すと同時に、パチンッパチンッと自分の尻を叩いた。
「いや・・ぁぁ・・ああんっ・・あっ・・イイっ・・ああぁ・・」
 
 そしてカチャリとドアの開く音に顔だけ向けると、薄く笑みを浮かべた木戸が入って来た。
「木戸さ・・ああっ・・早くっ・・んんっ」
「珍しいな。弘夢・・そんな風に俺を誘うなんて。見てたよ、ずっと」
 ここの設置されたカメラの画像はオンタイムで木戸の携帯から見られる。
 カチャンッと鍵を閉める音がして、木戸が上着を脱ぎながら近づいて来る。そして弘夢の付きだした尻の前に来ると、激しく動く指を見ながらネクタイを緩めた。
「今日はお前に渡すプレゼントが届いたよ。」
「木戸さん・・ああんっ・・イきた・・いっ・・ですっ」
「綺麗な特注のピアスだ。俺が付けてやるからな」
 木戸は鞄の中からプラチナのリング型のピアス二つと、それよりも大きなリング型のピアス一つを素敵なブルーの、婚約指輪の入っていそうな箱から取り出して見せた。
 弘夢はそれを見てゾクリと身体を粟立たせた。



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ちょっと久し振りの木戸×弘夢です。
え~真夏のクリスマススペシャル。明日は20禁かもです^^;
いくら暑いからと真冬の話を書いても雰囲気が;というツッコミは承知でございます。
すみません・・
あ、でも丁度24日と25日だ!8月ですけど!今気付きました!!
無意識なのに凄いぞ、私!( ゚Д゚ノノ"☆パチパチパチパチ←一人で何を・・;


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それから55話

 淳平は弘夢と別れてから一旦会社の駐車場に車を置き、その足でバーへ行った。今夜は何だか一人でゆっくりと落ち着くまで飲みたい気分だった。
 街中のネオンがそら寒い身体を何となく紛らわしてくれるような気がして、無意識に賑やかな方へと足が向いた。その中でも雰囲気の良い落ち着いた地下にあるバーを見付けて中へ入った。
 レンガと木造作りのそこは主にランプの明かりのみに頼る薄暗い場所だった。
 静かなジャズの音楽が邪魔にならない程度の大きさで流れている。客もちらほらとまばらに座っている。独りの客も居れば、二人もいる。
 淳平はカウンターに座りタバコを取り出すと、中にいたウェイターがサッと灰皿を目の前まで移動させてくれた。気遣いの行き届いた店だ。
 店員は落ち着いた声で注文を聞く。

「何に致しましょう」
 ふと見上げると、なかなか端正な顔立ちをした男が白いワイシャツを腕まくりし、黒いベストに身を包んで微笑んでいた。自分よりも幾分若い印象だ。
「じゃあ、モルトウィスキーをワイスアップで頼む」
「かしこまりました」
 今晩は、あのウィスキーの豊潤な香りを楽しみながら飲みたい気分だった。弘夢の幸せを願い、これからの幸せも願い、クリスマスイブのこの一時だけは弘夢だけを思って飲みたかった。
 クッキーなんて子供じみたものを渡すなんて、どうかしていると薄く笑っていると、目の前にチューリップ形の薄い飲み口のグラスに入った黄金色の酒が用意された。
 薄いグラスの方が口当たりも柔らかく良い上に、モルト本来の風味が損なわれない。ここのウェイターは一番美味しい飲み方をよく知っているようだ。
 欲を言えば手の温度が伝わらない脚付きのグラスならもっと良かったのになどと思いながら口に含む。



 小1時間程飲んでタクシーで帰宅すると、家の中は既に真っ暗になっていた。
 渡はもう寝てしまったのだろうかと静かに玄関の戸を閉めてリビングの扉を開け、電気を付けると渡が用意していた晩御飯が二人分ラップが掛けられ、そのテーブルの上にうつ伏せになっていた。
「渡・・?」

(用意してくれていたのか・・)

 淳平の声にピクリと反応して顔を上げた渡の目尻は真っ赤になって頬には涙の痕が付いていた。
「どうした?」
 すると渡がガタリと席を立ち、淳平の胸に飛び込んできた。
「先輩っ・・先輩っ・・」
 渡はもう淳平が帰って来ないと思っていた。
 先日時枝と連絡を取った渡は、弘夢があの店で働きだした事を知ってピンと来た。
 あの時、確実に淳平と弘夢は会ったのだと。
 弘夢と会ってしまっては、弘夢の元へ行ってしまう事は確実だと思った渡は愕然となった。そして今夜の帰宅が遅い事で、もう自分の元へは戻らないのだと絶望を感じていた。

(戻って来てくれた・・)
 
「渡・・どうした?寂しかったのか?連絡入れなくて悪かったよ。だから泣くな。」
 渡は自分が今でも弘夢を想っていると思っている。だからいつもこんなに不安なのだ。少し帰りが遅いだけで二度と戻らないかもしれないという恐怖を抱えている。
 淳平は渡を悲しませないと決めた。
「渡・・もう、お前だけを見ていくから・・だからもう泣くな。」
「先輩・・うそ・・」
 渡の大きな瞳が揺れる。淳平は渡の包みこんでゆっくりと話し出した。

「俺、この間あの店で弘夢と会ったんだ」
 その言葉に渡の瞳が一段と大きく見開いた。
「今日、弘夢と会って話をしてきた。あいつが今一緒にいる木戸って奴に愛されて、そしてあいつも幸せだって事が確認出来た。そして、俺もお前に愛されてて、幸せなんだって気付いたんだ」
 渡の顔は驚きで強張っていたが、同時に嬉しさで涙が溢れてくる。

「好きだよ渡。そして、メリークリスマス」

 時計の針は既に0時を過ぎていた。
 淳平はそっと渡にキスをした。



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それから54話

 弘夢は最後のお客の接客を終え、出された洋服を片づけていた。
 淳平と再会し、自分の気持ちが染み出してしまうようなキスをしてしまってからすっかり心の中は淳平で満たされていた。そしてもう一度自分に会いに来ると言われてから緊張は一度も溶ける事はなかった。あれだけ淳平を好きな気持ちが全く衰えてない自分を再確認して、果たしてきちんと話しが出来るか不安だった。そして同時に、あの淳平の恋人の姿が目に焼き付いて脳裏から離れなかった。

 弘夢は、最後は自分が店を閉めると申し出て他の店員を先に帰らせた。
 迎えの車は既に地下のガレージに来ている筈だが、何時になっても待っているよう命令されている運転手の事は気にする必要はなかった。
 もうすぐ淳平が来る頃だと落ち着きのない足取りで窓の外を見ると、店の門を開閉する守衛が一台の車に乗った男と何やら話しているのが見えた。
 守衛の事をすっかり忘れていた弘夢はしまったと焦ったが、意外にもにこやかに守衛は淳平の車を中へと通した。
 来客用の駐車スペースにスッと停めて、見慣れた男らしく艶のあるスーツ姿の淳平が弘夢の待つ玄関へと歩いてきた。
 
 淳平が車から出てきた姿を見ただけで心臓が飛び出しそうな程緊張し、そして心が色めき立った。
 目の前まで来た淳平に平静さを装って扉を開け、「いらっしゃいませ」と店員としての最低の義務を果たした。

「よく入れたね」
「あぁ・・渡が・・沢村って今一緒にいる奴、この間一緒に来た子なんだが・・」
「あぁ・・うん。」
 親しげに下の名前を出されただけで胸がズキズキと痛む。
「あいつの連れだって守衛の人が覚えててくれて、入れてくれた」
 ここの会員になるくらいだから相当な金持ちか、そういった類のセレブの家計なのだろうと弘夢は思った。
 淳平の恋人相手として自分よりも何倍も良い条件の相手に、水面に広がる油のように劣等感が広がっていく。

(沢村・・渡くんて言うんだ・・)

 実際には、以前渡の見せたカードで木戸の関係者だと分かった守衛はその連れの淳平をしっかりと覚えていて、疑いもせずに中へと通したに過ぎなかった。

 弘夢は淳平を中へと通し客間へと案内した。ひとまずお茶の用意をするからと部屋を出て行こうとすると、弘夢の細い手首を淳平が掴んで引き留めた。
「お茶はいい。話がしたい」
「う、うん・・」
 掴まれた手首はジンジンと熱を持ち、身体が火照ってくる。

 少し見ないだけで淳平がまた違って見えた。前よりもずっと恰好良く見えてしまうのは、弘夢がただ単に淳平を好きなだけという理由でもなさそうだった。
 可愛い恋人に家庭的な空間で心身共に健康的に過ごしている淳平は肌の艶も良くなり、身体も相変わらずのスタイルを維持しているようだった。
 弘夢はツタが木に這うように視線を淳平の身体に厭らしく巻き付けてしまう。この身体に自分よりも小柄な可愛らしい恋人は抱かれているのだろうか。そう考えると、時枝の“殺したい程憎い”と言った気持ちが的を得た言葉に思えてくる。

 濃紺のベルベット生地で覆われた座り心地の良いソファに腰を掛けた淳平が口を開いた。
「お前、何でこんな所で働いてるんだ」
「ここの方が・・気楽だし・・給料も良いから・・」
 この店が木戸の関係している場所だと知られたくなかった。
「この間は、何で泣いた?」
「ああいう時、泣いた方が気分が盛り上がるじゃない?」
「はっ・・そんな風には思えなかったぜ?何か隠してないか、お前」
 淳平の言葉にドキリとするが、誤魔化しきれなかった場合を想像すると冷や汗が出て平静さを保てた。
「別に隠してないよ、淳平の期待するような事はね」
 なるべく自然に気だるい笑みを浮かべる。

「どうして俺のキスに応えてくれたんだ」
 ふと口を開いた淳平の核心に迫る質問に視線を外す。
「別に・・嫌いじゃないし」
「嫌いじゃない・・か。じゃあ、好きか?」
 淳平は冗談でも言うように軽く笑いながら聞いてきた。淳平の笑顔を見たのは久しぶりで弘夢は胸がキュンとなる。ここで心から淳平だけを愛していると言えたらどれだけ幸せだろうか。
「好きか嫌いかって聞かれれば好きだよ。」
 弘夢の静かな笑みの答えに淳平は寂しそうに「そうか」と笑った。
「でも、あの男の方を選ぶって言うんだろ?」
「木戸さんの事?」
「ああ」
 選ぶも何も、自分に選ぶという道は与えられていない。木戸を選ばなければ淳平は簡単に消されてしまう。だが、皮肉な事に、こうして再会する事で自分の心は淳平に揺るがない想いがあると確信してしまった。木戸は自分を好きになれと言ったが、心の選択は一つしかなかったようだ。
「うん、俺はあの人じゃないと満足出来ない身体になっちゃったから。」
 弘夢の言葉に淳平の切れ長の瞳がスッと視線を逸らした。

 そして弘夢はずっと言いたかった事を言う。
「淳平、あの時、酷い事言い方して・・ごめん」
 弘夢があのマンションの前で木戸と淳平と3人ではち合わせた時に酷い仕打ちをした事を言っているのに気づいた淳平は軽く笑みをこぼして「気にするな」と言ってくれた。
「あの後、別に死んでもいいかなって思ってたんだが、そんな中でもずっと渡が傍に居てくれて・・」
 弘夢は、自分は死に追いやる事しか出来ない淳平と、ここまで健康的に幸せな日常を与える事の出来る相手との差に決定的な格差を感じた。
「お前が全てで・・本当に愛してたから、手に入らないなら生きてても仕様がなく思えたんだ。」
 淳平に生きていて貰う為にした仕打ちが裏目に出た事に今更ながら血の気が失せた。
「ねぇ・・今は?死にたいとか思わない?」
 つい感情的に聞いてしまった。だがその質問に、何かを見つけたような顔をした淳平が意を決したように言った。
「あぁ。もう、思わない。大切にしたいって思ってる奴も出来たし・・な」
「そう・・・・良かった。」

(泣くな・・)

「ごめんな、お前のせいにして嫌な思いさせて。それより、お前あの木戸って男は何なんだ?」
「木戸さんは俺の命の恩人で、そして俺を愛してくれているんだ。」
堪えた涙の薄い膜で覆われた瞳を見られない様に伏し目がちに答えた。
「恩人?」
「うん。俺をちょっと危ない人から救ってくれて、その時そいつから多額で俺を買ってくれたんだ。だから俺はあの人のものだし、最初はびっくりしたんだけど・・俺の事をとても愛してくれている」

「お前は?あいつをどう想ってるんだ?」

「愛して・・るよ。淳平は・・幸せ?」

「・・あぁ。幸せだよ。お前は?」

(淳平が幸せなら・・)

「幸せだよ」

 黒いオニキスの首輪がキラリと光る。

「そうか。それなら・・いい。それだけ知れて、良かった」
 淳平はスッと席を立ち、ドアの方へと歩く。その後を静かに追いかけて帰りそうな淳平を引き留めたい衝動を必死で押さえた。
 淳平はドアの前で止まると、クルリと振り返り弘夢の手を取った。その感触にドキリとしたが、掌の中に何か物が入って来るのを感じて驚く。
「物だと・・残ると怒られるかと思って・・それで勘弁な。」
 そう言って優しい笑顔でそっと淳平がおでこにキスをした。
「メリークリスマス。」
 そう言って淳平は去って行った。予想しなかった事に弘夢は足が動かない。手の中を見ると、可愛いラッピングのしてあるクッキーがあった。

(こういう事・・するなよ・・)

 嬉しい気持ちとそれ以上の苦しい気持ちで涙はポロポロと絨毯の上に落とされていった。



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それから53話

☆18禁です

 初めて淳平がシェーナー・プラーツへ行った翌日の月曜日、淳平も会社の方に顔を出してから現場へ行くというので渡と一緒に車で出る事になった。
 外に出ると顔に外気の冷たい空気がまとわりついてそこから寒さが身体に浸食してくる。急いで車に乗り込みドアを閉めてエンジンをかけると、渡がタイミング良く暖房を調節した。この連携も大分慣れ、今や日常の光景となっていた。
 朝の混む道は信号にやたらと捕まって余計前へ進めない気がした。毎朝の経験から少し早めに家を出るが、同じように考えて朝早くに家を出た人達が集まっての渋滞というのが何だか滑稽だ。
 3つ目の信号で止まった時、渡が耳に優しい声で淳平に話しかけた。
「先輩旅行、どうします?」
 渡が車内でクリっとした目で見てくる。垂れ目の渡は普通に見上げるだけで上目遣いの様に見えて可愛らしい。淳平はそれがいつも好きだった。だが今はその目もまっすぐに見れずに気のない返事をした。
「ん・・あぁ・・」
 お前の好きな所でいい、そう言いたいが言葉が出てこない。
 
 弘夢と再会してしまい、渡への罪悪感と落ち着かない心で普段通りを装うのは困難だった。
 弘夢はあの鬼畜なやたらデカい男に飼われ、それを喜んでいたかに見えた。ならば何故自分と再会した時にあんなキスを許し、あんな悲しげな涙を流したのか。聞きたい事は山ほど出てくる。    そして理由を聞くチャンスはもうこの時しかないように思え、淳平はクリスマス前日の水曜日に、もう一度店に顔を出すと言ってあった。
 渡が連れて行ってくれたあの店についても、本当は渡に色々と聞き出したかった。だが、弘夢と逢った事が渡に知れたらと思うと、聞くに聞けない自分に苛立った。

 途中からスムーズに動き出した車は思ったよりも早くに会社に着けた。中の暗い駐車場へ入るとまだ駐車してある車が少ない。淳平はいつものお気に入りの場所へとスムーズにバックして入れ込む。
 渡はいつも左腕を渡の座席の後ろにまわし、右手で起用にハンドルを操作しながら後ろを向く淳平の顔を見るのが好きだった。別に抱き寄せられている訳でもないのに、後ろを振り向く度に近くに寄る淳平にいつもドキドキする。そして距離感覚の優れた淳平は大抵一度か或いは二度程でどんなスペースにも綺麗に車を納める。
 好きになるとそんな些細な事ですら魅力に感じると、渡は客観的に関心した。

 淳平が薄暗く静かな駐車場でエンジンを切り、早速外に出ようとドアに手を掛けると、ガッと渡に腕を捕まれて振り向いた。そこには誘うように瞳を薄目に開けた渡がねだるように顔を近づけてきた。
 淳平は渡の望むままに、その膨らんだ柔らかな唇に軽く自分の唇を押し当てた。唇を離すとまだ物足りなそうな顔をした渡が見えたが、「行くぞ」と一言放つと直ぐにただの会社の先輩に変わった。

***

 渡は、日曜に買い物をしてきてから淳平の様子が妙におかしい事に気づいていた。どこか上の空で、時折考え込むと曇った面持ちを見せる。
 心配して買った洋服がやはり気に入らなかったのかと聞いてみたがそんな事はないと淳平は優しく笑いかけてくれた。
 正体不明の違和感と不安は募り、会社から帰った夜はいつもよりも淳平の温もりを求めた。淳平の筋肉質な懐に入り込み、黒い寝巻代わりのTシャツの中に手を入れ込んで滑々する肌を触った。ボクサーパンツの中の上から柔らかな淳平の性器を揉んでみたが、目立って反応する事も無く直接触れようとすると、淳平が「よいしょ」と渡の上半身を再び自分の懐まで引き上げた。
「今日は、何だか疲れたから大人しくしてなさい」
 まるで子供をあやす様な口ぶりに、何だかくすぐったい心地よさを感じた。わざといじけるように頬を膨らませると淳平が右手を出した。
「これ、貸してやるから。自分でしてごらん」
 そう言われてその言葉の意味を汲み取り、恥ずかしさと興奮で顔が熱くなる。ベッドサイドに置いてあるオイルを淳平の右手に垂らし、その上に自分の勃ったペニスを乗せた。すると丁度いい力加減で握られ、「あぁ・・」と小さく吐息が漏れる。
 淳平はタバコを吸いながらただ渡のペニスを握った。渡は握られたその掌の中に懸命に腰を振って自分のペニスを出し入れした。
「上に来て、見せて」
 淳平の手が淳平の胸の上に乗せられた。淳平の身体を跨いで再び腰を振る。淳平の目の前で手に握られた自分のペニスが気持ちよさに赤く腫れてくるのを見られていた。淳平の目線は渡の動くペニスと腰、そして柔らかそうな尻をタバコを吸いながら見ていた。それだけで固定された淳平の掌の中でペニスの出し入れする速度が速まっていった。
「先輩っ・・もっと強く握って下さいっ」
「このくらい?」
 ギュッと握力を強めら得ると数倍の刺激と締め付けで羞恥心は砕けていった。
「あああんっ・・気持ちっ・・イっちゃうっ・・ああっ・・先輩にかかっちゃうぅ」
「いいから、好きなようにイけよ」
 淳平が灰をトレイに落としてその切れ長の鋭い瞳を渡に向けると、渡は射精感が爆発的に登って来た。
「はいっ・・イ、イきますっ・・あっ・・見て・・僕を見て下さ・・いっ・・あああんっ」
 オイルのクチュクチュした音が気分を盛り上げた。
「先輩っ・・ああっ・・出ますっ・・出ますっ・・はっ・・んんんっ」
 ビュルビュルッと3回に分けて淳平の首元と頬にかかった。白く濁った液体で汚れた淳平はそのまま最後の一口タバコを吸った。その感じが見ているだけで蕩けそうな程色っぽく渡はドキドキと心臓がときめいた。
「渡。お前が汚したんだから、ちゃんと綺麗にしろよ?」
「え・・」
 淳平が意味深気に笑みを浮かべながら渡の口の中に指を入れて渡の舌を触ると、その意味を理解した渡が悩ましげに舌をそっと出した。そして言われた通りに自分の放った精液を舐め取っていった。自分の精液に混じって感じる淳平の肌の味が酔いそうな程美味い。
「可愛いね。渡」

 いつまでもこの幸せなぬるま湯に浸っていたい思った。
 人の変化した態度には必ず原因がある。そしてそのきっかけを探るのも渡にとっては造作もない事だった。元よりそれが渡の本来の仕事だ。人を騙し、探り、そして裏切る。
 渡は一つずつ記憶を逆戻りさせていく。
 そんな事を生業とし、得意とする自分を淳平と出会ってから息苦しく感じていた。
 だが今回の淳平に対する違和感については、この特技の善し悪しは原因が分かってから判断すればいいと自分に言い聞かせた。



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皆様ただいまです!
いない間も応援して下さってありがとうございました!!
車での旅でしたのでちょっと疲れがあって訪問したいブロガーさま
たちのお宅へは少しずつしていきたいと思います^^;
ポチ逃げだけですみません m(_ _;)m
渡は淳平にあしらわれてしまいましたー・・でもあしらい方が18禁(笑)


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それから52話

「呼んでるよ?行かないの?」
 本当は行って欲しくなかった。淳平の気持ちを確かめるようにわざと煽る様にそんな言葉を投げかけてしまう。
「ああ・・行くよ」
 弘夢はゆっくりと瞼を閉じた。これ以上瞳を開けていたらきっと言う事をきかない涙が溢れそうだったからだ。
「先に出て。・・そして、もう・・ここに来ても、俺に話しかけないで」
 目を瞑っているにも関わらず、目じりからツーっと涙が零れおちた。そして淳平の足音はドアの方へ移動し、ガチャリと鍵の開く音がした。
 これでもう、赤の他人になるのだ、そう思うとさっきのキスが嘘みたいだった。
 ギィ―ッとドアの開く音がして、バタンと閉まる音がしてもまだ、弘夢は瞳を開けられずにいた。
 ふるふると口元が痙攣のように震えた。涙腺はとうに切れて瞑っていた瞼を押しあけるようにして流れ出ていた。
 瞳を開けようとした瞬間に、温かく柔らかいものが唇を塞いだ。驚いて目を開けると、帰ったと思った淳平がいた。
「んっ・・んんーっ・・あっ・・ど・・してっ」
 激しく舌を吸いたてられて上手く息が出来ない。
「ごめん・・弘夢・・俺、ダメだ・・」

(お前の事が好きだ)

 自分を拒んで別れを言った筈の弘夢がこうして自分を受け入れ、何より悲しそうな顔をしている理由が聞きたかった。 
 話がしたい、そう言って淳平は一方的に日にちを指定し、弘夢ともう一度会う約束を取り付けた。
 先ずは分からない事だらけの事情を知る必要があると思った。そして、渡の事も、考える必要があった。

「あ!先輩!探したんですよ!?」
「あぁ・・悪い。ちょっと散歩してたんだ」
「迷子になっちゃいますよ!ほら、帰りましょう!」
「あ、あぁ・・」

 ふわふわの綿毛みたいな髪の毛の小柄な可愛い青年が淳平の手を引いて嬉しそうに帰って行く姿を壁にそっと寄りかかりながら弘夢は見つめた。

(仲の良い恋人同士みたいだ・・みたい、じゃなくてそうか・・)

 弘夢は何の障害もなく淳平に触れられ、そして一時も離れずにいられる渡を心の底から羨んだ。

(あれが、淳平の恋人・・)

 先程までの淳平の感触を思い出すと、鈴口からタラタラと勢いよくカウパー液が流れ出てビキニに染み込んでいくのが分かった。
 弘夢は今すぐに淳平を思って射精をしたくて堪らなくなった。
 発作のように自分の首輪に手をかけ、カチャカチャと引っ掻く。一向に取れない首輪はただ弘夢の首に引っ掻き傷を負わせるだけだった。

 仕事を終え、ふらつく足取りでマンションに変えると、シャワーから出て下半身をタオルで巻いただけの木戸が窓辺に立っていた。
 乾ききっていない髪はいつもピシッと整えられたものと違って緩やかに下りていた。それが妙に艶っぽく整った顔の木戸を魅力的にさせている。
「どうした、弘夢。そんな顔していたら襲われるぞ?」
 もう限界の弘夢は木戸に縋りついた。
「木戸さんっ・・お願い・・イかせて下さいっ・・ハァ・・イきたいっ」
 ズルズルと木戸の前にしゃがみこみ、木戸に教え込まれた通りにおねだりをし始めた。弘夢は木戸の大きなペニスを夢中で口に含みしゃぶりながらおねだりをする。
「ん・・可愛いよ。弘夢。上手におねだりが出来るようになったね・・」
 木戸はゆっくりと弘夢の頭を押さえて腰を動かし、弘夢の口内にペニスを前後に抜き挿しした。
 そうしながら、首輪に設置された暗証番号を入れて輪から鍵を抜き出す。

 弘夢の目に映るのは今日見た淳平と、感じた淳平の温もりだった。



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それから51話

「弘夢・・弘夢か?本当に?」
「どうして・・淳平がこんな場所に・・」
 淳平も弘夢も幻でも見ているかのように互いをじっと見つめ合った。そして確かめるように一つ一つのパーツにゆっくりと視線を移動させていく。
 その時角から別の店員の近づく気配がした。淳平は咄嗟に弘夢の掴んだ手首を引いてその先にある洗面所へ入った。
 洗面所と言っても広い部屋に寛ぎ場のようなスペースがあり奥に各豪華な個室タイプのトイレが備わっていた。 清潔なその場所は塵一つ落ちておらず、爽やかな桃の香りが仄かに香っていた。

 淳平と弘夢はなだれ込むように入ると、淳平がその重いドアを閉め、鍵を掛けた。
 淳平は弘夢を壁に追い込み、震える指先でそっと弘夢の頬に触れた。すると弘夢はふっと困惑した顔で顔を横に逸らした。
 出来る事なら今すぐにでも抱きしめて唇を塞ぎたかった。だが、もう自分になどとっくに興味を失せている弘夢に対してそんな事は出来ない気持ちと、渡の笑顔が淳平の本能を押さえこんだ。

 弘夢も今直ぐにでもその淳平の胸の中に飛び込み、めちゃくちゃに唇を貪って欲しかった。だが、自分の淳平を守る為とは言え言い放った辛辣な言葉と、時枝から聞かされた事が弘夢を押さえ込む。
 無言の二人は目線を逸らしながらも投げかける言葉を探せずに、ただそのもどかしい距離に耐えていた。

 弘夢がちらりと横を向いた辛そうな淳平を盗み見た。胸が熱くなった。やっぱり好きだと再認識する。すると、その視線に気付いたように淳平も弘夢を見る。
 少し見ない間に更に妖しい色香を増した美しさの弘夢が頬を染めていた。燃えるような熱が淳平を動かす。
 ゆっくりと臆病な獣に触れるように、そして逆らえない引力に引き寄せられるように顔を近づける。近づく淳平に対して逸らさなくてはならない弘夢の顔は一向に動けないでいた。身体が淳平を求めていた。

 唇があと数センチで触れる所で止まる。二人の心臓は大きく早く高鳴ってシンクロする。
 熱い吐息が互いの唇を刺激する。
 そっと触れた鼻先同士と額に幸せを感じて弘夢が目を薄めた。そして視線を合わせると、今この瞬間に、一体何の壁があるのかが分からなくなった。
 淳平が指先の甲で弘夢の頬を撫でると弘夢はそれに頬を擦り寄せた。
 淳平がほんの少し顔を傾けて弘夢を覗きこむような形をとると、それに答えるように弘夢は顔を上に上げた。

 そしてそっと唇が触れあった。

 泣きたくなる程柔らかくて気持ちがいい唇だった。そっと触れただけのキスは2,3秒で離れた。してしまった悪い事にどうしようと困るような弘夢の顔が淳平を煽る。してはいけないと分かっていても、もう一度、もう一度と止められない気持ちの乾きが潤いを求めていた。
 逸らそうとする弘夢の顔をクイッと持ち上げると、今度は少し強めに唇を付けた。すると、ハッと息を飲んだ弘夢は次の瞬間には蕩けるような熱い瞳を見せた。それを見た淳平はゆっくりと手探りするように弘夢の唇を啄ばんだ。

 一回、二回、三回と啄ばみ、抵抗されない事を確かめると、そっと弘夢の唇を舐めた。
 ピクンッと反応する弘夢は小さく鼻から「ふっ」と可愛い声を出す。そしてゆっくりと淳平が舌を弘夢の口内に挿し込むと、気持ちの抵抗と比例して素直に口を開けてその舌を侵入させた。
 熱い淳平の舌は弘夢の甘く蕩けるような舌を絡め取り、痺れるようなキスをした。一度味わってしまうと麻薬の様に止めどない欲求が湧きでてくる。
 いつの間にか弘夢は淳平の首に腕を巻き付け、淳平は弘夢の頭を抱えるようにして深く唾液を貪り合った。

「あ・・っ・・んっ・・んっんっ・・ハァ」
 互いに生き返るような気持ちだった。悪夢から覚めるような安堵の気持ちで互いの感触を確かめ合った。
 淳平は弘夢のワイシャツのボタンを外し出すと、弘夢はハッと気付いて抵抗した。
「あっ・・ダメっ」
 淳平は弘夢の両手首を頭上で纏めて壁に押し付け、再びボタンに手を掛けた。
「ダメ!淳平、止めて!ダメなのっ・・ねぇ!」
 このままでは木戸に施された痴態を見られてしまう、その恐怖で弘夢は涙を浮かべて懇願したが、淳平は落ち着いた表情で弘夢の頬にキスをしながらワイシャツを開けた。
 淳平は弘夢の首に付けられたブラックオニキスとその鍵を一瞥し、無視するようにベルトを外してズボンを下ろした。
「あ・・あ・・止めて・・お願い、見ないで・・」
 完全に立ち上がっている弘夢のペニスをビキニの上から撫でるとペニスに付着している妙な感触に淳平が止まった。そして泣きながら首を振る弘夢に目を合わせながらビキニを下ろすと、弘夢のペニスは木戸の付けた貞操具にがんじがらめになっていた。
「や・・見・・ないで・・淳平・・」
 あまりの痴態に穢れを見せているような感覚に襲われ弘夢はポロポロと涙を流した。
「弘夢、イケないのか?」
 目元を赤くした弘夢は力なく頷いた。

「センパーイッ・・」
 ドアの外から淳平を探す渡の声が微かに聞こえた。その声で現実に引き戻された二人はそっと元の距離に戻った。弘夢は静に乱れた服を整えていると、やけに虚しさが二人を襲った。

「先輩!・・どこに行っちゃったのかなぁ」

 渡の気配が遠のく。

「淳平の今付き合ってる後輩・・でしょ?」

 弘夢がそう聞くと、淳平は少し間を置いて頷いた。

「ああ・・。」

 弘夢涙が噴き上がりそうになるのを唇を強く噛み締めて我慢した。



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それから50話

 淳平と渡は少し早いがクリスマスの予定前に淳平のプレゼントを買いに行く事になった。
 渡は是非とも連れて行きたい店があると言って、連れて来られたのはシェーナー・プラーツという会員制のセレクトショップだった。
 淳平はあまりに凡庸な日常からかけ離れたその店に店内に入る事に抵抗感すら生まれた。
 どうしてこんな店の会員になどなれているのか渡に聞くと、親の知り合いがここの店のオーナーと知り合いだと言う。元々洋服好きの渡は、どうしても淳平に似合う服を買ってやりたいと思った。
 色々と丁寧に採寸や未発売の限定モデルの服を次々と注文する渡はいつもより格好良く見えた。

「お前、こういうの好きなんだな」
 淳平がそう言うと、渡は砂のお城が上手く出来た子供みたいに得意げな顔でキラキラと嬉しそうに笑った。
「うん、好きですっ」
 その笑顔につられて淳平も優しい笑顔になる。
 一通り注文の品が揃い、渡がカードで支払いを済ませた。きっととんでもない額だろうと淳平はせめて半分だけでも払うと言ったが、渡は自分は金持ちだからと頑として淳平の意見を聞き入れなかった。仕方なく淳平は、旅行に関する代金は全て自分が受け持つ事を約束させた。

 代金の支払いも済むと、清潔な雰囲気の店員がお茶の用意が出来たからテラスの方へ移動するようにと案内してきた。
 そんな店に関心しながら淳平はイングリッシュガーデンのような美しい中庭の見えるテラスへ着くと、そこには既に湯気アフタヌーンティーのセットが用意されていた。
ふんわりと香るアールグレイの香りとスコーンや一口サイズのケーキが置かれている。
 こんな世界もあるのかと、渡をまた違った目で見る。渡は慣れた様子で美味しそうにパクパクとケーキを平らげていく。甘いものが得意ではない淳平はスコーンを少し食べた。
 お腹が空いていたのか、夢中でケーキやスコーンを食べる渡にトイレに行くとだけ伝え、席を立った。
 トイレとは言ったものの、この店の中を少し見て回りたかったというのが本当の理由だ。
 部屋を出て店というよりお屋敷に近いその立派な内装や飾られた絵画、そして装飾に関心しながら散歩していた。

 広く長い廊下を歩いていると、スッと店員が横切るのが見えた。

 途端に淳平はドクンッと心臓麻痺にでもなったかのような衝撃に襲われた。

(まさか・・見間違え・・?・・いや、でも・・!)

 確認だけ、そう思って急いで店員の通り過ぎた方向の廊下まで走った。角を曲がると後ろ姿のその男がまだ歩いていた。
 こんな場所にいる筈のない、逢える筈もない、おとぎ話の中の人物と化したその男かもしれない期待と、間違っていた時の絶望を予想して苦しくなる。
 とにかくその男を見なくてはいけないと胸が騒いだ。
 声をかけるよりも先に腕を掴んでしまった。後ろから見るそのしなやかな身体つきと髪の色、質感。淳平の胸が ドキドキと高鳴る。そして、驚いた顔の男が振り向いた瞬間、淳平は息が止まった。

「淳・・・平・・」

 聞きたかった声だった。
 見たかった顔がそこにあった。
 触りたかった身体が目の前にあった。



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それから49話

『淳平が他の男と付き合っている』
『淳平が他の恋人と同棲している』
『淳平は俺を忘れようとシテイル』

 予行練習のように幾度も脳内で繰り返した言葉だった。それなのに他人から聞かされるこの重みは何なのだろうか。まるで自分の言葉が張りぼてで出来たような軽さのものだった事に改めて気付く。
「ショックですか?」
 時枝が優しい声で話しかけてくる。
 ショックだった。
 どこかで自分を死ぬまで愛してくれるのではないかと期待していなかったとは言い切れなかったからだ。
「そんなに泣くなんて、今でも余程好きなんですね」
 そう言われて初めて自分が涙をボタボタと落している事に気付いた。
「痛いですか?」
 痛かった。痛い臓器の部分の名称が思い浮かばないのがもどかしい程に痛くて苦しかった。
 弘夢はコクリと壊れた人形のようにその問いかけに頷いた。
「なら、こうすると宜しいですよ」
 時枝の落ち着いたその声と共に、肩に激痛が突きぬけた。

「ア゛ア゛ァァァァ-------ッ」
 時枝の手にはアイスピック程の長さの待ち針程細く尖った硬い針が握られていた。弘夢はそれで鎖骨の間を深く突き刺されたのだ。目が眩む程の痛みで崩れるようにその場に膝を着き肩を押さえた。
「そこ、痛いでしょう?ほんの一部分を刺されたのに上半身全体を刀で貫かれた様に」
 刺された方の左腕が上がらない。息を浅く整えながら弘夢は顔を上げた。
「・・ッ・・時枝さんも・・痛いんですね・・くッ」
 この人は、きっとこの身体的痛みを必要とする程の心の痛みを味わった事がる。
弘夢の相手を労わるような顔に時枝は軽く溜息をついた。
「仲間意識ですか?ハァ・・君は子供ですか。さ、家に送りますから早く立って下さい」
 何事も無かったようにいつもの無表情の時枝は淡々と肩を押さえて歩く弘夢をいつもの高級スィートルームへ送り届けた。
 弘夢は時枝が与えてくれた痛みで、少し心の傷に麻酔がかけられたようだった。

 弘夢は何回か訪れた事のあるこのセレクトショップ、シェーナー・プラーツに店員として働き始めた。
最初に研修出会った先輩は、以前弘夢が木戸たちと客として来た際に痴態を晒した人だった。だが、弘夢よりもその松田という店員の方が焦りの色を隠せないようだった。
 一緒に働くという事で気を取り直し、松田は丁寧に仕事を弘夢に教えた。弘夢はその店に合う上質なスーツを見に纏い、懸命に仕事を覚えようと集中した。
 幸いな事に弘夢は運転手に送り迎えをして貰い、好きなだけ働けた。まだ研修中の弘夢は覚える仕事に没頭する事で私情を押し殺し、淳平の祝福を祈れる自分に変えていこうとした。
 ショップには財界の著名人や裏で動く人々が訪れた。そういう客にまだ接客が完璧にこなせない弘夢はお茶の用意など簡単な仕事をする。
 そんな中でも弘夢に目を付け、執拗に迫る客もいたが皆首元にちらりと見えたオニキスの首輪を見ると、態度を変えて去って行った。
 裏で何か木戸が公表でもしたのだろうか、弘夢にとってはそれはありがたいものだった。
 一緒に働く松田もあの時から時枝に何か教えられたのか、弘夢を熱い目で見ていたとしても決して手は出して来なかった。その安心感からか、弘夢も違和感のある目線を感じても気にしないフリで仕事に没頭できた。

 仕事始めは1日1日がやけに長く感じる。まだ1週間も経っていないというのに、弘夢はもう既に何カ月も働いているような感覚がした。
 その間に許された射精はたった一度だけだった。既に弘夢のペニスは勃ち上がり、それを目立たせないように白いビキニで押さえつけるようにしていた。
 だがその摩擦でさえ弘夢に甘い刺激を与えていた。

 そんな中身体の状態も無視するようにお茶のセットを客人の元へ運び、通路を歩いていると急に手首を掴まれ、弘夢は驚いて振り向いた。

「淳・・平・・・」



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それから48話

 コンコンと響くノック音に木戸の低く通った声がオフィスに響いた。
「どうぞ」
 カチャリと扉の開く音がして弘夢が入って来た。外出する際は必ず執事か時枝を付け、運転手に送ってもらう事が条件になっていた。弘夢が自分から木戸の元へ来るのは初めてだった。
 広過ぎず、かといって重苦しくないデザインのスッキリとした木戸のオフィスは落ち着いていて少し意外のようにも感じた。オフィスの隅に大きな観葉植物が置いてあるせいかもしれない。
 木戸は利発な顔で黒いエナメル調のL字型のデスクにパソコンを3台開いて作業をしていた。その電波の世界で、裏の仕事と表の仕事を同時に進行させているとでも言うのか、木戸はチラリとだけ弘夢を見て、残りの作業を続けた。
 弘夢は物言いたげな面持ちで木戸のデスクの前に立つと、木戸が口を開いた。
「あと少し待ってろ。今終わる」
 長い指が忙しなく軽快なキーボード音を響かせる。
「あ・・お忙しいところ、すみません・・」
 弘夢のその哀切な雰囲気は弘夢自身の容姿を更に妖艶み見せていた。木戸は要領よくササッと重要事項だけ片付けると、ギィッと皮製の黒椅子を引いて立ち上がりデスクの前まで移動し、その上に腰を掛けた。

「どうした、急に?」
「あ、あの・・俺、働きたいんですけど・・あ、何でもいいんです。何かやらせて下さいっ・・」
 ただ自分を綺麗にして貰うだけの生活では精神的に参ってしまうと伝えると、木戸は案外素直に弘夢の言葉を聞いた。
「なら、洋服屋の店員にでもなるか?」
 木戸は、会員制のいつもいくあのセレクトショップなら下手に自分のものに手を出すような輩はいないだろうという懸念から思い付きを口に出す。
「は、はい!何でもいいです!ありがとうございますっ」
 弘夢は嬉しそうに笑顔で顔が綻んだ。パァーッと明るくなった弘夢の表情を見て木戸は胸が熱くなった。手を伸ばして弘夢の腰を強く引いて自分の足の間に入れ込んだ。びっくりした弘夢の両手が木戸の胸元に触れる。
「あっ・・え・・木戸・・さん」
 木戸は愛おし気に弘夢の口元を親指で撫でた。
「そう言えばお前は八重歯だったな・・可愛いな、やっぱり」
 木戸が弘夢の笑顔を初めて見たのはもう10年以上も前の事だった。ほんの一瞬、自分にだけ向けられたその笑顔を脳に大事にしまい込みながら木戸は弘夢の唇を撫でる。
 そんな恋人に対するような木戸の態度に戸惑いながらも、弘夢はもう一つ身体に感じる異変を訴えた。
「木戸さん・・あと・・」
「ん?」
「辛い・・です」
 弘夢の視線は自分の股間へと降りて行った。それを見た木戸が眼光を光らせて嬉しそうに口角を上げながら弘夢のベルトを外してズボンを膝まで下ろした。

 中からは黒いシリコンで出来た貞操帯で射精を塞き止めていた。所々に施された純金からは微電流が流され強制的に性器の海綿体に血液を集め、常に勃起状態を強制的に保っている。
 尿道から入り込んだ線は精管膨大部で貯められた精子を塞き止め、射精する際に起こる前立腺運動がいくら起こっても射精出来ない状態にしていた。膀胱はそのままにしてあるので尿は出る。更に尿道球腺もそのままにしてある為、カウパー液は刺激を受ける度に止めどなく流れ出た。

 ビジネスの場に下半身を露わにした弘夢の不謹慎なしなやかで色白の身体に、黒くゴツイ物々しい機械が男性器に取り付けられ、苦しそうに赤く勃起したその様は衝撃的で木戸を酷く興奮させた。加えて、もっと酷くしたくなるような弘夢の綺麗な顔立ちと艶めかしい表情は、弘夢自身を苦しめる原因にさえなる程に相手を煽る。
 弘夢は既に3日もこの状態だった。この機械を外すには、木戸に付けられたブラックオニキスに嵌められた鍵がなければならなかった。そして、首輪を外す為には木戸の知っている暗証番号が必要だ。
「外して、貰えませんか・・も・・イきたいです・・」
 弘夢が荒い息で木戸に縋るが、木戸は目を細めて口角を上げるだけで一向に外す気配がない。
「そんなんでちゃんと接客出来るのか?まだ我慢しなさい」
 涙を浮かべて自分に縋る弘夢が可愛くて仕方がなかった。我慢をさせればさせる程自分を頼る、弘夢に自分の事で頭を一杯にさせたかった。現にこうして弘夢から出向いてくるようにもなった。そして少しでも弘夢の望みを叶えてやれば弘夢は数倍にも喜びを感じる。
 例えそれが純粋な愛のみを曇らせるものだとしても、木戸はこんな事でしか弘夢の振り向かせ方を知らなかった。
 木戸が愛おし気に辛さで涙を浮かべる弘夢のふっくらとした張りのある臀部を右手で撫で、左手で弘夢の亀頭を擦っていると、カチャリと隣の部屋から時枝が入って来た。木戸のオフィスは時枝の秘書室が続きになっていた。
 弘夢の痴態を目の当たりにして、時枝は軽蔑と怨讐を込めた眼差しを向けると、弘夢は冷や汗をかいて俯いた。

「時枝か。またそんな怖い顔して。仕事は一通り終えたから大丈夫だよ」
「そうですか。ではそろそろアポが入っている時間ですので下の階へご移動下さい。」
「あー・・そうだったな。あ、弘夢は明日からプラーツで働く事になったから手配してやれ。じゃ、後は弘夢を送ってってやれ」
 そう言い残すと木戸はビジネスマンの顔に変わり颯爽と大股で部屋を出て行ってしまった。

「服装を整えたら如何ですか」
 時枝に言われた言葉と、自分の淫乱極まりない格好を見た弘夢は顔を真っ赤にして急いでズボンを上げた。
 そしてチラリと時枝の顔を盗み見ると、泣きそうな顔の時枝が木戸の出て行ったドアの方を見つめているのが見えた。
 弘夢はその表情を知っていた。それはふとした時に窓に映り込んだ自分の顔や、以前マンションで別れ際に見た淳平の表情と類似していた。
「時枝さん・・もしかして・・木戸さんの事・・好き・・なのですか」

 それは、本当に冬眠しているのか分からないようなハブを触るような危険極まりない感じがした。
 時枝はゆっくりとその冷たい無表情の顔を弘夢に向けた。そして一歩ずつ近づくと、弘夢のオニキスの首輪を長い指に引っ掛けて持ち上げた。
「弘夢くん、良い事を教えて差し上げましょう。」
 弘夢は確信した。嫉妬と憎悪に狂う男の目はいつも見てきた。時枝のそれも同じ色をだった。

(時枝さん、木戸さんを愛しているんだ!だから俺の事をこんなにも憎んで・・!)

 だが、その次にほんの少し口角の上がった時枝の発した言葉は弘夢に思いもよらない打撃を与えた。

「淳平さんは今、お付き合いしている後輩の方と同棲なさってますよ」



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*ご一読頂きまして有難うございます。
唯今、16~20日まで留守にしております。
お話は予約投稿してありますので通常通り0時にUPされると思います。
もしコメント頂けたら、お返事は帰宅後に書かせて頂きます!


★「それから」はすれ違った後に(全10話)の続編です。 

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それから47話

「先輩、僕と付き合って下さい」
 会社で後輩と激しくセックスをした渡と淳平は帰り仕度を整えていた。
 突如言われた渡の言葉に淳平は動きを止めた。
「無理にでも付き合った方が、先輩の為にもいいと思うんです!忘れなきゃいけないなら、誰かと居た方が尚更いいと思います。先輩、僕と居るの、嫌ですか?」
 渡は断われそうな淳平の言葉に先回りをして畳みかけるように話す。
「そんな事はない。嫌なら、抱かない。あいつ以外で可愛いと思って抱いたのは、お前が初めてだ」
 その言葉だけで十分に自分が淳平の視界に入れた事を意味し、渡はこれ以上望まなくてもいいと思う程に嬉しかった。だが、ふと一刻も早く弘夢を忘れさせろという時枝の命令を思い出し、少し強引に出た。
「嬉しい・・です。僕、本当に先輩の事が好きなんです。形だけでもいいです、僕の恋人になって下さいッ」
 忘れなければいけない人、弘夢はそういう存在になってしまった。淳平は何となくそれを認めざるを得ない事を、気持ちが理解していく様に感じた。そして、渡の献身的な想いが淳平の心を癒しているのも事実だった。

(渡と付き合ってみるのも、いいかもしれない・・弘夢、これで俺はお前を忘れられるのかな)

「分かった」
「え・・」
「付き合おう」
 淳平の言葉を信じられないという様な困惑した素振りで、渡は瞳を大きく見開いた。
「うそ・・」
「本当だ」
 淳平は頭一つ低い渡の顔に、ゆっくりと唇を下げてキスをした。
 渡は嬉しさの余り涙が再び湧きあがって来る。そして淳平は優しく渡を抱きしめた。
「俺は、いつアイツを完全に忘れられるか分からない。それでもいいか?」
「・・っ・・」
 コクッコクッと小さく淳平の胸の中で渡は頷いた。渡は形が手に入った事がこんなにも嬉しいとは思わなった。付き合っている人、好きな人を聞かれて淳平だと言える事がこんなに幸福感を与えるものだと、渡はこの時初めて知った。


 それから淳平は意識的に渡を見るように努力をした。そして淳平はなるべく弘夢を思い出さない様にコントロールもした。
 会社では何となく雰囲気の変わった二人に気付く人も居たが、誰も面と向かって色々と言ってくる事は無かった。ただ、飲み会の席でふざけ半分で二人は怪しいと絡んで来られる事は多々あったが、そこは適当に受け流していた。
 そんな日は決まって家に帰ると渡が甘えてきた。
「先輩っ・・キスしてっ」
 そう言ってソファに座る淳平の膝の上に乗っかって来るのもいつもの事だった。付き合っている事を隠している事も、同僚の質問を受け流した事も全て少しずつ渡を不安にさせているのだろう。だからこうして二人きりになると確かめるように甘えてくる。
 外はそろそろ雪が降りそうな位に冷え込むようになった。クリスマスも近づいて渡に日頃世話になっている分のお返しをしなければと考えていた。
「渡、お前何か欲しいものあるか?」
 膝上に跨ったまま淳平を抱きしめる渡は顔を上げると満足そうに笑った。
「ないですよ!もう、手に入りましたから」
 嬉しそうな顔で淳平にキスをする。それは自分を意味している事に気付いた淳平は渡をソファに押し倒した。この本心からサラリと言う顔が淳平にはどうしようもなく可愛く思える。
「そんなものじゃなくて、ちゃんと買ってやれるものを言えよ」
 淳平は渡のパジャマのズボンをずらし、既に硬くなった渡のペニスを取り出してやわやわと揉む。
「ん・・ふっ・・じゃ・・旅行がいい・・です・・あっん」
「旅行?」
「はい・・思い出が欲しいです」
 淳平は渡の真剣な眼差しを受け止めると、優しい笑みを浮かべて答えた。
「分かった。お前の好きな所へ行こう」
 淳平はそう言うと、渡のパジャマのボタンを外し始めた。
「あ、あのっ・・僕も先輩に買ってあげたいものがあって・・今度一緒にそのお店に行って貰えますか?」
「ああ、分かった」
 そして淳平たちはソファの上で身体を繋げた。



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付き合う事になってしまった・・

<お知らせ>
本日、日本時間昼過ぎ頃から20日(金)まで留守に致します。
お話は予約投稿でUPさせて頂きますので留守中にもしコメを頂けたら帰宅次第お返事させて頂きます!!
宜しくお願い致しますm(_ _)m


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それから46話

☆18禁です。

「先輩!ここ、会社ですっ・・家に帰ってから・・!」
「悪い。もう我慢出来ねぇんだ・・」
 淳平は言葉とは裏腹に抵抗の薄い渡のベルトを外して既に濡れたペニスを外へ取り出した。
「あっ・・せんぱ・・ブラインドが・・!」
 後ろのブラインドは下がっていたがストレートになっていて中で明かりの点いたこの一角は暗い外から見えやすくなっている。ビルの上階なのでそう簡単には見られはしないだろうが、ビルの前に高速道路が走っていて、何気なく見えてしまう恐れは十分にあった。
 だが淳平はそんな事は聞く耳も持っていない。自分の大きなペニスと渡のを一緒に擦り合わせ、両手で包むように2本いっぺんに扱きだす。
 ゴツゴツした感触がやけにリアルで厭らしく、互いのものは驚くほど熱かった。
「先輩っ・・あっ・・引き出しに・・クリームが・・あんっ」
 渡に言われて引き出しを開けると中からワセリンが出てきた。冬だからと言って乾燥用にいつも常備をしているものらしかった。
「冬で良かったな」
 そう言って淳平はワセリンをたっぷりと互いのペニスに塗りつけると、その熱でトロトロと油のように変化した。滑りのよくなった二人のペニスを淳平の大きな手がヌルヌルと扱くと何倍もの快感が押し寄せてきた。
「う・・ぁああっ・・気持ちぃ・・先輩・・っ・・ああんっ」
 淳平は同時に渡のアナルも解し始めた。そこはとても素直に淳平の指を受け入れて従順に反応した。
「イイコだな」
「は・・いっ・・ああんっ」
 淳平の言葉と褒めて貰えた嬉しさに渡は素直に答える。

「デスクから降りて後ろ、向いて」
「はい」
 膝まで落ちたスーツのズボンをそのままに渡は言われた通りにデスクを降りて後ろを向く。今まで自分が仕事をしていた机に淫らな格好でしがみ付いた。
「ごめんな、入れるぞ」
 そう言って淳平は渡の孔にペニスをゆっくりと突き入れた。
「あああんッ・・入ってくるぅ・・あっ・・来るぅぅ」
「いいのか?」
「は・・いぃぃ・・いいですっ・・ああっ・・いい・・ですっ・・」
 誰もいないオフィスは普段の雰囲気からは考えられない淫靡な雰囲気の現場と化した。いつ守衛が見回りに来るかもしれないその場所に鍵も掛けずに男同士でセックスをしていた。渡は初めての興奮でタガが外れそうになる。
「先輩っ・・先輩っ・・好きっ・・ああっんっ、好きっ・・んっ・・もっとっ」
 甘ったるい後輩の声に煽られて淳平はその締め付ける内部に強く腰を打ちつけ始めた。
「わり・・もう少し・・強めてもいいか・・ハァ・・」
「はいっ・・もっと・・もっと強く・・して下さい!」
 淳平は剥き出しになった渡の腰を持ちパンッ、パンッとオフィスに厭らしい音を響かせた。ガタッガタッとデスクが動く音が腰の強い音を強調しているようだった。
 淳平は必死にデスクにつま先立ちでしがみ付く渡の両手を奪って後ろへ引っ張った。
「あああああッ」
 淳平は渡の両腕を強く後に引くと上半身が持ち上がり、淳平のペニスを更に奥へと突き入れた。
 気持ち良さで涙を浮かべた渡は一生懸命後ろを向いて淳平の顔を見ようとする。
 淳平はペニスを入れたまま渡の片足を持ち上げてそのまま仰向けにデスクの上に器用に寝かせる形をとった。渡はデスクの上で正常位の形になり、淳平は立ちながら入れる。

 渡は幸せで胸が張り裂けそうだった。今は自分を思って欲情し、抱かれているという事が快楽をどんどん高めていった。
 淳平が渡のペニスを握り強く扱きだす。アナルとペニスと、両方いっぺんに刺激されて奇声を発しそうな程の快楽が渡を襲う。
 同時に淳平の大きなカリ首部分が渡の前立腺のしこりを引っ掛けるようにして動くと、中ではドライオルガズム感の前兆までもが起きてきた。
「あ・・ああ・・ダメ・・ダメダメ・・きちゃう・・両方きちゃう・・あ・・あああああああ」
 叫ぶ、と思った瞬間に淳平が渡を強く抱きしめた。渡は淳平の肩のスーツに顔を押しつけて背中に手を回してしがみ付いた。そして追い打ちをかけるように淳平が高速でピストンをしだし、デスクが激しくガタガタと地震のように揺れた。
「う・・あぁあああああぁぁああーッ・・あああッ・・あっあっ・・い・・やああああーッ」
 我慢の出来ないくぐもった叫び声を淳平のスーツに吐き出し、淳平はそれを押さえつける様に壊れる程強く抱きしめた。いつの間にかズボンの脱げた渡の剥き出しの足は宙に舞い、ビクン、ビクンと空中で痙攣をする。
 淳平に抑え込まれた上半身以外の渡の身体は、頭をもがれたトカゲのように勝手に暴れた。
 その痙攣に合わせてアナルの中の激しい伸縮に刺激された淳平も射精しそうになってペニスを抜こうとすると、朦朧とする意識の中で渡が淳平の手を止めた。
「や・・中で・・イって・・くださ・・」
「いいのか?」
「先輩の・・欲しい」
 その言葉で淳平の脳裏に弘夢がフラッシュバックされた。

―淳平の、欲しい

(弘夢ッ)

 脳内で弘夢の顔を浮かべた淳平はこの上ない快感に導かれて麻薬のような陶酔した射精をし、渡の中へ大量に吐き出した。




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何だか意外と激しいオフィスエチになってしまいました(-_-;)
そしてイク時やっぱり弘夢を思い浮かべるってどうなのさッ(>_<)


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それから45話

 帰りの車内では互いに必要以上の事は喋らずに帰った。
 家に入ると渡たちは順番にその僅かに残る精子独特の漂白剤にも似た香りをシャワーで洗い落とした。
 その日から二人の距離は遠くなったようで近くなった。
淳平は時折普段の渡から、映画館で見せた清純そのもの故の強い色香を思い出す様になった。そんな邪念を振り払う様に仕事に打ち込んでいると、そのタイミングを見計らうように急にバタバタと取引先とモメて忙しくなった。殆ど取引先に直行して帰りに会社へ立ち寄り、残業をしてから帰宅すると既に渡は寝ているという状態が続いた。そんな中でもきちんと夕食や夜食の用意もしてある。淳平はそれを見る度に心が温かくなった。渡には感謝してもしきれない。
 そして淳平は、これ以上渡に面倒を掛けてはいけないと、自立をする事を決めた。
 
 淳平が夜遅くに取引先から会社へ戻ると、廊下がシンとしていつものように人気を感じなかった。今日もまた自分がオフィスの戸締りをして帰る事になると思いながらオフィスの戸を開けると、一角だけ明かりが点いていた。こんな遅くに誰が残業をしているのかと疑問に思うと、ふと渡がデスクから顔を上げた。
「お前、まだいたのか?」
「あ・・先輩!お帰りなさい!はい、ちょっと今日は残業で・・」
 淳平はカツカツと渡のデスクの方へ向かった。
 渡のデスクを見ると別段残業をするまでもない資料の作成やファイルの整理などをしていた。
「お前、もしかして待ってたのか?」
 淳平がそう言うと、渡は気まずそうに顔を赤らめて顔を逸らした。
「いえ、本当に丁度さっき終わったので、少しだけ待ってみようかなって思っただけです」
 そう言って垂れた可愛い目をゆっくりと下から見上げられて、淳平は素直に目の前の弘夢以外の男を可愛いと感じた。自分が弘夢以外の男に対して触れたいと思う事自体信じ難かった上に、同時に信じたくない気持も胸中を占めていた。
 渡はきっと淳平を待つ為に余計な仕事を無理に引き受けて待つ口実を作っていたのだろう事は容易に予測出来た。

「沢村、俺そろそろお前の家を出て、一人暮らしに戻るよ。」
 淳平の言葉に渡は顔色を変えた。
「え・・え・・どうして急に・・僕、何かしましたか?!あ・・この間、僕が変な事したから」
「違う、そんなんじゃない。お前がどうこうじゃないんだ。これ以上お前に世話になる訳にはいかないだろう」
 渡は椅子から立ち上がると縋る様に淳平の腕を掴んだ。
「そんなッ・・僕全然迷惑じゃないですし・・寧ろ先輩と一緒にいたいんです!居て下さい!」
 時枝から命令された仕事よりも、渡自身が淳平と離れたくなかった。例え弘夢をずっと思っていたとしても、淳平と一緒に居られる事が渡にとって幸せな毎日になっていた。
「お願い・・」
 渡から熱い涙が溢れる。
(まずい・・)
 淳平は自分が今渡にしそうになる行動を抑えようとするが、渡の泣き顔から目が逸らせない。
「お願いです・・先輩・・僕を・・一人にしないで・・」
 そう言った渡の顔が本当に寂しそうで、それはまるで急に親に見捨てられた子犬のような表情だった。自分の何が悪いのかが分からないが、嫌われたくない、ついて行かなければと必死に縋るまだ幼い生き物のような顔だった。
 この顔は自分がさせているのかと、淳平は自分の決意に逡巡する。

「そういう顔で見るな。」
「ご・・ごめんなさい・・ごめんなさい・・今・・泣き止みますからっ・・うぅっ」
 今直ぐ泣き止まなければ淳平にもっと嫌われてしまう、そんな焦りが余計渡の胸を締め付けて涙が溢れる。
(止まれッ、涙!)
渡がギュッと目を瞑ると、溜まっていた涙がボタボタと落ちた。
(止まれッ・・止まれ止まれッ)

 そして渡が再び目を開けると、目の前に淳平の整った顔が至近距離にあった。
 渡は心臓が飛び出すかと思う程に鼓動を大きく鳴らした。息が止まる。
今まで冷たく困惑した目しか向けられなかった淳平の瞳は愛おしむように自分を見ていた。
「せんぱ・・」
 そしてゆっくり近づく淳平の顔がぼやけるのと同時に、渡の唇が塞がれた。

 唇を少し離されると、渡は慌てて呼吸をした。心臓はやっと入って来た酸素を取り込もうと必死にドラム音を打ち鳴らす。
 渡は初めてキスをされた気がした。
 淳平は緊張で固まりながらも頬を桜色に染めて自分を見る渡をデスクに追い込む。淳平に追いつめられた渡は自分の整頓されたデスクの上に上半身を押し倒されて緊張が高まった。
「あ・・あのっ・・」
「一緒にいたら・・きっとこういう事をする。今も、何だか歯止めが効かないんだ。」
 渡は机の上に組み敷かれ、両手首を押さえつけられる。鋭い雄の目で見られて渡は身体が熱くなった。
「僕は・・先輩に抱いて欲しいです。好きになって貰いたいんです。」
「俺はお前を可愛いと思う。」
 その途端渡は顔から火を吹きそうになり、背中にも汗が出てきた。
「でも、俺はまだやっぱり弘夢を愛してるんだ。それなのにお前を可愛いと思ってこんな事しちまう、最低の奴なんだよ。」
 淳平は自虐的な笑みを浮かべた。
「それでも・・いいです。いつか、僕を好きになってくれれば。諦めがつくまで、僕を抱けばいい。我慢、しないで先輩。僕はあの人の代わりに抱かれても、それでも嬉しいから。」
「バカが・・!」
 淳平がそう言うと渡は上に覆いかぶさられる様にして頭を抱えるられ、激しく唇を塞がれた。
 淳平の舌が渡の舌を可愛がった。それは甘く激しく蕩けそうなキスだった。
「んっ・・はっ・・先輩っ・・もっと・・んんっ」

 渡の股間に当たる淳平の下半身は既に硬かった。
 淳平は自分のネクタイを緩めた。そして渡のネクタイも外し、白いワイシャツのボタンを外して行くと小さく立ち上がった薄茶色の乳首が露わになった。
 渡のワイシャツを腕まで下ろして細い肩を出すと、渡が恥ずかしそうにシャツに隠れた手先を自分の口元へ持って行った。
 淳平はガチャガチャと自分のベルトを外し自分のペニスを取り出した。ここの所忙しくて自慰も出来ずに溜まっていた。驚くほどに腫れあがったそれは今にも射精してしまいそうな程の高ぶりだった。



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それから44話

☆18禁です。

 別に好きでもないのに触れられると感じる身体に仕込まれている渡の身体をこんな形で淳平に見られるのは耐え難い恥ずかしさだった。誰にでも感じるだらしのない奴に思われたかもしれないと、渡の瞳から涙がじわりと湧き出る。
 淳平はそんな渡を見て優しく右腕で抱きよせた頭を撫でた。
「大丈夫。少し経てば落ち着くだろう。気にするな。」
 だが渡には、好きな男にこんな風に抱き寄せられ、頭を撫でられて頭上で吐息を感じるというのは興奮を煽るものでしかなかった。
渡の下半身は一向にその熱を冷まそうとしない。だんだんと我慢の出来ない疼きが渡の身体全体に感染してくる。若干息も荒くなり、顔は紅潮して蕩けた目で淳平を下からねだるように見上げる。直ぐそこに淳平のシャープな顎のラインがあり、整った唇がある。淳平の目線は真っ直ぐに映画を見ていた。渡の身体は熱を持ち、ブラックジーンズの中で膨れ上がったペニスは狭い場所で苦しい状態だ。

 淳平は映画を見ながら渡を落ち着かせていると、胸元の寄せた渡の体温が上昇していくのを感じた。先程の事が相当恥ずかしいのかと思っていると、キュッと胸元の服を渡に掴まれて渡の顔を見た。蕩けた顔はドキッとする程可愛い色っぽさが溢れていた。そして次の瞬間に、そのぽってりとして濡れた唇が淳平の唇に吸いついてきた。
「おいっ・・ん・・ちょ・・待・・っ」
「んっ・・は・・ぁ・・んっ」
 暗闇の映画館で吐息だけのやりとりは誰にも気付かれない。幸い観客は中央辺りからしかいない。
 渡の熱くねっとりとした舌が淳平の舌を捉えて離さない。焦りとは逆に淳平の舌は確実にその動きを感じていた。一旦ゆっくりと渡の顔を離すと、映画の明かりで反射した煌めく唾液の糸が厭らしく引いて二人の唇を繋いだ。
「先輩・・ごめんなさい・・でも僕もう限界でっ」
 涙目で訴える渡の顔を見て、同じ男としてその気持ちが分からない淳平でもなかった。淳平は軽い溜息をつくと、渡のジーンズに手を伸ばした。
「え・・えっ・・」
「いいから・・じっとしてろ。してやるから」
 困惑する渡を制してジーンズのベルトを外し、チャックを下げ、そして手触りの良いボクサーパンツの中から渡の硬く勃ちあがったペニスを取り出した。それはとても熱く、既に先走りの液体でぬるついていた。
 急に外気に晒された渡のペニスは歓喜を感じ、その刺激的な状況に悶える様にヒクついた。
淳平に触られるその感触は渡を異常なまでに興奮させた。今は弘夢の事よりも渡の事を考えて触れてくれている、そう思うだけで身体全体が粟立ち、至る所が数倍にも感じるように変化していく。
 大きな淳平の左手がギュッと渡のペニスを包み、クチュッと卑猥な音を立てて回す様に上下に扱き始めると、渡はあまりの快感に声を上げそうになり慌てて自分の口を両手で押さえた。

 鼻から声が漏れる。腰が淳平の手の動きに合わせて動いてしまう。何かに掴まっていないと椅子に溺れそうになって、口元の手を離し淳平の首にしがみ付いた。
「ふっ・・あっ・・あっ・・先輩っ・・きもち・・きもちっ」
 淳平の耳に唇を付けてそっとその想いを伝える。
「バカ、声あまり出すな・・」
 渡をたしなめながらも淳平は手を更に強く激しく上下に動かす。淳平の前髪がその手の震動で小刻みに揺れ渡の頬にサラサラと当たる。扱かれている自分のモノを見ると淳平の手の甲に血管が浮いているのが見えて、渡は更にペニスを硬さが増してしまう。

「んあっ・・ダメっ・・声、出ちゃうっ・・先輩、口、塞いでっ・・お・・ねが・・ああんっ」
 だんだんと歯止めの効かなくなってきた渡の声が大きく喘いだので、淳平はマズイと感じて空いていた右腕を渡の首に回し、後ろから渡の口を手で塞いだ。
「んーっ、んっ・・んっ・・んんっ、んーっ」
 まるで無理矢理に渡を襲っているみたいだった。不謹慎にも淳平本人もどこか興奮している部分が沸々と体内の奥深くから湧きあがってくる。
 渡の顔を見ると涙を浮かべて鼻で荒く息をし、気持ち良さそうな顔をしていた。それに煽られた淳平はつい意地悪な気持ちが出てきてゆっくりと渡の口を押さえていた手を緩めた。
 渡は不安そうに淳平の目を見つつも出そうになる声を唇を噛んで我慢をしている。それを見た淳平は指をグッと2本、渡の口内に侵入させて口を開かせた。

「ん・・ふっ・・ん・・あ・・あ・・や・・ああ・・」
 可愛い声をそっと出しながら入って来た淳平の指をぴちゃぴちゃと舐めて、渡はその柔らかい舌を淳平の指に絡ませる。溢れる渡の唾液はタラタラと淳平の指を伝い、自分の顎も伝い流れ出る。
 一気に渡のペニスが膨れるように硬さを増した。
「んあっ・・らめっ・・やっ・・イき・・そ・・あっ」
 渡は射精感が募ってくると、淳平の指を甘噛みした。
 噛まれた指先に淳平はゾクリと感じる。

 映画は丁度主人公が殺人鬼と乱闘するシーンに入って大きな効果音と音楽が会場に響いてきた。それを見計らっていたかのように、淳平は扱くスピードを一気に速めた。
 映画の主人公と一緒にいる女性が恐怖に怯えてひたすら奇声を上げていた。それに混ざる様に渡が高い声を出す。
「やっ・・イっちゃう・・先輩っ・・あああっ・・あああっ!イクっ・・や・・ああああっ」
 映画の女の「きゃあああ」という叫び声と重なるように、渡の射精の瞬間の声が大きく出る。
 ドロッとした熱い液体の感触を、淳平は手で受け止める。
 息を荒くして恍惚の表情でくったりとした渡は、荒い息を整えた後のろのろと自分の鞄からハンカチを取り出して淳平の手を拭き、そして自分の汚れた部分も拭いた。
 映画館のその一角だけ、青臭い精子の匂いがたち籠った。



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初映画館プレイ(´∀`*)ウフフ
淳平はお手伝いをしてあげましたー


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