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一周年記念 万華鏡-江戸に咲く-「やせ我慢」3話

「あぁっ…んっ…あっ……ああんっ」

 キスだけなのに声が押さえられない。
 昔、夜の舌だけで後ろの穴を攻められてイった事もあった。

「気持ちいいの? 美月……可愛いよ」

「あっ、あっ……もっ……とっ……んっ…よるぅ」

 夜の甘い唾液がトロトロと注ぎこまれてくる。
 美月はそれが大好きで、クチュクチュ音を立てて吸い尽くす。
 
 キスしかしてない筈なのに全身が痺れてくる。
 下半身はドクドクと波打つように血液が循環していて、少し動いただけでもパンツに先が擦れてイってしまいそうになる。
 夜はそんな美月の状態を知っているのか、どんどんと攻め立ててくる。
 その何か生き物の様な夜の舌は、美月の性感帯を隈なく這いずり回り、犯してくる。奥の奥まで侵入して来て、夜はいつも美月の舌を全部甘噛みして食べようとする。


『美月の舌は柔らかくてトロトロしていて、甘くて美味しい』


 夜はいつもそう言う。
 言われる度に、死ぬとしたら夜に全部を食べられて死にたい、と思う。
 きっと最高に感じて幸せなんじゃないかと思う。そしてそんな自分がどうかしているとも、思う。

「あっ……らめっ……そんなに噛んだらっ」

 クチャクチャ、ピチャピチャ。
 
 イヤらしい音が耳の中でこだまする。

「やっ…やんっ……やらっ…あうっ」

「ホラ……イけよ。もう、舌でイけるだろう?」

 夜に無理矢理舌を引きずり出されてクルクルと小刻みに絡ませられる。

「いっ…いやっ……」

 ペニスの先がドクンドクンと動いて来る。きっと今パンツの中から引っ張り出せばツルリとしたピンクのペニスの表面には沢山血液の筋が浮き出て、先っぽは真っ赤に染まって爆発しそうに違いない。
 夜がニヤリと笑ってキツク舌先を噛んで引っ張り出す。

「あッ…アァッ……引っ張っちゃっ……やっ、やっ」

「ホラ、イケって……」

 噛まれた舌はどんどん外へ引きずり出されて、痛みが興奮を高めて下半身の快楽を呼び起こす。

「ハァハァハァハァ」

 おかしい。
 息がどんどん荒くなる。
 心臓の震動に合わせてペニスがヒクヒクする。


――気持ちいい。気持ちいい。


 夜と目が合った。
 初めて夜とあった時を思い出した。
 久し振りに見る獣のようなあの目線だ。


 ガリッ

 舌を噛まれた。


 その瞬間火花が散ったように物凄い気持ち良さが下半身に伝わって、気付いたら叫び声を上げていた。

「イッ……ぁあああぁぁ――っ」

(な…何? ……気持ち……いい――。)

 ハァハァと息を切らしていると、ビクッ、ビクッと下半身が痙攣している事に気付いた。

(え……俺、もしかしてイったの!?)

「血、出ちゃったな」

 口の中にしまうのを忘れていた舌を夜にペロッと舐められた瞬間、ピリッとした痛みとゾクッとした快感が背中に走った。

「ひっ、酷いよっ……噛むなんてっ」

 口の中に鉄の味が広がる。

――まさかキスだけでイかされるなんて……。ていうか、今のはキスって言っていいものかどうか……。

「手当、してよ……」

――怪我って理由でもう少し甘えてもいいかなぁ?

 美月は甘えるようにペロッと舌を出してみる。
 夜はクスッと笑って美月の頭を撫でながら、さっきとは打って変わって優しく舐めた。

「んっ……んんっ」

 同じ鉄の味でも夜と味わうと何だか美味しいのは何故だろう。

「愛してるよ、美月」

 美月がそう言われると我慢出来なくなるのをよく知っている。そういう意地悪なところは変わらないようだ。



<<前へ      次へ>>


キスだけでどんだけ引っ張るワタシ…(-"-;A ...アセアセ
というか、最近舌攻めが好きなのか。
あぁ…久々にタン食べたいな(〃∇〃)焼肉v(そこでもタンw)

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一周年記念 万華鏡-江戸に咲く-「やせ我慢」2話

(俺、どんだけ欲求不満なんだ……。)

 二人暮らしをすると言いだした時、美月の親が金を少し出したお陰でなかなか良いマンションを借りる事が出来た。
 二人暮らしで2LDK。それもなかなか広いデザイナーズマンション。かなり贅沢だ。
 ルームシェアという意味で捉えている親の感覚なのだろうが、部屋は一応別々にしてあるが寝る時はどっちかのベッドというのが常だった。
 ただ、こういう試験の時以外は集中する為に別々というのが辛いところだ。

――もうどれぐらいセックスしてないだろう。

 夜がお茶を飲む為に椅子から立ち上がり、美月の座っているちゃぶ台へと移動してくると夜独特の白檀に似た香りがスッと鼻腔をくすぐって発情してしまいそうになる。
 
(大体、夜が俺の身体をこんなにイヤらしくするからイケナイんだっ。)

――それに……どんどん格好良くなっていく夜を目の前で見てるのも……我慢出来なくなりそうだ。

 美月の手が汗ばんでくると、そわそわしているのが分かったのか夜はニヤリと口角を上げた。
「美月、したいか?」
 夜が少し意地の悪い顔で聞いて来る。
「べ、別に……俺、そんなエロばっか考えてないしっ」
 

(いやいや、もうかれこれ十日してないだろ? 隣の部屋で毎日オナニーばっかしてるだろ、俺!!)

 瞬時にカッと体温が上がって脳内に沁み込んだ夜の感触が美月の身体中をざわつかせる。
 少しでも触れたらしたくなるからと言ってキスもしてない状態で一つ屋根の下にいる。美月はこんなに苦しいなんて思わなかった。
 だが夜が平気そうなのが何だか少し不満だった。

「ふぅん……。あと四日だし、もう少し我慢出来るか?」
「だっ、だから別に我慢とか、してねェッて!」
 見透かされているみたいでついムキになって嘘をついてしまう。
「なんだ。美月は平気なんだ?」
「別にっ、誰も全然平気なんて誰も言ってなっ……」
「俺は今でも理性押さえるのに必死だぜ? 今、この瞬間にだってお前を押し倒して息も出来ない程舌を吸って朝まで犯しまくりてェよ」

(な……なっ……!)

 そんな事を言われて途端に生々しい情景を想像して鼓動が速くなる。あの夜の、凶器のようにバカでかい肉棒を無理矢理突き挿されて気を飛ばす程突かれる、そんな映像が脳内でビジョンと化して興奮してきた。
 イヤだと言う度に比例して強く激しく挿してくる。夜には美月の欲望が手に取るように分かるのだろう。
 美月はそんな夜に安心して好きなだけ抵抗するのが堪らなく好きだ。

「何言ってんだっ……そんな事っ……言ったらダメだ…よっ」


(ヤバいって……今の言葉だけでもう……勃ってきちゃったよっ……夜のバカっ)


「じゃあ、これから四日間は自分でするの禁止な」


(……え?)


「何でだよッ!!」

「いや、その方がその後燃えるだろう?」


(その大人びた笑い、ちょっと先生に似てるぞ夜めッ!! ていうか、無理!! 四日間もイけないなんて……。)


「我慢出来なかったらもう一週間我慢だからな?」

 意地の悪い視線がやけに色っぽい。


(はぁぁぁああ? てゆーかッ)


「お前は……そのっ…平気なのかよ……」

 美月は一生懸命に身体の限界を隠しながらも強がって見せる。

「あぁ……俺は大丈夫だ。何せ四年も逢えなかったのを乗り越えたんだからな」

 勝ち誇ったような顔で俺の頬をそっと撫でてくる。もう、それだけで身体が火照ってくる始末だ。

「ん―……。でもそうだな。可哀想だから今日だけは口付けだけするか。俺も限界来てるしな」


(夜は未だにキスとは言わないんだよなぁ。)


美月はそういう夜の江戸ッ子の名残の部分をとても愛しく感じる。

「キス? 今? 何だよっ…それっ」
「最近、また色っぽくなったなお前。いつも以上に誘うような目つきするしよォ……我慢してる表情とか堪らねぇ」
 夜の整った顔が近づく。
 美月はちゃぶ台の前でただ心臓をバクバクさせながら、これから起こる事に期待と嬉しさと恥ずかしさで震えそうになる。

「やっぱり、お前の目の中にまだ残像が見える……薄らと煌めいていて……とても綺麗だ」

 夜の切れ長で鋭い視線が美月を金縛り状態にさせる。
 夜の吐息に触れた瞬間、情けない程に美月の下半身は痛い程硬くなった。
 後頭部を抑えられ、首を軽く締められるように掴まれて唇を食まれる。


(あぁ……夜のキスだ……久し振りだ……。)


 美月は自分の亀頭の先からどんどん熱い汁が出てくるのが分かる。
 気持ちは毎秒高ぶって自分から口を開いて舌を差し出す。



 もっと吸って。
 激しくして。



 縋りつくように夜のシャツを掴んで引き寄せる。
 夜は相変わらず凄い舌使いで攻め立ててくる。



<<前へ      次へ>>


何故かいつも力が入るキス描写…。
癖…なんですかね??スミマセン、長くて(汗)。まだまだ続きます;

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一周年記念 万華鏡-江戸に咲く-「やせ我慢」

 あれから美月と夜は現代で一緒に住んでいた。
 どういう事か分からないが、夜という人物はちゃんとこの世に存在しているようで、住民票にも『香月 夜』(カヅキ・ヨル)と登録されていた。
 美月は一体何がどうなっているのか分からないで首を傾げていたが、当の夜は「お前と同じ“月”の文字が入ってて嬉しい……あと、あいつと同じっていうのも、一応な」と嬉しそうに笑っていた。
 “あいつ”というのが抱月(ほうげつ)だと言う事は美月にも直ぐに分かった。
 そして何だか胸の辺りがホッと暖かくなって、ギュッと締め付けられた。

 抱月は美月たちにとってかけがえのない共通の大切な人だ。
 もう二度と会う事は叶わないが、時代を超えて共に過ごした日々は確かに現実で、そして宝物だった。
 時代を超える、なんて既に常識のキャパシティを超えている事を体験したのだから、美月は住民票に夜の存在があったところでそんなに驚く事でもない気がした。
 どこのどなたかの都合の良い嬉しい悪戯だ。

 美月と言えば、今一生懸命医大生として頑張っていた。
 だが、その側で美月よりも頑張っている男がいた。

 夜だ。
 あの夜が、だ。

 夜は現在、一生懸命薬剤師になるべく薬科大学に通っている。
「お前が開業した時に一緒に力になる為だから」
 夜はそんな嬉しい事を言って、今まで見た事のないような真面目さを発揮していた。そんな姿を目の当たりにして、美月も奮起して頑張ってはいるのだが……。
 何せ、意外にも一つの事に没頭する性質なのか、離れていた期間で変わったのもあるのか、あの助平風来坊が朝から晩までひたすら勉強しているのだ。
 江戸時代の人間が現代人について行こうとするのは人の何倍も勉強しなくてはいけない事が山程ある。
 最初は車だの電車だのに一々驚いたり、電気街のガチャガチャした五月蠅さに耳を塞いで歩いていたのが今では少しずつ慣れて来て、たまにテレビで流れる時代劇を見ては懐かしいと言って和んでいる。
「良く出来た芝居だとは思うが、少し違う」
 夜がそういう度に『さすがは本物』と可笑しくなる。
「帰りたいって……思う?」
 美月がそんな質問をしても夜はいつも真っ直ぐな目で「思わない」と言って優しく微笑んでくれる。

――あぁ……俺って愛されてるなぁ……。

 自分の生きている時代を捨ててまで一緒になると決めてくれた程の愛。考えてみると本当に凄い。
 だが美月自身はそんな風に幸せを感じる度にどうしようもなく身体が熱く疼いてしまっていた。
「いや、男なんだから仕方ない!!」と、自分で納得させるのも束の間。おかしなウイルスにでも感染したかのように夜の匂い、姿、動きを感じるだけで熱を持ってくる。
 少し前なら寧ろ夜の方が美月を激しく求めて来ていた。だが何せ今は試験勉強の真っ最中。

『俺が邪魔してどうする!』

 という訳で、美月は今我慢の真っ最中だ。

 今夜もそんな疼く身体を持て余しながら夜の好きな抹茶入りのお茶を入れて部屋へ向かう。
 カチャリとゆっくり部屋のドアを開けると、いつ見てもドキッとするような横顔に魅入ってしまう。
 昔は荒々しく、本能のままに突き進んでいた感じだった。勿論その激しさも良かったが、今はその荒々しさが少し削ぎ落とされて、その野生味が静かに内側で滾っているように見える。
 ほんの少し余裕なんかも出て来て、顔も引き締まってどんどん格好良くなって来てしまっている。

(これは拷問だよォ―っ)

 既に少しハァハァしながら部屋に入る美月は自分に呆れながら遠巻きにベッド下のちゃぶ台に近づく。
「あっ……夜、お茶入れたよ」
「あぁ、悪いな……ん―っ……少し休むかな」
 夜は身体を伸ばすとチラッと腹筋が見えて思わずそこに目が釘付けになる。頬がカッと熱くなって目を逸らすが、脳裏にその残像はしっかりと残ってしまう。
 昔から剣の修行をしていたという夜のその肉体はしなやかで、そして美月を抱く時に伸縮する。美月にはその動きがとても艶めかしく思えて鮮烈に、腕や腹や脹脛(ふくらはぎ)、そして首筋までの細かい筋肉の動きが脳裏に焼き付いている。

(俺、どんだけ欲求不満なんだ……。)



次へ>>

結構過ぎてしまいましたが拙宅のブログが何と一周年を迎えましたー!!
これも応援して下さる皆さまのお陰です!!
三日坊主の私がこんなに続けられるなんてっ!!∑(°ロ°*)
今回は今更新しているものを横に置いて(スミマセン;)万華鏡をUPしました。
その後の二人です♪
またトントンとUPすると思いますのでお暇のある時にちょこちょこと覗いてみて下さいませ☆
万華鏡は人様にブログで公開した初めての作品です。
今見たら物凄い文の書き方(今もですが;)に咥え…いや、加え、好きな事(エロ)しか書いてないという有様…。
お恥ずかしい…///
今回の番外編は最初美月の一人称で書いてたんですが、やはり無理で途中から三人称に書き直しました(笑)
難しかったです…;エロとかは書きやすいんですが、物語の進行をどうやったらいいかで息詰まりましたorz
兎にも角にも。今まで応援して下さっている方々、これからもどうぞ宜しくお願いいたしますっ!
こんなスローペースな私ですが、急に書きだす時も休む時もあると思います(汗)
でも気長にやっていけたらなと思っています。
そして出来たら同人活動もしたいと思っています。
これからもどうぞ末永く宜しくお願い致します!!。゚+.ヽ(´∀`*)ノ ゚+.゚


万華鏡-江戸に咲く-第一話 

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万華鏡-江戸に咲く-92最終話

エピローグ

「行ってきます」
 髪を短く切った夜は薬科大学へ通っていた。細身のジーンズに古着テイストのTシャツを着て、その上から七分袖のジャケットを羽織っている。美月はいつもながら夜の姿に魅入られる。すると、振り返った夜がふっと笑って玄関に立つ美月の元へ戻って来た。
「何、その物欲しそうな顔・・キス、して欲しいの?」
 意地悪く夜が自分の指の先を舐めて舌の動きを見せつけると、美月の下半身に熱が灯る。蕩けた瞳で夜の舌のいやらしい動きを見ていると、夜はその濡れた指先を美月の唇に擦りつけて透明なルージュを塗った。
「じゃあな、時間無いからまた帰ってから」
 そう言って夜が出て行った後に、美月は濡らされた唇に舌を這わせた。

 今は二人でアパートに住みながら懸命に夢に向かっている。いつか二人で診療所を開くというのが夢だった。
 そして美月は研修の為に病院へと向かった。今日が初めての研修の日。緊張する上に連日の勉強疲れとバイトで疲労困憊気味だった。夜も同じく、金を貯める為にバイトで夜は剣道の講師をしていた。モデルの誘いやスカウトが絶えなかったが、美月と話し合った結果、夜は面倒事になると断っていた。

 病院に着くと、ボーっとした頭で説明を受けていた。こんな事ではいけないと思って睡魔で閉じそうになる瞼を必死に持ち上げようとしていると、突然一人の医師が前に立った。
「秋本くん。今日から指導する早乙女です。よろしく」
「あ、はい。」
 ふと早乙女の顔を見た美月は途端、涙が勝手に溢れた。
「ど、どうしたの、秋本くん。取り敢えずあっちに行こうか」
 慌てた早乙女が一先ず飲み物を買って中庭のベンチに美月を座らせた。

「すみません・・ちょっと・・知り合いに似ていたもので、つい。」
 鼻を啜る美月は早乙女の持って来てくれた温かいココアで掌を温めていた。
 そのその早乙女のカップを持つ左手の薬指に光る指輪がちらりと見えた。
「そうなんだ。そんなに似ているの?僕」
 そう言われて顔を横に向けると、そこには抱月の面影を持った早乙女の顔が優しい瞳で美月を見ていた。
「はい・・似ています。すごく・・」
  思わずじっと見つめてしまう。
 そうなんだ、と言って早乙女が美月の学歴とプロフィールの紙を見て手を止めた。
「秋本くん・・美月(みづき)って言うの?」
「はい、そうですが・・」
 早乙女が驚いた顔で美月の方を向く。
「実は僕のご先祖さまがね、昔自分の子に美月って名前を付けたんだ。」
「え・・・」
 早乙女は面白い話でも聞かせる様に嬉々として話を続けた。
「で、その美月の父親ってのは凄い町医者だったらしいんだけど、その人の遺言とかで代々子供は皆“月”の付く名を与える事になってんだ。」

 美月はまさかこんな偶然などある筈がないと、妄想を加速させないように自分を抑えるが、心の高鳴りは速さを増す。


『目の前にある美しい月は手に入らなかったけど、代わりに宝がもう一つ増えた。だから美月、僕の中にいる美しい月と、可愛い小さなお前をいつでも抱いていよう。私は抱月。美しい月(キミ)を抱く為にあるのだから』

 詩でも読むように早乙女が言ったその言葉で美月の時が止まった。

(せん・・せい・・?)

「何でも、自分の赤ん坊が生まれた時に赤ん坊にそう言っていたのを奥さんが聞いて、あまりに素敵な恋文のようだったからと書き残していたらしいんだ。」

 美月の魂が震える。

「因みに、これまでずっと月のつく名前を使ってきて考え兼ねた俺の親は美月の親の名を拝借したんだよ、はは」
 早乙女が楽しそうに笑う。
「名は・・何て言うのですか」
 美月はせり上がる気持ちで詰まりそうになる言葉をやっと出した。

「抱月」
 
 魂が同じなのかは分からない。だが事実、先生の血の通った人間が同じ時代に生きているという事だけで美月は堪らなく嬉しかった。あの後、きっと気立てのいいカヨの献身的な愛で、それなりの幸せを掴めたのだろう。いつまでも愛していると、その想いをこの時代にまで伝えるように子に名を託してきた。抱月が幸せだった事、そして美月を想う愛が伝わって胸が熱くて焼けそうだった。

(また、逢えたね・・先生・・)
 
 この時代の抱月もまた別の幸せを既に掴んでいるのが、その薬指にはめられた指輪が語っていた。
 美月は嬉しくもすこし寂しくも感じる。
 ボロボロと溢れる涙を見た抱月は優しく美月の頬を撫でた。
「君は・・本当に美しい月の様な人だね。思わず抱きしめたくなる。」
 美月は撫でられた早乙女の手の感触に目を瞑ると、涙が二筋流れ出た。
 ふと早乙女は思い出したように懐からお守りを出して見せた。
「そう言えばこれもね、代々お守りとして持っていたものなんだ。中身、見たんだけど訳の分からない塊なんだよね。でも、何だか無くせなくて」
 早乙女が出した中身は欠けない様に、きちんと綿の入った木箱に包装された白い欠片だった。
 それを見た美月は自分のお守り袋からも白い欠片を取り出した。そして、そっとその欠片を早乙女の持つ欠片に合わせると、半分がピタリと合った。早乙女は目を見開いて驚く。
「これは・・一体どういう・・」
 美月は涙を浮かべて微笑んだ。
「きっと前世で関わりがあったんだと思います。あの、今夜もう一人先生に逢わせたい人がいるんですが、お時間ありますか?」

(夜、また3人一緒に笑えるかもしれないよ)

 季節は初夏。これから蒸し暑い東京と一緒に、江戸の町もどこかの時空で賑わっているのかもしれない。

END


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あとがき

長い長い拙文の物語、最後までお付き合い頂きまして本当に、本当にありがとうございました。
この時代ではやはり夜と美月は二人で幸せに過ごす時のようです。この時代の抱月も既に家庭を持って自分の人生を歩んでました。
因みに当初の予定では30話位の予定でした^^;
途中の入るエロが長くて長編になったと言っても過言ではありません(笑)
最初は江戸時代と着流しが好きで考え出しました。そしてボーダーレスが好きな私は運命の相手を同じ時代じゃなくてもいいんじゃないかなーなんて考えてこんな都合の良い能力をBLの神から授かりました。
結局、美月の逢うべき人は夜と抱月両方だったのだと思います。ただ、恋愛はそう上手くいかないので身を引く抱月のシーンは少し寂しい感じでした。いつかどこかで美月の魂と一つになれるといいです。
何だか最後の方で漸く物語が足早に動いた感じで申し訳ありませんでした m(_ _;)m
この作品を通して色々な方との出会いもあってとても思い出深い作品となりました。
夜と美月の生活はまだこれから始まります!また現代での夜と美月の生活シーンも書けたらいいなと思ってます。
本当にありがとうございました!!m(_ _)m
 

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万華鏡-江戸に咲く-91

 翌日、夜と美月は二人で挨拶に回った。雪之丞は静かに泣いて、夜と抱き締め合った。4年経った雪之丞はやはりしっとりと美しい青年に成長していた。
 満足そうな二人の顔には強い絆が垣間見られた。そんな二人を見ても、美月の心はもう1ミリも微動だに揺れない。そして美月も喜助と雪之丞と熱い抱擁を交わすと、二人は涙を溜めていた。
 後から夜が、雪之丞と店にいた栄吉がデキたと聞いて美月は驚いた。あれから元気を無くした雪之丞をずっと支えているうちに栄吉が一生雪之丞を守るという約束をしたのだという。
 それを知った夜は心底安心出来たと言っていた。その顔は実に晴れ晴れとしていて、夜の中に雪之丞は肉親としての情のみが残っている事が窺えた。
 そして陰間茶屋の夜の後任には、熊が抜擢されたと聞いてその意外な事態に美月はまたしても驚いた。ああ見えて意外と筋がいいと夜は言っていたが、美月の脳裏に熊の嬉しくて締まりのない顔が浮かんだ。案の定、熊に挨拶に行った際、夜に大変感謝していた。茶屋の色子たちも最初は熊に近寄りもしなかったが、夜に伝授されたそのテクであっという間に人気者になれたようだった。
 そして、熊は何より優しい気質だった。美月にはそこが夜の抜擢した理由なのではないかと思われた。

 二人は最後に抱月の家に行くと、待っていたように抱月がお茶を入れていた。抱月は4年経っても相変わらずしっぽりと大人の色香を漂わせていた。
「美月・・」
「先生!」
 二人は引き合う様に抱きあった。
「行くのか」
「うん・・」
 抱月は夜の方を見た。
「夜、美月と二人きりにさせて貰えないか」
「ああ、少し外に出ている」
 夜は静かに納得して外へ出た。

 カタンッとドアを夜が閉める音が聞こえた刹那、抱月は美月を強く抱き寄せて唇を奪った。
「美月ッ・・美月ッ」
「あっ・・んっ・・んんっ・・せん・・せ」
 互いの感触を確かめ合うように舌を絡め、口内に舌を這い巡らせ合った。唇が痺れる程の時間キスをして漸く互いの顔を見合う。美月の唇は赤く腫れて艶めかしさを増していた。

「美月・・愛してる・・これからもずっと・・」
 抱月はしっかりと美月の顔の一つ一つのパーツを記憶に刷り込むように、美月の顔を両手に包み込んで見つめる。
「うん・・俺も好きだよ先生」
 これ以上人を全身全霊かけて愛する事はこの先ないと抱月は思っていた。
 今度こそ本当の別れの時が来たと思うと、抱月の瞳に熱い涙が溢れ出る。美月も同じ気持ちからか、ポロポロと涙が止まらない。

「いつか・・・来世でも過去でも何でもいい。お前と・・結ばれたい。」
 この時代でなくてもいい、別に人間でなくてもいい。美月の魂と結ばれる事が出来る機会に巡り合うまで、いつまででも愛しているだろうと抱月は思っていた。
「うん・・うん。俺もまた逢いたい・・」
 涙で濡れた美月の頬を抱月の両手が優しく優しく包み込む。

(可愛い、可愛い俺の美月。苦しい時は俺の魂が時を超えてお前を包みに行ってやる)

「先生・・ありがとう」

 そして美月は戸を開けて夜を呼んだ。夜がゆっくりと美月の肩を抱く。
「先生、世話になったな。達者で。」
 夜が抱月に言うと、抱月の微笑んだ瞳からまた一筋の涙が流れ落ちた。
「美月を頼んだぞ」
「ああ」
 震える声の抱月は小さく肩も震えていた。夜はゆっくりと抱月に近づくと、自分よりも背の少し低くなった抱月の端正な顔をそっと上に上げて、キスをした。
「泣くなよ・・」
 夜が静かに低い声で言う。
「よ、よさないかっ・・美月の前で・・」 
 抱月は少し照れるように顔をサッと離す。
「先生があんまり寂しそうだったから・・ついな」
 そして夜がそっと抱月の耳元で「俺たち慰め合った仲じゃねぇか」と囁いた。
 
 美月は二人の話声はよく聞こえなかったが、親密なやりとりを見ると微笑ましかった。
 夜が慣れた感じで抱月にキスをすると、恥ずかしがってチラリと美月を見る抱月の顔がとても可愛かった。そして、夜が何かを耳元で呟くと途端に抱月の顔が赤く染まり少し怒ったように夜に突っかかっていた。
 美月は、4年前もこうして3人でふざけ合ったなと、ふと思い出して笑みが零れた。

「じゃあな。」
 夜が切り出した。
「幸せにな、お前たち」
「先生・・またね」
 美月の声に抱月はこれまでで一番優しい笑顔を向けた。
「ああ。またな、美月。夜も。」
「またいつか逢おう!」
 最後に夜の江戸っ子のような粋のいい言葉と二ッとした笑顔を最後に、美月と夜は、江戸から姿を消した。


***

「次の者に能力を譲渡する。俺をそこへ転送してくれ」
 美月がそう言うと、いつもの煌めきと共に飛ばされた。

 美月は辺りの空気が変わったのに気付いて次の能力を渡す人の居る世界に来た事を感じた。だが、次の瞬間鼓膜がおかしくなる程の爆音に驚いて瞳を開けた。

 そこは、戦場地だった。

(何・・だここ・・)

 一先ずその場から離れて身を潜めるようにして動いた。

(こんな所でどうやって探せっていうんだよ!)

 美月が森の中を進んでいると、大きな切り株の上に遠距離狙撃用の銃を抱えて眠る青年が居た。その青年を見ると、途端に鼓動に合わせて万華鏡の宝石達が舞いあがった。

(彼が・・?)

 美月は恐る恐る近づくと、男はハッとその気配に気付いてガチャッと銃を美月に向けた。
 それに驚いた美月は慌てて両手を上げて話しかけた。
「あ・・あああの・・俺は別に怪しい者じゃなくて・・能力を・・渡しに・・」

 美月を睨む男の顔を見て美月は惹き込まれた。鷹の様に鋭い目の、泥と汗と血に塗れたその人は、それは胸を打たれる程整った容姿だったのだ。男の方も突如戦場に現れた美月の美しさに我を忘れた様に見つめているようだった。
 美月は視線を絡めた瞬間に、その男の魂がもう一つのどこかにいる魂を呼ぶ声が聞こえた気がした。美月は固まった男の銃に手を掛けてゆっくりと下ろさせ、男の顔に近づく。男は美月の妖艶な空気に当てられてしまったようにボーっとしている。美月は男の足の間に四つん這いになって入り込み、下から唇を近づけた。
「説明は、万華鏡がしてくれるよ。能力を、譲渡する」
 美月はそう言ってそっと男に口付けした。

 頭の中から煌めきが移動していく。感謝の気持ちと共に心穏やかにサラサラと流れるような光の移動を眺める。 そうして、美月は立ち去った。

 少し歩くと、スゥッと身体が元の時代に戻された。
 瞳を開けると、目の前を明るい紺の羽織りを羽織った着物姿の夜が立っていた。夜の姿を見た美月は安堵に満ち溢れる。
「おかえり」
「ただいま」
 夜の力強い腕が美月を抱き寄せる。
「美月・・瞳の中に・・キラキラの残像が残ってる」
 夜が美月の顔を包みこんで瞳の中を覗いて来る。美月はその穏やかで鋭い夜の瞳に吸いこまれそうになる。

(あぁ・・やっぱりこの人だった・・)

 美月は再度確信すると、魂はお腹がいっぱいになって気持ち良さそうに眠る赤子のようにトクントクンと穏やかな鼓動をし始めた。

「夜・・これからもよろしく」
「あぁ。よろしくな。」

 二人は互いに指を絡め合った。
 瞳に宿る万華鏡は、時代を超えて対の魂を見つけると江戸に華を咲かせた。
 そして二人はまた新しい人生を作り上げていくのだった。



<<前へ      次へ>>


次回のエピローグで万華鏡、最終回となります!

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万華鏡-江戸に咲く-90

☆18禁です。

 きちんと勉強をし、医学部へと行く事を決意した美月は、別の大学を編入する事にした。そして同時に自立する為に一人暮らし用のアパートを借りた。
 受験が終わってからでもと思ったが、夜との思い出のあるあの部屋で集中出来るとは考えにくかった為、早々に引っ越しをしてしまったのだ。
 そして、無事に合格し、勉強に没頭する毎日が過ぎた。
 抱月と別れてから2年が過ぎていた。漸く少し生活が落ち着いてきた美月は携帯を取り出して江戸の風景を思い出した。すると、静に沈殿していた瞳の中の万華鏡が一気に舞い上がる。

(あれから2年後・・いや、3年後・・4年後・・)

 そして美月は、4年後の江戸に自分を飛ばした。

 季節は秋。長袖や上に羽織一枚掛けて丁度いい温度だ。
 ここへ来る前に、昔来ていた着物を着てきたので今回はすんなりと町に溶け込めていた。
 美月にとっては2年振りの江戸。懐かしくて、同じ日本の東京なのに約300年前が自分の故郷という気さえする。
 ゆっくりと町を確認するように歩いていると、後ろのある長屋から「先生!」という呼び声がしてドキッとして声のする方へ振り向く。
 抱月かと思い目を凝らすが、中からは別の男が薬箱を持って出てきた。抱月よりも大きい男だ。

(新しい町の薬師か?)

 家の年よりがお代を払うと、横顔の男は落ち着いた笑みを浮かべてゆっくりと進んだ。美月は男から何故か目が離せなかった。男が近づくにつれ身体の中心から眠っていた鼓動がトクトクと動きだす。
 男の顔がハッキリと見える位置に来ると、男の方も美月の顔を見て止まった。
「美月・・・?」
「・・・え」
「美月か?」
 ドクンと一際大きく胸が高鳴って、灰色だった全ての景色に色が乗せられていくように世界が変わって見えてきた。
「よ・・る・・」
 男はだんだんと近づいて目の前にまで来た。自分の知っていた夜よりも更に大きくなって、身体も随分とガッチリしている。そして猛獣のようだった猛々しさは内に秘めて、静かに、だがとても鋭い爪を持つ龍のような雰囲気になっていた。
 大人びた顔は更に美月を惹き込む程に美しく気高く、そして男らしく成長していた。どことなく抱月にも似た雰囲気を漂わせているのは、伸びた髪を下でいわいているからだろうか。
 夜にそっと肩を引き寄せられて、優しく抱き締められると美月は未だ信じ難い気持で固まっていた。4年でこんなにも変わるものなのだろうかと美月は緊張と半信半疑の気持ちで聞く。
「本当に夜なの?」
「ああ。俺だ。ほら・・」
 そう言って夜は懐から小さな巾着を出し、その中から小さな石鹸の欠片を見せた。その途端、美月の目から涙が溢れ、夜の懐へ飛び込んだ。
「夜・・夜逢いたかった・・逢いたかった!」
 夜は自分の懐に入り込む美月の顔をそっと上に上げると、優しいキスを送った。そして一旦唇を話して見つめ合うと、糸が切れたように互いに何度も啄ばむように唇を擦り合わせた。以前よりも背の伸びた夜に、美月は背伸びをしてキスをせがむ。
「足りないよ・・夜」
 しっとりとした瞳と濡れた唇で美月が夜を誘う。夜は静かに獲物を狙うような目つきで口角を上げると美月の手を取り、昔一緒に住んでいたあの店へと連れて行った。店は既に畳み、今はたまに誰かが住んだり空きだったりと自由に使っていた。

 部屋へ入ると、懐かしいその場所に美月は佇んだ。すると後ろから大きな夜が美月を抱き締めて細い首筋をキツく吸った。一瞬で赤い跡を付けられたと感じる。美月はゾクッと感じて、たったそれだけで膝が折れ、畳みへ座りこんでしまった。そのまま夜は崩れて座り込んだ美月の顔を自分のいる後ろに仰け反らせて唇を吸った。
 口内へ入る夜の舌に触れた途端、舌が蕩けて口内のあらゆる場所が気持ち良くてどうしようもなくなる。夜の大きな手が美月の着物の合わせからスルリと入り込んで乳首を摘まんだ。美月のそれは既に硬く立ち上がってシコっている。
「あっ・・夜・・んっ・・」
 クリクリと指先で回転を掛けながら潰すと、美月は堪らなく甘ったるい声を上げた。
「あぁあんっ・・きもちぃ・・夜もっと・・もっと強く摘まんでっ・・もっと引っ張ってっ」
 久々に聞いた美月の声に夜が堪らず美月を畳へ押し倒すと、美月の方も貪る様に夜の舌に自分の舌を絡ませた。
「逢いたかったっ・・夜っ・・んんっ」
「ああ。俺もだ。ずっと逢いたくて気が触れそうだった・・」
 夜は美月に唇を触れさせたままそう言った。
「ずっとこうされたかったの!」
 互いが邪魔な着物を剥ぐようにして脱ぐと、夜の更に逞しくなった身体を見て下半身が一気に反応した。互いの鈴口からはトロトロと透明の液体が流れ出て玉の方まで伝っている。

「すごい・・夜の・・また大きくなってる・・」
「ああ。これでお前を挿してやるよ・・」
 手首を掴まれ、耳元でそう囁かれた美月の後孔はそれだけで疼いた。
「む・・りだよ・・そんな大きいの・・あっ・・や・・あ」
 夜の手腕は衰えるどころか前よりもねっとりと濃く、前戯のみで射精感を何度も何度も高められた。十分に解された美月の後孔は無理だと言いながらも既にぽっかりと孔が広がって夜を待っている。
「早く・・ちょうだいっ」
「相変わらず凄い煽る奴だな・・めちゃくちゃに動いちまいそうだ・・」
「突いてっ・・突いてっ」
 そう言って自分の丸みのある尻たぶを美月は自分でギュッと掴んで見せた。夜は堪らずその孔に自分の巨大な肉棒を挿し込むと、途端に夜の性器が溶けてしまいそうな気持ち良さに腰の動きが止められなくなった。

「あぁぁ・・すごいな美月・・あっ・・ハァ・・想像以上だ・・きもち・・」
 夜は魂までその快楽を感じていた。最初から少しずつ入れていくつもりがつい挿す力が強くなる。
「ああッ・・すご・・おっき過ぎ・・るっ・・イ・・イっちゃうっ・・も・・きちゃうぅぅぅッ」
 夜の肉棒は美月の敏感な内部を以前よりも更に強く刺激するものへと変貌していた。こんなにも早くに身体がオルガズムを感じるのは異常な気持ちの興奮もその原因の一つなのだろう。
「あぁぁああん、イクイクッ・・イクぅぅううんんッ」
 ビクンッと跳ねて、不規則なリズムで美月の腰が激しく動くが、夜はお構いなしに更に強く激しく美月に腰を叩き付けた。
「イってる最中のお前ん中すげぇ動き、最高に気持ちいいよ」
 そう言って夜が後ろから美月の乳首を引っ張り上げると、変声期のような声で啼いた。
「いいっ・・ああんっ・・ダメっまた・・またイっちゃう!あっイクっ・・もっと強く突いてっ・・引っ張って!あああんッ」
「まだまだ・・」
「あああッ・・もっとイかせてぇぇええ」
  何度も何度も行為を続けた。

「出すぞッ」
「夜の子・・いっぱい頂戴ッ」
 大量に美月の中に精子を飛ばし、奥へ流し込む。

「また出すぞ!」
「もっと奥にきてぇええ」
 終わってもまた直ぐに硬さを取り戻して何度も大量に美月の最奥に射精する。

「美月ィィ・・またイクッ・・ああッ」
「あああッ溢れちゃうぅぅ」
 底がない程に枯れない夜と美月の性欲は幾度も行為を続けさせた。一時も夜の肉棒を抜かずにピストンを繰り返していると、グチャクチャと卑猥な粘着音が部屋に響いて、結合部分の間から精液が溢れ出して来る。
 夜と美月は離れていた分の気持ちをぶつけ合う様に果てる事のない性欲に身を投じた。

* * *

「夜・・すごかった・・」
「俺はしてて意識が飛びそうになったの初めてだよ」
 再開した二人は汗ばむ身体を寄せ合って抱き締め合った。
「2年振りだね」
「俺は4年振りだ」
「あ、そうか・・」
「あ、そうか、じゃないだろう。人がどれだけ・・」
「んっ・・んんっ」
 美月は夜に髪を鷲掴みにされて乱暴なのに優しいキスで互いの唾液を吸いあった。
「今、夜は俺より年上なんだね。本当は抱月先生に5年後に来いって言われてたんだけど、我慢できなくて・・来ちゃった」
「あいつ、そんな事を・・。でも俺は10年だって20年だって待ってるつもりだった。」
 美月は嬉しさと少し気恥ずかしい気持ちで夜の胸板に顔を摺りつけた。
「夜、薬師になったんだね。びっくりした。」

 夜の少し低い位置から見上げる美月は、4年前より大人っぽく、そして艶が増したように感じた。久し振りに見る美月は居ない間想像していたよりもずっと美しく妖艶だった。
 男なのに信じられない程の美麗さは、女には持ちえない中性的な容姿で不思議な雰囲気を醸し出している。
 だが美月の中身は男らしく芯が強い。そして寂しがり屋で淫乱だ。堪らなく美月が可愛い。夜は美月の鎖骨から首筋にかけてゆっくりと舌を這わせた。
 美月はグッと夜の顔を掴んで上に上げると、出しっぱなしの夜の舌をペロペロと舐めた。
「可愛いよ・・美月」
 あっという間に年上になった夜の声は更に艶っぽく脳髄が痺れてくる。
「美月・・明日、現代へ行こう。俺はもうお前とは離れない。」
「うん・・俺も、離れない。」
 二人の魂は漸く落ち着いた様に同じ色の光を放っている様に感じた。



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次は本日昼12時にUP予定です。
年上になった夜と初エチ(*´∇`*)
というか、凶器が更に成長した模様(゚∇゚ ;)エッ!?


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万華鏡-江戸に咲く-89

☆18禁です。暴力的なシーンが含まれております。ゆるいですがグロの苦手な方の閲覧はご注意下さい。

「抱月・・預けてたやつ・・貸してくれ」
「・・今回は、俺もずっと腹の虫が収まらなかった。それに、そいつはまた新たな犠牲者を出しているようだ。」
 美月も勿論だが喜助にも酷い傷を負わせた男に夜は裏の顔を取り戻した。

 夜は雪之丞の家に行き、喜助を呼び出すと路地裏で二人きりになった。
「喜助、お前と美月をやった奴・・誰だ」
「夜兄!声が出る様になったんだね!?」
「誰がやったんだ」
 座った目をした夜はその漆黒の瞳の中に更に黒煙のような怒りと憎しみを揺らがせていた。
 その夜の殺気溢れる空気に喜助は冷たい汗が噴き出るのが分かった。そして、思い出した喜助はあの時の恐怖と悔しさで唇を強く噛み締める。
「うちの店がいつも世話になってる・・万丈屋ん所の息子だよ」
 絞り出すような声で言うと、悔しさで涙がじわりと浮かんだ。
「そうかい・・そいつん所なら知ってらぁ。前あそこのババアが俺の客だったからなぁ」
 夜は喜助の肩を抱いた。
「怖かっただろう」
「俺よりッ・・美月さんが・・美月さんが身代わりにッ・・う・・っ」
 喜助は今まで背負ってきた罪悪感が一気に噴き出しそうだった。
「あぁ。分かってる。もう大丈夫だ。あいつはすっかり良くなったじゃねぇか。それにお前の事、怨むような奴じゃないだろう?」
 夜は優しい顔で喜助を落ち着かせると、ゆらりと路地を出て帰って行った。だが、喜助は夜の凪のような静かな鬼神の顔つきにゾクリと背中に悪寒を走らせた。
「夜兄・・」


 ある朔日の晩、美月たちに酷い仕打ちをした万丈屋の息子の平六は手放してしまった自前の玩具を補充する為、尚も懲りずに夜な夜な玩具屋へと足を運んでいた。
 平六はまたも常軌を逸した玩具を手に入れてニヤつきながら美月の姿を思い浮かべて歩いていた。
「良かったなぁ~あの子の叫び声と顔・・それに・・痛みで痙攣と伸縮する中の感触ぅ」

 人通りの少ない道に差し掛かると、カランコロンと乾いた下駄の音が自分の後ろをどこまでも付いてくる音がして変な汗が平六のコメカミを伝った。
「誰だ!?誰かいるのか!?」
 闇の中にゆらりと動くその影は一瞬人外の獣を思わせる男の影だった。
「ひィィッ!何奴!?」
 平六は腰に差していた刀を抜いてその影に刃先を向けた。すると影はゆっくりと光の下にその姿を現した。そこには美しく恐ろしい鬼神のような男が立っていた。長い黒髪は逆立っている様に見え、暗闇に光る眼光は赤くさえ見えた。
 その鬼神の腰には長い白鞘の刀を身に着けていた。それをスーッと抜くと、平六の方へ真っ直ぐと片手で向けた。
「き、貴様・・あ・・白い長鞘の長刀・・ま・・さか、お前・・」 

「良く喋るブタだなぁ・・」
 そう言ってキィィィンと一瞬で平六の持つ刀を飛ばしてしまった。その人を射抜くような眼光の男の姿が見えてくると、平六の顔がみるみる強張った。
「し・・白鞘の長刀に・・鬼神のような風貌・・それに恐ろしく美しい男・・お前あの人斬・・りッ・・」
 喋っているうちに問答無用で閃光の如く振り抜かれた長い刀の先は赤く染まり、足元には今しがた喋っていた男の首だけがゴロンと落ちていた。その表情はまるで何が起こったか分からないという顔のまま地べたに落ちていた。首だけになって漸く痛みが届いたのか顔面がピクピクと痙攣しだし、舌が伸びて出て来た。
「チッ・・このデブ油が多いな・・」
 刀に付いた血は平六の脂肪で浮いていた。それをヴンッと下へ振り下ろしてドロリとした血液を乾いた道の埃に叩きつけた。
 
「言っておくがな、一応てめぇん所の女房に了承得てるから・・ってもう聞こえねぇか。」
 夜は立ったままの平六の身体部分を蹴り倒し、簀巻きにして川へと放り投げた。夜はそれでも沸き立つ怒りを収められずにいた。美月にも言えないもう一つの顔、この町に生息する藩公認の人斬りとして動く夜だったが、それも足を洗ったばかりだった。この始末をつけるのにまた少し、今まで築き上げたコネを利用する羽目になって一苦労したのだった。
 夜のもう一つの顔を知る抱月は、今回ばかりは止めようとはしなかった。きっと夜がやらなければ自分がやっていたに違いないと思ったからだ。



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え~復讐シーンですが・・大丈夫でしたでしょうか(;´Д`A ```
苦手な方ごめんなさい(>_<)
夜・・裏稼業が人斬り!!ヽ(゚Д゚;)ノ!!ん?でも色子の面倒もコールボーイ紛いも裏稼業っぽい。
じゃあ、裏の裏稼業?(´・ω・`)←混乱中
前に夜が剣を少し使えるが喧嘩用だと言ってましたが、喧嘩どころじゃなかったじゃん!!という。


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万華鏡-江戸に咲く-88

 美月は敢えて現代と江戸との時間を変えずに雪之丞を送り届けた。抱月にはお別れを言ったが、さすがに夜に逢えば、江戸から離れられなくなると思ってその場で消えた。今でも抱月の悲しそうな顔が忘れられない。

(夜を一目、見たかったかもな・・)

 目に見えぬ空洞を胸の中心に空けて美月は現代での日々を過ごした。大学も始まり、江戸での生活を忘れる事に努めようと決めた。
 あれから1ヶ月半、夜のいない世界はどこもかしこも白黒の世界に見えた。だが、幾つか現代に今でも鮮やかに色づく場所があった。それはどこも夜と過ごした思い出の場所だった。皮肉な事にその場所にいると生き帰るようにすら感じる。
 能力の譲渡をするには、未だ躊躇われていた。未練が断ち切れない美月は、あと少し能力を宿したまま思い出に浸っていたかった。
 部屋に帰ると、そのベッドの上で激しく愛し合った事を思い出して身体が疼く。

(どうやったら・・忘れられるんだよ・・)

 身体の乾きには抗えない美月はそのベッドで毎夜思い出の夜に犯された。玩具を使いまくり、夜を思い出すだけで気が掠れる程に感じるのに、魂の部分は小さく泣き声を上げている。美月はそれを誤魔化す様に自慰で狂い叫んだ。

 その日も風呂場に入ると、そのシャンプーの香りで江戸での日々を思い出してた。そして、やはり現代に帰っても変わらぬ想いが一つある事に気付いた美月は、急いで風呂を上がると洗面台から何かを引っ掴んで部屋に走り、携帯を手にした。
 

 抱月は普段通りに書物を読んでいた。先程から同じ行から視線が移動しない。例え自分と一緒になれなくとも、美月さえ幸せになってくれればそれで良かった。だが、別れ際のあの悲しそうな美月の顔が頭から離れずにいた。今頃あちらではどの位時が経ったのだろうかと想像をしてみる。独りで泣いているのではないか。後悔していないだろうか、能力はもう使えないのだろうか。
 そんな事ばかりを考えて過ごしていると、ふと胸が苦しくなるような爽やかで甘い香りがして振り向いた。
「先生・・」
 幻としか見えない程望んでいた人物が立っていた。
「みづ・・き・・?」
「先生ッ・・!」
 美月は顔をくしゃりと歪めて抱月の胸の中に飛び込んだ。抱月は美月の感触を確かめる様に強く抱き締め、乱暴に美月の顔を上に向けると息も出来ない程激しく美月の唇を塞いだ。
「んっ・・せんせ・・あっ・・んっ」
 確かめるように抱月の舌が美月の口内を味わっていく。
「美月ッ・・ハァ・・んっ・・ん」
 抱月の腕の中はやはり温かく、今まで胸中に空いていた空洞の痛みを治癒していくように美月を包みこんでいった。
「戻って来てくれたのか・・?」
 抱月は美月がふと消えてしまわないように、強く抱きしめながら話した。
「いや・・言いたい事があって。先生に。」
「俺に?」
 美月は掴んできた白い塊を抱月に渡した。それは固形の石鹸だった。
「先生、この匂い好きだったでしょ。だから持ってて。」
「・・・」
「俺、多分先生と出会って、自分の医者になるって目的を見つける為にここに来たんだよ。夜は・・ただその間の失恋の相手だったんじゃないかな・・はは」
 美月は自分で話してて涙が込み上げてくる感覚を必死に抑え込んでいた。抱月はその薄い石鹸を掌に乗せたまま美月に優しい顔を向けた。

「美月。良く聞いて。あいつは、まだまだガキなんだよ。感情的で先の事なんか考えた事ない馬鹿なんだ。だから、雪之丞に言った言葉も一時の感情のものだ。だから、アイツは今後悔しているし、反省もしている。こう言うと聞こえは軽いが、今のアイツは・・まるで廃人なんだよ。お前が消えてから口を利かなくなってしまってね。」
 その言葉に美月に衝撃が走って瞳が見開いた。
「美月・・俺はお前の幸せを一番に願っている。あいつにもう少し時間を置いてやってくれないか。そして、また迎えに来てやってくれないか。それまでに俺が大人になるように叩き上げておくから。」
 抱月が優しく美月の頭や頬を撫でながら愛おしそうに見つめる。

「大丈夫。あいつは本気でお前を愛している。」
 そして抱月は唇を美月の耳元に寄せて「俺もだがな。」とそっと囁いて少し意地の悪い顔で口角を上げた。
「せんせ・・」
 美月がダイアモンドのような透明だがキラキラと輝くような涙を流す。
「俺・・夜の事、愛してます。・・でも魂のどこかが、先生の事も必要としてた。変ですよね・・」
 美月が自分のTシャツの胸部分を掴むと、その上から抱月がそっと手を重ねた。
「変ではないよ。きっと俺と夜、二人に出会うようになっていたんじゃないかな?俺は、結果がどうあれお前と出会えて良かったと思っている。」
 抱月がそっと美月のふっくらとした唇にキスをする。
「こんな事で夜を失ってはいけないよ。」

 そう言って抱月がパキッ、パキッと石鹸を3つに割った。
「こっちは夜に渡しておく。この真ん中の部分は美月が持っていて欲しい。時代が違っても、世界にたった1つしかない3つの欠片で1つの思い出の品だ。」
 それは、ただの石鹸の欠片だったが、美月にとってこれ以上の宝物は無いと感じた。欠けた部分はそれぞれの持つ欠片でしかピッタリ合わさらない。
 美月の鼻孔に懐かしい白檀に似た香りがして胸が締め付けられた。
「先生・・夜、ここに居るんですね。」
「あぁ」
「夜の匂いがする」
「あいつは今、あの川べりにいるよ。毎日いるんだ。」

 美月は懐かしい江戸の町を歩いた。現代の服装で歩く美月は、初めて江戸に来た時と同じ奇怪な目で見られたが、やはりその惹きつける容姿で奇怪な目線は直ぐに熱の籠った視線へと変わっていった。
 土手の上を歩いて行くと、川べりに一人の男が座っていた。ボーっと川の流れを見るその横顔は、遠くからでも美しかった。美月は夜の姿を見つけて叫びそうになる自分を必死で堪えた。
 ほんの少し、姿を見たかったのだ。これから先自分も時間を置こうと決めた美月は、その姿を目にしっかりと焼き付け、一言、“愛してる”と小声を風に乗せて消えた。

 夜は一瞬、懐かしい爽やかで甘い香りが鼻腔を掠めて、美月の声がそっと聞こえた気がして振り向いた。
 そこには誰も居なかったが、確かに気配が残っているように感じた。急いで自分の部屋を覗いて見るが、誰もいない。そのまま夜は抱月の家へと向かい、戸を開けて中に入った途端ハッとした。
「美月が来てたのか!?」
 暫く振りに出した声は掠れて裏返った。
「・・・そうだ。」
 部屋に漂う美月の気配と懐かしい香りがそれを物語っていた。
「どこにいる!?どこに!!」
 半狂乱になって抱月に掴みかかると、抱月はそんな夜の状態を無視して静かな口調で先程の美月との会話を夜に伝えた。夜はだんだんと冷静さを取り戻し、さっき川辺で感じた視線は美月のものだったと、自分を美月が見ていたのだと思い、手の届きそうな位置に居た事で更に胸が苦しくなった。

「これ、美月が持ってきた石鹸の欠片だ。俺が3つに割ってやった。悪いが俺も持ってるからな。」
 その欠片を手にした夜は、スッとその香りを嗅いだ。
「美月の香りだ」
「美月は、そのうちお前を迎えに来るよ。いつになるかは知らないが。当分先だ。」
「え・・・」
「それまでに、お前はもう少し大人になっていなければならない。俺がお前の根性叩き直してやるよ。」
 その言葉に夜は歪みそうになる顔を必死で自分の膝を抱えて隠した。嬉しさのあまりに馬鹿みたいに泣きそうだったからだ。

「ただ、その前に、一つ言っておく事がある。」
 抱月の言葉に夜が膝から目だけを上げた。切れ長の美しい鋭い目は赤く染まっていた。
「お前、どんな美月でも愛せるか」
「あ?どういう事だ?」
「質問に答えろ」
 夜の心は決まっていた。二度と魂に嘘はつかない。
「ああ。愛せる」
「ならば、話してやる。美月は、お前に汚く思われて嫌われると思って私や喜助に口止めしていたが、これから共に生きるのであれば少しでも美月の心に負担は掛けさせたくない。お前は、全てを受け入れて、全てを愛してやれ」
 漢の顔でそう話す抱月はとても凛々しく、美月が心揺れる気持ちが夜にも分かった気がした。
 そして、抱月から聞かされたあの茶屋で起こった事件の真相を聞かされたのだった。
 


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万華鏡-江戸に咲く-87

☆18禁です。

「なぁ、夜兄・・いつまでいるんだよ」
「美月が雪之丞連れて帰って来るまでだよ」
 美月が現代に帰ってから夜は雪之丞の家に居座っていた。呆れたように呟く喜助を余所に、夜は今か今かと美月の帰りを待ってもう1週間経とうとしていた。
 美月のあの能力ならば向こうで1週間過ごし、こちらに消えた次の瞬間にも戻れる筈だった。だが、敢えて時間を同じだけ長くしているのか、それとも手違いで遅い時間を言ってしまっているのか。考えれば考えるだけ不安が募る。
 そして、何より帰って来た美月に伝えたい事があった。“一緒にお前の時代へ行きたい”と。
 夜は腹を括った。美月と出会って生きる楽しさを知った。それまで狭く抗えない境遇と運命の中で自分を縛ってどこかで諦めながら生きていた。そんな暗い夜道に、美月という存在は月明かりを照らしてくれた。
 急に足元が明るくなり、周りの景色が鮮明に映ったようだった。そして上を見上げると目を細めてしまう程の光を湛える美月という美しい月が輝いていたのだ。
 だが、その月が夜に言った。この光は別の星を反射しているだけだと。そしてその月は夜の知らない別の星の話をしたのだ。それは燦々と輝く世界で、夜はこの上ない興奮と喜びを感じた。
 美月と出会って知ってしまった新しい世界で、夜はもう普通の生活には戻りたくないと感じる程にその楽しさが肌に染み込んでいた。
 夜は目的を持った意志の強い瞳の美月を見て、心底格好いいと思った。自分もこんな風に生きてみたいと感じた。
 色褪せていた世界に原色を流し込まれたようだった世界は今、美月がいないだけでだんだんとセピア色に変わっていくようだった。

 そして更に1週間経つと、さすがに夜も苛立ちを隠せずにいた。逢いたい気持ちが限界を超えて幾度も美月の夢を見た。夢の中で気の済むまで美月に自分の巨大な肉棒を挿し込み、嫌という程激しく突いてやった。それは日を追う毎に鮮明な映像になり、感触は生々しくなるばかりだった。
 脳が痺れるような甘く掠れた声で喘ぎ、肉棒に吸いつくようなあのヒクつく内部の感触が夢で夜を襲う。それは身体の奥深くにある魂同志を触れさせたくて、出来るだけ奥に肉棒を突っ込むようでもあった。
 これでもかという程美月の身体を前後に揺らすと、もっと、もっと、と張りのある尻を小刻みに揺らす汗ばんだ白い美月の腰と背中が夜の真下にある夢。それはついこの間まで現実だった事だ。
 朝起きて夢精寸前までに赤く腫れ上がったそれを夢の感触と映像を呼び起こしては自分で慰めた。

(早く抱きたい、美月・・早く・・)

 寝ても覚めても美月の顔がチラついた。色っぽい顔でクスリと笑う美月、惹き込まれてそのまま溺れてしまいそうになるような煌めく万華鏡の瞳、なめらかな肌にしなやかでいやらしい身体。
 それは何より、自分の奥深くにある核のような部分が美月を求めていた。美月のいない世界に自分の魂がふと迷子になって泣いているような気がした。
 今頃気付くなんて遅いと思ったが、それでも日に日に確信していく自分の美月への想いが嬉しかった。

 ガラガラッと戸が開いて、雪之丞が息を切らして入ってきた。
「雪之丞!!」
「兄さん!!」
 夜と喜助は同時に雪之丞の元へ駆け寄った。
「どうした!?身体はもういいのか!?美月はどうした?!」
 雪之丞は涙を流して息切れしながら喋ろうとしていた。
「どうしたの兄さん!?どこか痛いの!?」
 喜助も雪之丞の涙を見て心配をする。
「早くッ・・ゴホッ・・夜七、抱月先生の家に行って!!今直ぐ!!美月、帰っちゃう!」
「え・・」
「現代に帰るって言ってた・・もう、ここへは戻らないって・・さようならってお前に伝えてって!!」
「どこに・・」
「え?」
「どこにいるんだ・・美月は・・」
「だから抱月先生の所だよ!早く行って!しっかりしてよ!」
「・・・・」
 パニックに陥った夜は雪之丞の話す言葉は聞こえて理解出来ても、脳が理解する事を拒否しているように身体が動かなかった。それでも雪之丞と喜助の叫び声と背中を押す力で、走り出した。
 鉄の足枷を付けられている様に足が重く、泥沼を走っている様に上手く走れない。

(何でだ・・あれ程愛し合っていたのに・・こんなに愛しているのに・・こんなに、逢いたいのに・・!)

 走るうちにだんだんと正気を取り戻してきた夜は、そこから全速力で走った。これ以上ないという程、息切れも無視し、筋肉と言う筋肉を使って乾いた地面を蹴って走った。道行く人々の間を縫う様に一匹の猛獣が駆け抜ける。
 夜は抱月の家に着くと、壊れる程の勢いで戸を開いた。

「ハァハァハァ・・み・・づきは?ハァハァ」
 汗がコメカミから頬を伝い、顎から流れ落ちる。抱月は座敷にただ座っていた。
「なぁ、美月は!?」
 走り寄って抱月の乱暴に肩を掴み顔を上げさせると、目を真っ赤にして涙を溢れさせた抱月の顔があった。その瞬間、夜は鉛の玉で心臓を打ち抜かれたような痛みが走った。
「なに・・泣いてんだよ・・美月は・・?何で泣いてんだよ、先生・・」
 打ち抜かれた心臓からドクドクと鼓動がする度に血が流れ出るようだった。
「・・・・」

 抱月は放心したように目尻を赤くして黙っていた。そして、溢れた涙が突如ダラダラと頬に零れ伝った。
「やだよ・・俺・・離れたく・・ない・・」
 その夜の子供のような言葉に、抱月が牙を剥く様に夜の胸ぐらを掴んで叫んだ。
「私だって離れたくなかった!愛してた!お前なんかよりも・・ずっと・・!」
 夜の言葉に怒りと悲しみを交えた悲痛な抱月の叫び声が部屋に響いた。
 夜は鼻の奥にツンとした痛みが走ると、途端に熱い涙が止めどなく溢れて膝が折れた。

「俺は、言ったんだ。俺ならもうずっと前から全てを捨てて美月と現代でもどこでも生きていけると。どんなお前でも愛していると。でも美月が言ったんだ。魂がお前を呼んでいたと、自分は思っていたからと。・・私ではダメだったらしい」
 抱月の言葉を聞く夜は震えてくる手を押さえずに、ただひたすら浅い呼吸をした。
「自分は・・思っていたって・・俺だってそう思って」
「お前がちゃんと言わないからだ・・」
 抱月の悔しそうな顔は、夜に更なる痛みを与えた。図星だった。考えが甘かったのだ。どこかで美月は自分から離れないだろうと過信して優柔不断な自分を甘やかしている間にも、ずっと美月は切羽詰まっていたのだろう。それを思うと後悔してもしきれない。

 どれだけずっと涙を流していたのだろうか。辺りはすっかり暗くなり、ひぐらしの鳴き声はいつのまにか鈴虫の鳴き声に変わっていった。
 その日二人は終始無言だったが、どちらともなく抱月は夜を泊め、夜も黙って抱月の家に泊まった。美月と深く関わった互いといるだけで、少しでも美月の気配に縋ろうとしているようだった。
 そして二人は横になると背中を合わせたまま眠れぬ夜を過ごした。



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万華鏡-江戸に咲く-86

「何だよ・・改まって・・」
 夜が嫌な予感で呟く。
「夜、お前美月にさっきの言葉、聞かれてたんだぞ?分かってんのか?」
 抱月が厳しい表情で夜を睨むと、冷静さを取り戻した夜はサーッと血の気が失せた。
 先程まで錯乱していて自分の言葉を思い返すと、それは食事の時に聞かれた美月の質問への答えのように聞こえたからだ。
 夜はあの時、正直分からなかった。雪之丞を残し、一生逢えない覚悟を持って美月だけを選ぶ事が瞬時に出来なかったのだ。それが美月への愛が半端なのかと思うと、尚更簡単に答えが出せずにいた。将来の事まで見通して相手を見る事が出来ない自分の未熟さに今更ながら悔恨の情にかられた。

「抱月・・どうしよう、俺・・つい感情的になって死ぬとか言っちまって・・」
「本当だな。美月もだから俺にしておけと散々言ったのだが・・まぁ今は怒っていても仕方がない。また直ぐに雪之丞を連れて戻ってくるさ。きっと今は怒ってる。だからそれまでお前、ちゃんと自分の心にケリを付けておくんだな。」

(そうだ、雪之丞をこっちに連れて帰らなきゃならねぇ訳だから、絶対に戻る筈だ・・)

 夜は、今しがた言われた美月からの言葉が、雪之丞が死ぬやもしれないと聞かされた時の衝撃とは別の痛みを感じていた。今の夜には、それは焦燥感に近い、痛みの伴う不安感だった。

(またきっと戻ってくる。その時は、俺は・・)

* * *

「良くなっただろ?」
「うん。さっきまでの苦しみが嘘みたい・・本当にありがとう美月・・」
 病院で処置して貰った雪之丞は直ぐに良くなった。
 雪之丞は現代で言ういわゆる“盲腸”だった訳だが、切開技術のない江戸時代、それも美月のいた年では蘭学がまだ普及されていない状態で、ただ苦しんで死を待つだけの病として絶望的なものだった。
「美月・・」
「何?」
「俺、夜七に振られちゃった」
「え?」
「前に、夜七がうちに来た時ね、誘ったんだ。身体使って。」
 美月の心臓がドクンッと大きく鳴った。 
「でも・・結局しなかったんだ。断られちゃった。悔しいけど、諦めるよ」
 雪之丞がスズランのような笑みを涙を浮かべて見せてくる。

「別に、諦めなくていいんじゃない?」
 美月の言葉に雪之丞が目を見開く。
「俺、もう分かったから。夜の答えが分かったんだ。一緒にね、現代で来てくれって頼んだんだ。江戸とはお別れをしてくれって・・でも、やっぱり江戸からは離れられない理由、ちゃんとあるって分かったから。」
 淡々と話す美月の言葉に雪之丞が焦りの声を出す。

「美月・・それは、さっき夜七が言った事なら、きっと気が動転してて・・!」
「いや、もう、薄々気付いてた。やっぱり貴方には叶わないって。だから、俺は貴方を助けたんだ。俺、あいつの事、愛してて・・幸せになって欲しいって思ったから・・じゃあゆっくり休んで。明日また来るから。おやすみ」
「美月ッ」

 美月は言いたい事だけを言うと足早にその場を離れた。
 もう、これ以上雪之丞の顔を見て話しては居られなかった。
 ウィ―ンと開く自動ドアを駆け抜けて病院の外に出ると、ギリギリで積止めていた感情と涙が腹の底から一気に押し寄せてきた。

「う・・うぅ・・う・・あ・・・」 

 自分も死ぬ、と言った夜の言葉が耳から離れなかった。雪之丞が居ない世界に自分は生きている意味がないという事だ。それはつまり雪之丞の生きる江戸でしか生きる意味を見出せないと、まざまざと本心を見せつけられたような気がした。

(分かっていた。分かっていたけど・・やっぱり辛いよ・・夜・・)

 夜の温もりや笑顔が走馬灯のように目の前を駆け抜ける。
 愛していた。魂が呼応するように抱きあった。
 涙が次から次へと地面に流れ落ち、嗚咽する口元を必死に両手で押さえつけるが、くぐもった声が指の間から抜け出てしまう。
 今直ぐに抱き締めて欲しいその腕に、美月はもう2度と触れる事が出来ない覚悟をしなければいけなかった。



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次は本日の昼12時にUPします。

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万華鏡-江戸に咲く-85

(雪之丞が不治の病?死ぬ・・って事か・・?嘘だ・・・・嘘だ!)

 夜は生温かい風の中を縫うようにして闇夜の道を走り抜けた。下駄など疾うに脱ぎ捨て、音も無く砂利の混じる道を蹴る様にして雪之丞の家まで走り着いた。
「雪之丞!!」
 バンッと乱暴に戸を開けると、泣き腫らした赤い目の喜助が振り向き、畳みの上に敷かれた布団の中で苦しみもがく雪之丞の傍には絶望の色を見せる抱月の姿があった。夜は流れる汗もそのままに雪之丞の傍へと駆け寄った。

「雪・・おい、雪。俺だ、夜七だ!」
「うっ・・うぅ・・や・・しち・・はぁ・・」
 脂汗を浮かせて一層蒼白になった雪之丞はその痛みからか布団の中で呻きながら七転八倒していた。

「先生!どうにかならねぇのかよ!?」
 夜は横にいる抱月の肩を強く掴んで縋ってみるが、抱月はゆっくりと首を横に振るだけだった。
「勿論、漢方や灸も全て試した。だが効かなかった」
「嘘だろ・・?何か方法あるだろうがよ!?この間まで元気だったじゃねぇか!?何でだよ!?」
「夜・・これは私にも・・きっと誰にもどうする事も出来ない不治の病なんだ。すまない・・だが・・」
 抱月の言葉を最後まで聞かずに錯乱した夜は苦しむ雪之丞の手を取った。


「雪・・雪・・嫌だ・・お前が居なくなるのは・・嫌だ・・お前が死ぬというなら、俺も・・死ぬ」
 夜はその薄く白い手に唇を付けた。
「や・・しち・・」
 夜は雪之丞の細く白い手を頬に擦りつけた。その時、ふと後ろに人の気配がした。

「美月・・」
 夜の後ろに立つ美月を見た抱月が呟くのと同時に美月が夜の胸ぐらを掴んで思い切り夜の顔を引っ叩いた。
「イッ・・」
「勝手に死ぬ事にしてんじゃねーよ!生きろって・・頑張れって言葉くらい掛けらんねーのかよ!?」
 唐突の事に夜も周りもその美月の勢いに驚いたが、耳に入ってきた美月の言葉に完全に諦めてた自分の心を羞じた。
 そして無表情の美月は小さく「どけ」と言って夜をどかした。


「雪之丞さん、いつから具合悪かったんですか」
 美月は落ち着いた声で問いかける。
「半日くらい・・前に・・悪心が・・鳩尾辺りが痛くて・・」
「嘔吐はしましたか?」
「は・・い」
「それから腹痛が始まったんですね?」
「はい・・うッ・・はぁ」
 美月は雪之丞の額に手を当てる。
「熱、ありますね。ここは?痛いですか?」
「うあぁあッ」
 美月が腹部を押していくと雪之丞が激しく呻いた。
「おい、美月!何するんだッ」
「お前は黙ってろ!!」
 突っかかる夜に聞いた事のない美月の声が一喝した。その迫力に夜も感情的な気持ちが逡巡する。

 診察の終わった美月は少し安心したような顔で口を開いた。
「これは虫垂炎だと思います。この時代では不治の病ですが、俺の時代では直ぐに治る病です。これから雪之丞さんを連れて行きます。」
 それを聞いた一同から安堵の色が漏れた。
「やはり・・この時代では無理だが、もしかしたら美月の時代ならと思ったのだ・・良かった・・」
 抱月がホッした表情で言う。

「美月・・本当か?本当に雪は治るのか!?」
 そう言って美月の両肩を掴む夜の手を、美月は目を合わせずに「あぁ」とだけ言って払った。

 美月は雪之丞の細い手を取り、「もう、大丈夫ですからね」と優しく言うと、それまで苦しんでいた雪之丞の顔からほんの少し笑みが浮かんだ。そして美月は顔を上げて夜の顔を見た。
 凄く心配そうな顔をする夜の少し幼な気な表情を見て、美月は困ったような寂しいような笑顔を向けた。

(全く・・まるで親か兄弟が病気になった時の子供だな)

「夜」

 突如美月に話しかけられた夜は、訳もなくトクンと心臓を跳ねさせた。

「・・・じゃあな。」

 そう言い残して雪之丞と共に美月は姿を消した。



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万華鏡-江戸に咲く-84

 日々は何も無かったように過ぎた。
 あれから幾度か夜に身体を求められて、最初はバレるのではないかとビクビクして怖がっていたが、夜の巧みな技術でまた再び快楽を得る事が出来、そして幸いバレる事も無かった。
 あの惨事を黙っている事は苦しかったが夜に知れる事を考えると怖くて言えなかった。

 夜に全てを話したら、受け入れてくれるだろうか。雪之丞に起こった惨事とはまた違う自分の条件に、不安は募るばかりだった。
 一生をかけて面倒を見ると言う程、そして雪之丞の為ならば好きでも抱かなくても一生いられると言っていた夜の雪之丞への愛の深さを知っているだけに、怖くて仕方がなかった。
 あの夜、どうしてあんなに帰りが遅かったのか、本当は聞き出したかった。本当は今でも気になって仕方がない。夜を自分だけのものにするには、もう現代に一緒に行ってもらう他ないと思った。

 その機会を伺う日常が積み重なっていくと、江戸の夏もだんだん終わりに近づいてきた。暦の上では夏の終わりだが、まだまだ蒸し暑さと太陽の照り付けは続く事を誰もが知っていた。

 その日も美月は質素な料理を膳に用意して夜の元へ持って行くと、夜は吹かしていた煙管をカタリと置いて部屋の中央へと移動した。仕事の早く終わった夜と普段通りの食事をする。だが美月の心臓はドクンドクンと波打って濁流のような血液を全身へ巡らせていた。
「夜・・あのさ・・」
「ん?」
 早々に食べ終わってお茶を啜る夜が美月の方に視線を流す。美月は緊張で膝の上に置いた手が勝手に震えだす。 チリン、チリン、と夜風に揺らされて風鈴が鳴る。

「夜と、出会えて・・いや、夜と出会う為にここへ来たんだって思ったんだ」
「何だよ急に」
 可愛い事を言いだす奴だなぁとでも言っている様に目を細めて笑う夜だが、美月の顔は上を向かない。
「夜は?夜はどうなんだよ?」
「あ?そらァ勿論お前と出会って良かったと思ってるに決まってるじゃねぇか」
「じゃあ、俺とずっと一緒にいたい?」
「ああ。いたい」
 美月の心臓は暴発して破裂してしまうのではないかと思った。だが、ここまできてこれ以上我慢するのも様子を窺っているのももう限界だった。美月は自分の中でタイムリミットが来たように感じる。
そして、何より決定的なものが欲しかった。約束、と言えば陳腐な響きになるようだが、それでも夜にとっても自分が唯一の時を超えて逢うべく存在だと確信して欲しかった。

「俺と一緒に現代に来て・・くれないか」
「・・・」
 意を決して言った美月は顔を上げて真っ直ぐ夜を見た。夜は固まったように瞬きも忘れて美月を見つめ返していた。



 固まったように動かず何も言葉を発しない夜に、不安が一気につま先から脳天まで駆け抜けた。
「俺と一緒に現代で暮らしてくれないか、夜」
「ここじゃ・・」
「え?」
「ここで住むのは、無理なのか・・?」
 やはり夜は美月が江戸でこれからも住むものだと思い込んでいたようだった。青天の霹靂の状態の夜は今までになく困惑した顔をしていた。
「ごめん、我儘言って・・でも俺、現代で医者になりたいんだ」
「医者ならここでだって出来るだろう?」

「ダメなんだ!現代の知識を持った俺は、助けられる知識があっても道具や施設の整わないこの時代では助けられないんだよ!だから、一人でも多く助けられる時代で自分を役立たせたいんだ!ここに来て初めてそう思えたんだ!夜は?俺と離れてもやっぱりここで暮らしたい?」
 一番聞きたい事をついに聞く。もう後戻りは出来ない美月は勝負に出た。
「俺は・・」
「夜、運命の相手を見つけた俺は次の人にこの能力を譲渡しに行かないといけない。そしたら、もう2度と江戸へは来られない。」
「俺・・は・・」
 美月は畳みかける様に必死に願いながら夜の答えを待った。直ぐに答えられない夜の気持ちは分かっていたつもりだ。雪之丞の事を考えているのだろう。

(お願いだよ夜・・俺と一緒に来てくれ・・頼む!)

 夜が口を開こうとした時、ガラガラッと玄関の戸が開いて雪之丞の店で働いていた栄吉が飛び込んできた。
「美月さんッ・・美月さんはいるか!?」
 その表情はあの健康的な栄吉もものとは思えない程に青ざめていた。
「え、栄吉さん!どうしたんです?!」
 美月は立ち上がって栄吉の近くまで行く。
「お雪ちゃんが・・お雪ちゃんがてぇへんなんだ・・来てくれッ」
 その言葉に夜が物凄い勢いで美月の横を通りこして栄吉の肩に掴みかかった。
「雪之丞がどうしたんだ!?」
 その夜の尋常ではない迫力に美月は気押された。
「今、抱月先生が来て診てくれてるんだが・・例の腹痛からくる不治の病だって・・」
 それを聞いた途端に夜が矢の如く外へ飛び出しあっという間に視界から遠ざかって行った。その後を追うようにして美月も栄吉と共に全速力で駆けた。



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万華鏡-江戸に咲く-83

 現代に帰るとそこは美月の部屋だった。すぐさま応急処置をして現代の病院へ連れて行こうとしたが、専属の医者を呼んでほしいと美月に頼まれて必死に使った事のない電話で抱月は医者を呼んだ。
 これまで病院にはあまり行きたがらない美月は常にプライベートドクターに診てもらってきていた。内科医の美月の親は、昔からその50代前半になるそのドクターとは個人的にも親しくしていた。そして美月の体調は美月の意志によって全てそのドクターに委ねてきたので、プライベートな事もいつもドクターには相談していた。
 案の定、呼ばれて来たドクターは血相を変えて一旦処置室の整っている自宅へと美月を移動させ、手際良く処置を施した。

「一通り処置もして、時間はかかるが安静にしていれば大丈夫だ。しかし、誰がこんな酷い事をしたんだ!?」
 ドクターは怒りで拳を震わせた。一緒に付き沿う抱月がその辺をうまく誤魔化して、通り魔に犯されたという事にしたようだった。警察への連絡をしつこく言われたが、美月が頑なにそれを拒否した為、ドクターも美月の精神的な傷を考えてか、それ以上は何も言わなかった。
 美月は親に心配させたくないからと言ってドクターの家に暫く置いて貰えるように頼むと、ドクターは快く承諾してくれた。我儘次いでに抱月も傍に置いて欲しいと頼むと、事情も聞かずに「うちは広く部屋も何部屋もあるから気兼ねしなくていい」と言って貰えた。どうやら抱月の紳士的な態度と医学の知識のある彼に頼る美月の気持ちを汲んでくれたようだ。
 美月は次の日母親に誤魔化しの電話だけ入れると放任主義の彼女は快くOKしてくれた。こういう時は自分の親がこういう感じで良かったなどと思ってしまう。

 それから2週間経った。
 抱月も大分現代の勝手に慣れて、今ではドクターの服を借りてまるでセンスのいい大人の男のモデルのようだ。
 そして暇を持て余していた美月はひたすら医学書を読んでいた。

「大分良くなったようだが、まだ無理はするな。先生もあと1週間は休むようにと仰っておられる」
 抱月は心配そうに美月を覗き込んでベッドに座ると、スプリングがギシリと軽く音を立てた。
 今日の抱月はブイネックの黒いシャツに、細身の黒いスラックスを履いている。
 あれから抱月は、手持無沙汰だからと言って、ドクターの診療所を手伝っているようで、白衣を羽織っているのがとても似合っていた。
「うん。先生、本当にありがとう。」
 優しい瞳で近づいて抱月の唇がそっと美月のおでこに付けられた。何だかそこだけ熱を持つようだった。働く時は邪魔にならないように髪を一つに束ねているが、それが逆に美月には新鮮に見えた。
「お前、夜には言わないつもりか?」
「うん・・心配させたくないし・・その・・知られたくないんだ」
 あんな狂った豚のような男に犯されたあげく中を壊され、皆に迷惑を掛け、挙句それも全て自分の責任からくるものだと考えた美月はこれ以上恥晒しな姿を見せて夜に幻滅されたくないという気持ちが募った。馬鹿な事をして汚れた自分など、きっともう抱きたくないと思うに違いないと思ったのだ。
「お前がそう言うなら、俺は黙っている。だが、知られたらどうする?」

 その事を想像してふと不安な顔で抱月の方へ顔を上げると、優しい顔で美月を包むように見ていた。
「その時は、俺の所に来い。俺は全てを愛する事が出来る。」
 余りの大きな愛に、美月は不安になった。抱月のここまでの深い愛を知って、夜が受け入れてくれなかったとしたら。そう考えている時点で、夜を信じ切れていない自分と、自分たちの絆の細さに悲しみが濃くなる。今抱月に寄りかかればどれだけ楽だろうか。
だが、夜を呼ぶ自分の魂を信じる事にした。きっと夜もそうだと、今は信じる事に専念した。

「お世話になりました」
 そうドクターに告げてすっかり良くなった美月は江戸へ帰る事にした。現代では丁度もうすぐ夏休みが終わる頃にまで差しかかっていた。
 まだ残暑厳しい中、江戸の真夏の真っただ中にまた、もうひと夏を過ごす為、携帯を開いて幻の宝石たちを降らせて過去へと戻って行った。
 
 * * *

「喜助!」
 喜助は呼ばれて振り返ると、そこには緊迫した顔の夜がいた。
「やっぱりお前だったのか。どうしたそんな格好で・・それに・・怪我、してんのか?」
 言われて視線を落とすと、血が足の方を伝って流れていた。抱月に言われて丁度皆に言伝を言い終えた所だった。夜は店に帰ると見当たらない美月を探しに町へ飛び出したところ、喜助に似た人の姿を見つけたのだった。そしてその人影を追ってこの茶屋まで来たらしい夜は、その騒然となった現場を目の当たりにして辺りを窺っていた。
「あ・・いや、俺はちょっと転んで・・」
「おい、何だこの血の痕・・それに・・この道具は・・」
 男の残した変態じみた道具を手に取った。血がベットリと付いたその道具は使用済みなのだろう。
「さっきね、あるお客が色子に酷くして、それで・・」
「お前も何かされたのか・・?」
 夜の声がいつもと違うのに喜助は身ぶるいをした。低く通っているが、氷のような冷たさを感じる。
「あ・・いや・・う・・ん。あ、でも俺はすぐ気を失っちまって美月さんに診てもらったからもう大丈夫なんだ!」
「美月が来たのか?!」

(しまった!)

 喜助は美月がここに来たという事を口を滑らせて冷や汗が背中を伝った。だが、自分の怪我を知られて誤魔化すには余りにキツい状況だった。
「おい。美月はどこだ?」
「あ・・えと・・今抱月先生と一緒にその怪我の子を診てて・・」
「どこにいる?案内しろ」
「え・・えと・・」
 夜は何かに感づいたのか、表情がみるみる変わっていく。喜助の見た事のない夜叉のような顔だった。

(夜兄・・怖い・・)
 
「夜」
 聞き覚えのある声に喜助が振り向くと、そこにはいつもの美月の元気な姿があった。
「美月さん!!」
「美月!!」
 身体は大丈夫なのかと言葉が舌先まで出かかる喜助に優しい笑みで小さく頷く美月が合図をした。それを見た喜助に涙が浮かび、抱月が喜助を連れてもう一度別の部屋で傷の手当てをすると言って連れて行った。

「どこにいた?」
 疑うような目で近づく夜の迫力に、美月は静に答えた。
「怪我した子を診てたんだよ。心配して来てくれたの?」
「本当か?お前は大丈夫なんだな?」
「あぁ。大丈夫だ。」
 夜がギュッと強く美月を抱きしめた。苦しくなったのは身体だけではなく、胸の奥深くだった。それでも1カ月振りに会えた愛おしい男の抱擁に涙が出そうに嬉しくなって、夜の大きな背中に手を回して夜の着物をギュッと掴んだ。
「店に帰ったらお前がいなくて・・心配した。」
「ごめん、怪我人が出たって呼びに来られて・・そう言えば、夜遅かったんだね」
 夜はドキリとした。美月が懸命に人を治療している時に自分は何て事をしていたのかと自分を恥じる気持ちがせり上がる。
 不安気に下から見つめる美月の可愛い顔に夜の胸は息も出来ない程の愛おしさを感じて苦しくなった。美月を感じたくて、強引に唇を吸うと、少しビクッと逃げる素振りをされた。だが、お構いなしに懐に抱え込むようにして美月の口内を犯し続けた。



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万華鏡-江戸に咲く-82

 潤んだ瞳の心から好きだった相手の誘惑に心が揺れた夜だったが、何故か騒ぐ心に落ちつかなかった。
 雪之丞と身体を繋げる想像をしてみても、それは確かに魅力的で気持ちのいいものかもしれなかった。ずっと欲しかった人だった事には間違いはなかったし、こうして今すぐにでも手に入る状況だ。
 だが、美月と触れあった時のような心の痺れが想像出来なかった。美月には魂自体が惹かれて止まないものがあったのだ。
「悪ィ・・やっぱ出来ないわ」
 夜の優しい拒否の言葉に雪之丞が止まった。
「どうしても・・ダメ?」
「俺、お前の事は正直抱きたい」
「ならっ・・!」
「でも、美月を愛する俺に抱かれて、お前を傷つける事はしたくねぇ。そして、美月も傷つけたくねぇんだ」
 雪之丞が泣きそうな顔で着物の合わせを閉めて自分を隠した。
「そ・・うか。そんなに好きになっちゃったんだね・・。仕方ないか。ちょっと出遅れちゃったみたいだ」
 強がって泣き笑いする雪之丞を見て夜の胸も痛んだ。バッと夜が雪之丞を抱きしめると、その腕の強さにどれだけ夜が好きだったか、今更気付いた雪之丞がポロポロと大粒の涙を零して夜の袖を濡らした。
「ごめん。ありがとうな・・今でも好きだけど・・ごめんな」
「うん・・分かってる。美月、大切にしてあげてね」


(これで・・良かったんだよな)
 複雑な気持ちを抱えていつもよりも重い下駄の音を鈍く鳴らしながら交差させた両手を袖の中へ閉まって歩いていた。随分と帰りを待たせて美月に心配をかけてしまったと思うと、自然と足早になった。美月にもし疑われたら、今日あった全ての事を正直に話すつもりでいた。
 丁度角を曲がった時、一瞬見た事のある少年が裸足で駆ける姿が目に入ったが、化粧を施し、色子の格好をしている為かよく判断がつかなかった。

(喜助?いや、まさかな・・でもそういやあ、今日喜助いなかったな・・)

 一抹の不安が漆黒の影となって全身を少しずつ纏ってくるようだった。とにかく急いで店にいる美月を見て安心したかった夜は小走りに店へと向かった。



「先生ッ!抱月先生ッ!!助けてくれ!お願いだ!美月さんが・・うぅ・・美月さん・・が・・」
 その悲痛な喜助の声にガラガラッと抱月が戸を引いて出てきた。目の前には涙で化粧が泥のように汚れた喜助が色子の格好をして裸足で立っていた。驚いた抱月だったが、「美月」と名前が出てきた事に反応して一先ず事情を聞いた。
「喜助、落ち着いて話してみなさい。」
 事情を聞いた抱月の冷静沈着な整った顔から血の気が失せ、ありったけの薬を抱えると家を飛び出した。

 陰間茶屋に着くや否や、そこらの色子に怪我人のいる部屋へ案内させた。
「美月・・美月ッ・・!」
 どうしたらいいか分からず頻りに身体の血を拭く店の子たちが抱月を見てホッとしたような表情を見せた。うつ伏せで布団に寝かされているが、ショックで意識が朦朧としているようだった。
「何て事だ・・・」
 想像以上の酷い有様に抱月の方までパニックになりそうだった。
「大丈夫だ。もう、大丈夫だから!」
 抱月は美月を抱えた。
「美月・・美月分かるか。私だ。お願いだ、返事をしてくれ・・」
「せ・・・せぇ・・」
「美月!分かるか?!俺だ!抱月だ!」
 美月の視線が微かに抱月へと動いた。抱月はその蒼白になった美月の頬を包んで温めるように唇を寄せた。

「・・ね・・がい、夜には・・言わない・・で」
 掠れた声で必死に言う美月は、力無い手で枕元にある自分の巾着を取ろうとした。それを見た抱月が手伝って代わりに巾着を取ってやる。中身を出したいのかと聞くとコクリと小さく頷いたので、中の硬い物を取り出すと、それは美月の携帯電話だった。
「先生も・・一緒に、来て・・」
 飛びそうな意識の中でそれだけ言うと、携帯を開いた。
「喜助、夜には言うなよ。皆にもそう言っておけ。それと、もう店は辞めろ。分かったな。俺たちはまた直ぐに戻るかもしれないし、直ぐには戻らないかもしれない。じゃあな」
 後ろで呆然と涙を浮かべて立つ喜助に向かってそう言うと二人の姿はふっと消えてしまった。正直抱月の言っている意味が分からなかったが、次の瞬間を目にしてその意味を理解できた。喜助は、驚くよりも先ず美月の身体が治る事を祈った。



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万華鏡-江戸に咲く-81

☆18禁です。暴力的な描写、そして不快な描写がありますので苦手な方は閲覧にご注意下さい。

 気持ちの悪い感触が四つん這いの美月の後孔に付けられる。なるべく意識をそこに集中しないようにするが、身体の感覚が拒否反応を起こしている。美月の性器は全く反応しない上に、いくら触られても気持ちは良くなかった。やはり、夜や抱月に触られて感じるのは、自分も相手を想っているからだと改めて感じた。
 そしてもう一つの原因は男の気持ちの悪さに加えてその下手さ加減だった。大して解しもせずに、男の小さな性器をツプリと挿し込まれた。
「・・っ・・」
 夜のモノに慣れきっている美月は、その男のモノが入り口付近で彷徨っているようにしか感じられなかった。苦しくもなく痛くもない。ただただ気色が悪いだけだった。
 男は大層美月の体つきに興奮しているらしく、湿った掌で太股や腰を撫でまわしていた。
「はぁ・・はぁ・・気持ちいいよ、最高だよミヅキちゃんの身体」
 美月は声さえも出なかったが、反対に男は満足そうに脂肪の付いた弛んだ腰と腹を振っていた。

(我慢だ。そうだ、あと少しだけ。)

 だが、少し腑に落ちない事があった。この男の小さな性器で、果たしてあそこまで喜助が傷つく事はあるのだろうか。そうこう考えているうちに男が「うっ」と小さく声を出して美月の中に射精した。
 一刻も早く身体を綺麗にしたかった美月は部屋を出る為に体勢を整ようとすると、男が美月を仰向けにして押し倒した。
「まだ、これからだよう?」

 その不気味な笑みは美月の不吉な予感と頭に点滅する危険信号の赤いランプを点滅させた。男は傍にあった風呂敷包みを引き寄せて開くと、中から様々な形をした張型が出てきた。その形を見た美月は血の気が失せた。
「いや・・」
「なに・・これが怖いの?最初は痛いみたいだけどそのうち良くなるんだってさ?」
 男が手に持った張型はありえないサイズの牛の顔を模ったものだった。頭には角が生えている。
「僕ねぇ、血ィ流して善がってる子見るの、すごい好きなの」
 ハァハァと目を血走らせ、息を荒げるこの男は異常な性癖を持っていた。
「さっきの子はこの角の所入れただけで切れて気を失っちゃってつまんなかったんだよねぇ」

(こいつ、ヤバイ・・逃げなきゃ・・壊される!!)

「たすけっ・・!!んーッ!!んーッ!!!」
 助けを呼ぼうとすると、そんな場面に慣れているのか男がすかさず丸めた手ぬぐいを美月の口の中に入れて、更にヒモでその上から手ぬぐいを吐き出させないように縛って言葉を発する事が出来なくなった。
 男が体重をかけてうつ伏せになった美月の上に馬乗りになると、美月の手首も後ろで縛り上げた。
「よし、できた。これでいっぱい楽しめる!こんな綺麗な子の苦痛の表情が見られるなんて嬉しいなぁ!ふはっ、ふははっ」
 どれがいいかな、と言って持ちだしたのは双頭の亀の張型、というより大きな亀そのものだった。甲羅まで付いていてその形を見るだけで恐ろしくて脂汗が出てきた。

(いやだ・・夜・・先生・・助けて!)


 美月が話をつけに行ってから大分時間が経ったように感じた喜助は、言い知れぬ不安に駆られた。
 美月の美しさにあの変態がそう易々という事を聞いて引き下がる事はしない気がした。美月は大丈夫だろうか。自分と同じ目にでも遭った時には、自分を責めても責め切れないと感じた喜助は、布団から這い出ようと身体を動かした。
「痛ッ・・」
 肛門をカミソリで切られるような痛みが走って冷や汗が出る。少しでも動くのが痛くてうっすらと涙が浮かんでくる。身体のあちこちも、あり得ない体勢にされたお陰で軋むように痛い。だが、少しずつ少しずつ身体をずらすようにして布団から廊下へ出られる襖の方へと時間を掛けて移動した。
 外は既に暗く、夜遊びに繰り出す人で町は賑わっていた。店の中でもあちらこちらから美少年たちの艶っぽい声が廊下や別の部屋にまで響き渡って聞こえてくる。
 やっとの事で廊下に出て立ち上がる事の出来た喜助は最速のスピードで美月のいる部屋へ移動するが、もう既にかなりの時間が経っているにも関わらず一向に美月の現れない事態に心臓が不規則に高鳴った。

(お願いだ・・何も・・何もしないでくれよ・・美月さんだけには!)

 あの男のいる部屋を目前に痛みを振り切って襖をバンッと開けた喜助は我が目を疑った。
 青かった筈の畳は真っ赤に染まり、既に気を失っている美月に男が狂ったように自分に刺した牛の張型を埋め込んでは恍惚とした表情で涎を垂らしていた。喜助は、ただ一つの角だけで気を飛ばしたその張型を、美月は全て埋め込まれて内部をグリグリと掻き回されていた。

「だ・・誰か来てぇぇぇぇええええ!!」
 ありったけの声で人を呼んだ。ここで騒げばさすがの男も部屋を出ざるを得ないと考えたのだ。とにかく美月からこの男を引き離したかった。
 喜助の言葉と尋常ではない叫び声にわらわらと人が集まり、その部屋の惨事に誰もが目を覆った。
 いくら性的な行為の一環とは言え、喜助の言葉とその血だまりを見たものは一瞬にして男を異端の者として見た。案の定、男は焦って飛び出して行った。
「美月さんッ!」
 駆け寄った喜助が縛られた美月を解放したが、美月の意識は朦朧として目の焦点が合っていない。

(どうしよう・・どうしよう、俺のせいで・・俺が・・)

「あ・・あ・・・」
 パニックを起こしかけながらも、とにかく美月を助けなくてはという意識で抱月を思い浮かべた。
「待ってて美月さん!すぐ先生呼びに行くから!すぐ助けるから!!」
 自分の痛みなど忘れた喜助は部屋を飛び出し、おキネに美月を頼むと下駄も履かずに外へ飛び出した。



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Y(>ω<、)Y ヒェェーーッ!エ、エライ事になってすみません・・。

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